スミスさん対策
俺はスミスさんに攻撃を仕掛けながらマスに教えてもらった事を考えていた。
――――――――――――
「これからボスの対策について話すぞ」
「オス!!」
「まず、お前のスキルレベルを上げるのがメインではない」
「え? 何で? スキル強くしてスミスさんとの差を縮めないと駄目なんじゃ……」
「ボスがお前の何倍強いと思ってんだ?」
「軽く十倍以上かな?」
界○拳使えないと俺とスミスさんの差は埋まらないな。……あっても使いこなせる自信はないけど。
「……もっとあるぞ」
「マジで!?」
それどころじゃなかった。……まさか戦闘民族のネタが通用しない程の差があるのか、フリ○ザ編辺りの界○拳でも俺はスミスさんに勝てないのかよ……。まぁ、俺が弱すぎるからダメなんだがな。
「だからチマチマ今のスキルを鍛えてもダメだ。鍛えない訳じゃないぞ? ただ、それだけじゃダメだって事だ」
「具体的にどんな感じにダメなの?」
「お前の攻撃をボスが避ける時の感覚は多分、メッチャ余裕がある」
「うわぁ~」
傷つくわ~。分かってても心に傷が……。
「ボスはお前の手札を全て知っている。だから、現状のスキルを鍛えても『メッチャ余裕で避けられる攻撃』が『全然余裕で避けられる攻撃』になるだけだ」
「その差は有って無い様な物なんじゃ……」
「分かってんじゃねーか」
「コンチクショー!!」
俺が必死にレベルを上げてもその差は無くならないとかどんだけ強いんだよ!!
「そう熱くなるな。言っただろう? お前のスキルレベルを上げるのがメインじゃないって」
「……そうだった」
「そこで、お前がこれからどうやればボスに一撃を当てられるかだが……」
「だが?」
「手数を増やし、何でもするだ」
「手数は分かるけど、何でもするって何を?」
「あぁ? そんなの目つぶしとか動き阻害したりとか不意打ちとか何でもだよ」
「最初から外道か……」
「正々堂々なんて強い奴がやる事だ。弱い奴が卑怯もズルもしなかったらどうやって勝つんだよ」
「ごもっともです……」
そっか。俺は正々堂々も出来ないのか。……スミスさんにそれで勝てるのか? 実際問題。
「そして手数はお前が考えろ」
「ハァ!? マスも考えてくれるんじゃないの?」
「甘ったれるな!!」
マスの大声に俺は身を縮めてしまった。
「お前の頭は飾りか何かか? 死ぬまで考えろって教えただろうが!!」
「……ゴメン」
精神年齢三十六歳の俺が実年齢三十四のマスに叱られてる構図。
ヤバイ。……泣きそう。
「……何でもかんでも人に聞けば良いってもんじゃない。自分で考えてこそ、いざって時に使える技になる。今自分に何があって何が出来て、どんな風にやって、どう殺すか考えろ」
「……分かった」
殺しちゃダメだろ!! とか今は置いておこう。
「練習台にはなってやる。俺がボスの動きをするからお前は考えた攻撃をしろ。助言とかもしてやっから」
「オス」
それから俺は自分に何があるのか考えた。
まずはスキルの一覧だな。
<速度上昇スキル(少)>
<地図スキル(少)>
<鑑定スキル(少)>
<素早さ上昇(少)>
<防御力上昇スキル>
<先読みスキル>
<ガードスキル>
<魔法スキル>
<連撃スキル>
<剣スキル>
これが俺の手札だ。パッと見て少ないな~と思ってしまった。
まず、攻撃をメインに置くから地図、防御、鑑定、ガードは除外だな。
今、俺が装備出来るスキルの数は五個。何を外すか……
剣、連撃、先読み、は外せない。魔法も手数を増やすって事だとこれも外せない。
素早さか速度上昇を外すか?……う~ん。
このスキルの違いだが、
素早さは一点のみのスキルだ。つまり足が速くなる。これだけだが上りがデカい。
速度上昇は自分自身のモノ限定だが、指定したモノの速度を上昇する。パンチに設定すればパンチが早くなる。いろんな使い方は出来るが上昇率は素早さに劣る。
戦いながらスキルの交換は出来ないだろうな。そんな余裕が俺には無いから今回は諦めよう。
それなら……使い方次第だが速度のスキルを加えた方が良いだろうな。
後、攻撃はだな。
魔法は覚えたがレベルが上がらない。多分、魔法はレベルが上がり難いスキルなんだと思う。スナーチャさんに基本魔法は教えてもらったけど、弱いしな~。
でも、当てるだけなら強さは関係ない。なら……
よし。
これで行こう!!
