トコン
押忍!! 男の中の漢、その名はガク。見た目た子供、頭脳は大人(笑)です。あれ? 大人の後ろに(笑)があるのは何故だ? 多分、気のせいだな。そう思おう。
サラの魔法で推進力を得た船は現代日本でもビックリな速度で走行し、イルカの影が見えなくなっても休まず、船長が言った通りに一時間後に船の速度は戻った。
あ!!
あのデカいイルカを写メするの忘れた!?
くっそ~。
帰りに遭遇したら必ず写メろう。
そう誓ってサラのいる舵のある高台に行く。
「サラ、お疲れ様」
「ありがとうございます」
俺はダミー用のバックから水と汗を拭く布を渡す。
このバックは肩から掛けるタイプのモノで、結構容量が大きいのでこのバックの中で必要なモノを【アイテム収納アプリ】から取り出すのだ。
周りに見られないようにする為にはこうするしかないしね。
間違ってもバックからデカいモノを取り出さないように注意しないとな!
そんな失敗をしそうなのは俺ぐらいだと思うけどね。
「おう。嬢ちゃん、坊主。助かったぜ! まさかこんなに早い時間帯で大王イルカに遭遇するとは思わんかったぜ!」
大王イルカって名前だったのか。
イカじゃなのね。
あんなサイズのイカがいても怖いがな。もはや海獣だ。
……あのイルカも十分に海獣か。
「普段は遭遇しないんですか?」
汗を拭くサラが船長に尋ねる。
汗を拭くサラが妙に色っぽいのは俺にとって損ではない。むしろ得!! アザーッス!!
「あぁ。基本的に午前中の魔物に合うのは稀だ。基本は夕方から夜にかけてが一番多いのが普通だな」
「そうなんですか」
船を出したのは早朝の太陽が出る前だったから、船を出して五時間~六時間であの大王イルカに遭遇か。
「魔物ってのはどこにいるのか分からんからな。気にしてもしかなねーな。まぁしばらくは大丈夫だろう。ゆっくり休みな」
「はい」
「分かりました」
船長はそう言って舵を取った。
俺達は一旦、船内にある自分たちの部屋に向かう。
何故か同室だった。もちろん異論はない。
部屋に入ろうとした時、後ろから声をかけられる。
「すいません。少しお時間ありますか?」
「はい?」
あれ?
商人が連れている男性の魔法使いだ。
たしかさっき俺が指示を出した時に元気に返事をした人だったはず。
「先ほどの指示はとても素晴らしかったです。一度お話をさせて頂きたく、失礼ながら足を運んだ次第です」
「そ、それはどうも……」
赤茶のローブを着た二十五歳前後の男性がキラキラした目で俺に近づいて来た。
少し引いてしまった。
「小規模な魔法を必要な個所に使う事で大規模な魔法を使った時と同じような効果を生み出すとは! 私は自分の考えの愚かさに気が付き、同時にまだ魔法を使い始めて間もない方に諭された事に驚きを隠せません!!」
「近い! 近い! 近~い!! 一旦、離れろ!」
目と鼻の先で言われても内容が入って来ねーよ!
