異体
少し短いです。
押忍!! ガクです。家で怖い場所の代表例は屋根裏、夜のトイレ、地下室を思い浮かべてしまいますね。押し入れやタンス、ベットの下の空間も捨てがたいですが、どうなんでしょうね。
よし、現状を確認しよう。
出口がない。
よし、終わり。
「うん。閉じ込められたな」
「あははは。ガク、かおあおい~」
ルアンが笑っている理由が良く分からないが、顔色が悪くなるのはこの状況なら普通だと思うんだよね。
ま、ルアンが不安にならないのならそれはそれで良いのだけど、俺が一番ビビってるって何か変だと思う。
「ル、ルアン。何が起こるか分からないから離れるなよ」
「わかった~。なにかあったらまもってあげる~」
「……よろしくな」
「は~い」
頼もしいぜ!
クッソ~。
俺も頼れる漢になりたいぜ。
壁に背をつけると手が生える怖い映画を思い浮かべてしまっていた俺は自然と部屋の中心に移動していた。
しかし、部屋の広さが微妙に怖い。
高さはそれ程高くはないが、奥行きがそこそこある。
豪邸の地下室だけあって、ワインの樽を何個も貯蔵できる程の広さだ。
なにか隠し部屋があったら楽しいのだけど、今のこの状況だけで自分的には満足だ。
早く出たい。
何事もなく時間が過ぎれば最悪はサラが天井から突入してくると思うけど、それまで俺が無事な保証はない。
いや、待てよ。
「……あ。魔法で吹き飛ばすか?」
「りゅう!? ガク、りゅうだすの!?」
「竜は出せないな~。アレはサラが竜と仲良しさんだから来てくれたんだぞ~」
子供に聞かせるような冗談んだ。
どんな反応するかな?
「あれはまほうだよ? なにをいってるの?」
「……うん。そうだな。俺は何を言ってるんだろうな」
マジかよ。
可哀そうな目で見られちゃったよ。
結構ショックがデカいぜ。
『クスクス……。クスクス……』
「声だ……」
「ん~?」
俺が落ち込んでいると微かに笑い声がした。
顔を上げて周りを伺うが、その声は消えてしまった。
「ルアン。今の聞こえたか?」
「なにが~?」
「笑い声が聞こえたんだ」
「おともだちになりたいのかな~?」
……そうなのかな?
イヤイヤイヤ!
流されちゃダメだろう。
「まだ分からない。もしかしたらそうなのかもな」
「ぶ~」
ルアンが不機嫌モードになってしまった。
何かやったかな?
「……おやつ食べるか?」
「「たべる~!」」
「そうか、そうか」
俺も食べたいから二人分だすか。
「ん~?」
ルアンが辺りをキョロキョロしだした。
「どうした?」
「いま、だれかがおなじことばをしゃべったきがしたの」
……気のせいじゃないか?
あ、でも確かにさっき『食べる』の声が二重に聞こえた気がする……。
「きのせいかな~?」
「そ、そうだと思うぞ。……ほら、おやつだ。一個は俺のだぞ」
「は~い」
手にお菓子を二つ出して一つをルアンに渡した。
「ん~~!」
ルアンが可愛い声でお菓子に舌鼓している姿を見て少し心が和んでから俺の分のお菓子を口に運ぼうとお菓子に視線を戻した。
「……」
俺は確かに二つ出して一つをルアンに渡した。
そして一つが余ってるのだが、実際には俺の手の上にはお菓子はなかった。
そう、なかったのだ。
変わりに青白い手が乗っていた。
重量も温度も無い手に生きている者の感触は無い訳で、背筋に一瞬で冷や汗が噴き出る。
怖い映画で思った事は無いだろか。
何で怖いのに先を見てしまうのか、と。
俺は俺の手に乗ってある手を振り払う事が出来なく、その先に目が動く。
心ではルアンを保護して爆発魔法でここをぶっ飛ばして脱出を考えるのだが、身体が言う事を聞かないのだ。
吸い込まれるように手から腕、肘、肩と徐々に目で追ってしまう。
そしてついに異体の知れないソレと目が合った。
「……ッチ~ス」
……異体の知れないソレと目が合った。
「……チャ~ッス」
「ちゃ~す!」
ルアンが元気に言葉を返す。
「誰だ、お前」
「自分っすか?」
ほかに誰がいるんだよ。
「ガク、なのるときはじぶんからいわないとダメなんだよ~」
「そ、そうだな」
子供に教わるって本当になんなの。
でも、目の前にいるコイツは何なんだ?
「お、俺はガクだ」
「ルアンはルアンだよ~」
「あ、自分は……幽霊っす。名前は~忘れたんで適当につけて下さいっす」
幽霊?
青い髪の長髪をなびかせた小柄な肌が透けるように白い女の子が、幽霊?
実際に透けちゃってるけどね。
「ガク~」
「どうした?」
「ケガ~」
「ん?」
ルアンが幽霊の足元を指さすと彼女の足は片方無くなっていた。
傷跡の淵が無理やり千切れたような跡で見るに痛々しい。
「痛みはないんっすよ? 幽霊なんで浮けますし」
「ちょっと動くな」
少し屈んで足の状態を見る。
腐敗はしていないが新鮮な傷口って訳でもないか。
少し触れてみる。
「女の子の足をいきなり触るだなんてガクさんは変態っすか?」
「あははは。ガク、へんたいさんだ~」
「……お前は成仏したいと思っているのか?」
触れられるんだな。
だが、生きているモノって感じがしない。
無機物を触ってる感じだ。
ナデナデしても気分が良くならない。
「急にどうしたんっすか?」
「答えろ。お前は成仏したいと思っているのか」
「ガク~」
怒ってる訳ではないが、少しだけ声がマジになってしまったのだろう。
ルアンは俺が怒るのが嫌いだからな。
「ん~。今までそういった質問をされた事は無かったっすね。でも、成仏したいかと聞かれてしたくないって答える訳ないじゃないっすか」
「……そうか」
俺は立ち上がり、目の前の女の子の顔を見る。
整っている。
だが、幽霊であるのが分かるし、彼女を見ているとどうしてもナルミがチラつく。
似てはいなんだがな。
だが、天国で確かに笑顔でいるナルミと地下のこんなジメっとした場所で千切れた足を引きずっているこの子を見ると、どうしても助けたいと思ってしまう。
幽霊になかったこの子を助けるのは俺にとって自己満足なのは分かってる。
俺もそんなにバカではない。
どうやって助けるとか全く分からないけど、目の前にいる死んでいる少女を助けたい。
それが漠然と感じたのだ。
「確認したんだが、お前は悪霊か?」
「いえいえっす。自分、普通の地縛霊っすよ」
「お前は本当に成仏したいと思っているんだな?」
「はいっす」
「……分かった」
俺は彼女の頭に手を置いて少し笑顔を作って口を開く。
「俺がお前を成仏させるから、そんな辛そうな顔はするな」
「じ、自分。成仏できるっすかぁ?」
「出来る、出来ないじゃない。必ずするんだ」
「うぅぅ。お、お願いするっす」
「お~~!」
「「……」」
ルアンの掛け声で空気が一瞬固まったが、ルアンの笑顔に釣られて幽霊の彼女も笑顔になった。
初めて生きている感情的なモノが見えた気がした。




