意思
押忍!!男の中の漢になりたい男子。名を学。三十六歳。本気の殺気を何かに例えるとしたら、怖いテレビを見て身体がビクッてなっちゃうのに近いと冷静になった今なら言えます。まぁ少し近い程度ですが。
おはよう。良い朝だね。
昨日の夜はサラと同じ布団に入って寝ました。
何故かって?
怖いテレビを見た子供みたいにあの時の恐怖が出て来て寝れなくて、サラそれに気が付いて、
「一緒に寝ましょう?」
なんて言われたら寝ますよ!!
ただ、一緒に寝た瞬間に魔法で寝かされたけどね。
悪夢は見なかった。ぐっすりだったね。
「おはようございます」
フワ~っと可愛いあくびをするサラを見てホッコリするしている。
今日は朝のマラソンは中止になった。
いつ襲われるか分からない相手がいる以上は仕方ない。
今日はゆっくりとサラと過ごそう。
いつもサラとはいるけどね。
「おはよう、サラ。……寝癖ついてるよ」
たまに寝癖が付くサラ。俺はその寝癖を直すのが今のブームなのだ。
毎回寝癖が付く訳じゃないのだが、三~五日に一回か二回は髪が跳ねている。可愛い。
「お願いします~」
「喜んで」
サラは朝が弱い。
起きて一時間ぐらいはボーとしている事が多い。
たまにほっぺをツンツンしたりすると顔を左右に振る。それがまた可愛いのだ。
やり過ぎるとベットに顔をうずめてしまう。
うずくまると高確率で二度寝を開始してしまうのでまた起こす。
たまに身体を起こしたまま船を漕いでる時があるが、それはそれで可愛い。
サラはあぐらをしないので、普段から女の子座りだ。
足を揃えて右か左に流すヤツをサラはしているが、足を擽ると足をもぞもぞしてそれでもやるとそれを阻止しようと俺に抱き着く。
しかし、これは危険なのだ。
寝ぼけてる時は力加減が曖昧なので、抱き着かれた時に肋骨を一本持っていかれる場合がある。マジで。
フワッと抱き着いた瞬間にギュッとしてポキンだ。
完全に起きたサラに回復魔法で治してもらったけど、アレは洒落にならなかった。
痛い経験だった。
「キレイになったよ。……サラ?」
「グゥ~~~~」
二度寝を開始していました。可愛い。
サラの可愛い顔を見ながら昨日の事を思い出す。
俺が暗殺者の方を向く時、サラはメイド服を見ていたのだ。チラ見したから間違いない。
サラは目を輝かせてメイド服を見ていた。
俺は敵との距離を取ろうと思って反撃に転じたが、呆気なく躱されてお腹を一突きさてる所にサラの救いの手が入った。
……サラ、早くない?
少なくとも俺が振り返って敵に杖を向ける速さよりも、メイド服をあった場所に戻して数メートル離れた敵の手を掴み俺を助けるサラの方が早いって事だ。
サラは更に敵にマーキングを付けている。……これも早業。
俺とサラの強さの差がデカすぎないかな?
まぁサラは天才に入る人だし、かなりの努力もしている。
努力の結果を俺がどうこう言うのは違う。
頑張ろう。……あれ?俺、彼女を助けるぐらい強くならないと卒業できないんだよね。マジで卒業できるかな~?
「サラ~朝だよ~」
「後、もう少し……」
こういうのって異世界も日本も変わらないんだね。面白いな。
「しょうがなゴフ!!」
「敵が範囲内に入りました!!」
サラの頭が俺のアゴにクリティカルヒットしました。
「ガクさん!何やってるんですか!戦闘準備をしてください!」
「ゴフッ……」
脳震盪を起こしていて目眩がして起き上がれない俺にサラが追い打ちをかける。手厳しい~!!