「おぉ……。すいません。少し興奮してしまいました」
男に興奮したと言われて嬉しい男はいないぞ。
「そのローブはどこかの商会の方ですよね。雇い主の元に行かなくてよろしいんですか?」
サラが男に質問した。
「私の雇い主は船酔いで部屋で休んでいますので問題ありません。おっと、そう言えば紹介が遅れました。私は商会『コロンブス』のトコンと申します。よろしくお願いします」
「私はサラクです」
「俺はガクです」
右手を胸元に当ててお辞儀するトコンは優雅な雰囲気を出していた。
こんな優雅な礼を見た事がない。
「サラクさんとガクさんですね。たしかサラさんはこの船を動かしていた方ですよね?」
「はい」
「なるほど、なるほど」
「どうかしましたか?」
「いえいえ。お若いのに実力があるのが素晴らしいと思いまして」
「それ程でもないですよ」
「ご謙遜を」
しばらくサラとトコンの会話が続いた。
内容は他愛のない当たり障りのない事ばかりだった。
そして安定の俺は空気。
「お時間を取らせて申し訳ありませんでした。お話をすることが出来てとても楽しかったです。それでは」
そう言ってトコンが去っていった。
やっと部屋に入れる。
部屋に入ってベットに座る。
柔らかいとは思わないが、寝心地は悪くはないだろう。
「先ほどのトコンという方は面白い方ですね」
「そうだね」
サラは俺の横に座った。
最近は二人っきりになるとサラは俺と距離が近くなる。
そして自然と手を握る。
サラの手は少し冷たいから握ると気持ちが良い。
「たしか商会『コロンブス』はそれなりに有名だったような気がします」
「そうなの?」
「はい。モークには来ていませんが他の村や町にはモノを運んでいますね」
「そうなんだ。じゃ~トコンさんは護衛ってことだよね?」
一瞬、トコンと呼んでしまうところだった。
「そうでしょうね。しかし、彼は魔法に対する意欲がとても高いですね。良い魔法使いだと思います」
「いきなり至近距離で話されてビックリしたよ。ビックリして内容は全く聞けなかったし……」
「フフフ。ガクさんの取り乱しようは面白かったですよ?」
「あ~笑ったな~。この!」
「あ、ちょっと! アッハッハッハ。くすぐるのはダメです!! アッハッハッハ」
サラにはくすぐりの刑を十分をプレゼントした。
まぁその後に怒ったサラに正座三十分を強制される事になるが、後悔はない。
その後、昼食にしたがランクが下がる事はなった。
良かった。
昼食後、しばらく部屋で休んだがする事も無く甲板に出向く。
風が気持ちいいしね。
サラと船首で伝説のポーズをしようとしたが、危ないらしく止められた。残念。
そしてする事も無くなったので夕方まで寝る事にした。
サラはやはり疲れていたのかすぐに寝息を立てた。
俺はサラの髪を撫で『お疲れ様』と小声で言ったらサラの表情がうっすらと笑顔になったので起きてたのか? と思ったが気のせいだった。
俺もサラの笑顔を横に寝た。
―――――――――
カンカン!! という音によって眠りから強制的に起こされる。
寝ぼけ眼を擦り、布団から起き上がるとサラが既にいなかった。
いつの間に……。
速攻で着替えて甲板に顔を出す。
「伏せて!!」
「へ?」
扉を開けて瞬間、腕を引かれ床に頭を下げられた。
「今、魔物の攻撃を受けています。頭を上げると攻撃対象になりますよ」
「あ、トコンさん」
俺の腕を引っ張ってくれたのはトコンさんだった。
「すいません。助かりました」
「いえいえ。私はこの出入り口から人が出て来た際にすぐに身を下げさせるのが役目ですから。サラクさんはあちらにいますよ。行く際は頭を下げてお進みください」
「分かりました。ありがとうございます」
ホフク前進でサラのいる場所に向かう。
「サラ、大丈夫?」
「ガクさん! 寝ていたのでは?」
「起きてサラがいないから来たんだけど足手まといになるなら下がるよ」
サラの足を引っ張りたくはない。
「大丈夫です! ガクさんは私が守ります」
「ありがとう」
本当に頼もしい人だ。
「それで魔物って何なの?」
「この魚です」
俺の問いにサラが出してきたのは二十センチほどの魚だった。
「トビウオ?」
素直に刺身で食べれるかな?
とか考えてしまった。
「この魔物は弾丸魚と言います。海域に縄張りがあり、その海域に入ると弾丸の如く飛んできます」
「何その怖い魚……」
周りを見渡すと、既に高台付近や帆の柱に突き刺さる魚を発見した。
見事に根本まで食い込んでいる。
「この魚の先端は返しが付いているので一度刺さると抜くのは難しいので注意です」
「えげつない……」
しかも刺さったらバタバタ動いて傷口を広げるらしい。
絶対に頭を上げてはいけません!
