そして、何も
そして、何も聞こえなくなった。
何も見えず、何も聞こえず、何の匂いも無い
本当なら母さんが帰って来なくなった
あの日の夜を思い出してしまうからとても怖いはずなのに
私は不思議と落ち着いていた
あの日の夜、私は初めて一人で過ごした
母さんの姿も見えず、母さんの声も聞こえず、母さんの匂いもご飯の匂いも無い
私はひたすら小さくなって母さんが帰ってくるのを待った。
後少し、母さんとの約束を守ってここで待っていれば
いつも通り「ただいま」そう言って、私の頭を優しく撫でた後
いつも通り「いい子にしていた?寂しくなかった?」と言って抱きしめてくれる
普段と何一つ変わらない【いつも通り】の母さんが来てくれる。
だから、少しも怖くないのだと・・・。
浅く短い眠りの中、何度も何度も同じ夢を見た。
そして、母さんに答えようと声を出した瞬間目が覚める。
何も無い、ここで目が覚める。
けれども、今はとても落ち着いている。
本当はもう少しこのままでいたいのだけれど、
不意に誰かに呼ばれたような気がして目を開けた。
すんなり開けられた目には、何も映らなかった。
「何も無い、ここ」ではなく、「何も無い」
そして、私も無かった。




