彼ら
※主人公目線ではありません。
とある場所のとある家の中に彼はいた。
「あぁ……。今日の朝食も肉オンリーか。……嫁が欲しい」
自分で料理した朝食を見て愚痴る男。
彼の名前はカケル。歳は二十七歳。彼女はいない。
彼の家は一人暮らしをするにはかなり大きな家で、小さな旅館のような大きさだ。
二階建てで部屋の総数は十部屋以上。
しかし、その部屋の殆どが空き部屋になっており人は彼一人。
黙々と朝食を食べていると人が訪れる事を意味するチャイムが鳴った。
彼はチャイムが鳴る前から誰か来ている事は感じていたが、彼の友人にチャイムを鳴らす者は少ない。
「……朝早いな」
そう愚痴ると、重い腰を上げて玄関に向かう。
向かっている最中もチャイムは連続して押されていた。
「はい、はい。今、開けますよ~」
扉を開けた先に2人の女性が立っていた。
カケルの彼女である。嘘だ。
「おはよう!!カケル」
「お~す。遊びに来たぞ!!」
最初にカケルに話した者は両腕に子供が大事そうに抱えられ、二番目に話した者は帽子を深々を被って顔は見えないが、背は百四十ぐらいしかない幼い少女だった。
「会う予定はなかったハズだが?」
「おいおい。女性二人も遊びに来て追い返すのかい?」
「団長ヒデ~!」
カケルは二人を知っていた。
それも当然。
大事そうに子供を抱えている女性はペッチン。
帽子を深々を被ってるのはミンミンであった。
「お前ら、朝ごはんは?」
「私は済ませて来たよ。子供もね」
「頂こう!!」
彼は渋々、家の中に招き入れた。
渋々と言っても、口元がうっすらと上がっている事からそれ程、渋ってもおらずむしろ歓迎しているのだった。
「はっはっは。君の部屋は狭いな~」
「ご飯~。ご飯~」
「日本にいた時はこのぐらいの部屋だったんだ。あまり大きいと落ち着かなくてな」
彼が通した部屋は日本で言う所の一LKだった。
一人が住むにはちょうど良い広さのその部屋は彼の家の物置を少しリフォームしたのだった。
「分かるな~~。私も今の家は広くてね」
「私は慣れたよ~。団長。ご飯!!」
「一戸建てだったか?……ミンミン!!勝手に冷蔵庫を漁るな!!」
朝から賑やかなカケルの一日だった。
そんな賑やかな中、大人しい者が一人だけいた。それはペッチンの子供だった。この子は大物になるだろう。
ミンミンが勝手に料理を作り始め、カケルが何故かお使いを頼まれ、ペッチンは子供をあやし、静かになったのはしばらく経ってからだった。
「う~ん。美味しいね。このスープ!!ミンミン流石だね~」
「エッヘン!!料理には自信があるからね~」
「何で俺はパシらされたんだ?」
ミンミンの料理は魔法の力を無駄遣いした素晴らしい品々だった。
色とりどりの野菜を魔法でサラサラにして、熱を火の魔法で入れ、熱いと子供が飲めないと思って魔法で冷やす。
お肉も無駄な油を落とす為に魔法でスチームをして油を落とし、味を染み込ませる為にお肉を真空状態にし水分を飛ばし、味を染み込ませる為にお肉の時間を加速させ、僅か数分で素晴らしい一品の完成。
デザートにはシャーベットを採用。カケルにパシらせて果物を買って来させ、もらった果物を魔法で圧縮し、果汁を出す。その果汁に少し熱を入れて水分を飛ばし、濃度を高めて急速に冷凍。凍った果汁を風の魔法で完成。
そして、一番の驚きは調理器具を一切使わずに行われたという事だった。
「ウマ!!」
「でしょ~~。どう?私を嫁にしない?」
「しない」
「え~~~!!」
「兄妹は結婚できません!!」
「プ!!似てないよね」
カケルとミンミンは兄弟であった。
血のつながった正真正銘の兄妹だった。
「早く、彼女でもつくれし」
「お前も早く彼氏つくれよ」
「私には団長がいるからね!」
「寒気しかしねーよ」
「仲良しだね~。本当に」
食事を済ませ、今度はカケルの入れたお茶を飲んでいた。
「ハァ~。落ち着く」
「フ~。そうだね~」
「ハァ~。甘くない」
三者三様の反応を見せる中、カケルが真面目な顔つきとなった。
「で?二人が俺の家に来た理由は?」
「調査の件だよ」
「私もそれを聞きに来たの」
ペッチンの手に資料が現れた。
これに二人は驚かない。なぜならこの程度の事は出来るからに他ならない。
「魔族が動き出したって言うアレか……」
「そう」
「魔王襲来?」
「その通り」
三人分の資料を配り、各々が資料に目を通す。
「ガセ……じゃないんだな?」
「あぁ。残念な事にな」
「うっわ~。何これ……」
資料には魔族の総数が書いてあり、その数が攻めて来た時の被害も書いてあった。
「スゴイよね~。お姉さんはコレを知って目眩がしたよ」
「俺もこれは予想外だな」
「……グ~~~」
カケルは無言でミンミンにデコピンをした。
ドゴン!!
