翠(スイ)
少し長いです。
読みにくかったら知らせてください!!
(11/3)更新しました。
俺の前にはダンジョンコアがいる。言葉にすると意味が伝わらなそうだ。
ダンジョンコアが人の形をして俺たちに話しかけた。皆、固まってる。……驚いて皆同じ顔をしている。
「あなたが俺を呼んだんですか?」
「えぇ。そうです。彼……モックにこの場所まで連れて来て欲しいとお願いしましたのが私です」
《どうだ?俺の特技は。そっくりだろう?》
「モック……」
今の状況で特技とかどうでもいいだろ、とか言ったら傷つくかな?
「良かった。来てくれて…………本当に」
「お前は本当にダンジョンコアなのか?」
……モックの事は流すのね。了解。
フリーズが解凍されたスミスさんがダンジョンコアに質問している。もっともな質問だな。
「すいません。自己紹介が遅れました」
そういうと立ち上がった。……背が高いな~。二メートルぐらいはあるんじゃないか?
「数々あるダンジョンの中の第二十一ダンジョンの長であり、このダンジョンを統括する者です。名前はスイと言います。この度は私の呼びかけに答えてくださり本当に、ありがとうございます」
そう言い、腰を折った。……ダンジョンコアが頭を下げたのだ。
「私はスミスだ。お前に敵意はあるか?」
普通は意味の無い質問と思うが、これはサラの能力を使って嘘を付いているかいないのかを探るつもりなのだろう。
「……私にそちらの女性の能力は効きませんよ?」
スミスさんがサラを見た。
サラは首を横に振った。つまり、分からないのだ。
このスイと名乗ったこのダンジョンコアにはサラの能力が通用しない。てか何で知ってるんだ?
スミスさんもサラも慌ててない。……分かってたのか?
「もう一度問う。敵意はあるか?」
「ありません。例えあなた方が私を襲ってきても私は反撃もしませんし、周りの者も手は出さないでしょう」
「その答え、何に誓う」
「……私の愛した女性に誓って」
ダンジョンコアもといスイさんは少し笑みを浮かべて誓った。……愛した女性?
「……いいだろう。警戒は解くが油断はしない。お前が何かしようものなら即座に反撃に出るぞ」
「構いません」
そう言ってスイは再び祠の前に座った。……俺も座っていいかな?
「どうぞ? 座っても構いませんよ?」
「……チラ」
「俺を見るな小僧」
「……チラ」
「…………好きにしろ」
スミスさんスッゴイ顔で悩んでたな。……よっこいしょ。
「で? 何でお前はガクの能力が必要なんだ?」
「それを説明するためにはダンジョンの仕組みを少しお話しなくてはいけませんが、構わないですか?」
「あぁ」
「え~と。モックあれ持って来てもらえますか?」
《あいよ~》
モックがどっか行ったな。スイさんは袖から何か物を探してる。
スミスさんもマスも警戒している。
「やっとありました」
《持ってきたぞ~》
「ありがとうござます」
スイさんがセッティングしている。……てか黒板じゃん!! なんであるんだよ!!
「さて、ではご説明します」
「ごめん。ちょっと待って……」
「何ですか?」
「スイさん。……何で眼鏡なんて物を持ってるのか、それと黒板は何故あるのか聞いていいですか?」
スイさん眼鏡メッチャ似合ってるし、どっかの発酵した女子は生徒と先生で妄想しちゃうのかな?
「え? 人に教える時はこうした方が良いと言われたのですが……?」
「間違ってはないです。……すいませんでした説明をお願いします」
教えたの絶対に転生者だな。……さっきスイさんが言っていた女性かな?
