3倍だ~~!!
(8/16)更新しました。
押忍!!漢の中の漢。名は学。歳は三十六歳だ!! 確か、シャトルランの最高記録は三十五です。 俺はついに魔法使いとなったぜ!!
「イダダダダダーーーー!!」
「……我慢」
「無理!!ムリ!!むり!!……MURI!!ギャ~~~!!」
「う~ん。……これでやってみて」
「……少し……まっ……て」
おはよう!!快適な朝だね。こんなにも土の上が心地いいなんて。
はい、嘘です。すいません。
俺が何をしているかと言うとスナーチャさんに体の中をグチャグチャされてます。やべぇな。言葉にすると人体実験じゃねぇーか。
詳しい内容は昨日、スナーチャさんが構築した魔力回路の微調整をしています。これは実際に魔力を流してみないと分からないらしく、スナーチャさんに言われるがままに魔力を操作してます。
魔力の操作は魔法使いの<魔法スキル>に組み込まれているらしい。出来てないけどね。俺は力を入れてるだけだ。
「……だらしない。そこまで痛くないはず」
「これが痛くないなら、大問題ですよ」
「……たとえるなら?」
「体の中の血管が限界を超えるぐらいに延ばされる感じ?」
すまんな。何を言ってるか分からないかもしれないが、俺も分かってないから安心しろ!!
激痛って分かればそれでよし!!
「……あ」
「スナーチャさん?」
「……君には三つの適正回路を構築したから普通の人より回路が複雑で膨大だった」
「え~と?つまり?」
「……単純に言うと痛さ三倍」
「この世界の魔法使いは厳しいな~」
どこの感謝デーだよ!!てツッコミはさておき、俺の考えていた魔法使い像とドンドン離れてるぞ?大丈夫だろうか……。
「……かと言って手加減もできない」
「つ、つまり?」
「……諦めて」
「そうか。俺は魔法使いにはなれなイダダダダダダ!!」
「……そっちじゃない。痛くなるのを諦めて」
「イ~ヤ~ダ~~~!!」
朝のスミス家の裏庭で俺の声が木霊する。マジで痛いんだからな!!
「朝ごはんで……きゃ~~!!ガクさん!!だ、大丈夫ですか!!」
「……ハ……ハハ……」
「……よし」
「スナーチャさん!!よし。じゃないですよ!!ガクさんが何か変な笑いしてるじゃないですか!!」
「……フイ」
「目をそらさないでください!!」
「ん?どうした、サラク」
「スミスさん。ガクさんが……」
「……ハハ……ハヘ……へへ……」
「……あ。…うん。……スナーチャ?」
「……やり過ぎた」
「ハァ~~。治療できるのか?」
「……やってみる。<癒しの焔>」
「……俺…は」
「ガクさん!!」
「サラ?…ギャ~~俺が燃えてる~!!」
「それは回復魔法だ」
「ギャ~~~!!ギャ~~~!!」
「……。ゴツ!!」
「イッテーーー!!何するんですか!!スミスさん!!」
「それは回復魔法だと言ってるんだ」
「え?…あ、熱くない」
「……いまさら」
おぉ!!体が火に包まれてるのに全く熱くない。イリュージョンみたいだ!!
「そして安定の身体が動かない!!」
「……ごめん。やり過ぎた」
「…調整は終わったんですか?」
「……バッチリ。…多分」
「その、多分が無ければな~」
「お前はしばらく横になってろ」
「あ、はい」
ハァー。またベットの上か。
「じゃーな」
「え?ガクさんはこのままですか?」
「……お腹減った」
そう言って三人とも俺を置いて立ち去った。
え?俺このまま放置ですか?マジで?
俺、このまま土の上で横になったままなの?土の上直だよ?硬いよ?石も背中に当たってるよ?
……そのまま、放置でした。悔しいです!!
