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先生と飴と私  作者: rai
6/8

蒼視点3

 

本日二話目の投稿となりますので、読み飛ばしにお気をつけくださいませ☆

よろしくお願いします。


 


 教師という立場でありながら生徒に恋をする。それは誰の目からみても教師にあるまじき事だ。

 絶対にこの気持ちは誰にも知られてはいけないと心に誓った。例え、懐いてくれる彼女の瞳に俺への恋情を見つけたとしても。


 本人には絶対、知られる訳にはいかない。



「はぁ〜、お前の理性に乾杯だわ」

「何だよ。それこそ手なんて出そうものなら教師失格だろう。教師どころか人間としても終わる」

「今時、教師と生徒なんて禁断でも何でもないだろ。まぁ実際に手出したらお縄だけどな」


 自宅からほど近い居酒屋で数十年来の友人でもある吉田隆道(よしだ たかみち)と飲んでいた。

 彼女がもしかしたら自分を少なからず想ってくれているかもしれないと気がついた時、動揺していた事もあり飲んだ勢いで隆道に恋愛相談と言う名のカミングアウトをしていた。


『あ? いんじゃね?』


 あっけらかんとした肯定の言葉に、俺の方が愕然となったのは記憶に新しい。挙げ句の果てには“アノ鉄壁の守りである蒼を落とした子の写真ねーの?”なんて言い出す始末だ。誰がお前に見せるかっ。


「要は未成年じゃなくなれば良いわけだ。卒業してさ、教師と生徒じゃなくなった時にまだその子が好きなら告白して、成人するまで清い関係でいればいんじゃね?」

「簡単に言うなよ」

「ま、オレはなまぬるーく見守ってますよ。親友」

「気持ち悪い」

「てめっ、気持ち悪いはねーだろ。人がせっかく……!」

「……サンキュ」

「おう」


 隠していてもふとした瞬間に溢れそうになる想いと罪悪感でどうしようにも身動きができなくなり、潰れそうになる俺を引っ張り上げてくれたのはコイツだった。今、こうして笑っていられるのも。


『好きでも良いだろ。好きだって思う事すら駄目なのかよ? 清く正しく、聖人君子の如く聖職者でいろって? そんな人間居んのかよ。なぁ、蒼。好きな気持ちは誰にも止められないんだよ。本人ですらも。それならさ、想うだけなら良いじゃねーか。その子を好きな気持ちまで否定すんな』


 コイツの言葉にどれだけ救われたか。『暴走しないように発散だけはしとけ』なんて、余計な事まで言っていたが。


 今日は俺の奢りだなと、言葉では言えないが感謝の気持ちだけはあるので酒代を貢ぐ事にした。




 * * *




 自分の気持ちに蓋をしてから何も変わらない日々が過ぎていく。

 いや、変わらないなんて嘘だ。一日一日過ぎていく度に募っていくものがある。


「先生。時間できたらでいいので図書室に来てもらってもいいですか?」

「ん? 何か用でもあるのか?」

「図書室で調べ物しようと思うんですけど、先生に聞こうと思ってた問題があって」


 今ここで聞くのは駄目なのか? と、首を傾げたがダメだと言われて了承した。


「じゃぁ、図書室で待ってますね〜」


 安心したような顔で教室を出て行く。さっさと用事を済ませて俺は図書室へ向かう。その足取りは軽く、すれ違う生徒達に“そーちゃんご機嫌だね”と言われまくった。そんなに態度に出ていたのかと羞恥で居たたまれなくなったのは言うまでもない。



 扉の前で深呼吸をする俺は十分不審者だろう。今の時間は司書も兼任する先生も居ないだろうから、彼女と二人きりだ。


 そう、二人きり。特に何も考えず図書室まで来てしまったが、今更心臓が爆発しそうなほど動いていた。もう一度深呼吸をして慎重に扉を引いた。



 シンと静まり返った中でパタパタと軽い足音が聞こえたと思うと、差し込む光の中から彼女が顔を出した。


「先生、今日もお疲れさまでした」


 と、労ってくれるその笑顔が眩しくて目を細める。



 やっぱり好きだ。



 今日は飴は貰えるのかと浮き足立っているのも、大した用もないのに呼び止めているなんて気がついていないだろう?


 好きだと自覚してから無性に触れたくて、子供扱いと称して頭を撫でているなんて知らないだろう?


 どんなに気持ちを押し殺しても、結局は溢れる想いをとめられない。

 むしろ殺そうとすればするほど溢れてくる。




 君が、好きだ。




 今日の飴は特別だと言って笑う彼女に心を全部持っていかれる。

 仕事の疲れも彼女の笑みが見られればあっという間に何処かへ消えてしまうし、頭の痛い案件も頑張れる。

 顔が見れるだけで嬉しいとか偶然触れた指先にドキドキするとか、まるで清い恋をしていた学生時代に戻ったようだった。



 お願い通りに口を開けて待っていると口の中に丸い物を置かれ、反射的に閉じた唇には今でも彼女の指の食感が残っている。


「はぁ……。参ったな」


 タイミングよく放送で呼ばれなければ俺はーー彼女を抱き締めていたかもしれない。そうなってしまえば、もう隠し通すなんて無理だ。


 彼女に、周りに……知られてしまったらその時は。



 口の中で転がしている甘いはずの飴が、苦いものへと変わっていた。




 



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