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ザルク

 押忍!! 男の中の漢。名を学。三十六歳です。この世界に来て初めて本気の殺気を受けました。サラが攫われた時にスミスさん達から受けたけど、アレはどちらかと言うと怒りの方が大きかったように思います。


「《察知》……。ダメですね。……ガクさん?」


 サラは敵が逃げたのを確かめて、目を瞑って魔法を使った後に俺に気が付いてくれた。


 何の魔法だ?


「フフ。アッハッハッハ!!」


 サラが大笑いしている。


 でも、さっきみたいな怖い笑いじゃない。可愛い笑い方だ。


「フフ。……ガクさん。座り方が女性の様ですよ?」

「……へェ?」


 おう!!


 何たる失態か!!


 殺気を受けて膝から崩れたけど、女の子座りはないよ~。(あ、左右に足を開く感じのヤツね。アレで甘えられると最強だよね)


 俺は急いで胡坐を掻く。


「大丈夫ですか?」

「……正直に言って駄目だね」


 ここでカッコよく、大丈夫って言ってもサラには嘘はバレるから正直に言わないけないのが情けない。


 多分、と言うか確実に俺は死んでいた。

 これは疑いようが無い事実だ。


 サラが助けに入ってくれなかったら俺は刺されていたな。


 あの殺気を放っていた人は寸止めとか急所を外すとかはしないだろう。


 一撃で俺を殺しに来た。それにあの目は……。


 俺を何とも思ってない目だ。完全に俺を弱者と思ってる目だ。


 ……俺はここまで弱いのか。心も身体も。


 スミスさんに勝った事で俺には慢心が生まれていたのかもしれないな。


 敵に一撃ももらってないのに身体はガクガクして今もまだ立てないし、心も恐怖でいっぱいだ。日本で全てを捨てて引きこもった時のようになりそうだ。


 ヤバイ。


 早く立たないと。


 サラに笑顔を向けないと。


 心配をかけちゃいけない。


 ありがとうって言わないと。


 身体が動かない。


 身体が冷たい。手の先なんか血が通ってるのも疑わしい程に冷えきってる。


 サラが近づいて来た。


 早く、笑顔を。


「ガクさん。すいませんでした」


 サラが俺を抱きしめて何故か謝ってきた。


 俺は動けない。


「私が守ると言ってたのに、守れませんでした。すいません」


 何を言ってるんだ、サラ。君は俺を守ったじゃないか。


 ダメだ。声も出ない。


「あなたの震えている心を守る事ができませんした」


 震えてる?


「……ハ、ハハ。……本当だ。震えてるや……」


 サラに言われて気が付いた。俺、震えが止まらないんだ。


「大丈夫です。敵は姿を消しました」

「ありがとう……サラ」


 やっと言えた。


 あぁ。また、泣いてるよ、俺。


 怖かったんだ。少し泣いていいよね。


 発育が豊かなタワワに顔をうずめる為に泣いてるんじゃないよ?


 よかった。生きてる。……助かったんだ。


「失礼」


 誰だ。

 俺がサラの胸の感触を堪能してる最中に!!


「どなたですか?」


 サラが答えた。俺はサラに胸に顔をうずめています。


「このギルド本部の長。ギルド長のザルクと申します」

「なぜギルド長が?」

「イヤイヤ。この現場を見て、何を言ってるんですか?一大事ですよ?」


 ……だよな。


 ギルド会館の中で一人の人物が何者かに殺されそうになって、それを助けた者と殺そうとした者のバトルが開幕し、殺そうとした者は逃走。


 この、ギルドは工藤 憐火さんの指示で現代ビルのような形に作られている。


 逃走の時に壁をぶち壊してるから大穴が空いてるし、サラの足止めに俺に向けてたくさんのナイフが飛んできたけど、そのナイフは俺の周囲に散乱している。


 煙玉?煙幕かな?


 それも使ったから壁やら床やらが白い。


 ……うん。


 一大事ですね!!


「話は後です。今は彼の心を癒すのが先です!!」


 嬉し恥ずかしいヤツだね。


「大丈夫じゃないか?その男はお前さんの胸を堪能したいだけだろう?」


 あれ? なぜバレたし。


「それでもかまいません!!」


 あれ? バレてたの?


 めっちゃ恥ずかしいヤツじゃん。


「そこの少年。もう、いいだろう?」

「急かさないでください!!」


 これ、どうやっても俺が火傷を負うよね?


 なんでこうなった?


 俺、何か悪い事したかな?


