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エルフの里2-1それでも、レノウは笑うのですが


 ーー絶対法則はベルゼブブにより、司銀の檻に閉じ込められた。周りは銀色一色、触れると金属の冷たさがあった。


 「嘘……下手……だよ……ベルゼ様っ」


 あんな状況で見捨てたなどど、無理過ぎる嘘だ。こんな重厚な檻を作る必要なんて、守る以外にある筈は無い。もし、自分の身でベルゼブブが助かるならば、何時でもそうしよう。だが、ベルゼブブは死ぬ気だ。


 自分を助けて死ぬ気なのだ。そんなのはあり得ない。どんな理由があろうとも、自分を救ってくれたのはベルゼブブだけだ。


 司銀はベルゼブブ以外に操る事は出来ない。だが、そんな法則(ルール)は自分には通用しない。全ては自分で切り開く。その為の力がある。


 絶対法則は覚悟を決める。主を助ける為、全てを賭ける。


 「ごめんなさい。ベルゼ様……貴方の命令……一度だけ……破る」


 絶対法則はスキルを発動させ、銀の檻を破った。


ーー


  ベルゼブブは驚きを隠せない。確かに、絶対法則のスキルは全てのスキルを吸収し、無効化し、自分の物として取り込み扱えるスキルだ。だからといって、司銀はそんな簡単にコントロール出来る代物では無い。


 「ベルゼ様……ごめんなさい」


 「何をしているんですっ?!  逃げなさいっ!  相手は1位っ……!」


 ベルゼブブと絶対法則の会話をレノウが遮る。ベルゼブブの体を光の槍が貫通した。


 「僕が用があったのは元々そっちなんだからさ、いい加減……!」


 レノウが言葉を発した直後、絶対法則がレノウの体を吹き飛ばした。が、レノウは空中で一回転し、何事も無かったかのように体制を立て直す。


 絶対法則はベルゼブブの元へ行き、回復魔法を掛ける。


 「ほーちゃん、貴方、まさか……既に、私よりも強いのですか?」


 何も言わない絶対法則の沈黙をその通りだと受け取る。


 「ベルゼ様、今まで、ありがとう」


 ニコッと。笑いレノウへ向き直る絶対法則。


 「全くー、ちょっと油断しちゃったよ。反射を設定するのを忘れていた」


 「万物の利よ、その全て、私が書き換える、完全なる不規則……不安定な調和、破壊の王」


 絶対法則はレノウを無視して言葉を紡ぐ。


 「完成せよ」


 そして、最後に、言った。


 『完成(ジ・エンド)した絶対(オブ・)法則(ユニバース)


 絶対法則の瞳が金色に輝く。比喩では無い。


 「ん?  何をしたってのかな?  変わったようには見えないけれど……」


 「これから……」


 次の瞬間、レノウとベルゼブブは自分達の目を疑った。絶対法則の魔力が凄まじい速度で上昇して行くからだ。


 「スキル、『豪王の右腕』、『天使の礼装』、『魔人人形の歯車』、『千人殺し』……」


 淡々と語られ、その度に絶対法則の力が上がる。その一つ一つ、全てがスキルと魔法だ。


 「なるほど、その力、多数のスキルを同時に使う事が出来るんだ。しかもその使用者以上の性能を発揮する」


 「スキル『世界(ワールド・)秒針(ブレイク)』」


 絶対法則がそう呟く。次の瞬間、レノウの体に幾つもの裂傷が刻まれた。


 これにはレノウも驚愕を隠せない。序列7位のベルゼブブに対しても無傷だった。なのに、目の前の14位はいとも簡単に自分へ傷をつけた。


 レノウはそんな状況に、笑った。


 「いいねぇ!  君!  その力ぁ!  一時的とは言え7大罪なんて軽く超えているよ」


 興奮するレノウを無視して、絶対法則はもう一度スキルを発動する。


 「スキル『世界(ワールド・)秒針(ブレイク)』」


 このスキル。使用者を時間の狭間へ入る事が出来る力だ。単純に言えば、自分以外の時間を止める。


 しかし、負担も大きいし、出来て一度に5秒が限度。元の使用者でも3秒だったのだ。これが限界だろう。


 今度こそ、油断しているレノウを仕留める為、時間を止めて襲い掛かろうとする。


 自分以外が全て静止する世界、レノウの首目掛け剣を横に、振り払う。が、それをレノウは受け止めた。


 「お……し……い……ね」


 (馬鹿なっ?!  何故動け)


