表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4 芍薬の花園

続きを望んでくれた方、もう終わりですと言って申し訳ありません。

書いてしまいました。許して読んでくれればうれしいです。

話し的にはしっとりめ、糖度はマックスコーヒーで。

「リオ様と一日中一緒にいたいです」

 そう答えたら

「俺は欲しいものを訊いたのだが?」

 と返されたので

「リオ様の時間が欲しいです!」

 と更に返しました。


 これは私の誕生日に何が欲しいかと訊かれた時の会話です。

「欲しいもの(・・)だ」

 朝食を終え、リオ様は紅茶のカップを手に取ります。今日はもう一緒にいられる時間が終わろうとしています。

「だって……」

 私は口籠もります。

 だってリオ様はいつも色々な物を下さるじゃないですか。

 一緒にお出掛けしてちょっとでも私が目に止めたものは何でも買ってくれようとするし、視察や外交に出たときには、沢山のお土産を持ってきて下さる。シーズン毎にドレスは必要なだけ作っているにも関わらず、夜会の度にまたドレスも装飾品もプレゼントしてくれます。私は毎日着せ替え状態ですよ。

 そんな状況でこれ以上何を欲しがれというのでしょう。


「リオ様と一緒にいたいです……」

 もう一度声には出せないけれど、胸の中で呟きます。

 無駄遣いとも言えるほど、色々な物を与えてもらえるのは公爵家としての収入とは別に、リオ様がそれはもう沢山働いているからで。ということは、それだけ一緒にいる時間が少ないと言うことです。

 特にここ最近は、朝だけしか顔を合わせないという日々が続いています。

 お帰りが日付を跨ぐようなときは、リオ様はご自分の私室で休まれます。私を起こしてしまうのが忍びないと言いますが、いっそ起こして欲しいのに。

 一人で眠る寝台は広くて冷たいです。夜中にふと目を覚ましても抱き締めてくれる人はなく、手をのばしてもヒヤリとしたシーツがあるだけ。

 結婚して一年半、倦怠期というものでしょうか。リオ様は私に飽きてしまったのでしょうか。

「ヴィアンカ」

「……はい……」

「特に無いなら勝手に決めるぞ」

「はい。それでいいです」

 リオ様は、物だけ与えていればいいと思っているのでしょうか。

 触れるのは「行ってくる」という頬に落とされる挨拶の口付けだけ。

 私は、そんなことでは満足できないくらいに欲深になってしまっているのに。


 ***


「おい。この決算書誰が作った。計算ミスだらけだ。やり直せ」

 執務机に叩きつけるようにその書類を投げれば、官吏の一人が慌ててそれを手に取り頭を下げて部屋を辞す。書類ひとつ満足に作れないのか。

 この時期にこんな下らないことで時間を取らせるな!

 個々の能力に応じた仕事しか与えていないのにも関わらず、ミスをするな!

 只でさえ苛ついているというのに 、これ以上遅れを出せば愛想笑いすらしなくなるぞ。


 全く今年は何故こうも朝から真夜中まで仕事漬けになるんだ。

 今期の収支報告に来期の予算案がメインになるが、その他にも年末年始の国家行事の警備の配置から祭事の演習まで。なぜ全部俺に伺いを立てる! 俺は王子の第一補佐官であり宰相ではない! 王も宰相も別にいるだろう!!

 一度瞳を閉じ、闇の中で息を吐く。

 ―――わかっている。これはおそらくベルトワーズ伯爵の差し金だ。逃げることも手を抜くことも叶わない。

 完璧に熟さなければ嘲笑われるだけだ。


「リオ兄、毎晩公爵邸には帰ってるのに癒されてないね」

 個人の執務室では用が足りない為、最近の執務は大勢人を使え、資料も揃う大部屋で行っている。一応王子と俺と数名の文官のいる部屋は大部屋の中でも区切られてはいるが、双方の声は届く。

 それでも俺の醸す張り詰めた空気に人が大勢いることなど気にさせないくらいに私語が無い。響くのは書類を捲る音とペンを走らせる音だけだ。その静寂を破ったのは流石にこの空気に慣れている王子フェリックスだ。若干、部屋の空気が和らいだ。

「癒される時間が何処にある」

 俺にとって癒し(イコール)ヴィアンカだ。

 それなのに

 幾夜、愛しい妻の寝顔だけで我慢していると思っているんだ!!

