家
押忍!! ガクです。引きこもりを長年やっていたからなのか、ただの貧乏性なのか分かりませんが大きい部屋は落ち着きません。
サラが住所の紙を持ち移動。
今回は自分たちの馬車を使わず、街で運用されている馬車を使った。
使い方や時間表の読み方などを習ったのだ。
やはりこの街は都会なのだろう。
かなりの頻度で馬車が行き来している。
まぁ基本の移動手段が馬車が徒歩だからな。
でもいつもはサラの背を見ながら移動していたが、隣に座り話しながら移動できるのは楽しかった。
人がたくさん乗れば詰めなくてはいけないからサラと俺の距離はほぼゼロだ。
最高だった。
ただ、人がたくさん乗ると暑苦しい。
この街は基本的に男性が多いから乗ってくる人も男性が大半だ。
しかもガタイが良い。
故に汗のニオイがヤバイ。
サラがいつの間にかニオイ遮断の魔法を使っていたのはビックリだった。
俺にもやってくれていた。
本当に感謝だ。
そして到着した。
時間にして一時間ぐらいかな?
馬車は冒険者ギルドに置いてきたからそこまで時間的なロスは無い。
ついでに言えば宿屋は既にチェックアウトしているから家が住める状態ならすぐにでも家に住んでも良いだろう。
ベットあるかが心配だが、野宿セットは荷物の中にあるから数日なら問題ない。
どんな家が待っているのか期待を胸にしていた。
だが、俺の期待は裏切られた。
「え~……。ここですね」
「「……」」
俺とルアンが絶句した。
それほどにデカい家だった。
そう。
俺は一戸建ての程よい家を想像していた。
だが、目の前にある家は家ではなかった。
もはや城だ。
「う~ん。庭の手入れが行き届いていませんね」
そう言って敷地に入るサラ。
俺がその後を追う。
「サラ。ここで合ってるの? 違くない?」
「フフフ。合ってますよ? ドアの紙が見えますか?」
「え?」
サラに指を指された場所は玄関のドアだった。
そこには小さな紙が貼ってあり、何か文字が書かれていた。
「売りに出されている家です。おそらくですが住み込みの方がいると思いますよ?」
「住み込み?」
何のために?
「もしこの家を気に入り、購入したい人が現れた時の為に予めそこに住んで訪れた人に交渉をするんです」
「な、なるほど……」
「人が住まなくなった家は驚くほど劣化が進んでしまいますし、手入れや掃除の面倒がありますからね」
「そっちがメインなんじゃ……」
「フフフ。そうかもしれませんね」
でも理には適ってるのか?
こんな大きな家を買いたい人ってそれなりの地位や財産がある人だし、早く交渉が出来た方が良いのか。
「すいませ~ん」
サラが玄関のドアを叩きながら少し大きな声を出す。
小さいと中にいる人に聞こえなさそうだ。
少しの間を置いて、女性の声が聞こえた。
俺には何を言ったのか分からなかったが、サラには分かったらしい。
「今、来るそうです」
「全然聞こえなかったよ」
ガチャリとドアが開き、一人の女性が姿を現した。
二十歳ぐらいの大人しそうな女性だった。
結構若い方が家を管理しているんだな。
まぁこれでむさ苦しい筋肉が現れたら困るけどね。
「まぁ随分と若い方々ですね。家の購入をご検討されている方々ですか?」
笑顔での対応だが、明らかに俺たちを冷やかしと思っているのだろうな。
だが、俺とサラは見た目は子供だからな。
こんな豪邸を買うとはとても思えないのだろう。
俺でも冷やかしだと思う。
「家を見せて頂いても良いですか?」
「良いですよ」
微笑ましいモノを見るような表情の女性。
多分、この街でダンジョンに入りお金持ちになったらこんな家に住むんだ、と思ってる子供がモチベーションを上げる為に家を見学しに来たって感じで思われてそう。
その人の案内で家を見せてもらった。
部屋の数は十三。
物置部屋が四つ。
キッチンが一つ。
お風呂が一つ。
よく分からない部屋が二つ。
地下室あり。
庭の広さはテニスコート三つ程。
交通も便利でダンジョンまで徒歩で二十分。
好立地だ。
「お値段は白貨で十九枚です!」
笑顔はプライスです。
まぁ東京の都心に近い場所でここまで大きな家を買うとしたら妥当か、これ以上だろうな。
てか白貨を使うとか大丈夫か?