 思い当たることが多すぎるな。


「……身体の力が入らないのでもう少しだけ時間をください。……すいません」


 これが俺の今できる全力です。


「嬢ちゃん。名前は?」

「サラクです」

「そうか。少年の方は?」

「ガクです」


 俺はサラの胸から顔を離して、ギルド長のザルクさんの方を向いた。


 おや? 男性だったのか。


 ん? 洋服は女性物だな。……似合ってる。クソ。


 声で確認してたけど、女の人かと思った。……人か。


「残念だったね。私に猫耳はないよ。ガクさん」


 目線でバレたか。


「失礼ですが、男性ですよね?」

「おやおや。なぜ、バレたのですか?」

「男性!?」


 サラはこの人が女性だと思ってたのか。


 俺も日本で様々な動画でゴットアイを鍛えてなかったら見抜く事は出来なかっただろう。


「一目見て分かりました。なぜかと言うと俺にもわかりませんが……」


 まぁ、カンだな。


「そうですか。そろそろ回復してきましたか?」

「あ、はい。大丈夫そうです」


 ゆっくり立つ俺に、サラが手を貸してくれた。


「ありがとう、サラ」

「いえ!」


 笑顔でありがとうを言うのにこんなに時間がかかるとは。


「付いて来てください。お話は私の部屋でしましょう」

「分かりました」


 俺はまだ、ガクガクの足を無理やり動かして後を追った。


 ザルクさんも分かっているのか、歩くスピードが遅い。


「ここです。どうぞ」

「失礼します」

「します」


 サラ、俺の順番で入室した。


 ギルド長室は最上階にあり、途中でエレベーターがあった。


 なんでも、最上階に行くには専用のカギが必要らしい。それかギルド長の許可があれば最上階まで行けるらしい。


 階段では最上階に行けないらしく、結構警備は厳しい。


 室内は豪華な物がたくさんある感じではなく、オフィスのような感じだね。


 異世界の空気感をぶち壊すね。この部屋は。


「どうぞ。お掛けになってください」


 高級そうな椅子に座る。


 おぉ!! 身体を包み込むように支えてくれる。


 この椅子で寝れるね。


「では、話を聞きましょう」


 ザルクさんの目が鋭くなった。


「あの者の狙いは分かりますか?」

「……工藤 憐火さんのことを聞かれました」

「なるほど……」


 なんか考えてるね。


「具体的に何を聞かれましたか?」

「えっと。『手紙を読んだか?』『その内容は金になるか?』っと」

「手紙を読んだんですか?」


 あれ? 読んだら駄目だった?


「前回、このギルド会館に来た時に受付の猫耳さんに見せてもらいました」

「……彼女は減給にしましょう」

「彼女は無事なんですか?」


 気になってたんだよね。


 猫耳メイドの死は一部の人にとっては一大事だ。


「無事ですね。今、居場所が特定できたので迎えの者が行っています」

「そうですか」


 ホっとした。


 世界は救われたね。


「手紙は読めたのですか?」


 俺はサラの方をチラッと見た。


 サラは目を瞑っている。


 俺に判断を任せるつもりか。


「読めました」


 正直に言おう。


「……なんと書かれていましたか?」

「すいません。お答えできません」


 これは言えない。


 ボロが出てスイさんの事を話してしまうかもしれないし。


「そうですか……」


 なんか考え込んでる。


「目的は分かりました。では、何者かは分かりますか?」

「分かりません」


 全く知らない女性だった。


 顔を布で巻いて分からなかったが、身長は百六十以下だな。バストはDとEの間かな? 服装がブカブカで詳しく分からなかった。


 腰はかなりくびれていたな。ちゃんとご飯を食べているのだろうか。


 お尻は安産型だったな。


 男子が好きなボン、キュ、ボンの身体で足がかなりいい曲線美だった。


 タイツじゃないと思うけど、アミアミのヤツを履いてた。中々エロイかった。サラに着てほしい。


 残念ながらそれしか分からなかった。


「ガクさん?何か不埒な事を考えてませんか?」

「何を言ってるんだい!?俺は真剣に考えていますよ?」


 嘘は言っていない。


「……そうですね」


 助かった……。


「話を続けます。彼が襲われそうになったところを……」

「はい。私が助けました」


 救世主登場。


「最終的には逃げられたのでよね?」

「はい。ですが、座標は付けました。近づいて来たら分かります」

「それは素晴らしい」


 座標?


 何それ。


「サラ。その座標?って何?」

「座標とは人物や動物、物などに付けて自分から一定の範囲内に入ると分かるといった魔法です」


 マーキングみたいなモノかな?


「俺を殺そうとした人が逃げた時に唱えた魔法がそうなの?」

「はい。《察知》と言う魔法です。範囲内に居れば分かりますが、逃げたようですね」


 いつ付けたんだ?


「アレは相手に触らなければ付ける事はできませんが、よく付けられましたね」

「え?いつ付けたの?」


 相手に触る必要があるらしいけど、いつ触った?


「一番最初にガクさんをナイフで刺す瞬間に付けました」


 ……あの一瞬で!?


「マジかよ……」

「スゴイですね」


 ザルクさんもマジで関心してるようだ。


「大体の事情は分かりました。今日の所はこのくらいにしましょう。明日、またお時間を頂きたいのですが大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です」


 今日はこのくらいで終わりか。


 もっと長くなると思った。


「では、失礼しました」

「失礼しました」


 明日は何時ぐらいに来たらいいんだろうか。


「明日はいつでも大丈夫ですので」

「はい」


 おや? 考えてたことを言われてしまった。


 表情に出てたかな?


 俺とサラはギルド長室を出てエレベーターで一階まで下り、宿に向かった。


 今日はいろいろあったな。


 サラのメイド服の写メが撮れなかった。


「サラ」

「はい?」

「明日もギルドに来るじゃん?」

「はい」

「その後にまたメイド服を見に行こうね」

「はい!!」


 よし。写メらなければ。


 そして、自慢しよう。


「ガクさん」

「なに?」

「今日はすいませんでした」

「何の事?」

「ガクさんをお守りできませんでした」


 マジで言ってんの?


 サラ、マジでいい子!!


「サラ、本当に大丈夫だよ!」

「ですが……」

「大丈夫。サラは俺の命を救った。その事実は変わらない。メチャクチャカッコよかった」

「そうですか?」

「うん。また、惚れたよ」

「あ、えっと。……ありがとうございます」


 お互い顔が真っ赤で何やってんだか。


 サラは馬の手綱を引いてるけどね。


 サラ、本当にありがとう。

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