食ベラレル
2話目ですが、はやくも短いです、……す、すいません。
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「ねぇ、ソレ食べてもいいィ?」
ギラギラと鋭い双眸が左手の筒に集中していることに気づいたのは、一瞬あとからだった。
「ちょっ、ダメ、これはダメ、ダメ、食べちゃダメだ」
言葉の意味を理解して左手を強くひくと、案外あっさり手はほどけて、
左手は黒い呪縛から逃れられた。
「えぇー、なんでぇ、美味しそうな匂いがするよぉ、絶対美味しいよそれぇ」
ばたばたと左手を追いかけるように黒いもやもやした雲をまとった者が
遠慮なく乗っかってくる。
「こらっ、ダメだって、やっ、ダメ、のっかるなぁ」
いつの間にか、黒い奴にほぼマウントポジションにもちこまれ、どうしようもないくらいに不利な状況になってしまったことを後悔しながら、仕方なく左手の筒を古い教会の崩れかかった入り口の階段付近に、放り投げる。
すると案の定、乗っかっていた黒い奴は、するすると黒いもやもやした雲をひきつれて転がる筒に飛びついた。
「くっ、なんなんだ、一体、食べる? コレを?」
重しがなくなったので、すばやく距離をとりながら起き上がり、左手でもうひとつの筒をとりだして、再度転がっていた金属の頼りの品を右手で拾いあげると真ん中から、がちゃりと開き、左手の筒をちょうど空いていた穴に差しこみ、閉じた。
一連の動作を行っている間に、さっきの黒い奴も拾い上げた筒をじぃーっと見ている。
「おいっ、食べ物じゃないだろそれは……」
それでも、ずっと見ているので、何をじっとみているのか尋ね様と思った瞬間――
「いただきマース」
黒い奴が筒をぱくっと口にいれやがりました。
しばらく口の中で転がしてると思ったら、そのまま飲み込みやがりまして、
そのすぐ後に、黒い奴の全身がくわっと光ってまるで雷が鳴ったときみたいに、全身を光る稲妻がほとばしったあと、満面の笑みを浮かべながらこういいました。
「びりびりぃしてぇ、甘ァいこれ、凄い、美味しいよぉ」
すると、さっきまで全身を覆っていた黒いもやもやした雲のようなものがすぅーーーっと、黒い奴の手元のこれまた黒いくしゃくしゃのローブに吸い込まれていったかと思うと、その黒いローブもじわじわと色が落ちてきて、いつの間にやら白いローブに変わってしまった。
「ねぇ、ねぇ、もうひとつぅ、頂戴ィ」
なんだか大きさも縮んでしまったかのような元黒い奴は、トコトコとこちらに歩みよりながら、白くなったローブの頭の部分を後ろへやって、さらさらした銀色のショートな髪がみえる人懐っこそうな顔をして笑顔でそうねだってきた。
目の前で起こっためぐるましい変化に戸惑いながらも、とりあえず、左の腰につるしていた筒をとりだして目の前まできた、なんだか可愛らしい生き物に、言われるがままに手渡したが、
「ちょっと、食べる前に、君がなんなのか教えてほしいんだけど」
もらった筒を嬉しそうにつつきながら、ソレは笑顔で答えてくる。
「えぇ~、何ぃ?名前が知りたいのォ?アドリー、アドリーって呼ばれてるよぉ」
くんくんと匂いを嗅ぎながらそう答えるアドリーという少年? は、はやくも口に筒をほおりこんだ。
「ちょっ、何で匂い嗅いでるん? あっ、もう食べるのか」
口にいれたあとは、早速飲み込みやがりまして、今度は、カッっと一瞬、まわりの空気が熱気を帯びたようになり、アドリーを中心に熱量がはじけたようにみえた、当の本人は少し開いた口の中に燃え上がる炎がちらりとみえて、またすぐに、うっとりとするような表情をみせた。