俺はそのまましばらく空を見上げる事にした。
「あ~そういえば異世界の空、ゆっくりと見上げた事無かったな~」
俺は地面のヒンヤリした感じと顔に時々吹き抜ける風を感じていた。
こんなにゆっくりとした時間は久しぶりだな。
やっぱり空は青く、高かった。雲も白い。
「共通点もあるよな」
そう呟いた俺はドアの開く音がしたので目だけ、そっちを見た。
「ん?どうした。ガキ」
「その声はマス?」
「……どした?」
「何が?」
「そんな悲しそうな顔して。置いて行かれたのがそんなに悲しかったのか?」
「違うよ!!俺はそんな子供じゃない!!……ただ」
「ただ?」
「元の世界の事を考えてたんだ」
「あぁ。そういえばボスが言ってたな。なんだ?家が恋しいのか?」
「ん~?家っていうかあの世界かな?」
「世界?意味がわからん」
「ハハハ。だよね」
「……なんだよ。言えよ」
「……つまんないよ?」
「別に面白さなんて求めてねーよ。……よっと」
マスは俺の隣に座った。胡坐をして空を見ている。
「俺がいたとこってこことはメッチャ遠い世界でさ。別にこの世界に来て後悔してるって事はないんだ。サラに出会う事ができて本当に良かったって思ってるし、みんなに会えたのもすっごく良かったって思ってる」
「あぁ」
「俺ってめっちゃ弱いじゃん?でも、俺の世界だとスミスさんみたいな強い人とかいなんだよ。むしろ俺ぐらいがたくさんいる」
「そうなのか。でも、あの人ぐらい強い人間はこの世界でもあんまりいないだろがな」
「ハハハ、そうなんだ。……俺はあの世界では生きてる心地がしなかった」
「……そうか」
「あぁ。でも、俺はあの世界が嫌いじゃなかった。それを今、気が付いた。むこうじゃ全く逆のこと思ってたのにな」
「それが悲しい理由か?」
「そうだ。悲しいのか虚しいのかわからないけど、心にぽっかりと穴が開いたような感じだ。俺はあの世界ではただ時間を無駄にしてるだけだった。そんな俺が何を偉そうに思ってんだって」
俺みたいな奴が思って良いことなんだろうか。あの世界も案外悪いもんじゃなかった。なんて。
「別に思うぐらい普通だろ?難しく考えんな」
「マス……」
「何も悪いこともないだろう?そんな事より楽しいことでも考えてろ。強くなることを考えろ。そうすりゃいい」
「そうか。……じゃ~俺はハーレムを作る!!これは俺の夢だ!!」
「お前、サラク泣かせたら……わかってるな?」
「もちろんだとも!!みんなで仲良くするぜ!!」
「フン。その前にお前は強くなんないとな」
「そうだね~」
「明日からはボスに攻撃を当てるための稽古だな」
「オス!!」
「その前に……よっと」
「おわ~~」
「お前は休め。ボスに言われてお前を拾いに来たんだ」
「クソ~。片手で軽々と持ちやがってほんとに人間かよ」
「ここに捨ててくぞ」
「すいません冗談です!!」
「ったく」
そういって俺はソファーのある部屋に運ばれた。寝るしかないな。
「フガ!!ふんどしがー!!」
「キャ!」
「ん?あ、サラ?」
「もう、ガクさん!急に起きないでください!!驚くじゃないですか!!」
「ご、ごめん。夢の中で……ん?なんだっけ」
何かに追われてたような?巻き付かれそうになってような?なんだっけ?
「ガクさん。体はどうですか?」
「ん?大丈夫…かな?動くし」
「そうですか。今日は体を動かさずに魔法について勉強をするそうです」
「そうか。……サラ」
「はい?」
「ごめん」
「ガクさん!?何を謝ってるんですか?」
「俺は君の事を考えてなかった。それをずっと謝らないとって思ってたんだけど」
「ガクさん……」
「サラ。俺はもう少ししたらここを出ていく」
「はい」
「その時、君はどうするのか考えておいてくれないかな?」
「ガクさん……それって」
「俺はサラが出した答えに応えようと思ってる。もし、こんな俺と一緒に旅に出たいと思ってくれるのなら一緒に行きたい。俺弱いし。寂しいし。一人旅とかしたことないし。サラがいてくれればとても安心できる」
「私がガクさんの用心棒ですか?」
「ち、違う!!俺はただ……ごめん。言い訳だな。サラは1人でも強いって聞いたから一緒に来てくれたらって思ってるのも確かだ。でも、俺はサラを旅に連れていくのは気が進まない」
「なぜですか?」
「足手まといになるからだ。それにもしもの時、俺は君を助けられない。嫌なんだ。君が傷つくのは、あんな、人を頼ることしかできない自分も許せない」
「あの時は……」
俺は首を振る。
「俺に力があれば一人でも助けに行けた。君を守れた。俺は結局何もしてないし、できなかった」
「私の心は決まってます。さっきのは冗談だったのですが……」
「サラ?」
「あなたが私を守ってくれるその日まで、私があなたを守りましょう。ですから私を一緒に連れて行ってください」
サラは顔が赤くなっていた。少し恥ずかしかったのがわかる。
サラの気持ちに対して俺の答えは決まっている。
「よろしくお願いします!!」
「はい!!」
俺はサラの笑顔に心から癒された。
本当に、この子は俺よりも立派だな~。
3点リーダー(…)を覚えました。少しは読みやすくなったかな?




