抜刀二色
(8/16、9/5)更新しました。
ヤバイ。フラグが立ったような気がした。多分、この場にいる人の中にそれが分かる奴がいたら俺にツッコミを入れられていただろう。良かった~。知ってる奴がいなくて。
「……スミスさん?なぜ、俺を睨んでるんですか?」
「……。イヤ。何でもない。」
そんな怖い目で見ないで~。フラグを立てたかもしれないのがバレタかな?
そんな下らない事を考えていた俺は最後尾から皆に付いて行こうとした。しかし、なぜか皆がこっちを踵を返し、俺の方を見ている。
一瞬なぜこっちを見ているのか分からなかったが次の瞬間理解した。
「あらあら~。気になって来てみれば、スワードさん。駒をあれだけ用意したのに、負けるとか。本当に言葉もないわ~」
俺達と豚のちょうど真ん中に現れた女性。スワードってのは豚の事らしい。
フード付きの黒いコートを羽織り外見が全く分からない。だが、女から出ている雰囲気が俺の頭の中で危険だとサイレンを鳴らしている。
あの女は危険だ。俺は、漠然とそう思った。
「な!!お、お前は!!・・・・・・金なら払ったはずだ!!」
「あらあら。スワードさん。そんなに脅えなくても大丈夫ですよ~。お金はちゃんと頂きましたから安心してください~」
「なら、何でお前がここにいる!!」
ヤバイ女が豚と話している。豚の慌てようが尋常じゃない。目の前の女はここに居ちゃいけい人なのだろうか。俺的にはここを一刻も早く逃げるか、女が早くここを立ち去らないかと考えている。
「忘れてたのよ~。……後始末とちょっとね~」
「お、俺を、殺すのか!!」
「やーね。あなたじゃないわよ。取引先を殺す訳ないじゃない~」
「なら、なんでここに来るんだ!!俺に用がないなら勝手に後始末でも何でも好きにすればいいじゃないか!!」
「あらあら。そんなに怒ると体に悪いわよ~。それにあなたに用があってここに来たんじゃないわよ~?」
「なんだと!!」
フードの女がこっちを向いた。つまり用があるのはこっち側か。
「あなたが、学さんね~?」
「は?」
なんで俺の名前を知っている?しかもこっちに来てからは俺はガクとしか名乗っていない。日本で生きていた頃の名前を知っているのは俺と神様ぐらいのはず。
「知り合いか?」
「違います。こんな人、俺は知りません」
スミスさんが俺の隣に来て話をかけて来た。
「あらあら。自己紹介がまだだったわね。ごめんなさいね。基本的にしないから忘れてたわ~」
俺の頬に汗が流れる。
「私はジュウソウ。以後よろしくね~。学さん」
「……」
「なぜ名前を知っているのかって顔してるわね。まぁ、それはあなたの同郷さんを知っているからなのよ~」
「同郷」
つまり、転生者か。
こんな早くに接触するとは思わなかった。
「その人からの伝言があるの聞く~?」
「……あぁ」
「ウフフフ。伝えるわね。え~っと。『俺の仲間になれ、そうすれば世界の半分をお前にやろう』だったわ~」
お前はどこの魔王だ!!っとツッコミたい!!
「断る」
「あら。断るの~?」
「そうだ」
「……理由を聞いて良いかしら~?」
「そのセリフを言う奴は大体が嘘つきか裏切り者だからだ」
「フ。ウフフ。アッハッハッハッハッハ~」
いきなり笑い始めた。最悪、殺されるかな~?とか思ったけど。
「アッハッハッハ。お腹痛い!私がこんなに笑うなんて……」
「……」
「ごめんなさい。驚かせてしまったわね。……なるほどね。それがあなたの理由なのね~?」
「あぁ。ついでに伝えておけ」
「何かしら?」
「凝るなら一人称を俺じゃなくてわしに変えろってな」
「ウフフフ。分かったわ。伝えておくわ~」
女は懐を探る。そして、短刀を出した。
「それじゃ、殺していくわね~」
「は?!イヤイヤ、意味が分からん!!殺されたくない!!痛いの嫌だ!!」
「え~~。私に頼むならそれなりの対価は必要よ?それに痛いのは一瞬よ。大丈夫、すぐに楽になるわ~」
「大丈夫の意味も分からない!!頼んだことは取り消しで!!」
「無理よ。もう頼まれたし~」
クーリングオフは無いのかよ!!
