羽衣
押忍!! ガクです。 日本で枕元に幽霊が立つ怖い話や金縛りで動けない現象を知って、美少女や可愛い子なら来ても良いかな~。とか思ってました。
夢の出来事ではなく、俺が体験した事実をサラとルアンに話した。
ナルミが俺たちに感謝していた事や彼女が楽しかったと感じた事を伝えた。
二人とも話し始めからすでに涙目になり、話を聞いた後は案の定泣いてしまった。
俺は二人が落ち着くのを待った。
落ち着いた二人はキッと俺を睨んだ。
「何でなんですか!」
「ぶ~~~~!!」
「え? な、何で怒ってるの?」
何か怒らせるような事したっけ!?
「何で、ガクさんだけがナルミさんとお話が出来るんですか! 私たちもお話したいです!」
「ルアンもおしゃべりしたい~!」
「え!? えっと……」
それって……。
「「ガクさん(ガク)だけずるい!!」」
「やっぱりそういうことか……」
焦って損した。
「おそらくだけど、神様が俺とかを呼ぶのって結構な事なんだよ」
「ですけど!」
「ぶ~ぶ~」
なに、この可愛い怒りかた。
プンスカ怒ってる子とプンプン怒ってる。
マジで可愛い。
「う~ん。今度がいつになるか分からないけど、行った時にでも神様に聞いてみるよ」
「お願いします!」
「うん!」
でも良かった。
二人が笑顔になって。
さっきまでの暗い顔はあまり見れたモノじゃなかったからな。
完全に空元気だが、ナルミが笑顔で俺たちが泣き顔をしていたら向こうで心配させてしまう。
事実は受け止め、辛い事を踏ん張るんだ。
また向こうでナルミに会って心配させない為に。
その後、しばらくは他愛のない当たり障りのない話をして本題に入った。
「これが神様にもらった石ですか?」
「ふつうのいし?」
俺の手の平に乗せて見せている。
拳ほどもない。
ゴルフボールよりちょっと大きいくらいだな。
「鑑定をしてみたんですか?」
「まだしてないよ」
なぜかと問われれば、今の俺たちに必要なのはナルミに関する事だ。
もちろん、神ちゃんをないがしろにしている訳ではない。
順番と心の整理の問題だ。
アレコレと問題を抱えるのは俺たちはまだ幼い。
今回の事で本当に痛感した。
だからこそ、一つずつ事にあたるのだ。
……もう、同じような失敗はしたくない。
「今、鑑定するね」
「はい」
鑑定!
~~鑑定結果~~
名前:石の羽衣
効果:物を覆い包む道具。石と同じ存在価値にする。
なんてモノだよ、本当に。
「どうでしたか?」
「う~んと……」
鑑定で見えた事をそのまま話した。
「どんなに価値があろうとも石同然に変える羽衣って事ですよね?」
「そうだと思おうよ? 鑑定のレベルが低いから漠然としか分からないけどね」
高ければより鮮明に分かるのだろうな。
くそ~。
「これ、どうやって羽衣を取るんでしょう?」
「……分かんない」
どうしよう?
チラッと近くにいるルアンを見た。
さっきからルアンが話しに参加してないのは、サラに買ってもらった簡単な絵本を読んでいる。
絵本とは名ばかりで、俺に言わせれば雑な紙芝居のよなモノだ。
それを見ながら、暇になったらちゃんとした絵本を作ってあげようと心に決めた。
そんな事を考えているとペンダントに変えてあるスマホが一瞬だけ震えた。
なんだろうかと思い、画面を開くと新しいメールを受信していた。
差出人は、神界のアイドル。
ヤバイな。
どんどんあの神様が神ちゃんと被ってくる。
もう少し残念ポイントが貯まったら素敵なあだ名をプレゼントさせて頂こう。
すでに出来つつあるがな。
件名は、忘れてたわ。テヘペロ!
うん。
で、あの『なんちゃって神様(アイドル笑)』はどんな内容のメールを送ってきたのかな?