ダルダ払えるのか?
あ、資料に入ってたって事は問題ないって事か。
でも、広すぎる。
キッチンも狭いし、風呂は小さい。
「サラ、どうする? ここにする?」
「う~ん。ガクさんはどうですか?」
「いろいろあるけど、お風呂が小さいのが気になるかな?」
一緒に入れないじゃないか。
「……ガクさん?」
「あ、しまった」
サラにバレてしまった。
だが、しょうがない。
それが男という生き物だ。
「まったくもう。……そうですね。他の場所も見てから決めましょうか」
「だね」
「あの~」
俺とサラの相談が終えるタイミングでいろいろ案内してくれていた女性が顔色を真っ青にして声をかけてきた。
どうしたのだろうか。
「家を購入する準備があるのですか?」
「え? あ、はい」
お金は俺たちが出す訳じゃないけどね。
「そ、そうですか……」
どうしたのだろうか。
それっきり元気を無くし、その家を出る事になった。
違う家に向かう最中にサラが俺の疑問に答えてくれた。
「家を購入されるとお給料として売れた金額の一部が支払われるんです」
「マジで!? 家に住めてお金ももらえるって良い仕事だな~」
「ですが売れない限り給料は出ませんよ?」
「……それはそれで嫌だな~」
家を管理して売れたらその一部の売り上げが入る。
仮に一割としたらあの女性に入る金額は白貨一枚と金貨九十枚ってなるけど、その半分でもそれなりの金額だな。
「金ずるを逃したからあの人は青ざめていたのか」
「そうですね。彼女にどれだけ入るか分かりませんが、大金を逃したと思えば青ざめるでしょう」
「それはドンマイとしか言えないな……」
高額当選した宝くじを紛失したような感じかな?
気の毒だな。
その後、他の家二軒を見たが同じような家だった。
だが、あまり管理が行き届いていなかった。
特にお風呂が汚かった。
汚いとは言っても新品よりも汚れている程度だが、最初に見た家に比べると劣る。
やはり最初の家が良いのだろう。
家を案内してくれる人の対応も冷めていたのも少しマイナスだな。
あの家を買って少しリフォームするか。
大きなお風呂とキッチンを取り付けるか。
最終的に戻る事になってしまったが、問題はない。
ちゃんと家を選ぶ事が出来たのだから。
玄関を叩き、声をかけると急いでドアが開いた。
「あなたたち……」
「いろいろと見たのですが、この家に決めようと思いまして」
「あ、ありがとうございます! では、書類を持ってきますね!」
俺たちを玄関に残して行ってしまった。
今日一の笑顔だったな。
書類はサラに任せて家を少しグルグルしようと思い、ルアンと探検に出た。
まずは地下だ。
地下室なんて日本でも珍しいと思うんだが、やはり文化が違ければ技術の発展の仕方も変わるか。
女性の案内では地下に入ってすぐに出たからな。
もうちょっと見てみたい。
「ガク~。まっくら~」
「そうだな。案内の時はランタンあったからな~。〈光球〉」
以前、サラが使っていた魔法だが俺にも使える。
地下に降りる。
すぐにドアがあり、預かった鍵で開ける。
少し軋んでいるのかギギギッと不気味な音がする。
魔法の光を移動させて部屋全体を照らす。
「なにもな~い」
「何もないな」
少しじめっとしている。
後で換気をした方が良いかな?
部屋の中に入りキョロキョロと上を見たり左右を見たり。
石畳石壁石天井で少しユーモアにかける。
「ガク~」
まぁここでユーモアを出されると耐久性に疑問が……。
「ガク~」
「ん? どうした、ルアン」
「でぐちどこ~?」
「……ん?」
後ろを振り向くと石壁がそこにはあった。
前後左右の壁を見るが、俺たちが入ったドアが見当たらなかった。