デコピンが出して良い音ではない。
「イッターーーーー!!なに!?敵襲!!」
「おはよう」
「話を続けるよ?」
「……はい」
額を抑え、涙ながらに資料を見るミンミンであった。
「被害の最悪は人類の敗北って事になるかな」
「その場合、死者は?」
「死者を数えるより、生存者を数えた方が早いくらいの数って所かな」
「全滅もありうるか……」
カケルが息を飲むな中、ミンミンがペッチンに質問をする。
「今から魔族を倒しに行けないの?」
「難しいだろうね」
「どうして?」
「単純に戦力が足りないんだよ。しかも、魔王軍がいる場所も問題あるね」
「場所?」
「そう。魔王軍のいる土地は日本じゃ考えられないけど、土地を中心に山が三つあるんだ」
「え?どういう事」
「魔王軍がいるのは魔王城のある土地だ。その土地を守るように三六〇度に渡って山がある」
「それが三つも?」
「あぁ。しかも、山の手前は海だ」
「無理ゲー!!」
海は魔物の巣窟である。
丈夫な船で渡らなくては直ぐに沈没。
そんな船を作る時間と金と労力はどこから持ってくるのか。
ミンミンが無理ゲーと言ってもしょうがない。
「私たちは海を越える事は出来るけど、それを数万とか数十万とかは運べない」
「だな」
「ム~~」
しばしの沈黙があったが、カケルが重い口を開けた
「仲間を集めるしかないか……」
「そうなるね」
「お仕事か~~」
三人の目が鋭くなった。
「ペッチン。お前のグループの総数は?」
「そうだね~。五十ぐらい」
「ミンミンは?」
「私は百人はいかないかな」
「二人で百五十か……」
「カケルは?」
「……三百」
「「ぉおおー!!」
「大半が変人だがな」
「「おおぉー……」
微妙な空気になってしまった。
「ゴホン。え~と。当分の目的は仲間を集める事と初心者支援ってところかな?」
「そうだな」
「今までと変わんなくない?」
変な空気になってしまった。
「期間は?」
「はっきりは言えないけど一、二年は動きはないと思う」
「そうか」
「ボスは今頃何やってるかな?」
飽きたミンミンが話題を変えた。
「彼女とイチャイチャしてるんじゃない?」
「リア充が……!!」
「ケッ!!」
「意外だよね~。ボスって」
「スルーか。……何がだ?」
「掲示板に書き込みを入れるくらいだからスキルレベル五十はあると思ってたけど三十だし、憐火さん知ってたのも以外だった」
「私は最初から三十のスキルは持ってたよ?」
「お前は異常なんだよ」
「そうそう」
「そうかな?エヘヘヘ」
「「褒めてねーよ」」
なんだかんだで仲良しな三人であった。
その頃、ガクはと言うと。
「ヘックション!!」
「ガクさん、風邪ですか?」
「ウ~ン。この感じは誰かが俺の話をしてるような気がする」
「フフフ。分かるのですか?」
「何となく」
「もしかしたら、スミスさんが話しているのかもしれませんね」
「だとしたら真面目にスキルのレベル上げないと」
「頑張って下さい!!」
「ありがとう!!サラ」
彼女とイチャイチャしていた。