 5秒が経過し、止まった時が動き出そうとする。筈だった。


 が、周りの世界は動かない。絶対法則本人も感覚だけ残し体が動かない。そんな中、レノウは一人ゆっくりと絶対法則の剣を手で退けた。


 「時を止めるねぇー、いい選択だけどさ。それ、”僕も出来る”んだよね?」


 「つっっ?!」


 レノウも時間軸に干渉出来る。迂闊だったと、絶対法則は自分の選択を悔いる。もっと考えるべきだった。自分のスキルで模倣(コピー)した事の大半は、この1位は自分の魔法だけで出来るのだから。相手は1位なのだ。


 動けない絶対法則を空中へ投げる。


 「でもね、僕に傷をつけたんだからさ、お仕置きねっ♪」


 絶対法則の目の前の空間がうねり始める。ギギギと何かが軋む音。防御しなくてはならない。けれど体は動かない。


 何も出来ない。絶対法則が恐怖に染まる。逃げようと体を動かす為、必死に脳から命令を送るが、ピクリとも指先の感覚一つ動かせない。ここはレノウが切り取った時間軸なのだ。自分が止めれる5秒を圧倒的に超えられていた。


 「ここら一帯にかかる重力をお見舞いするよ」


 (嫌つっ!!)


 絶対法則の体に恐怖が満ち回る。


 「重圧(グラビティ)(ゼロ)


 刹那、凄まじい衝撃波が起こった。凄まじい爆音を走らせ地割れ。放射状に破壊の余波が広がる。同時に静止した時が動き始めた。


 絶対法則は城の中へ吹き飛ばされていった。やられたのだ。一瞬で。


 ベルゼブブは何も出来ずに唯、傍観するだけだ。自分には何も見えなかった。唯、一瞬でレノウが怪我を負い、絶対法則の姿が見えなくなった。規格外過ぎる戦いに、最早なす術を持ち合わせていなかった。


 力無く崩れ落ちるベルゼブブを無視して、レノウは自身の傷を回復させると、絶対法則の死体を回収する為に城へと向かった。


 ーー何が起こったのか分からない。凄まじい衝撃後、体が吹き飛ばされた。それだけしか分からず、全身の感覚は麻痺している。


 立ち上がろう、とすると下半身に力が入らない。そこで初めて、絶対法則は自分の腰から下が無い事に気付いた。何重も重ねがけした補助スキルを使っても尚、死ななかったのが限界だった。それでも、右腕は動かせず、全身が裂傷と骨折だらけになっていた。


 不思議と痛みは麻痺していて無い。回復しなければ、と思いスキルを使おうとする。が、全身の半分が無いからか、魔力が練れない。


 (ここで……終わり?……まだ……死ねないのに)


 城の何処か。緑色の光に包まれた幻想的な回廊のような室内。絶対法則は自分の限界が近付いている事に焦った。次第に息が浅くなる。自分の倒れる地面は血の地が広がって行く。次第に瞼が重くなり、体の感覚と意識が遠退く。


 脳に血が足りず、最早考える事も出来ない。深い眠りに堕ちかけたその時、半分暗くなる視界の先を偶然見た。


 緑白色に輝く光の先に、一つの葉がついていた。神秘的な雰囲気を放つその葉の先には人のような者が入っている水晶がある。


 それは本当に偶然だった。このエルフの里の中枢、全ての木や草、花の命の源。ユグドラシルにより作られた。世界樹の葉だった。


これこそが、サタンとベルフェゴールがそれぞれ狙っていた、エルフの里に隠されし財宝。死者の蘇生の触媒にもなる宝具。だが、ここにいる絶対法則はそんな事を知る由も無い。ただ、本能に従い、其処へ向かった。


 諦めたい。楽になりたい。体の意思を無視し、無理矢理動かそうとする。


 体は動かせず、四肢は半分が無い。這いずり、ゆっくりと、其処へ向かう。呼吸は最早してないに等しい。這いずる。地面を這う。目の前の一点を目指し、そして辿り着いた。


 が、ここまで来て、体が言う事を聞かない。意識が闇に堕ちてゆく。血を失い過ぎた。暗くなる視界。消えて行く感覚。


 (何で……?)


