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エルフの国2-3決着と悪役

 時が止まった。なんて事はない。レノウからすればこの状況は、何一つ恐る事は無い。世界から色が落ちる。無音の中、ゆっくりと歩きソウタの剣を避ける。魔法を展開し、光の剣で肩から腹にかけて一線が走り、肉がゆっくりとずれ落ちる。はすが、落ちない。本来鮮やかすぎる切り口は赤い帯を引くに留まった。


 「どういうだっ?!」


 色が戻り、止まっていた時間が動き始めた。ソウタの剣は中を斬るだけにとどまった。


 絶対法則がレノウの、一位の能力をも強奪する。無論、全てではない。その膨大な能力。全開にすれば、世界さえ変えられる程。その一部のコントロールを狂わせられる程度。


 とっさに防御しようとするレノウ。しかし、絶対法則がそれを許さない。拘束魔法を即座に放ち、動きを遅らせる。


 「そろそろ終わりと行こうぜ、一位さんよ」


 ソウタの能力。それは単純、故に強い。万物を断ち切る力。


 「最後(ラスト)(シン)


 ソウタの剣はレノウを頭から真っ二つに割いた。瞬間、レノウの体がガラスの破片のように砕けた。


 「なっ、どーなってる?」


 絶対法則が砕けたガラスに触れる。


 「どうやら分身……」


 刹那、ゆっくりと、


 「賛美歌(オラシオン)


 絶対法則とソウタの段々と、足先から静止した世界の中で、色褪せ体が消えて行く。そして、世界自体が二人が元々存在していない世界へと、辻褄を合わせて形を変えて行く。


 勝利、と同時にレノウは失念した。ここまで面白かった戦いはいつ以来だろうと、高揚し過ぎて手加減を忘れてしまった事を悔やんだ。虚しさをため息として吐く。


 突然に、ポンと、レノウの肩に何者かが触れた。


 「落ち込み中の所悪いが、ワシを忘れて此処で寛ぐなど、おぬしにそこまでの余裕があるかの?」


 背丈の小さな、可愛げな少女。見た目とは裏腹に、そんな優しい者ではない。エルフ最強にして、最悪の精霊兵器土属性において右に出る者無し。召喚獣ユグドラシルである。


 驚きが心臓を打ち、衝撃が脳から体へ返され魔法を展開する間0.1秒思考をが体へ伝う間も無く、ユグドラシルの拳がレノウの頬へめり込んだ。


 その体からは想像も出来ないほど重く、力を伝えた拳。ミシッと、レノウの骨と筋肉の筋を粉砕する音と衝撃を伝え吹き飛ばす。


 力に逆らえずに飛んだ先に用意された、鋭利な岩の剣がレノウを待つ。魔法を展開しようとするが、遅い。三本の剣がレノウの上半身を貫いた。


 完全な不意打ち。単純な攻撃。殴る。ただ、レノウが、一位が油断したその刹那に、反応不可な速度で体重を乗せた拳を展開した刃の方向へ放つ。


 「慢心とは怖いものじゃのう。優劣といった概念が其処にはないのだから、ワシごときが、一位様に致命傷を与える事さえもこんなに簡単に行えるのじゃから」


 傷口が熱い。体へ久しく感じなかった、激痛がレノウの走り思考を妨げる。急ぎ回復魔法を展開しようとする。が、魔法を発動に左手へ魔力を込めた瞬間に、掌を刃が切り裂いた。


 「ぐうっっぁっ!!」


 ポロっと、三本の指が第二関節から落ちた。


 「回復出来るといいの。果たしてワシの千は用意出来る刃がおぬしを裂き細切れにするのが先か、それとも回復しきり力を使いワシを殺すのが早いか試してみてはどうじゃ?」


 冷淡な笑みを刻み、ユグドラシルは言った。獲物を狩る目をした狩人の殺気がレノウの背筋に悪寒を走らせた。


 レノウは自分に落ち着け、と言い聞かせる。激痛を無視して思考を回復させる。ユグドラシルが急に現れた原因。間違い無く自身の賛美歌(オラシオン)だ。世界ごと変化させるいや、させてしまうこの能力は。


 ソウタが偶然にも、そのスキルの相性と不意打ちにより倒したユグドラシルを復活させてしまったのだ。


 ソウタの存在が無かった事となった。故にその戦闘自体が無効化されてしまったのだ。ここまで考える。ならば、どうするべきか。再び賛美歌(オラシオン)を発動させるほどの隙は無い。その数秒があれば、目の前の精霊は自分を醜い肉塊へ変えるだろう。


 と、ここまで一秒に満たない。ユグドラシルの刃が空中から自身へ降り注ぐのを目前に、脳が導出した答えを実行する。


 即ち、賛美歌(オラシオン)を再発動するのでは無く、解除する。世界を再創造する一位(レノウ)の力は即座に全ての辻褄合わせを完了させる訳ではない。完全な書き換えまでには猶予があり、それまでにレノウ本人が解除すれば無効とする事が出来る。これは今のように万が一の場合。レノウが予期しなかったような事態が発生した場合へのセーフティでもあった。


 刃とレノウの体の距離が一メートルを切ろうとした所で、止むを得ずレノウは賛美歌(オラシオン)を解除した。これで目前に迫る刃は消滅し、ユグドラシルも消える。再びソウタと絶対法則との戦闘が続く事になる。一度自身で行った決定を覆すなど、決して望むべき展開ではなかった。


