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さようなら

 白いワンピースを着たナルミな笑顔で立っていた。


 俺は驚いたが、それと同時に理解した。

 ナルミが本当に死んでしまったのだと。


 心のどこかであの死体は偽物で本当のナルミは生きている。

 そんな妄想にも思える僅かな可能性を信じていたが、目の前のナルミを見て俺が思っていたのは所詮は妄想だったのだと痛感した。


「本当にヒドイ顔をしてますね」

「……ぁ。っ……」


 何かボケようと思ったのだが、何も言葉が出ない。


 いつもなら何かしらの言葉が出るんだがな。


「ありがとうございました。ガクさん」

「……何で。……何で俺に礼を言うんだ」


 俺は君に何も出来なかったのに……。


「そんな事はないです。アナタは私にとてもたくさんのモノをくれました」

「……」


 そっと頬に何かが触れるのを感じ、目を向けるとナルミが俺に触れていた。


「大丈夫なのか? 俺に触れて……」

「問題なくはないのですが、ガクさんになら触れられます。アナタが私にくれたモノの一つです」


 頬に触れる手から温もりを感じる。


 そうか。

 君はこんなにも暖かかったのか。


「ガクさん。サラクさん。ルアンちゃん」

「……?」


 急に名前を言ってどうしたんだ?


「アナタたちが私にくれたモノの一つです」


 そんな笑顔は生きていた時に見たかった。


「すまなかった。……俺がしっかりしていれば、君は死なずにすんだのに」

「それは違いますよ。ガクさん」

「何が違うって言うんだ。俺が君を拒絶しなければ……」

「私は長くはなかった。肉体的に死ななかったとしても、精神的に私は死んでいました。もし、私の精神が死んだ後にアナタたちは私を殺す事が出来ましたか?」

「それは……」


 出来ない。


 間違いなく俺にもサラにも出来ない。


「……アナタたちにより深い傷を残すぐらいなら私は自分で死を選びます。私がまだ私という自我が残ってるうちに。アナタたちを忘れないうちに死にたかった」


 なんで……。


「大好きだからですよ。アナタたちが」


 俺は言葉を失った。


「過ごした時間はとても短く、話した時間はより短いものでした。ですが、あの地獄から私を救ってくれて、優しくしてくれた」


 俺には彼女の言葉を聞くしかできなかった。


「私はこの世界に来て初めて安心して寝る事が出来ました」


 彼女は笑顔で語る。


「洋服を女性同士で選ぶのってあんなに楽しかったんですね。まぁ、サラクさんの洋服センスには疑問を持ちましたけどね。白鳥の洋服をアナタに着せようとしてましね。アレはアレで面白かったです」


 俺もサラのセンスには驚く事が多いよ。


 前回は世紀末ヒャッッハーな服だったからな。

 今回も店員さんが首を傾げていたっけ。


「ファッションショーをしていろいろと写真を撮りましたね。ガクさんは何故かローアングルで撮ってましたけど、変な写真はなかったですよね? あったら消して下さいね」


 すでにサラによって消すように怒られた。

 可愛い写真が多いが、見せられなくて残念だ。


「大人数で食事を食べたるのは初めてで、大人数でご飯を食べると美味しいって言うのが初めて知りました。身体も心も温かい気持ちになりました」


 俺も皆で食べて楽しかったよ。


 ルアンもサラもそうだったに違いない。


「……本当に楽しかった」


 俺も大変な事はあったけど楽しかった。


「フフフ。……そんなに泣かないで下さい、ガクさん」


 無理だって。


「もう泣かないんじゃないんですか?」

「……まだセーフだ」

「都合が良い解釈ですね」


 そのぐらいの猶予は良いだろう?