その後、マスに手伝ってもらい、何とか仕上がった。
――――――――――――
俺はスミスさんに迫り、木の棒で攻撃する。
当然、スミスさんは避ける。
やはり、余裕があるな。……よし。
俺は、目を瞑ぶった。本来なら即座に攻撃されるがスミスさんは攻撃できない。
心を静めながら、俺はスミスさんを敵として認識する。……これもマスに教えてもらった事だ。俺の攻撃で傷も付かない、全力を出して大丈夫。
こうしないと全力を出せないし、手加減して勝てる相手でもない。
……心を静めて敵を見る。
「……本気か」
「はい……」
俺はスミスさんに迫る。
先読みをしながら攻撃する。
手や足の打撃も織り交ぜ、当てに行かず、動きを制限するように攻撃する。
俺は木の棒を相手に向け、
「火球!!」
至近距離の魔法だ。
クソッ!!
顔を傾けただけで避けたか……
「火球!!」
ザン!!
マジかよ。今度は魔法を切りやがった!!
「魔法は惜しいな。……魔法名は放つタイミングを教えているようなもんだぞ」
「言わないと放てないんで……」
俺はそれからも火球を連発し、スミスさんに避けられながら拳や蹴りも繰り出していた。
ここまでの攻撃で俺はスミスさんが火球の避け方を覚えた。
顔の辺りなら、顔を傾けて避ける
胴の周辺は主に切る。
足元ではパックステップで避ける。
攻撃に魔法を多用した場合に起こること、
それは
MPが底をつきそう……
「MP切れは考えてるか?」
「……」
俺は答えない。
黙ってスミスさんに突っ込んだ。
体力も限界に近い。
MPも底をつきそうだ。
だが。
この時を待っていた!!
俺はスミスさんに魔法を放つ。
「火球!!」
避けられた。
だが、これで良い。
俺はスミスさんの顔に向けて棒を突き出す。
「火球!!」
スミスさんは俺が技名を言う前に顔を傾けていた。
だが、
俺の棒からは火球は出なかった。
出たのは泥水。
先読みでスミスさんの避ける位置は分かってたので避けた方にばら撒いた。
バックステップで避けられる先読みを察知。
「火球!!」
名前は火球。
実際は違う。
「チッ……」
スミスさんの足に草が絡みつき動きを阻害。
だが完全に動きを止めるのは不可能。
数秒の、
イヤ、
コンマ一秒でも動きを止められれば上出来。
力を入れた事によりバックステップより大きく後ろに飛んだ。
瞬間、
「火球!!」
今度は本物の火球。
スミスさんの身体を狙う。
ザン!!
一閃で掻き消されるが、
俺は攻撃をしながら速度上昇を使って距離を離させないように走る。
スミスさんの意識が少しでもこっちに向いてるうちに次の一手を!!
「火球!!」
火球は出ない。
先読みで着地地点を察知し軸足が着く位置の土を少し下げる。
そして、
「火球!!」
棒から出たのは光の玉。
スミスさんに向かって放つ。
一閃。
と同時に強い光を放つ。
最後!!
