エルフの里2-2 賛美歌が真に発動すれば、世界は都合良く書き換わる
理性を失い、暴走する絶対法則はレノウに強烈な蹴りを放った。余波で後ろの地面に亀裂が走る。
物理魔法を最大に展開しても反射までの余裕は無いとレノウは判断する。
「アアアッ!」
(風、土、火……五大属性全てを合わせている?)
絶対法則の頭上に黒雲が立ち込める。
『黒蕾』
攻撃属性全てが統合された、無属性の雷がレノウを狙う。同時、突如として、巨大な100mはあろうか、司銀の球体が発生した。
『暗黒点』
球体は即座に収縮し、掌ほどの黒い物体に変わる。疑似的なブラックホールの完成し、レノウの物理魔法を乱す。
(やるねぇ、確かにこれじゃ滅茶苦茶な重力波のせいで、自分も吸い込まれないようにするので精一杯かな)
絶対法則は走る。本能のままに力を解放する。
高速で動く絶対法則をレノウの目は早くも捉え始めていた。動きを見切ったレノウが絶対法則へ向け、魔法を放つ。動きの切り替えしのタイミング。その一瞬の隙も見逃さない。
動きの隙間、回避不可なタイミングで放った。それを絶対法則は空中で身を捩り、軽く回避した。
「なっ……」
速すぎる、の言葉の先は絶対法則による打撃で打ち消される。
腹部へのアッパー。尋常では無い速度で放たれるそれは確実にレノウの体へ当たっていた。
厄災と呼ぶに等しい威力に、レノウは回復魔法を始めて使う。
「いいねぇー、物理限界を超えてくるなんて。一体君はいくつの能力を扱えるんだい?」
興奮に目を輝かせるレノウの言葉への返答は無い。かろうじて見て取れる移動の残像。それを残し、次の瞬間には絶対法則はレノウへ一撃を見舞う。
此処でも、レノウは微笑を浮かべる。吹き飛ばされる最中、絶対法則の追撃が来る途中。唇が緩み、迫る敵へ掴みかかった。
力の関係。加速しきった絶対法則の攻撃を受け止められるはずは無く、鈍い切断音の後、レノウの腕は弾け飛んだ。
「認めるよ。君は強い。だから使おう。僕のスキル」
『賛美歌』
突如、世界が静止した。レノウ以外の全てが止まる。音が消え、色が消え、白と黒のコントラストの世界。その中でただ一つ。存在するレノウのその腕が元に戻り始める。白黒の世界にペンで書き出されるようにしてその手は形を取り戻す。
絶対法則の姿が書き換えられて行く。能力発動前の彼女へと強制的に。そして、色が戻り、再び、一位により書き直され、再構築された世界が動き出す。
突然として、我に変える絶対法則。
(一体……何が)
思考が復帰して間もなく、光の槍が絶対法則を貫いた。
胸、左足、腹部、右手それぞれに被弾。傷口から血が溢れる。
「がはっ……な、何でっ」
足元がふらつき、絶対法則は地面へ倒れ落ちた。
「ごめんね。僕のスキルは”世界を書き換えるスキル”なんだ。君の強化、スキルは全て無かった事にした。今の君は一般人と同じだ……って、もう死んでるか」
絶対法則はピクリとも動かない。
レノウは絶対法則の死体を確認する。
「コレを使わせたんだから君は強い。さぁ、サタンもういいだろう?」
魔法陣が展開され、サタンとベルフェゴールが現れた。
「ほら、コレ(世界樹の葉)。これが欲しかっ」
「もーう、ありがとうレノウ! 流石だわぁ! やる時はやる男ね!」
レノウが手に持つ世界樹の葉を受け取ろうとしたサタンの横から、ベルフェゴールが奪い取る。
「ベルフェゴール、いい加減にしろ」
「なによぉ〜。ちょっと位いいじゃない。ほら、はい」
サタンが本気で怒り出しそうなので、ベルフェゴールは渋々と言った様子で世界樹の葉を渡した。
「契約完了だね。ついでに城や町も元どおりにしといたからね。じゃあ、僕は絶対法則と、そっちの2人はもらうけど、良いよね?」
「ああ、好きにしろ」
了解ー、とレノウはその場から消えた。
「いいの? サタン。あの二人はお気に入りだったんじゃない?」
サタンに抱きつきながらベルフェゴールが聞いた。
「構わないさ。ソウタとリリスの力は未知数だったが、それでもコレ(世界樹の葉)があればお釣りが来る。エルフとは同盟を結んでいただけ。これはあくまでベルゼブブの暴走であり、俺達は何一つ破壊してない。そこの一位が暴れてただけた。俺は常に得な方を取るまでだ」
冷淡に笑みを浮かべて、サタンはそう言った。
「ベルゼブブはどうするの? 裏切り者よ」
「放っておけ。奴の仲間は割れている。絶対法則も結果として始末出来た。最早、虫の息だ。一人では何もできんだろう」
「やっぱり……貴方は魔族の王ね。いつからかしら。そんな貴方になったのは」
「王になった時から。常に国の事以外は考えた事は無い。さぁ、帰るぞ」
そう言って、2人は魔法陣に入り、消えて行った。
ーー意識が戻る。ゆっくりと立ち上がる。全身に疲労感は残るものの、目立った痛みは無い。
(俺は……あいつと戦って)
壊れていた部屋の内装も、全て元に戻っている。
