サラの場所
(8/12、9/2)更新しました。
「ボス。すまない。……サラが……攫われた」
俺は目の前が真っ暗になった。
だが、俺が呆けている間にも状況は変化していく。
「……攫った相手の特徴は分かるか」
その言葉に悔しさと怒りが混ざった苦々しい顔をするマーナさん。その表情一つで言葉を必要としなかった。
「そうか。マーナよく知らせてくれた。ゆっくり休め」
「ボス!!私はまだやれます!!回復薬を使えばこんな傷!!」
「お前も分かっているだろう。マーナ。回復薬は傷は治せてもダメージは残る」
「……クソ!!」
「スナーチャ。マーナを見ててくれ」
「ん!」
マーナはスナーチャとマスによって部屋に運ばれた。回復薬を使い。傷は塞がったように見えるが完全回復しないらしい。
戻って来たマスを含む、5人でテーブルを囲いこの状況の情報整理をする。
俺は未だにこの状況を呑み込めていなく、頭の中で自分でもよく分からない事を考えている。それでいて気持ちが昂り、サラを助けなければと焦燥に駆られて落ち着かない。
「オイ!!小僧。ちっとは落ち着け。今、慌ててもしょうがないだろうが!!」
「分かってる!!……分かってるけど。落ち着かないんだ」
「俺も気持ちは分かるが、ガク。今しなければならないのは考える事だ。サラを助けるために」
「分かってます!!何でみんなはそんなに冷静なんですか!!」
「…………。俺達がそう見えるか?」
「うぅ……」
スミスさんとマスからは殺気と呼べるであろう覇気が俺に突き刺さる。瞬間、俺は死が背後にいるような気持ちと鳥肌が全身にたち、脂汗が体から溢れでる。逃げる事もできない。動くことも。喋る事も死に繋がる。そんな空間。
そんな中で俺が一番恐怖を覚えたのは、パッチちゃんやシャスの目つきだった。二人はいつもは見せないような、凍ったような、とても冷たく、瞳も暗くなっていた。
「……す、すいません・……でした」
俺はこの言葉を出すだけで全身の力抜けた。
「……すまん。お前に当たっても何もならんな」
「ボス」
「あぁ。これからの事を話す。相手の目星は大方付いている」
「……それって」
「慌てるな。最近、家を監視している奴らの事は気が付いていると思うが、多分そいつらだろう」
「チッ!。やっぱりか!!クソ!!」
「サラおねーちゃんは気が付いてなかったよ」
「多分、僕達以外を除くと気が付いていないのはサラクさんとガクくんだけだと思いますが」
…………監視?何のこと?どこから見てたんだ?
「ボス。あいつらの事はどのぐらい調べたんですか?」
「奴らは最近この街来た奴隷商だ。もちろん裏でやってる連中だ。表の仕事は宝石売りらしいがな」
「同業ってことですか?」
「そうだ。この街には奴隷商は一つ。つまり、俺たちを潰せばこの街の奴隷産業を牛耳れるからな」
「俺たちを皆殺しにでもしようってことですかね」
「それはないな」
「ですよね」
ん?話が分からん。
「どいう事ですか?」
「ん?俺たちを皆殺しにしないって事か?」
「はい」
「そりゃ~な」
「??」
「「マーナが生きて帰って来たからだ」」
絶句ってこのことを言うんだね。最近、ツッコミが減ったけど、これは……。
「で、ボス。問題は?」
「あぁ。奴らの根城は分かってるが、アジトが分からない」
「チッ!」
「むぅ」
「クッ」
マス、パッチちゃん、シャスが唸り声を上げた。
……そういえば、さっきシャス君に「ガクくん」呼ばわりされたな。イヤイヤ。今はそんな事どうでもいい事だ。サラを助けないと。
「相手から何かしらの接触がない限りは俺たちは動けない」
「「「……」」」
静かになる空間。そんな中、空気を読まない奴が現れる。
もちろん俺。
「すいません。一旦、部屋に戻っていいですか?」
「ガキ……」
「止せ、マス。分かった。行っていい」
「はい」
俺は冷静になった頭で何ができるかを考えた。俺には何がある?。答えは何もない。だ。
俺には力が無い。弱いし、戦ったのはムミのみ。死にかけたけど。
俺には力はない。だが、頼れる奴はいる。
俺は自分の部屋に入り。独り言を呟く。
「お前なら何とかできるだろう?頼む。俺に力を貸してくれ」
静けさが木霊する。だが、続ける。
「頼れるのはお前しかいない」
「せめて助言やヒントでもいい」
「頼む」
「お願いだ!!神様!!」
無情の静けさだけが残る。
「どんな条件でも飲む」
「お前の望む通りに何でもする」
「お前に頼るにはこれだけ……は無理かもしれない。また、頼りそうだ」
「本来ならお前に頼るのは筋が違うと分かっている」
「基本的に干渉しない。お前はそういったが例外もあるんだろう?」
「だったら、俺は俺が出せる全てを出してもその例外に入らないか?」
「何が足りない!!俺に出せる物は何でも出す!!腕も足も目も何でも出すから!!」
「……ダメなのか……クソ。……サラ」
思い浮かぶのはサラの笑顔。俺は守れないのか、サラの笑顔を。俺の全部をかけてもサラを救う事が出来ない。
俺は本当に無力だ。
「プルプルプル。プルプルプル。プルプルプル。プルプルプル」
スマホが鳴った。
「……もしもし」
『あ、もしもし?学くんですか?イヤ~~~。結構、最初の方に電話しようと思ったのですが、スマホをどこにしまったか忘れてしまいまして、見つけたら今度は充電が無くて。遅くなってすいませんね~~アハハハハ』
「ハァ~~~~~~~」
『何で溜息を付くんですか!!ここは喜ぶところですよ!!分かってますか?』
いや、その、ため息もしたくなるよ。俺がどんな気持ちで電話を取ったのか、心臓が止まるかと思う程緊張して聞こえたのが陽気な声でゴメーン。テヘペロだと!!コンチクショウが!!