「落ち着け!!俺を殺しても良いことないぞ!!」
「私が楽しめればいいのよ~」
俺は背筋にゾクリとした感覚がした。この人は本気だ。本気で俺を今、殺そうとしている。
こんな簡単に殺そうとする人を俺は理解できない。
ただならぬ恐怖が俺の心を蝕み体が全く動かない。
「お前らだけで楽しむな!!」
「おっと。……あら、危ないわね~。あなた誰よ」
「スミスだ。……お前、トラプタの一員だな?」
「……こんなクソ田舎に私たちを知る者がいるなんてどいう事かしら?」
「な!!お、俺は。俺は何も言ってないぞ!!」
「スワードさん。あなた会員ルールを知って言っているのかしら?」
「し、知っている。だが、俺は何もしていな……。」ドチャ。
豚はそのまま後ろに倒れ音をがした。
女が短刀を豚に投げ、豚の頭に刺さったのだ。
「スワードさん。残念ですが退会です~」
女はゆったりと豚に近づき短刀を抜く。抜く際も一旦押し込んでから引き抜くと徹底していた。
それだけこの人は慣れている。人を殺すのに。
「さて。スミスさん。でしたっけ?なぜ、我々を知っているんですか?誰から教えてもらったんですか?どこまで知っていますか?詳しく教えてください」
「私が素直に教えるとでも?」
「その方が身のためですが」
「その前に、一つ聞きたい」
「……何でしょう」
「マーナを、俺の仲間にケガをさせたのはお前だな?」
「かなり自信があるようですが?」
「否定はしないんだな?」
「肯定もしていませんが?」
「違うのか?」
「私が素直に言うと思いますか?」
「良いだろう。すぐに吐かせてやる」
「ウフフ。私もそういたしましょう」
女、ジュウソウは片手に短刀。逆の手には何も持っていない。
スミスさんは剣を両手で持ちジュウソウを待ち構えている。
先に動いたのはスミスさんだ。刀を振り上げジュウソウの頭を狙っている。
ジュウソウは最小限の動きで躱し、短刀でスミスさんの首を狙い振りぬく。
迫る短刀を難なく躱す。そして距離をお互いに開ける。
「避けるのが上手いな」
「それはあなたもでしょう」
今度は互いに距離を詰める。お互いに当たれば死ぬ攻防を繰り返す。正直、俺には何がどうなっているのか分からない。なぜ、あの攻撃をしながら避け、避けながら攻撃できるのか、さっぱりだ。
「チッ!!」
「どうしました?スピードが落ちてきましたよ?」
スピードが落ちて来たらしい。俺には分からん。
「マス。スミスさんのスピードは落ちてるの?」
「ん?違うな。あの女が上がってやがんだ。徐々に速くなってる」
「でも、拙者の方が速い」
「そ、そうか」
マスは油断なくスミスさんを見ている。パッチちゃんも油断しないようにね。
スミスさんとジュウソウはお互いに決定打はないがややジュウソウが押しているように見える。
「……このままじゃ」
「そうですね」
「マス、サラ。このままじゃスミスさんが負けるのか?!」
「「……」」
な、なんだ。そのかわいそうな子を見る目は!!
「呆気ないですね。もう終わりですか?」
「年には勝てんか……」
「では、誰から聞いたか教えてもらって良いですか?」
「良いが、その前に俺の質問に答えろ」
「ウフフ。良いでしょう。でもあなたは気が付いているんでしょう?」
「……」
「まぁ良いでしょう。そうですよ。私が襲いました。そして、そこの仮面の子を攫った。雇われたんですよ。そこのスワードさんに」
「……そうか」
「では、今度はこっちの番ですよ?」
「……次はお前自身が来い。落とし前を付けてやる」
「なに……を…………」ドサ。
…………キン。
「<抜刀二色>」
スミスさんが刀を納めた状態でジュウソウの背後に立つ。そして遅れて聞こえる甲高い音。
「何も見えなかった」
「普通はそうだ」
「マスは見えた?」
「……全く」
「そうか………」
マスが見えないんだ。俺なんかにあの攻撃が見える訳がない。
それにしても、人がこんな簡単に死ぬんだな。
「ガク。どうした?」
「何でも……ないです」
「豚の事は気に病むな。あれはあいつ自身の自業自得だ」
「はい。この人は」
「ん?女か?そいつは人形だ。本体は別だ」
「は?」
人形。おぉ、そういえば血が出てない。そうか、女の人は死んでないのか。
「ガクさん。なんか嬉しそうです」
「サ、サラ?どうしたの?そんな怖い顔して」
「今、ガクさんが一瞬嬉しそうな顔をしました」
「してない!!絶対にしてない!!」
あんな怖い人が生きてて喜ぶはずがない。だからと言って女性が死ぬのは忍びない。豚は……男だし、サラを攫ったし、なんかイラついてたし。ノーコメント。
「ガク。お前に聞きたいことがある」
「何ですか?」
やっと。緊張から解放された俺はその場で座り込み、スミスさんの話を聞く。足ガクガク、腰は抜けて手に力が入らない。
「学とは何だ?」
「あ……」
「それと、お前の同郷とは何だ」
「え~~っと」
「他にもいろいろ聞きたいことがある」
「……。一晩、時間をもらっても良いですか?」
「…………。良いだろう。では、明日の昼に話をする。それでいいか?」
「分かりました」
あの女。とんでもない置き土産を残していきやがって!!
……神様にお礼の電話と少し相談をしないとな。