「しばらくこのまま頭を下げて進み、海域にを出たら警戒を解くそうです。私たちは帆が破かれないようにする事です」
弾丸のスピードで飛んでくる魚をどうやって帆を守るんだろうか。
突如、キキーン!! と音がした。
「何の音?」
「帆に魚が当たった音ですね」
「帆は鉄か何かで出来ているのかな?」
「フフフ。帆の防御性能をほぼすべての魔法使いで上げているので性能的には匹敵すると思いますよ」
「なるほど」
バフ効果を帆に付与しているのか。
帆を畳むと推進力を失ってしまうから畳む事は出来ないし、帆が壊されても同様だからな。
それにしても帆と魚が衝突した音が金属音って久々にファンタジーを感じる。
この魚はファンタジーというより軽くホラーだ。
大王イルカはギャグだろう?
あんな馬鹿デカいイルカなんて冗談以外にあり得ない。存在が冗談とはこれ如何に。
と、バカな事を考えてると海がバシャバシャと騒がしくなってきた。
「な、何の音かな?」
「さ、さぁ? 何でしょうね……。いい感じの音ではないと思いますが……」
俺とサラが顔を見合わせる。
「上に注意しろ!!」
トコンさんの声が響く。
魔法で自分の声を大きくしているのだろう。
俺とサラは上を見上げる。
「『氷結』!!」
サラが頭上の何かに魔法を使った。
「魚が空中を泳いでる……」
俺が空を確認すると弾丸魚が数えるのが馬鹿らしくなるほど泳いでいた。
空中を。
カラン。カラン。と、サラの魔法で冷凍保存された魚が空から降ってくる。
「この数はマズいですね……」
サラがそんな言葉を漏らした。
俺もこの危機的状況は分かる。
「ガクさん! 指示をお願いします!!」
トコンさんからそんな言葉が飛んできた。
マジかよ!?
この状況で俺に頼るの!?
「ガクさん!」
「サラ……」
俺、どうしたら……。
「信じています」
……マジか。
サラにそう言われたらやらない訳に行かないじゃないか!!
やってやろうじゃないか!!
一切迷いのない目で『信じてる』って言われたらやらなダメだろう。そうだろう。俺。
頭上の魚は今も増えている。
攻撃はまだして来ないけど、時間の問題か。
敵は空中。
炎や石を飛ばしてもあまり効果があるとは思えない。
場所は何もない船の上。
……!!
そうか!
これしかない!!
「帆の防御性能は最低限にして船の頭上に水を一ヶ所に集めて下さい!!」
トコンさんが俺の言葉を船全体に響かせてくれた。
助かる。
「水を集める場所は魔物が集まる中心でお願いします」
サラも水の魔法を使おうとする。
「サラ。君は別の魔法だ」
「え?」
周りに利用する物はあった。
海水を利用すれば良いんだ。
水は帆の後方上空に集まる。
魔物は水に警戒し水を避け、その周りを周回している。
「サラ。あの水に最大熱量のモノを投げ込むんだ!」
「分かりました!」
俺がやろうとしているのはお分かりだと思う。
いわゆる、『水蒸気爆発』だ!!
「ハァー!!『極熱岩』!!」
サラが出した灼熱の岩の塊が頭上の水の塊に衝突する。
サラの魔法で船が燃え上がるかと思った……。
ジュッ。と、水が蒸発する音がしたと思った時、ズパーーーーン!!!! と言う爆音が鳴り響く。
「「「キャ~~~~!?」」」
船が爆風で揺られながら前進する。
しばらく爆音と船の揺れで身動きが出来ず、落ち着いたのは数分後だった。
上を見上げるとそこには日が傾き、赤く染めあげた綺麗な夕焼けが見えてた。
「へへ。ざまーみろ。魚が……」
俺はそう呟くと気を失った。