「イヤ。何でもない」
『私、テヘペロなんてしてませんよ?』
「心読まれた!!プライバシー侵害だ!!」
『デフォルトで分かってしまうんでしょうがないんですよ』
「…………お、おぅ。さすが神様だ」
『今さら褒めても遅いです!!』
んだよ。最初っから心読めてたんじゃねーか。鋭いと思ったんだよな~この神様にしては。
『学くん。用事があるんで切りますね。さようなら』
「ごめんなさい!!本当に心から謝るからそれだけは!!」
『冗談ですよ~~~』
……落ち着け。落ち着くんだ。怒るな。冷静に。クールになれ。クールになれ。鉈で襲われてもクールな奴を思い出せ。
「……頼みがある」
『知ってます』
「サラの居場所を知ってるか?」
『もちろん。神様ですから』
「俺に教えてくれ」
『無理です』
「頼む」
『……』
「何でもする」
『偽りは無いようですね』
「あぁ」
『では、条件を二つ出します』
「分かった」
『一つは私を親愛な女神と呼ぶ事』
ダメだ。考えるな。心を読まれてるんだ。絶対にアレを考えてはいけない。絶対に!!
「分かった」
『もう一つはスマホに入っているサラクさんの写真と動画の削除です』
「ゴハ!!」
『大丈夫ですか?血を吐きましたか?』
な、何だと!!俺に宝を捨てろと言うのか!!この俺にサラコレクションの削除を条件に出すだと!!
「た、頼む!!それだけは!それだけは!!」
『すいません。もう消しちゃいました。テヘペロ~』
「グゥブゥウボラビィッチ!!」
『アハハハハハ』
何ウケてやがる!!スマホにはサラの画像が全く残っていない!!あぁぁぁぁぁ!!サラの動画が!!画像が!!
俺の宝が!!
俺の生き甲斐が!!
俺の魂が!!
ハハ。燃え尽きたぜ……真っ白にな……
『学くん?サラクさんの画像や動画はまた集めればいいじゃないですか』
「ハハ……ハ……ハハ」
『そのうち、裸エプロン仮面やってもらえばいいじゃないですか。』
「親愛の女神様。サラの居場所を教えてください!!」
『復活早いですね~~。メールを送りますのでそちらを見てください。場所、アジトの間取り、侵入経路、構成人数などなど送りますね~~』
「お、おぅ」
場所だけじゃなく他にも教えてくれるとは。
『では、また。お時間がありましたら連絡しますね』
「そんな時間あるのか?」
『まったくありませんね。アハハハ』
「ありがとう。神様」
『体調に気を付けてくださいね』
「あぁ」
電話が切れてすぐにメールが来た。ちゃんと場所も間取りも侵入経路、構成人数が書いてある。サラの現在の状況も書いてある。
現状、危害などは加えられてはいない。らしいがこれからどうなるのか分からんからな。
みんなに伝えよう。
ダイニングに行くと皆の恰好が変わっていた。厳重な装備をして武器も持っている。なにこれ、怖い。
パッチちゃんもシャスも装備している。
皆、比較的に色が黒。スミスさんは騎士の装備を軽量化したような感じ。
マスは重そうな装備で身を固めてるが全く重そうな感じがしない。
パッチちゃんは忍者仕様と言わんばかりの服装。
シャスはどっかの怪しい占い師だな。
どっかのイベントに行くコスプレイヤーと思ったが、各自その服装を着こなしている。全く違和感が感じられない。なんだコレ。
「どうした」
「いえ……」
「まだ、サラクに関する情報は入ってこない」
「…………俺の方でサラの情報が分かりました」
怖い!!皆、睨まないで!!怖いから。チビっちゃうから。
「冗談はよせ。こんな短時間に何が分かる」
「サラが居る場所、アジトの間取り、侵入経路、敵の構成人数」
「ガキィ。今はそんな寝言を流せるほど俺たちは冷静じゃない。部屋で何やってたか知らんが黙ってろ」
「方法は教えられませんが、俺が最も信頼できる所から聞きました」
「ガク。お前は何を言っているのか分かってるのか?」
「はい」
考えろ。どうすれば俺はこの人たちにサラを救ってもらえる。
……本当に。俺が強ければ人を頼らずに俺が行けば解決できるのに。
「ここがサラのいる所です」
テーブルに敷かれた地図に指を指す。そこは。
「タワー。……か」
「はい」
「俺達もそう思っていた。この街の事は俺たちの方が知っている。相手もそれは理解しているだろう。タワーの管理は甘い。家や宿は足が付くがあそこは少しの金があれば入れる」
「だが、ボス」
「あぁ。お前にどうやってサラクの場所を特定しそこまでの情報が手に入れたのかは聞かん。だがもし外れていたらお前はどうする。その情報に何をかけられる」
「もし、この情報がデマだったら、……俺は奴隷になっても構わない」
「な!!ガキ。お前……」
「ガクお兄ちゃん……」
「ガクくん……」
皆が俺を見る中、スミスさんは腕を組み、考えている。
俺はこの情報が間違っているとは全く疑っていない。
考え終わったスミスさんと俺は見つめ合った。スミスさんは俺をスゴイ睨んでるけど。メッチャ怖いけど。
「本気か?いいんだな?」
「もちろんです」
「そうか。……お前たち!!サラクを助けに行くぞ!!」
「「「おう!!」」」
よかった。今、助けに行くぞ。サラ!!
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