優男
押忍!! ガクです。地球と異世界で違うと事は数々ありますが、似たような物などを見たりすると面白いです。……月が丸いとか? 模様は違うけどね。
ギルドの受付の女性から個人情報がビッシリと書かれた紙を渡された。
何々?
名前、住所、家族構成や恋人や愛人って欄もあるぞ。
あ、文字はサラに聞いた。
勉強もしないとな~。
これって任意で書くヤツかな?
馬車を操縦しているサラに声をかけた。
俺、こういうの書いた記憶が無いんだよね。
「サラ、この紙の事って知ってた?」
「はい。最初に渡されたモノですね」
「あ、俺のもサラが書いてくれたのか。ありがとう!」
「どういたしまして。ですが、あまり書いてませんよ?」
「どのくらい?」
「名前ぐらいです」
「ま、そのぐらいが妥当だよね」
個人情報を公共のモノに載せるのは良くないのだ。
あまり知らないけどね。
それはさておき、紙に書いてある住所に向かう。
「ガクさん。ここの住所に行く際にダンジョンの一つの近くを通りますけど、見に行きますか?」
「見たい。けど、今回は噂を探ろう。もし相手の人がいなかったら行こうか」
「分かりました」
行きたい気持ちがこみ上げる。
だが、神ちゃんの事を何とかしなくては。
まだ何も知らないけど。
馬車で結構な時間をかけて家に到着した。
家というか館のような家だ。
てか館だ。
いや、旅館か?
まぁとにかくでかい家がそこにはあったのだ。
どんな極悪な仕事をすればこんな家に住めるんだがな。
そういえば冒険者だったな。
てか、インターホンないんだけど。
「すいませーん。どなたかいらっしゃいませんか~?」
「サ、サラ!?」
まさかの突撃訪問ですか!?
「いませんかね?」
「ど、どうだろうね」
そういえば君は図太いんだよね。
そう思っているとガチャガチャと音がした。
「誰だ。新聞の勧誘はお断りだぞ」
出て来るのはゴツゴツとした大男かと思ったが、実際は三十手前に優男が出てきた。
「アナタが、アーサルさんでよろしいですか?」
「あぁ? 何だ、お前……」
男がサラの顔を見て固まった。
どうしたんだ?
サラに惚れたか?
残念だったな。
サラが好きなのは俺だ。
爆発しろ、優男め。
「私はサラクです。始めまして」
「あ、ども。始めまして……」
何だろうか。
この優男、アーサルの目がキラキラした目でサラを見ている。
子犬のような目だな。
「あの……。どこかでお会いになりましたか?」
サラが申し訳なさそうに尋ねた。
「あ、いや。いえ、気にしないで下さい。ちょっと似た雰囲気の人を知っていたので一瞬、その人かと思っただけです」
「そうですか」
何なのだろう?
「で、えっと。サラクさん。俺に何の用ですか?」
「アナタが見たとされる噂についてです」
「なるほど……」
しばらく厳寒の前で悩むアーサル。
「時間がかかるので、上がって下さい。私は少し着替えてから行きますので」
「はい。分かりました」
俺もお邪魔する。
優男のアーサルは気が利くヤツなのか。
だが、サラはやらんぞ!
通された部屋は畳のような座席だった。
てか旅館の中の座席だった。
この家、日本人が造ったな。
まったく。
―――――――――
ところ変わり、ガクたち一行が座席でテンションが上がっている中、とあるスマホの掲示板に一つの書き込みがされた。
234 アーサー
てーへんだ!
てーへんだ!
てーへんだったらてーへんだ!
235 カケル
ん? こっちの掲示板は非常用だぞ?
どうしたんだ?
236 ペッチン
騒ぎ方に大変さが伝わってこない~。
237 ミンミン
同じく~。
238 アーサー
姉さん(サラクさん)が俺の家に男と一緒に訪ねて来たんだけどw!
238 カケル
はぁ?
239 ペッチン
ん?
240 ミンミン
え?
241 アーサー
だから、俺に家に姉さんとボス(と思われる男子)が来たんですって!
242 カケル
嘘乙!
243 ペッチン
さすがにそれは……。
244 ミンミン
下手な嘘は身を滅ぼすぞ。若造が。
245 アーサー
いや、マジですって!
嘘で緊急掲示板に来ませんって!
アナタ達を怒らせて俺に何のメリットも無いんですよ!
246 カケル
確かに……。
247 ペッチン
嘘だったらペナルティーは覚悟してね。
248 ミンミン
恥ずかしい写真の流失の刑だな。
249 カケル
え、なにそれ。
マジで怖いわ~。
250 アーサー
俺は着替えに一旦抜けて来たんで、そろそろ戻ります。
一応、伝えておきましたからね!
251 カケル
情報提供感謝する!
252 ミンミン
大儀であった!!
253 ペッチン
がんばってね~。
254 カケル
で? 俺たちはどうする?
255 ペッチン
ちょっと離れた場所から見たいんでしょう?
256 ミンミン
出かける準備しないと!
257 カケル
まぁ嘘の可能性もあるけどな。
258 ミンミン
暇だから行こう!
259 ペッチン
てか、アーサーくんって家どこ?
260 カケル
え? 俺知らないよ?
261 ミンミン
私も知らない。
262 ペッチン
はいはい。
少し待っててね。
私が調べてくるから。
263 カケル
あざーす!