 最近は屋敷に戻れば日付が変わっている。ヴィアンカには十一時を廻ったら先に休むように言ってあるので、彼女は既に夢の中だ。寝顔だけ確かめて、起こさないように自室で休む毎日だぞ。

 それでも屋敷には帰る。結婚前なら城に泊りがけていただろうが、例え寝顔だけでも見ないと落ち着かないからだ。

 時折、ヴィアンカの頬に涙の跡がある。寂しい思いをさせているのは分かるが、同じ寝台に入ればきっと歯止めが効かなくなる。どれだけ理性を保とうとしてもきっと流される。ベルトワーズ伯爵のことも、自分がこうまで仕事を早く進めていることも忘れて溺れるだろう。それほどまでに俺も追い詰められている。


「ヴィアンカ嬢の誕生日が十二月っていうのも問題だよね。只でさえ立て込んでるのに誕生日からの三日間リオ兄休みとるからその分前倒しだし」

 そうだ、ヴィアンカの誕生日だ。寂しい思いをさせる分、三日間休みをとる。

 ヴィアンカは十二月生まれ。なぜこの月なんだと言いたくなるくらいに忙しい十二月。これもベルトワーズ伯爵の嫌がらせなのだろうか。


「別にお前らが全て片付けてくれるのなら、そのままにしておくぞ」

「いえ、すみません。お願いします。三日間徹夜の挙げ句、終わらなくて怒られるのは辛いです」

「だったらとっととその書類を片付けろ」

 一緒に過ごす時間などとっくに確保済みだ。だが、プレゼントを選んで買うという時間が無い。全く用意していないというわけでは無いが、寂しい思いをさせている分、欲しいものでもあればと思ったのだが。

 小さく息を吐き、立ち上がる。

 このままではまわりまで窮追してしまう。息抜きが必要だ。


「少し席を外す。その決済書に判を押して、去年と今年の北地区の予算案と収支報告書を出しておけ。フェリックスはそこの書類を陛下に届けて冬至祭と仕事納めの挨拶を頼むように」

「頼むって自分で挨拶文くらい考えろって言えってこと?」

「言い方はお前に任せるが、俺は陛下にはお願いしているんだ。 それとカニス」

 書棚の影から音もなく現れた男に皆あからさまに驚いた顔をしている。ずっといたぞと言いたいが面倒なので放っておく。

「祭事の警備の配置を任せたい。明日中に配置図を提出しろ」

「御意」

「皆、急がせて悪いとは思っているんだ。頼りにしている。頼むな」

 にっこりと笑ってやれば大抵の者が肩の力を抜く。後はフェリックスが上手くやるだろう。飴を与えて部屋を出た。

「殿下。リオナルド様は第二温室でしょうか?」

「そこしかないよね。ほら、仕事仕事! リオ兄に頼まれたんだから頑張らないとね!」

 多分そんな会話がされているはずだ。


 ***


「ヴィアンカ。おはよう」

 低く優しい声と米神に落ちた口付けに、ゆっくりと瞳を開けば、蕩けるような笑顔のリオ様。

「……ゆめ……?」

 夢ならば、甘えてしまいましょう。

 私は腕を伸ばしてリオ様の首を絡めとります。ぎゅうっと抱き締めて。

「リオ様のバカ。飽きるのが早すぎます……」

「おい。寝ぼけていないで支度をしろ」

 ぱちり。焦点を合わせるように瞬きすれば、少し呆れた様なそれでいて優しいリオ様の顔。

「し、たく?」

「ああ、別邸に行くぞ」

 瞼に口付けられて、起きろというように抱え上げられました。


 用意されていたのは、またも初めて目にするピンク色のシフォンを重ねた花のようなドレス。ウエスト部分には本物の芍薬で作られたコサージュが取り付けられ、とても目を引きます。

 髪飾りは芍薬の花冠です。大きなピンクの芍薬をメインに白ベースの芍薬の蕾で作られていてとても可愛いです。

「この時期に芍薬?」

「花冠にしたのは私ですが、芍薬はリオナルド様がご用意して下さったのですよ」

 支度を手伝ってくれたミラが微笑みます。

「お誕生日おめでとうございます」

 その言葉にようやく気付きました。

 そうです。私の誕生日です!

