初めての……
押忍!!男の中の漢。名は学。歳は三十六歳。子供の頃に見ていたテレビを懐かしくよく見てたら、『俺、こんなテレビ見て楽しんでたの?』って思った時に、心の中で純真無垢な俺はいつの間にか消えてしまったのか……。と思った事があります。
やっとの思いで帰って来た宿。
名前は緑の緑龍。
俺たちが借りた部屋は二階の一番奥で、ベットが一つだがサイズが大きい。
何の為の部屋なのかは店主のおばさんしか知らない。
俺の意見を言わせて頂くなら、カップル専用の部屋なのだと思う。……多分。
お土産あるけど、サラは喜んでくれるかな?
部屋に入るとサラと目が合った。
まだ、疲れの色が残っている。
「サラ、大丈夫?いろいろと任せ過ぎてゴメンナサイ」
「大丈夫ですよ!!急にどうしたんですか?」
「えっと。ここの店主のおばあちゃんに色々言われてね。俺があまりにもサラに任せ過ぎだな。と思ったんだ。」
「えっと……。ガクさん?」
「サラも女性で女の子で、えっと。女性の悩みとかもあると思うけど、全部とは言えないけど少しなら俺も力になれると思う。だから無理はしないで……下さい」
「はい」
俺は喋ってるうちに顔が下を向いて、床を見ていた。
サラのファン一号さんに言われたが、正直に話すのが一番だと言われた。
飾らず、盛らず、素直に、ありのままに彼女に伝える事が、本人からしたら一番の言葉。
勇気を振り絞って、サラの顔を見た。
「ガクさん」
サラは穏やかな顔をしていた。
「私は、アナタを守ると言いました」
「うん」
「それは何故か分かりますか?」
「えっと……」
照れくさい……。
「フフフ。そうです。私があなたの事が好きだからです」
「ありがとう」
「どういたしまして。私は私の意志で決めた事をやろうと思ってました」
「うん」
「でも、確かに無理があったように思います」
俺と言うお荷物が一人で旅に出たサラは驚きの連続だったはずだ。
俺はなにも知らない一般人以下。何も知らないのだ。
それでもサラは丁寧にいろいろと教えてくれた。気を使ってくれた。
無理が出るのも無理もない。
「ですが、私はガクさんが何をして欲しいのか分かりません。守って欲しいのならこの身体を盾にしてもお守りしますし、私の身体を好きにしても構いません」
「……サラ」
「お互いに無理があったのです」
なんか別れ話的な流れじゃない?
え? 俺、サラに捨てられるの?
お前のような弱者は野に朽ちろ! 的な感じで捨てられるの?
「なので……」
言わないでくれ~~!!
「自己紹介から始めましょう!!」
「考え直そう!!今からでも間に合う!!俺は君が好きなんだ!!」
ん?
「ガクさん?」
「あ、ゴメン……」
顔面赤面ですね~!!
「勘違いしてた……」
「フフフ。別れ話をすると思いましたか?」
「……はい」
「あり得ませんよ」
サラの笑顔に癒される。本当に、笑顔にどれだけ助けられたか……。
「ゴメン。でも、自己紹介?」
「はい!!」
何だろう。
サラが良いアイディアでしょ? 褒めて? ってのがヒシヒシと伝わってくる。
「あ、えっと。私たちはまだ知り合ってそれ程経っていないんですよ!!」
「あ~そうだね。二ヵ月は経ってないかな?」
「なので、自己紹介です!!」
「……??」
「えっと。お互いをより理解し合えたら、良いな~っと。……すいません」
元気がなくなって枯れた花のように萎んでしまった!!
「俺も今やっと理解できたよ!!良いと思うよ!!」
「……本当ですか?」
「本当ですよ。自己紹介しよっか」
「はい!!」
サラはひまわりの花のような明るい笑顔を俺に見せてくれた。
彼女にはやっぱりマスクは要らないと思うんだよね。
「えっと……。サラクです」
「俺の名前はガク。向こうでは斎藤 学でした」
「フフフ。新鮮ですね」
「そうだね」
「質問します!」
「どうぞ」
「向こうの世界では彼女はいなかったですか?」
「グハッ!!」
サラ、恐ろしい子!!
「ガクさん!!大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫。少しだけ昔のトラウマがフラッシュバックして来ただけだから……」
「とらうま? がふらっしゅ? ばっく?」
「えっと。昔の嫌な思い出が呼び起されただけ」
英語みたいな言葉は上手く伝わらない時があるんだよね。
サラはさっきのアイディアって言葉とかうまく伝わってるか心配だな。
「それはすいませんでした!!」
「イヤ。質問に答えるよ……」
「大丈夫です。分かりましたから」
おぉ!!
伝わったか!!
「サラに質問です」
「はい!!」
「俺の好きなところは?」
「ハイ!?」
おかしな事でも聞いたかな?
「えっと。……秘密です!!」
そういって布団をかぶってしまった。
これは出さないといけないよな?
「出てこーい!!」
「キャ~~~!!」
二人してベットに横になった。
距離が近い。
お互いが向かい合わせになって目を見あってる。
「すいませんでした。ガクさん」
「ん?なんで?」
「余計な気を使わせてしまって」
「気にしないよ」
「ガクさんは優しいですね」
「そうかな?」
「はい!こんな私を受け入れてくれました」
「サラはサラだし、好きな人を拒絶する人はいないよ」
「フフフ。そうですね」
「感謝なら俺もいっぱいしてる。違うな。感謝しかないよ」
「フフフ。そのうち返してもらいますが私は高いですよ?」
「あはは。それは怖いな~。でも、君になら長い時間をかけて返していけそうだよ」
「……ガクさん」
「……サラ」
俺は人生で初めて、女性とキスをした。
キスの味はレモンだと思っていたが、思いのほか甘い味がした。
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場所は変わり、高い山の上。
大きな寺小屋の門を叩く者が二人。
カケルとミンミンだ。
「えっと。ここか?」
「そうだよ~」
彼らは二人、ペッチンからの頼み事をこなしていた。
「ここが、謎の流派の寺か。普通だな」
「だね~」
ここに来た理由は、ある人物を探しに来たからだ。
「すいませーん!!師範は居られますかー?
「たのもーう!!」
大きな声を出したが、静かに時は流れる。
「帰らない?」
「心折れるの早すぎない?」
カケルの弱点と言うか短所は打たれ弱いのだ。精神的に、が付くが。
その弱点のせいか、ただ運がないのかは分からないが、大事な場面でポカをやらかすのであった。
「それじゃー。もう一回だけ呼ぶ」
「そうそう!!」
大きく息を吸い込み、大きな声で叫ぶ!!
「すーぃ」
「あ、は~い。今、開けますね」
やばい!!彼の心は豆腐の柔らかさ、この衝撃に耐えられるか!!
「俺、もう帰りたい……」
「ファイトだ。団長」
帽子を深く被った少女、ミンミンは素っ気なくカケルを励ます。
「あ~すいませんね~」
ドアを開けて一人の修行僧が出てきた。
「……」
ミンミンの弱点、短所は極度の人見知りなのだ。
今も、カケル後ろに隠れて様子を窺ている。
「あぁ……。帰りたい」
「……」
「えっと。どのような。聞いてます?」
ペッチンはなぜこの二人に依頼をしたのか疑問である。
大丈夫かなのか? この二人に任せて。