「一体何が……」
突然の足音。ゆっくりと、それは近づいてくる。部屋の外、城の回廊からだ。
「御機嫌よう、ソウタ君……だったかな?」
部屋の外の回廊にいたのは初めて見る金髪の少年。目が行ったのはその腕の先、光剣の前に力無く座るリリスの姿だった。
「お前……何をっ!?」
「あーっ、動かないでね? さて、二択あげまーす。君が死ぬか、この子が死ぬか。どちらか一方好きな方を選んでね。はーいっ、シンキングタイムスタート!」
光剣がリリスの首元へ突きつけられる。
「リリスっ! 待ってろ、こんな奴」
「ダメ。勝てないわ。こいつは”一位”なの。勝ち目はないわ」
「別に好きにしていいけどね。掛かってきた瞬間にこの女の子の首が飛んで、君も死ぬだけだよ」
ま、二人ともどの道殺しちゃうんだけどね、とレノウは心の中で呟いたが、二人の知る由では無い。
「あれれ、随分と諦めが早いんだね」
勿論、俺を殺してくれ……リリスは……その言葉は喉から先に進もうとしない。死にたくない。死にたくない。生きたい。生き残りたい。全身から力が抜ける。ソウタの内を恐怖が覆う。
「ソウタ。大丈夫……」
引き攣った。無理矢理に作ったちぐはぐな笑顔で、偽の表情でリリスは言った。
「私が死ぬわ。ありがとう。短い間だったけど、ありがとう。私の分まで」
その先言葉は消える。レノウがリリスの胸を突き刺した。後ろへ体が崩れる。表情は消え、血が傷口から溢れ、生が流れ出て消えて行く。
「てめえぇぇぇぇつっっ!!」
反射的に、ソウタは剣を抜く。
「ああっ、楽しい」
レノウが呟き、ソウタの剣を素手で止めた。光剣を三度振るう。ゆっくりと赤い線が浮かぶ。
「やっぱり楽しいよ。戦いはっ! さっ、何か言い残す事はあるかな?」
レノウは髪を掴み上げ、顔を近づける。皮一枚で繋がる体。震える口からは血が垂れる中、ソウタはゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「一体……何……してるのよ」
「?!」
一瞬で動悸が高まる。ソウタから発せられたその声がまるで女性のようだったからだ。
「レノウっ」
レノウが目の前で掴んでいるのはソウタでは無い。ベルフェゴールだった。
「なっ……」
急いで手を離す。ベルフェゴールは急いで自らに回復魔法をかけようとするが、既に虫の息だ。
「一体……何が」
急いでレノウ自らもベルフェゴールへ高位の回復魔法をかける。
「なにがって、あなたが急に私達に」
「達だとっ?! こんな……」
戸惑うレノウの背後に、人の気配を感じる。
「俺とリリスを殺すなんて言われ、しかも一位が相手じゃあ流石にきついんでな」
「一時……停戦……共通の敵……倒す」
そこにいたのは、殺したはずの絶対法則とソウタであった。
「何で君達生きている? 一体……」
突然にソウタが口を挟む。
「次にお前はいつから幻術を使っていた? と言う!」
「何処からが偽物だったんだい? 何が、どこまでが本物?」
レノウは興味を示す。
「あれ、外した。ここはビッチリ当てる所なのに」
緊張感が一瞬抜けた絶対法則は溜息をこぼす。
「はぁ……もういい。想像にまかせる。当然……貴方は幻惑の中で一人遊んでいただけ。ここまで上手くいくとは思ってなかったけど」
チッ、とレノウは一杯食わされた悔しさに舌打ちする。自分は一位だ。常に遊ぶのは自分だ。なのに、今回は完全に上を行かれた。出し抜いた二人と、出し抜かれた自分自身への怒りが込み上げる。
と、同時に好奇心も尽きない。一呼吸置く。怒りが沈んでだんだんと頭が冴えてくる。この者達はどれだけ本気を出させてくれるんだ? と
「君達程度が、どれだけ集まろうが勝てると思ってるのかいっ。僕は一位だ。僕が最強だ」
そうかな? と二人は唇に笑みを刻む。
生意気な笑みを掻き消さんと、レノウは物理魔法により、光エネルギーを屈折させ、光剣を練る。
『光力の剣』
幾つもの光剣が枝分かれし、槍のように降り注ぐ。
「邪魔」
絶対法則が司銀を展開させ、全ての矢の如く降る剣を防ぐ。
「へぇ……」
硬度が全く違う。ベルゼブブではこれを即席の司銀防ぐなんて出来る筈は無いのに。
「私のスキル、舐めないで」
他人のスキルを身につけ、使いこなす。その力は最早原作を超えていく。その力(司銀)は最強の盾となる。
今度は攻撃「滅銀雨」
お返しといわんばかりの、銀の槍が弓のように射出される。
『反射』
レノウは物理反射の壁を展開させ、攻撃へ備える。が、対魔法の効果を持ち合わせてないはずの絶対法則の司銀は反射魔法を貫通してきた。
ガラスが割れるような音が響く中。急遽回避を余儀なくされる。刹那。目が合った。少年だ。臆せず向かってくる一人の青年が剣を薙ぎ払おうとする。
そんな中、ゆっくりと剣が振り下ろされる数秒。レノウはゆっくりと呟いた。
『賛美歌』