 ということは、このドレスと芍薬がプレゼントなのですね!

 素敵です!

「用意出来たか?」

 こんと扉を叩く音と共にリオ様が顔を覗かせます。

「リオ様」

「正に芍薬姫だな。よく似合う」

 目を細めて私を見てくださるリオ様はどのくらいぶりでしょう。胸が締め付けられるようです。

「ありがとうございます。プレゼントも嬉しいです」

「まあ、プレゼントには違いないが、手を出せ、ヴィアンカ」

 言われるままに手を差し出せば、冷たく固い物が掌に置かれました。

「……きれい」

 菫色のクリスタルガラス容器。コロンとした形の下半分はエマイユで優美な花の細工が施され、上半分はダイアモンドカットでキラキラと輝きます。栓の部分は蝶のモチーフです。

「香水、ですか?」

「ああ、香りはどうだ?」

 栓を開け、香りを確かめれば、バラのような甘さとグリーンがまじったような爽やかな香りがします。

「……好きです!」

「そうか。香水も容器もお前をイメージして作らせたんだ。これも芍薬の花の……ってなんで泣くんだ?」

「だって……もっとありきたりな物をプレゼントされて終わりかと思っていました……」

 芍薬の花の時期は五月です。それを十二月に用意するという事はずっと以前から手配してくれていたということで。それに香水も容器もわざわざ私の好みに合わせて作って下さるなんて。