「火球!!」
着地と同時にスミスさんの後ろから土が背中に向けて迫り出す。
どうだ!!
「……よくやった。ガク」
その言葉を聞くと同時に俺は気を失った。
~~~~~
覚醒した俺は周辺を見た。
俺は裏庭で横にされていた。
周りにはスミスさんの他にサラとマスがいた。
「目が覚めたか」
「はい。……最後の攻撃はどうでしたか?」
「フッフッフ。……やられたよ」
「え? 俺が勝ったんですか?」
「お前の負けだ。残念だったな」
「マス……。どういうこと?」
「お前の魔力切れが早くて隆起の魔法が停止しちまった」
俺は顔を横に向けると土の隆起が二/三で止まっていた。
「フッフッフ。泥水で目つぶしをして草を足に絡めて動きを阻害、足元の注意を自分に向けさせる為に火球を使い、俺が切った事を確認して光球でさらに目つぶし、そして視界を失った直後に火球と唱え、後ろの注意を向けさせずに隆起で不意打ち。参ったよ、正直」
「スミスさん」
「完全になめていたよ。お前が魔力切れを起こさなければ避けられたかどうか」
「……」
「試合には勝ったが勝負には負けたよ」
「……うぅうぅぅ~」
「……泣くなよ」
「がじだがっだ~~!!」
「ガク」
「ガクさん」
「お前ぇ」
何だよ!!チクショウ!!
何でこんなに悔しいんだよ!!
負けるとか当たり前って思ってたじゃん!!
絶対勝てね~。とか思ってたじゃん!!
何で涙が止まらないんだよ!!
何で悔しさで胸が一杯なんだよ!!
何でこんなに勝ちたいって思ってんだよ!!
何なんだよ!!
「ガクさん……」
「うぅうぅぅ……サ、サラ」
「悔しいのは頑張った証拠です。スミスさんに勝とうって一生懸命、頑張ったんですよね?」
「……あぁ」
「なら今はいっぱい泣きましょう。泣いて、また立ち上がってまた頑張れば良いんですよ?」
「サラ……」
サラが俺の髪を撫でる。
荒れてた心がサラの手の温もりで癒されいるのが分かる。
「お前、何でパーティーを組まなかったんだ?」
「……俺なりの正々堂々を貫きたかったんだ」
「お前なりの?」
「あぁ。確かにPTを組めばスミスさんに勝てる可能性がかなり上がるのは確かだし、是が非でも勝たないといけないって状況なら組むけど、今回は俺とスミスさんの勝負だから……」
「だから?」
「皆の力を借りたら、俺はまた自分じゃ何もしてないって思うかもって……」
「ふっふっふ。やはりお前は面白いな、ガク」
「変わり者ってだけですよ。ボス」
「ガクさんの良いところですね」
ん? どういうこと?
何でこんな空気が流れた? サラに褒められて嬉しいけど……。
俺はサラの事件で自分じゃ何もできないのが悔しかったから自分でも何か出来るって証明って訳じゃないけど、実証したかったんだよな。
あ~。なるほど。
だから、俺は悔しかったのか。
今回の勝負は日本にいたころの俺も少し含んでいたんだな。
皆に助けてもらってばっかりで自分は何もできない。
少し見方を変えれば日本にいたころの俺か……。
だが、サラが教えてくれた。
大事なことはまた立ち上がる事だと。
日本にいた俺は立ち上がる事が出来なかったけど、この世界で同じ失敗はしたくない。
俺の隣にはサラがいる。
この子を守るぐらい強くならないと。
「サラ……」
「何ですか? ガクさん」
「強くなりたい。今、心の底からそう思うよ」
「一緒に強くなりましょう。あなたが私を守ってくれるその日まで……私があなたを守りますから」
「ありがとう。君が一緒に、隣にいてくれたら俺は何度でも立ち上がれるよ」
強くなろう。
俺が俺でいるために。
彼女を守れる男になるために。
説明は次回でお願いします!!
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