「あっついけどぉ、辛くてぇ、かぁぁーーっと駆け抜けるような、爽快感がぁ、これは癖になるぅ」
なんだか怪しい目つきでこっちをみてくるアドリーをみつけて、背筋をすぅーーと冷や汗がはしる。
「ねぇ、ねぇ、もうないのぉ、もっと食べたいなぁ」
するっと隣によってきたアドリーがもそもそと腰のあたりのベルトを勝手に調べている。
「こらっ、何勝手に、もうないよ、品切れ、諦めたまえ」
しぶとく腰のまわりをぐるぐるとまわりながら調べてたと思ったら、おもむろに、ズボンのポケットに手をつっこんできた。
「ひぃあっ!? うんっ! ちょぉ、こらっダメ、無い無い無いったら」
つぎつぎと遠慮なく服をつついてくるアドリーを、ぐるぐる回りながらかわして距離をとる。
「これ以上、近づくと、こいつを食らわすからな、ダメっ、止まって、こらっ」
なんとなく身の危険を感じたので、やっとこいつの出番かと右手に持っていた獲物を構えてなんとか距離をとることができた。
「この筒は食べ物じゃないんだからな、これの弾なんだからな」
ぎゅっと力をいれて右手の獲物の照準をどこにしようかと悩んでいると、アドリーが話しかけてきた。
「えぇー、何それぇ、もったいないよぉ、それ食べたほうがいいよぉ、そんでもっと頂戴よぉぉ」
めそめそと訴えてくるので、なんだか可哀想になって、思わず答えてしまったのが後悔のはじまりだったと後々思うんだろうと、
「食べ物じゃないって、ホントに、もう手持ちは無いんだ…家にいけば在庫あるけど……」
キラキラと赤い紅く赤く輝く双眸が真正面からこちらの目を凝視していた、こいつ絶対ついてくるな。
「ねぇ、ねぇ、美味しい人、この筒が家にいっぱいあるってぇ、どこで手にいれたのぉ、家で食べてるのぉ?」
やっぱり後ろをついてくるから、家にくるんだろうか、てか、くるわな家にあるって言っちゃったらついてくるよな。
あれからすぐ、少し歩きはじめると、古い教会の前の地面にできた大穴の前には町の入り口から大勢走ってきた武装した人達がなんやかんやと、口々に騒ぎながら、現場検証を行っていた。
なんとなく、後ろをついてくるアドリーをさしだすのも、しのびない気がしたので、何事も無かったかのように、家路を急いだわけだが、
「なにそれ、美味しい人って、私のことか? えッ、えーと、ユ、ユシアっていう名前があるから、ちゃんと」
「あと、弾は、自分でつくってるから、触媒の石は買ってくるけど、弾に加工は自分で…」
と、言いかけるとなにやら、はげしい視線を感じてアドリーを振り返ると、
キラキラと赤い紅く紅く輝く双眸がさきほどよりも食欲という名の欲望に燃え上がっているようだった。
「すごぉい、自作ゥ!食べ放題ぃぃぃいいイイ!このユシちゃんがァ、た、食べ放題をォごごあぐじぇいじお」
なんだか興奮しすぎて怪しい雰囲気を醸し出してきた、アドリーをとめないと思ったのと、突然名前で呼ばれたのも気恥ずかしいのもあいまって、
「ちょっ! ちゃッ、ちゃんではなくて、てか自作っていってもそんなにいくつでも作れるんじゃないから、触媒もいるからな決して、食べ放題とかじゃないぞ――あと無茶すると作ってもやらないからな」
えーえぇー、ケチ、けーちぃ、ケーチィイと非難をあげるアドリーを放置で、ユシアは、今後は好奇心は控えめにしないとなぁと、しみじみ反省しながら目的地へと、とぼとぼ歩いていった。
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いつも読んでいただきまして、感謝、感謝です。
まだ続く予定ですので、また読んでいただけると幸いです。