 泣いてしまうのも仕方がないじゃないですか。

「嬉しいんです」

 微笑んだのだけれど、ほろりと雫が頬を伝ってしまいました。

「大切な妻の誕生にありきたりな物なんて贈れないだろう」

 長い指が優しく涙を掬います。私はそれすらも嬉しくてリオ様の手を取りました。

「もう飽きられたのかと思いました」

「馬鹿なことを言うな。忙しかっただけだ」

「今日はこれからお仕事ですか?」

 私の為に出勤時間をずらしてくれたと思えば、また涙が溢れそうです。

「別邸に行くと言っただろう」

「別邸でお仕事ですか?」

「別邸は休むための屋敷だ。一日中一緒にいたいと思ってくれているんだろう?」

「! 叶えて下さるのですか!?」

「叶えるも何も元よりそのつもりだ」

 別邸はここから馬車で一時間ほどの静かな湖畔にあり、リオ様が休暇を過ごす為に作ったお屋敷です。婚姻後一週間ほど、そこで過ごしたこともある思い出の場所でもあります。


「共に来ていただけますか? 芍薬姫」

「よろこんで」

 物語の王子様よりも優雅な物腰で差し出された手に私は自分の手をそっと重ねます。



 別邸の扉を開けたときから、何か甘い香りがするとは思っていたのですが……。

 寝室の扉を開けたときには言葉を失いました。


 一面 芍薬の花で埋め尽くされています。


 色はピンクと白が中心ですが、そのピンクも白も様々な種類と色彩があって色を競うように花開いています。豪華なのに可愛くて、見たこともない情景に圧巻です。

 それにこの香りは、いただいた香水そのもので。

 リオ様は私のことをこんなに素敵なイメージで見てくれていたのかと、胸が熱くなります。


「どうしたんですか? こんなに沢山の芍薬……」

「王宮の温室で育てさせた。どうだ? 気に入ったか?」

「気に入るもなにも息を飲みました!」

「全てお前のものだ」

「え? あの、私だけのためにこんなに沢山育てさせたんですか?」

「当然だ。ヴィアンカはこういうのが好きだろう?」

 部屋一杯に花を敷き詰めるなんて、物語の中だけのことだと思っていました。ましてや、その時期でない花をこれ程までに。

「好きですけど……もっともっとリオ様が好きです!」

 見上げれば穏やかに微笑むリオ様がいて。その笑顔には優しさが滲んでいます。

 なんて素敵な旦那様。

 忙しいというのにこんなことまでしてくださって。

 けれど私はそんなリオ様を疑ってしまっていたなんて。

 情けないのと嬉しいのとで私はずっと泣き笑いの表情です。



「ふふ。お姫様みたいです」

 芍薬の花で飾られた寝台に横になれば、甘い香りがふわりと上がります。

「芍薬姫だろう?」

 きしっと僅かな音をたてリオ様ががうつ伏せになった私の左側に座り、その右手が身体を覆うようにして右肩の辺りに置かれます。私は身を捩り、少しだけ身体を起こしました。

「芍薬姫って何ですか? そういえばどうして芍薬なのですか?」

「お前は芍薬姫と呼ばれているらしいぞ」

「え?」

「芍薬の花だけでなく、花言葉の「恥じらい」「はにかみ」「清浄」「威厳」がお前に合っているらしい。確かにぴったりだな」

 流れた髪を耳にかけられながらそう言われれば、私が真っ赤になってしまったのは言うまでもなくて。

「異国でな、¨顔を真っ赤にする¨という時には “シャクヤクのように顔を赤らめる”と言うそうだぞ」

 くつくつと笑うリオ様に、益々顔が赤くなってしまいます。


「可愛い姫だな」


 リオ様の端整な顔が近付きましたが、私はちょっとだけ意地悪をしたくなってそれを遮りました。こういうとき、眉を顰めるリオ様が少し可愛いのです。

「違います。お姫様は王子様と結婚しなくてはいけないので、私は只の令嬢で今はリオナルド・カストネルの妻です」

「そうか。まあ、お前を妻とするのに王子の身分が必要ならすぐにそうするさ」

「フェリックス殿下は?」

 リオ様が遮った私の手を避けます。

「ヴィアンカ」

「はい?」

「二人きりの時に、しかも寝台の上で他の男の名など出すな」

「んっ」

 最初は軽く触れるだけ。それでも挨拶とは違う親密さに嬉しくて目頭が熱くなってしまいます。

 視線を交わして微笑みあって、啄むように何度も何度も触れて、触れる時間が長くなって、深さも増して……。

 いつの間にか私はすっかり寝台に仰向けで身体を預けてしまっていました。

 嬉しくて幸せで、滲んでしまった涙をリオ様が優しく指で拭ってくれます。


「ヴィアンカ 寂しかったか?」

「……はい……。すごく寂しかったです。リオ様が平気そうなのがすごく寂しかったです……」

「平気そうに見えたか?」

「だってすごく素っ気なくて……」

「そうでもしないと枷が外れそうだったんだ」

「枷?」

「あまりにも触れていない時間が長すぎて、少しでも触れてしまったら離せなくなりそうだった。そうなったら今日の休暇が取れなかった」

 悪かった、とリオ様は切なげな表情をします。そんな顔をされたら怒れません。

「でしたら、今日一日はこの腕の中に閉じ込めて下さい」

「一日? 冗談を言うな」

「え?」

「三日間閉じ込める」

「三日も一緒に?」

「ああ、三日間 お前に溺れさせてくれ」

「逆です。誕生日ですもの、私に貴方を下さい」

「ああ、誕生日おめでとう。ヴィアンカ、愛している」

「ありがとうございます。私も愛しています」

 私達は互いに芍薬の花の香りに沈みました。



「花の匂いに酔いそうです」

「俺はお前の色香に酔っている」

「もっと酔ってください」

 一人ではあれほど寂しかった寝台は、二人でいればとても温かく居心地がいいです。私はリオ様に隙間が無いほど寄り添いました。

「おい。休ませてやっているんだぞ。煽ってどうする」

 そういいながらも、リオ様は私を抱き留めて下さいます。

「だって、くっつきたいんです」

 リオ様の体温は幸せでもっともっと感じたくなります。

「リオ様、大好き」

「ヴィアンカ」

「……はい……」

 肌馴染みのよい寝台で、温かなものに包まれていれば、ついうとうとしてしまうのもしょうがないというものです。私がぼんやりと答えたら、「まだ寝るな」とくすりと笑われました。