『その羽衣は水に弱いのよ。でも、水だけじゃダメ。水の入ったコップに入れてグルグルとかき回してしばらくするとほんの一部が剥がれるわ。それをペラペラ剥がせば中身が取れる感じになってるから!』
なるほど。
水か。
おそらく羽衣の特性と石の宿命かな?
でも、子供頃は不思議に思わなかったけど、岩タイプに水属性の攻撃が効果が抜群なのは今に思えば不思議だ。
みずでっぽうってウォーターカッター並みの威力なのだろうか。
おっと。
脱線してしまった。
とりあえず指定された通りの手順を施した。
グルグルとかき混ぜた。
そう。
グルグルグルグルと。
さて、問題です。
あの『なんちゃってアイドル(かみちゃま)』はどのくらいかき混ぜるのか指定はあっただろうか。
いや、なかった。
あのカミチャマはおそらく自分の体感で『しらばく』とメールにあった。
やはり期待を裏切らないな!
コンチクショウ!
時間がかかってしまうので混ぜるのは一旦やめた。
そして放置。
先にカミチャマが言っていた帝都の噂を探る事にする。
俺がサラにこの街の噂を探るという前にサラがその事を言ってくれた。
お互いの行動パターンが面白く、少し照れ笑いしてしまった。
準備をしているとルアンがグデェ~としていた。
その姿を見て『何してるんだ?』と聞いたらモノマネをしているそうだ。
誰のモノマネかを聞いたらサラに笑われた。
笑われて気が付いたが、俺のモノマネだった。
俺って気を抜いてる時ってあんなにダラシナイのか。
ちょっとショックだ。
そんなこんなもありながら、噂を探る為に宿屋の店主に最近一番の噂を尋ねた。
そしたら街で一番噂が絶えないのはダンジョンの他にある訳がないだろう。と、返されてしまった。
確かにその通りだ。
この街はダンジョンが中心の街だ。
噂などいくらでも出てくるだろうな。
店主は付け足すように、何か噂を知るのならそれを取り仕切る場所に行けと言われた。
ダンジョンを管理する場所は……あ、冒険者ギルドか。
冒険者ギルドで思い出したが、そういえばセーラー服を着た受付の人が噂のせいで人がダンジョンに行ってしまいガラガラだとか言っていたのを思い出した。
そうか。
噂ってのはアレの事だったのか。
馬車に乗ってギルドに向かう。
道中、昼になったので軽くご飯を食べてから再度出発。
あの石のせいで時間をかなり取られた。
気を取り直してギルドに到着した。
道を間違えてアワアワするサラを見れなかったのは少し残念だった。
ギルドに入ると前回と同じかそれよりも少ないように感じた。
受付の女性に挨拶もそこそこに話を聞いた。
すると……。
「ハァ? 結晶の中に女の子?」
「そうです。ある一組の冒険者が深い階層で迷い込んでしまい、大きな部屋でその結晶に入った少女を見たそうです」
いやいや、普通は信じないでしょう?
「その冒険者は結構な実力があったので噂が真実なのではないか。と、思われいます」
「でも、それだけで冒険者の皆さんがこぞって向かうのでしょか?」
サラがもっともな事を言った。
だよな。
俺もそう思う。
「冒険者の九割程度が男性なんです。そして噂には尾ひれなどが付きます」
「あぁ……」
その言葉に理解した。
やはり男ってこうだよね。
「どう言う事ですか?」
どうやらサラは理解出来ていないようだ。
「噂の一部ですが、その少女は生きているそうです。 そしてその少女はとても将来が希望できるほどの容姿だったとか。黒髪、長髪で異国の人形のように美しいとの噂もあります。なので男性は自分の嫁にしようと思っての行動だと思います」
「そ、そうですか……」
サラが引きつった笑みを浮かべている。
まぁ男の行動原理は原始的なのだ。
その結晶の中に入ってる少女というのは神ちゃんの可能性はある。
だが、違う可能性の方が高いだろうな。
「すいません。その冒険者に会う事は出来ますか?」
「出来ますよ? ちょっと待ってて下さいね。家の地図を持ってきますので」
この世界に個人情報保護法はないようだ。
神の世界ではプライバシーがないのと一緒だな。
とりあえず、その人たちに会ってみますか。