 が、目前の刃は消滅せず、レノウの右目を貫通した。次いで二本が左腕と喉を貫き、地面へ体を固定する。


 (何故……消えない)


 声帯を潰され、声が出せぬ瀕死の状況で、レノウは信じられない光景を見た。絶対法則、ソウタ、ユグドラシル、それにエルフの大臣ヤルゲイの四人が並んで立っていた。


 その光景を見て、レノウは答えを導き出した。賛美歌(オラシオン)は確かに発動した。事実、ソウタと絶対法則は世界から消滅し、その痕跡は消失し始めていた。だからユグドラシルが現れたのではない。単純にユグドラシルは生きていたのだ。ソウタの刃は戦いの時、命を奪うことはしなかった。


 にもかかわらず、自分は発動した賛美歌を解除してしまった。思わぬ隠し球がもたらしたダメージは回復し切れず、打ち直しは不可。より、勝負の結果は。


 「じゃあな。一位さん」


 敗北である。


 ソウタの最後の(ラスト・シン)が全てを切断する。魔力も、スキルも、そして一位、レノウを斬り、決着した。


 ーー同時刻。サタンはレノウから受けた傷を回復し、また瀕死まで陥っていたベルフェゴールの治療を終えた所だった。


「そろそろいいだろう、ベルフェゴール」


 「ええっ、おかげさまで。この借りは体で」


 「下らない戯言はいい。レノウの魔力が消えた。万が一はないだろうが、一刻も早く世界樹の葉を持って城へ戻れ。事が済み次第計画を実行する」


 「一体これ以上何を?」


 「色々とイレギュラーがあり過ぎた。ソウタと、絶対法則の二人は危険だ。スキルが知れているベルゼブブは後にして、あの二人はここで始末しておくべきだろう」


 平然ととんでもないことを言ってのけるサタンにベルフェゴールは目を見開く。


 「馬鹿な事を?!  仮にも部下の一人でしょう!!  何時から貴方はっ」


 「全ては全魔族の為だ」


 「逆らうと言えば?」


 「この場で殺すのみだ」


 サタンの言葉に嘘は感じられない。また、決して温もりなどというものは微塵も残されていなかった。合理。それ以外の感情論など全て欠落してしまった。七大罪以外。中でも数人にしか見せないだろうその冷徹さ。既に話す余地は無いと判断したベルフェゴールはその場から姿を消した。


 「さて、しかし勿体無い事をしたな。洗脳すれば優秀な兵となったかもしれんが。全てを切り裂く能力。全てを奪う能力。便利な物だ。何ならついでにエルフ達も皆殺しにしてやろうか。ベルゼブブの奴に罪をなすりつけて」


 突然。サタンは吐血した。同時に気づく。自分の胸に開けられた五センチ程度の空白。銃弾が貫通した後だった。


 「これは……一体……俺が全く感じる事すら出来ないなど」


 「話は全部聞かせてもらった」


 紅蓮の髪。緋色の瞳をした少女がサタンの前に立っていた。片手に銃。もう片手に短剣。魔力を纏う彼女は紛れも無い、リリスだ。


 「最初は気配を消して話を盗聴したけど、私とソウタを殺すなんて聞いちゃったら、従うなんて無理ね。残念だけど」


 リリスが引き金を引く。撃鉄の音が響く。大口径の拳銃がサタンの体を吹き飛ばす。サタンは一歩も動かず、微動だにしない。


 「何故……体が……」


 「私のスキル、視点外(フォーカスアウト)しはただ視点を外したり、注意を外らすスキルじゃないの。簡単に言うとね。外すって概念を用いる事が出来れば何でも出来るのだけれど」


 リリスがそう告げると、サタンの視界が暗転した。視力だけでない。音も聞こえず、匂いも感じない。温度も、熱も。既に自分の体がどこにあり、動かせるかのかも定かでは無い。自身の思考以外のみが残された。


 「もう声も聞こえないかもね。あなたの五感全ての機能のコントロールを外した。ここまでの能力は流石に私にも大きなデメリットがあるけど、これでいい。誰かがやらなきゃいけないから」


 リリスはど止めにサタンの首に剣を押し当て、


 「貴方の本当の目的も、意図も聞けないのは残念だけど。さよなら。サタン」


 その首の動脈を引き裂いた。


 サタンの体は糸の切れた人形のように、膝から崩れ落ち、地面へ伏した。


 サタンの目的は何なのか?  エルフの国で何をしようとしていた?  今信用出来るのはソウタ以外の誰のか。纏まりのない思考がリリスの脳内を埋め尽くす。


 「考えるのは後でいいわ。サタンは」


 「死んだと思ったか?」


 がっ、とその場を離れようとしたリリスの腕をサタンが掴んだ。


 逃れようと、リリスはサタンの手を振り解こうとする。が、掴まれた腕に力を入れた次の瞬間に、リリスの右腕が吹き飛んだ。


 あり得ない激痛により、叫ぼうと体が反射しそうになるのを歯を食いしばって耐える。


 「知らなかったな。リリス。お前がそんなに強力な能力を持っていたとは。どんな能力か詳細が聞けなくて残念だ」


 サタンの手から放たれた蒼火球がリリスの胸に風穴を開けた。

 

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