 会えると思っていなかったんだから。


「もう、伝える事はありませんね。お元気で。サラクさんとルアンちゃんにもよろしくお伝えくださいね」

「あぁ。ちゃんと伝える」

「ありがとうございます」


 俺を言うのはこっちの方だよ。

 まさかこんな形で再会出来るなんて……。


「話しは終わった?」

「はい」


 後ろから情熱の神様が声をかけてきた。


 そういえば居たんだな。

 忘れてた。


「私が気を利かせてこういう再会をセッティングしたのに何で感謝の一つもなのよ」

「神様。本当にありがとうございました」


 俺の後ろにいるナルミが笑っているのが分かる。


「まぁ良いわ。これからの事を話すわ」

「これからの事?」

「えぇ。『親愛の』に関係する話よ」

「神ちゃんの事か」


 隣にナルミが移動した。

 ドキドキしちゃうじゃないか。まったく。


「起きたら私が上げた石を鑑定して見なさい。それがまず一つ」

「ん? あれは一度鑑定したが不明だったぞ?」

「それは解除してあるわ」


 マジかよ。


「これからアナタがしようとする事はナルミの事件よりも複雑で難しいわよ」

「具体的な事は言えないのか?」


 ナルミの事件よりもムズイって流石は神の世界の出来事だな。


「私から言える事は何もないわ。後、街の噂を探りなさい。おのずと道が分かるわ」

「神様みたいな言い方だな」

「ガクさん。目の前にいるのは神様です」


 あ、そうだった。

 頭がお花畑のアイドル志望の女性じゃなかったな。


「なんで私がアイドル志望なのよ! 私は十分にアイドルで神様よ!」

「「……」」


 俺もナルミも言葉を失う。

 アイドルに神様って意味はないぞ。


「そうだな。うん。そうだな」

「ねぇ。私の目を見て言ってくれない? 恥ずかしいんだけど……」


 何で神様ってこんなんばっかなんだ?

 まともな神はいなのか?


 まぁ、胸は神様的な神々しさだが。


「まぁ、『親愛の』をバカに出来るぐらいの大きさはあるでしょ?」


 結構前に神ちゃんが胸の事でバカにされているって言ってたけど、アンタだったのか。


「私、胸萎んじゃった……」


 隣でナルミが胸に手を添えている。


 そういえばサラの服がダボってたな。

 特に胸の部分が。


「ってか、何でナルミにも俺の心が読めるんだ?」

「今さらですか?」


 そいえば最初の方からそうだったか。

 ま、問題はないか。


「ありまくりだと思うんですけど……」

「まったく。プライバシー侵害だって言ってるのに何で読むかな? なに? 恥ずかしい事でも考えろって事か?」


 それならどういう妄想をしよか。


「よしなさい。ここでは嘘がつけないようにしてあるのがデフォルトなのよ。変な妄想とはしないで」

「そ、そうよ。は、恥ずかしい……」


 そうか……。

 残念だ。


「話しを戻すわよ」

「そうだな。たしか情熱の神様が胸を揉ませてくれるって話しだったか?」

「そのような話はしていないわ!」


 この流れでもダメか。

 中々にガードが堅いな。


「で、神ちゃんはどうなってるんだ? 俺の予想だと俺たちの世界に来てるんだろう?」

「落とされた。表現としてはそっちが正しいけど、そんなところよ」

「そっか……」


 今度は間違えない。

 失敗しない。


 全ての可能性を考えて使えるモノは何でも使おう。


「しばらくはこっちに呼べないからね」

「そうなのか」


 俺はナルミと向き合う。


「ガクさん?」


 俺はナルミに抱きついた。


「ひゃ、ぎゃ、ぎゃぎゅしゃん!?」


 強く、強く抱きしめる。


「……ガクさん」

「ゴメン。本当に……」

「気にしてないです。それにサラクさんに怒られちゃいますよ?」


 ……その時は謝ろう。


「君に会えてよかった。助けない方が良かったとか思ってないから!」

「……本当ですか?」

「あぁ! サラもルアンも同じだ。絶対に出会った事を後悔はしていない」

「良かった」


 俺は抱きしめるのを止め、正面を向く。


「さようなら、成美」

「さようなら、学さん」


 最後は笑顔で別れよう。


 笑顔をナルミに向けたまま意識が遠のいていく。

 ナルミも笑顔だ。


 よかった。

 ちゃんと伝えたい事は伝えられた。


----------


「行ったか」

「そうですね」


 ガクが去った神界に残った二人。

 正確には一人と一神。


 ナルミと情熱の神だ。


「良かったのか? あの事を伝えなくて」

「問題ないです。私はここからガクさんをお守りするんですから」


 情熱の神は頭を掻きながら言う。


「あの男のどこが良いんだ?」

「優しさと暖かさですかね? それと、だらしないところとか」

「……お前、男運無さそうだよな」

「どういう意味ですか!」


 ガクの去った神界で楽しそうに笑うナルミとそれを優しく見守る情熱の神の姿があった。

 

読者の皆様へ。


活動報告にて私が伝えたい事を書きました。

よろしければ覗いてみて下さい。

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