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先生と飴と私  作者: rai
2/8

中編

 


 * * *




 今日はHR(ホームルーム)が終わった後、図書室に用事があるからと先生に時間が出来たら来てってお願いしてた。

 本当は手作りのプレゼントなんて、みんなの前で渡すのが躊躇われたから。



 ーーガラガラ……


 引き戸を開ける音に気づいて顔を出すと、先生が見えたから駆け寄って近くの椅子に座ってもらう。


「先生、ハイ。今日もお疲れ様でした」

「サンキュ。今日は無しかと思った」

「あ、ちょっと目を瞑って口、開けて下さい」

「ん〜?」

「今日は特別なんですよ〜?」


 特別〜? と言いながらもちゃんと目を閉じて口を開けてくれる先生に自然と笑みが浮かんでしまう。

 コロンと口の中に私が作った飴を入れてあげると、閉じる唇に私の指が捕らわれて心臓が大きく脈打った。


「ひゃっ」

「っ、悪いっ!」


 すぐに指を引いたけど、唇に触れた感触が残っていてドキドキ心臓が暴れ出す。顔が熱くておかしくなりそう。チラッと先生を見ると、頬を少し赤くして口許を手で覆いながら横を向いていた。ドキドキしているのは私だけじゃないんだ……。



「……ん? これ、市販の飴?」

「んと、わ、わ私が作りましたっ」

「え、マジかっ! メチャクチャ美味いんだけど!」

「本当ですか?」

「うん。俺、コレ好きだわ」

「じゃぁ、これもあげます。先生、今日誕生日でしょ?」

「え?」


 ハッピーバースデー♪先生って言いながら、キレイにラッピングした包みを渡した。そう、今日は先生の誕生日。

 小さく作った色んな味のフルーツ飴をべっこう飴に閉じ込めて、キラキラカラフルに見た目も楽しめるように作った。料理上手なりょーちゃんに作り方を教わりながら特訓したんだ。


「橋本、ありがとう。メチャクチャ嬉しい」


 子供みたいに嬉しそうに笑う先生が見れて良かったって思ったら、校内放送で先生が呼び出されて、立ち上がった時に軽く頭を撫でられた。


「じゃ、気をつけて帰れよ〜」

「……はい」

「橋本〜! 本当にありがと〜!」


 そう言って、片手を大きく左右に振った先生は走って行ってしまう。



「っはぁ、心臓が止まるかと思った!!」


 先生の唇に触れた指先を見つめた後、自分の唇に押し当てる。

(……間接キス)


「〜〜〜〜〜〜〜〜って、何してんだろっ、私っっ!」


 そう身悶える私の声だけが図書室に響いた。





 * * *




 次の日の放課後、りょーちゃんと彩乃ちゃんと久しぶりに寄り道して帰ろうって話になって下駄箱で靴に履き替えていると、りょーちゃんが話し掛けてくる。


「そう言えばサ、茉莉」

「何〜?」

アレ(・・)、そーちゃんに渡せたの?」

「っ、ゴホゴホッ」


 ちょうど手にしてたジュースを飲んでいるタイミングでりょーちゃんがそう聞いてくるからむせてしまう。汚いヨ〜と言いながら笑っているりょーちゃんは絶対、確信犯だと思うの。


「何なに? 茉莉ちゃん、そーちゃん先生にプレゼント渡したの?」

「ゴホ、……うん」

「茉莉〜。顔赤いけど何かあったのかナ〜?」


 りょーちゃんがにやにやとニヤけながら私をからかう。

 昨日、ちゃんと電話で報告したのにっ! 


「も、もういいでしょ。ちゃんと任務は果たせたよっ」

「私は詳細聞いてないよ〜。茉莉ちゃん」

「彩乃ちゃんには後で話すよっ、今ココでじゃなくてもいいじゃんっ」

「あ〜、茉莉はおもし、……可愛いナ〜」

「りょーちゃん今、面白いって言おうとしたーっっ!!」


 もーっりょーちゃんのバカバカってじゃれ合いながら校門に近づくと、先生が居るのが見えて挨拶をしようと歩き出す。


「先せ……」

「蒼先輩っ!」

「え? 優美!?」


 スーツを着たキレイな女の人が親しそうに先生の名前を呼ぶと驚いた先生が振り返り、その女の人を見ると嬉しそうに抱き締めた。頬を赤く染めた女の人がこんな所でやめて下さいよって言っているのが聞こえて、一瞬その人と目が合って。


「……っ!」


 反射的に走り出していた。


「茉莉!」

「茉莉ちゃん!」


 二人の声にも返事せずに、走って走って、また走って。

 息が苦しくて涙が一筋流れると、堰を切ったように溢れ出す。


 晴れていた天気はいつの間にか土砂降りに変わっていて、まるで私の心のようだった。




 走りを緩めた時に公園を見つけて、倒れ込むようにブランコに座るとギィって軋んだ音がする。



「せんせ……っふぇぇっ……!」



 あの人は誰ですか?

 みたくない


 先生の恋人?

 ききたくない


 先生の、好な人……?

 しりたくない



 私が先生と壊したくない関係が、ガラガラと音を立てて崩れていく。



 鮮明に焼きついて離れないさっきの光景がまぶたをかすめて、降り注ぐ雨の音に掻き消されながらひとりぼっちの公園で声をあげて泣いていた。







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