 眼だ。眼がある。二つの視線、あの少年だ。正々堂々と、自身で一歩踏み出したあの少年が目の前にいる”かのように”絶対法則の網膜に幻が映っていた。眼はただ、言っている。


 諦めるな。


 眼を見開く。諦めかけたその体がもう一度、動く。絶対法則は世界樹の葉を口にした。


 ゆっくりと、その部屋に遅れて現れたレノウ。瞬間、目の前に驚異的な魔力反応が発生した。


 地面が揺れ、天が割れる。膨大な魔力は目の前の絶対法則から発せられていた。


 「何をしたっていうんだい?  こんな馬鹿げた力……それでも僕には勝てないけどさ」


 身の程をわきまえろ、とレノウは再び『重力(グラビティ)(ゼロ)』を作る。ここまでしつこい絶対法則に少々本気を出す。


 辺りの力を無理矢理捻じ曲げ、大気圧を圧縮する。今度は同じ規模のを4つ。城ごと全てを吹き飛ばす威力がある。


 レノウが四つの刃を放つ。凄まじい衝撃の余波に備え本人であるレノウも自身の周りに魔力を展開する。準備が完了した四つの刃を解放する。


 が、爆発は起きなかった。破裂音と共に四つの刃全てが掻き消された。否、見えた限りでは握り潰された。放った四つの刃全てが。

 「君……いい加減調子に乗り過ぎだよ」


 そろそろ本気に、と言葉を発する前に、絶対法則が視界から消えた。突然目の前に現れレノウの腕に掴み掛かった。反応する間も無く、レノウを絶対法則は吹き飛ばす。


 城の地面へ打ち付けられ、床を突き破り、落ちてゆく。


 (馬鹿なっ?!  速すぎて物理魔法が発動出来ないっ)


 ーー絶対法則は膨大な魔力を得た。それでも勝てないと踏んだ彼女は、三つのスキルを重ねて使った。一つは『(ライフ)法乗(ストリーム)』世界樹の葉で得た無限の生命力を魔力に変える力。


 二つ目は「破戒(ラグ・)闇錬金(ロリア)


 多数のスキルを合成するスキル。スキルを創り変えるスキル。


 『狂歌(バーサー・ク)の破壊神』


 禁断のスキル。理性を失い本能に全てを任せる。勝利の為、命も、理性も全てを賭けたーー


 落ちるレノウの頬に、横からの衝撃が襲った。縦の運動が突然横に代わる。崩落し始める城を破り再び外へ。


 「はぁ……はぁ……」


 動きが見えない。それはレノウにはあり得ない事だった。たかが序列14位程度にここまで手こずる何て。予想外の事態と同様がレノウの思考を遮る。


 体制を立て直そうと、魔力を練る。が、練り始めようとした瞬間、絶対法則からの攻撃。久方ぶりに、戦いと言う感覚がレノウを動かした。瞬時に受身を取る。


 レノウの頭を掴んだま、地面へ叩きつける。


 絶対法則の怒涛の打撃は止まない。


 「ハハハハッ、コワス……?コロスぅ?  アアッ!」


 絶対法則は笑う。嗤う。狂気の笑みで、ワラウ。


 人智を遥かに超えた力と速度で攻撃する絶対法則は止められない。そんな中、レノウもこの状況を微笑う。


 「良いねぇ!  最高だ!  これが戦いだ。戦闘だ!  闘争だ!  きなよ、14位!  それでも勝つのは僕だぁ!」


 14位と1位の本当の戦いが始まった。


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