264 ミンミン
みんなに伝えてくる~!
265 カケル
いや! それはダメだ!
パニックが起こる!
266 ペッチン
返事が無い。
ただの屍のようだ。
267 カケル
しょうがない。
俺がおとなしくさせるか。
268 ペッチン
分かったら連絡するね~。
269 カケル
了解~。
と、裏では密かに物事が動いてた。
―――――――――
アーサルが浴衣を着て部屋に戻ってきた。
いいな、浴衣。
サラに着せて遊びたい。
帯をグルグルするやつとか。
あれは浴衣じゃなくて着物だけど。
「お待たせしました」
「いえ」
お盆を持ち、飲み物とお菓子を持ってきてくれたようだ。
なんて美味しそうな匂いだ。
馬車の移動で疲れて寝ているルアンが起きてしまう。
「おかし~!」
「あ! ルアン。お菓子を食べるんなら手を拭いてからだ」
「は~い!」
「俺も一つ」
「ガクさん……」
ん? どうしたんだ?
何でそんなに残念そうな顔をする?
目の前に美味しそうな食べ物があれば食べるだろう?
「はっはっは。それで、アナタは?」
「ん? あ、すいません。俺の名前はガク。お菓子美味しいです」
「よろしくお願いします。お菓子は友達が作ってくれたモノで結構たくさんあるんで帰りに持ち帰ってください」
「ありがとうございます!」
「わ~い!」
何だよ。
優男、気の利く良いヤツじゃないか!
「お休みのところ申し訳ございません」
「いえ、ちょうど暇でしたので」
俺が変な方向に話をずらし始めたのをサラが軌道修正するかのように話を戻す。
「ギルドの受付の女性からアナタが結晶の中に入った少女を見たとか」
「見ましたよ。でも、あれは詳細がちょっと違いまして……」
「と、言いますと?」
話の誘導が上手い。
「俺が今、メインで潜ってるのはダンジョンではなくて迷宮なんですよ」
「では、その少女は迷宮で?」
「う~ん」
何を考えているんだ?
あ、このお菓子も美味しい。
「どうかしましたか?」
「いえ、あの場所が迷宮なのか怪しいんですよね」
「それは……?」
「ははは。実は迷宮を探検中に転移のトラップに引っかかってしまって別の場所に飛ばされたんです」
「なるほど」
「はい。あの場所が迷宮なのか、ダンジョンなのか」
この人、どうやって戻ってきたんだよ。
「あ、私には戻るように魔具を持ってたんでそれで帰りました」
「ど、どうも」
俺の表情を見て話したのだろう。
なんだよ、空気も読めるのか。
「脱出する前にある程度の探索をしたのですが、結構な強いモンスターがワラワラいました。なるべく戦闘を避けながら進むと黒い扉の部屋を見つけました。結構複雑な封印が施された部屋だったのでお宝でもあるのかと解除して進んだんですけど……」
さらっとすごい事を言ったな。
「部屋の中には?」
「黒竜。ブラックドラゴンが寝てました。大事そうに結晶を抱きかかえながら」
「それの結晶の中に少女が?」
「はい。流石に一人で突っ込んでも死ぬと思ったので帰りました。久しぶりに死ぬ気がしました」
なるほどね。
迷宮は戦闘力より知識やトンチなどの閃き力を重視されたダンジョンの別のモノだ。
一人で潜るのも理解は出来るしこの年でこれだけ良い家に住める訳だよ。
俺よりも強いけどね、この人。
サラと同等かな?
いや、身に纏う空気が異質だからサラよりも強いかもな。
「なるほど……」
「その日はヤケ酒を飲んで体験した事を大声で叫んでいたらまさかこんな大事になるとは……」
「ちなみにそれはいつの話ですか?」
「一週間前ですね」
俺たちが来る前か。
「ありがとうございました」
「いえいえ。知りたい事は知れましたか?」
「はい」
ダンジョンじゃなくて迷宮か。
潜るか。
「あ、ちなみに私が潜ってた迷宮は上級なのでアナタたちは入ることは出来ませんよ?」
「え? どうやって入るんですか?」
俺が聞いた。
ため口になりそうだった。
「今からですと最低でも半年はかかります」
「そんな時間は無い!!」
「ガクさん!」
俺が席を立ち上がり、アーサルに向かって大声を出してしまった。
それを止めるサラ。
すぐに冷静を取り戻した。
「あ、すまない……」
「ビックリしました……。そうですね」
どうやら俺が大声を出したのは不問にしてくれるらしい。
「私と一緒に入ります? パーティーで同行するなら入れますし」
「何でそこまでしてくれるんですか?」
噂の件に対しても、俺たちの対応にしろこの人は終始丁寧だ。
なんでここまでするのか。
なにか裏があるのでは?
「う~ん。何でと言われても、おばあちゃんに人には親切にするように聞かされていたので、後はアナタたちを放っておくと無茶をしそうだ」
ぐうの音も出ないな。
無茶をしないで済むならしないが、状況が迫っていたら平気で無茶をしてしまいそうだ。
「さっきも言いましたが、アナタは私の知ってる人に似ているので死なれると寝覚めが悪いんですよ」
俺が口を開ける一歩手前で玄関の方から声がした。
「たのも~う!」
「お前はすでに包囲されている。死にたくなければさっさと出てくるが良い!」
「すいませ~ん。誰かいますか~」
騒がしいの声が聞こえた。