ヤバイ。口の中が血の味でいっぱいだ。舌を噛んだらしい。
「ガクさん!!その傷は誰がやったんだのですか!?」
彼女は本気で言っているのだろうか。頭に固いモノがぶち当たっても彼女には意味がないらしい。
あごが割れてないか心配だぜ。
サラは慌てて俺に回復魔法をかけてくれた。ありがとう、サラ。
「その傷は……」
「今はこの傷よりも敵が優先だ」
「……はい」
あ、自分で付けた傷だと気づいたらしい。責める気はサラサラないけどね。
「行きましょう」
サラと俺は宿屋を出た。
宿屋の店主のお豆さんに、
「そんな武装をしてどこに行く気だい?」
と言われたが、俺とサラの目が本気の目だったからか、
「ま、まぁ。ケガの無いようにね」
と言われた。
優しい方だね。
サラの魔法で敵の位置が分かるので俺達はゆっくりと近づいた。
「敵が移動しています。私たちが近づいている事に気が付いたようです」
「マジで。そんな事が分かるの?」
なんで分かるんだよ。
「……これは」
サラが暗い顔をした。
「どうしたの?」
「敵が私の魔法を逆手に取って私たちを誘導しています」
ん?
「って事は……」
「完全に罠のある場所に誘導されてます」
怖いよ~。
「ここで引き返すってのは?」
「……それもありですが……」
得策ではないか……
サラが思い悩んだ顔をしているからそのくらいは分かる。
「最善は?」
「このまま敵を追い込み誘われたように仕向けて敵を倒します」
倒すって事は……。
「最悪は殺し合いになるって事?」
「ガクさん。勘違いしていませんか?」
何を勘違いしてるって言うんだろう?
「もう、殺し合いは始まってます。ガクさんが殺されそうになったじゃないですか」
……戦いではない。
殺し合い。
しかし、これが現実か。
「ごめん。勘違いしてた」
「……いえ。ガクさん。私はガクさんをお守りする際に決めた事があります」
なんだろう。
「……私はあなたを守る為ならば子供でも殺します」
俺の背中に汗が流れるのが分かった。
「その結果、あなたに嫌われてしまうような事になっても私に後悔はありませんし、守れなかった後悔に比べれば軽いものです」
彼女は本気だ。
彼女の目に宿る固い意志と覚悟は雰囲気としても伝わってきた。
「これから向かう場所は罠、もしくはたくさんの敵がいます。私は躊躇はしません。殺します。」
……俺は彼女になんと言ったら良いのだろう。
守ってもらっている立場で俺は何を言えるのだろうか。
仮に『できる限り人は殺さないで』とお願いして、サラが死んでしまったらどう思う?
俺は俺が許せないだろう。
だったら皆殺しの方がいいのかもしれない。
でも、納得いかない。
何が納得いかないのだろう?
敵が死ぬ事が納得いかないのか?
……イヤ、違うな。
俺はそんな事は思わない。知らないヤツより知ってる人を優先する。
殺しに来たヤツを殺すのに躊躇はするなとスミスさんにも言われた事もあるし。
俺が人を殺すとしたら?
……イメージはしにくいけど、サラを守る為なら平気でやるだろう。これは人殺しの理由にサラの名前を使うって事ではない。
俺は俺の目的の為になら手段は択ばないってだけの話ってだけだ。
だったら何が納得いかないのだろう?
このまま行ったらサラが人を殺す。
「あ……」
「ガクさん?」
そうだ。
サラが人を殺すんだ。
「ダメだ!サラ」
サラは驚いているようだった。
「サラが人を殺したらダメだ!」
「……なぜですか?」
なぜ?
そんなの簡単だ。
「俺が嫌だから。サラが人を殺すなんて見たくないし、させたくない」
「……これは私が勝手に決めた事で……」
「うるさい!!」
俺は初めてサラを怒鳴った。
分かってるんだ。
これは俺の我儘なんだ。
いや、図々しいだけだな。
守ってもらってるのに、その方法まで口を出すんだから。
俺が彼女に嫌われるかもしれない。
でも構わない。
彼女に嫌われも俺は言う事を変えない。
「怒鳴ってごめん。でも、君は人を殺したらダメだ。これは命令じゃない。……俺からのお願いなんだ」
「……」
サラの顔を見れない。
怒ってないかな~?
嫌われたらヤダな~。
「ガクさん……」
「はい」
「私は人を殺したらダメなんですか?」
「ダメ!」
「それは何故ですか?」
「君が人を殺す所を見たくないしさせたくもないから」
「分かりました」
おぉ!!
「可能な限り殺しません」
ん?
「殺したらダメだよ?」
「分かってます。が、躊躇はしません」
サラの顔をやっと見れた。
「ガクさんがそう言うなら仕方なく、なるべく人は殺しません。仕方なくですよ!」
あれ?
うれしそうだね。
どうして?
「行きますよ!」
「あ、はい!!」
女の子の心は分からないね。




