城にて1-4 リリスと会話しつつ部屋へ
廊下を引きづられる途中、リリスからスキルの説明を受けた。勿論、ソウタのテンションはかなり低い。なので殆ど耳には入ってこなかった。
リリスの説明では、魔法と呼ばれる物は誰でも練習すれば習得できる物。
対して、もスキルとは完全に個別の物でありオリジナルの物らしい。そして、一度手に入れたスキルは基本的に変わる事はないらしい。なので、ソウタは”切れ味を高めるスキル”異世界生活を送る事になりそうであった。
魔法も習得したい。しかし、それには専門の道具や時間がかかるらしく今は無理だと断られ、仕方なく今日は寝ることになった。そして今サタンの部屋を出て自分の部屋にリリスによって案内されている所である。
よりにもよってさっきキスしたばかりの女子と二人きりとは。とても気まずい空気になると思っていたのだが……
「いやーアンタ。 何なのあのスキル特殊すぎでしょー。あんなの初めて見たわ」
何かキャラが違った。上品ぽかった喋り方は無く、普通の女子のように、何事も先ほどなかったかのように喋り始める。
「あのさ……さっきの事とか気にしないわけ?」
「……つっ! アンタさぁ…… あたしがっ、あえて気にしてない空気作ってるのにっ! 何でそんな質問してくるの?! 空気読めないの空気!」
少し赤面しながら語る所を見ると本人も気にしているようだった。
「いや、悪い。だってあの空気だと普通に人がこっちに呼ばれるたびやってるのかと」
サタンの軽々しい発言を思い出す。こいつ、淫乱悪魔なのかっ? サキュバスなのかっ?
「私が人を異世界から呼んだのは今回が初めてよ。人間を異世界から呼ぶのは凄く大変だから簡単にはできない。私の前は師匠がやっていたから」
その師匠は人を呼ぶ度にキスしまくってた訳か。と、ソウタは理解した。呼び出した人が女の人だったらどうなるんだ? そう思ったが口には出さない。
「その師匠さんは今どこに?」
「今はもういないわ。前回の大戦があったときに」
そう話すリリスの声は少し低く、寂しげであった。
「そうだったのか……悪い」
「いえ、いいの。けどそれだけじゃないわ。あたしはまだ小さかったからその時の大戦には参加しなかった。けれど魔族にも多大な被害が出たの。それこそ、転生してきた人も沢山死んだわ」
そう語るリリスは少し俯き、悲しそうというよりは苦しそうに見えた。
「アンタ戦争や戦いが恐くないの? 下手したら死ぬのよ? 向こうに家族や友人だっているんでしょ?」
リリスはうつむいた顔を上げる。足が止まり、目と目が合う。
「戦争に向かう人たちもいってたの……向こうで待ってる人がいるんだ。 やり残した事があるんだ。 だから、死にたくないって……」
確かに甘く見ていたかもしれない。この世界では戦争があり、戦があり、死が間近にあるんだろう。
「恐くないと言う訳じゃない。 けれど、あっちの世界のからっぽな毎日より……自分らしく生きれる今がある」
そう力強く言い返す。
ソウタには、それだけでも十分だった。以前のように学校では笑顔を無理やり振る舞う必要もない。自分が自分でいれる場所ができただけでとても嬉しかった。
「まあ精一杯やるさ。サタンもアンタも悪いやつではなさそうだしな」
「……何でそんな事言えるのよ。実際、召喚されてから奴隷同然に扱われる事だって普通なのよ。疑わないの?」
「いやっ、だってさ。アンタは出会ったばかりの俺の事を心配してくれた。人の命を考えてた。そんな人が悪い奴なわけないだろ」
リリスは虚をつかれたように、真っ白な表情をして数秒固まる。
やがて、リリスは一息大きく息を吸い深呼吸する。
「……スでいい」
「えっ、何だって?」
「リリスでいい!」
リリスは恥ずかし気に言い、再び、早足で通路を歩き始める。
「ってかさ最初会った時とキャラ全然違うよな? 喋り方も違うし」
「うるさい! こっちが地なのよ。最初は初対面だしなめられたらダメだと思って……」
「へー。 それを告げるのは私ではないの。だっけ? ひと昔前のRPGみたいだったからさ。あれはやめたほうがいいぞ」
「えっ、じゃ、じゃあ、『私の話にのれば世界の半分をくれてやろう』ってのもダメなの? 」
「どこの竜王戦だっ! 超絶古いわっ! しかも戦闘開始するのかよっ! 」
三段ツッコミに、リリスは驚く。
「じゃあ、『来てくれてありがとうっ! 今日から頑張ろうね! お兄ちゃん!』は?」
リリスは声のトーンを高くして、ソウタに微笑みかける。
「いきなり妹キャラ?! ドン引きだわそんなの!」
「じゃあ、『べっ……べつにあんたのために説明してあげてるんじゃないんだからね』とかは?」
「ツンデレかよっ! 普通でいいっての! キャラ作りやめてくれ! 痛いって、本当!」
「う、うるさい! うるさい!」
俺の髪の毛を手でつかんで引っ張りながら言われる。怒った表情が結構かわいい。リリスが意外に美少女の部類だと今になって気づいた。それぐらい心にゆとりができたのだろうか。
喋っている間に部屋についた。 結構長い廊下だと思ったが、そもそも城が100メートルぐらいの高さまであるのだ。中もどんだけ広いのか分からない。迷子になったら帰って来れない気がする。
木で作られたドアをあけると、部屋はちゃんと鍵もかけれるようになっている。中には暖炉や窓、風呂までついていて電球らしき物も見える。したには獣のかわらしき物がしきつめられ奥にはフカフカのベットも2つほど用意してあった。
中世のヨーロッパのような、クラシックな内装にテンションが上がる。それなりの広さもあるので泊まるとしたら現実の世界ならいくらするのだろうか。
「なあ、リリス何でベットが二つあるんだ? 元々あったのか?」
「だってあたしもこの部屋だもん」