「え~私がガクさんに力を貸して欲しい理由ですが、ダンジョンのサイクルが変わると言っても分からないと思うので順を追って説明しますね。
まず、ダンジョンが長く、その機能と力を維持するためには様々な手段を取ります。私たちのような通称、ダンジョンと呼ばれているモノは人をエネルギーにします。
あ、私は違いますよ? 違うが為にガクさんに力をお貸しして頂きたいのですから。
私のダンジョンの維持の仕方ですが、私は自分の力が衰えるのを悟りますと自分の全エネルギーを一つの苗に込め、新たに自身を作ります。それがサイクルです。
このサイクルは本来ならタワー、もしくは迷宮などで行われます、ダンジョンには必要のない仕組みです。
ダンジョンが本来なら行わないサイクルを長年に亘って行った事で徐々に力を失ってしまいました。
今回のサイクルで最早最後だろうと思っていましたが、久久能智神を持っているガクさんが現れました。
その能力を使って頂ければ、私は助かり、ダンジョンの維持ができます。
これが私がガクさんに力を貸して頂きたい理由です」
黒板に絵を書きながら分かりやすい説明をしてくれたスイさん。……眼鏡をクイっとするのが様になってる。
「ガクを使いたいのは分かった。だが、どうしてそこまでそのサイクルに拘る? お前はダンジョンだろう。だったらダンジョンのようになったら良いじゃないか」
「……約束をしてしまいまして」
「……約束?」
「えぇ。質の悪い女性との約束です」
なんだこいつ。さっきとは違う女性か? ってことは、こいつは俺の敵ではないか?
「……ガク。お前が決めろ。お前に任せた」
「……はい」
スミスさんから任された。……どうしよう。
まず、スイの話の全部を信じる事は出来ない。
本当かどうかもあるが、結局は俺が助けたいと思うか思わないかだ。
今回、ここに来たのは俺がここに来たかったからだ。サラの悲しむ顔を見たくないって思ったけど、それは俺の意思だ。
損得勘定でも、感情論でも、場の雰囲気でも俺がしたいと、俺の意思で決められる材料があれば決められるが、スイさんから聞いた話で決めることはできない。
俺がスイさんに聞きたいことを聞いてから決めても遅くはないだろう。
「スイさん。あなたの愛した女性の事と何故タワーのように振る舞っていたのか。……聞かせてもらえませんか?」
「……えぇ。……いいですよ」
そう言ってスイさんは眼鏡を外し、袖にしまった。
「その二つは私にとって一つですが……少々長話になってしましますよ?」
「……知りたいんだ」
「私が作り話をするかもしれませんし、本当かどうかもわかりませんよ?」
「……すいません。考えてなかった」
「フフフ。……冗談です。ちゃんとお話します」
「お願いします」
スイさんニコッと笑って頷いた。
「かなり昔のある日、私はダンジョンの一部として生まれました。その姿は木でした。その時のダンジョンは不安定で、形や広さ、ダンジョンの出入り口さえ日々変わっていました。
そんなある日、傷ついた女騎士が私にもたれ掛かり、休息をしました。
その女性はブツブツと何かを話していました。その話していた内容が、
『触手プレイをしないとかこの異世界マジで頭おかしい。少し楽しみにして騎士風の恰好してんだから少しは頑張りなさいよ!異世界』
そんな内容でした。
私は、気まぐれにその者に話をかけました。聞こえる訳ないがと思っていましたが、ダンジョンの一部の私は何もすることがありませんでした。ただの余興なのだと、『ショクシュプレイとは何ですか?』など聞こえる分けもないと。
『馬鹿なのか? 貴様はあの王道中の王道である、あの触手プレイを知らんだと!! あの辱めとエロスの融合であり、女騎士のド定番を知らんのか!! 恥を知るがいい!! この愚か者が!!』
通じる訳がない。そう思っていた私はとても驚きました。
その女性は壊れたように次々と言葉を放ち、最終的には『宇宙の神秘なのだ』と締めました。
この時の私は知りませんがこの女性が私の愛した女性です」
…………うん。転生者なのは分かったし、重度のオタクってのも分かった。でも……好きになる要素が分からない。
「しばらくして私が魔物と知って驚いていましたが、話をした事は全く気にも留めていませんでした。
そして何故か私を強くするという話になりました。理由を聞いたら『蔓も悪くないと思ったのだ』と言って私を無理やり強くし始めました。
皆さんもお気付きだと思いますが、その女性は転生者です。今のガクさんと同じと言ってもいいでしょう。
パーティーに無理やり入れられ私を強くしていく彼女は、……とても憧れました。
戦いは真剣そのもの。戦った相手にも礼儀があり、一つひとつの技がとてもキレイでした。