「もう一つ贈りたいものがあるんだ」

「何ですか」

 私は目を擦り返事をします。


「子供だ」


「はい?」

 答えに驚いて眠気が飛びました。

 唖然とする私にリオ様は微笑んで額に口付けをくれました。

「ヴィアンカも十八だ。そろそろ母になってもいいかと思うのだが、どうだ?」

 結婚する際にリオ様に言われたことがあります。十六、七で母になるのは早いだろう、と。若年出産は母体に負担が掛かるそうで出来れば十八を過ぎてからが良いそうなのです。だから、リオ様は身体を繋げても子供が出来ない様な愛し方をして下さっていたようです。


「リオ様の赤ちゃん、欲しいです」


 自分の体内に愛する人の子供が宿ると言うのはどんな感じがするのでしょう。

 でも考えただけでとてもほっこりと幸せになります。

「リオ様似の男の子がいいです」

「流石にそこまでは約束できないな」

 リオ様は笑いながら私の身体を抱え直します。私はリオ様の頬にそっと触れました。

「残念です。リオ様に似ていれば、少しでも寂しさが紛れると思ったのに」

「俺はお前の興味が全て子供に行ってしまわないか心配だ」

「まあ」

 冗談をと、笑ったら本気だと嗜められました。

「お前は母となっても決して、俺の妻であることを忘れるなよ」

「リオ様こそ、私が貴方のことをどうしようもないくらい好きなことを忘れないで下さいね」


 リオ様と過ごす時間は至福としか言いようがなくて。こんな時間がずっと続いたら蕩けてしまいそう。

 そう伝えてみたら、「死ぬまで続くぞ」と笑われます。


「来年はプレゼントもなくていいです。一緒にいる時間も一日でいいです。だから無理しないで下さいね」

「一日では俺が足りないんだ」



 芍薬の花の芳香が身体を包み込む。

 淑やかで美しく、心清らかな、でも威厳があり芯は強い

 そんな聖母の薔薇のような、貴方に相応しい女性になりたい。

 だから、本当にこの命が尽きるまで貴方の温もりで包んで下さい。

 貴方という存在がなければ、私は花開くことができないでしょう。

 これからも誕生日には貴方の時間を私に下さい。

 貴方との時間だけが私を育んでくれるのですから。


 そうして芍薬の花の香りの中、私は大好きな人の腕の中に自ら囚われたのです。



 ***



 休暇を終えて執務に戻ってみれば、思った通りだが、与えた仕事は全てが熟せていなかった。

 俺の反応を窺って皆がびくびくしているのがわかる。

 さて、何を言ってやるか。

 ちらりと視線を送れば、びくりと姿勢を正す。

 思わず笑ってしまった。

「まあ、よくやった方だな。続けて頼むぞ」

 明らかにほっとした表情を一斉に浮かべ、揚々と仕事を始める。

 怒るだけでは人はついてこないからいいかと割りきる。


「リオ兄、すっごく甘い香りがするんだけど」

「そうか? 慣れすぎて俺にはもうわからないな」

「なんかこう、ヴィアンカ嬢が傍にいるみたい」


 ああ、だからか。何故かずっと癒されているような気がして、怒る気がおきないのだ。

 彼女の香りに包まれいるからか。

 ならば、この香りが消えないうちにまた妻の元に戻らなければ。

 彼女をずっと傍に感じるために。


 あの甘い芍薬の花園へ

感想で頂いた「リオナルドのサプライズ」を想像してしまった産物です。

気障なことするんだろうなぁ…部屋一面の薔薇かなぁ…なんて感じで。

お読み下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