戦っていない時は私を困らせたり、驚かせたりしてニコニコと笑っていました。
私は動けませんから彼女が敵を誘き出して私に敵をぶち当てた後に倒すと言ったモノでとても怖かったのを鮮明に覚えてます。
ですが本来、ダンジョンの生き物を含むその他の物は自分の役割を真っ当し、その人生を終わらせます。なので私は彼女にそう伝えました。すると、
『ハァ? 決められた道を進んで何が楽しいの? 人生一度きりなんだよ? 好きな事して生きた方が楽しいじゃん。私は決められた道を歩くなんてしたくない。これは昔も今も変わらない。……本当に退屈な生き物なのね。あなた』
目が覚めたような。……違いますね。
彼女の言葉は新たに生まれ変わるような衝撃を受けました。
そんな考え方があったとか、冷たい言い方に傷ついたとかではないのです。
彼女は私という個人を見てくれている事に、心が動きました。
多分……分からない……でしょうね。
ダンジョンの一部として生まれ、不安定が故に木に自我が発生してしまい、何をする訳もなく、動く事も話す事も出来ず、自分で死ぬこともできない孤独な私を、そんな私を見てくれた彼女に感動したこの私を……
ダンジョンの一部としてではなく私を見て言ってくれた言葉は私にとって変わるのに十分な力をくれました。
そして私は彼女ともっと一緒に生きたいと願うようになりました。
今まで死ぬことしか考えていなかった私が生きたいと願うのは本当に愚かだと思いました。ですが、考えずにはいられなかった。
もうこの時には私は彼女に惚れていたのでしょうね。
どうにかこうにかやってみましたが駄目でした。
諦めたその時、彼女がいきなり私を切り、言いました。
『人生に出来ないとかないんだよ。出来ないはやらないと一緒で諦める事が出来るなら諦めない事をしろ!! ……有名な言葉をお前に言おう。ねだるな、勝ち取れ!さすれば与えられん! ……願うな!!自分自身でつかみ取れ!!』
今になって思いますが、一撃で私が死んだらどうするつもりだったのでしょうね。
切られた私はダンジョンの一部ではなくなりました。ですが、このままではすぐに死んでしまいます。私は無我夢中で自身を変えました。
そして、魔物から精霊に変わる事が出来ました。……もちろんこの変化は私一人では無理です。彼女が何かしら手助けしてくれたのでしょう。でなければここまでの変化は間違いなくあり得ません。
精霊として生まれ変わった私の姿は今のこの姿です。
そして、私は精霊になったことで彼女について行く事にしました。
様々場所に行きました。
冒険をしてとても楽しかった。
そして、最後についたのがこの地です。
私がこの地に来た時はまだ村のような環境でした。
その村に迎えられ、余生を過ごしました。
彼女がいなくなれば私は消えてしまう。その事に気付いた彼女は私の為に、……この祠を作ってくれました
そして、彼女は最後に言いました。
『……スイ。お前に出会えて本当に良かった。出会えていなかったらここまで長生きも満足感も無かったと思う。こんな女に惚れたのが悪かったと思って最後に約束してくれないか? なーに難しくはないよ。……この村の最後を見届けて欲しい。私のようなよく分からない者を受け入れてくれた村だ。良い村だろう?ここは。……だからお前にお願いしたいんだ。この村の助けになってくれ。可能な限りでいい。……この村も長くはないだろうからな。……頼んだぞ。スイ』
それが、彼女の最後の約束です。……まったく悪い女に惚れてしまいました。後悔したことは一度もありませんがね。
それから私は祠から村を見ていました。時に雨を降らせ、時には賊を返り討ちしたりと。
しばらくして私が精霊から魔物に変わっているのに気付きました。彼女の力が弱くなったのが原因だったのでしょう。
そして、完全な魔物になった私は祠を中心にダンジョンを作りました。
そしてダンジョンコアになり、また動けなくなりました。
この村を助ける事が私が彼女とした約束です。
ダンジョンになっても私のすることは変わりません。外を見て時々雨などを降らす。そしてダンジョンではなくタワーとして村の手助けをする。
しばらくしたら村人が増え、今のような街になってしましました。
ですが、私は後悔をしたことは一度もありません。好きでやっていますからね。
この街が……好きなんですよ。
長くなってしましましたが、私の話は以上です。
ガクさん、どうでしたか?」
壮大すぎるし、スイさんの彼女への想いがとても強いのがよく分かった。
聞きたい事も聞けた。
俺が出す答えは決まった。
面白いと思いましたらブックマークお願いします^^




