エルフの里1-8 襲撃者止めなきゃならないんですが
謎全然はっきりしなくてすいませんでした。少々お待ち下さい。
姫の悲鳴を聞くと同時、ヤルゲイは部屋のドアを蹴り開けた。
何時もはしない、血の匂いの先には傷ついた姫ともう一人エルフの少女がいる。
「これは……」
言葉を失うヤルゲイに、姫は反射的に飛び付いた。後ろに手を回し、ヤルゲイを震えながら、強く抱きしめる。
「人が……血を流して……」
呆然とする中、間もなく部屋の中に魔法陣が展開される。
「馬鹿なっ!……ここは外部からの魔法は干渉出来ない筈!」
こ番兵1人無くしてこの部屋を守っていたのがこの仕組みだった。古に造られた古代魔法により、外からの魔法干渉が封じされてるこの部屋。入り口の城を固めてしまえば、一番危険な魔法による遠距離狙撃や、魔法波動砲を無効に出来る。
筈だった。そこに今あるべき筈のない魔法陣が展開され、中から3人の人影が見える。
魔導師らしき金髪の女性、それに冷たい目をした少女。最後の1人は間違える筈もない。7大罪の1人ベルゼブブ。
「何故魔法の効かないこの部屋に干渉出来る!」
ヤルゲイの質問に一呼吸置いて、ベルゼブブが答える。
「ウチの魔導師は優秀なものでね。無敵だの、鉄壁だの言っていても何処かに必ず穴があるものなんですよ」
そう言ったベルゼブブの目線の先には、血を流し倒れるエルフの少女がいた。
「その少女、王家の血筋を引いているんですよ。残酷なものですね。双子が許されないという理由だけで、スラム街に捨てられるなど」
「……それと何の関係がある?」
「ウチの仲間の1人に、自分の意思に関係無く、強制的に命令を脳に送り付ける能力を持つ者がいましてね。その者に”姫の命を狙え”とだけ命令しました。この部屋の防壁、王家の人間に限り内部の者を直接経由させれば、別経路で転送魔法を発動させる事が出来るんですよ」
ああ、とベルゼブブは方向を変え、自分の後ろの魔導師に話しかける。
「ここは私とホーちゃんで型をつけますから。貴方は外で準備をお願いします」
魔導師の女性はそれに対し、嫌そうな表情を浮かべる。
「ええーっ、前に戦った少年とリリスが来てるんでしょう? ここまで来れたならまた会いたいんだけど……」
「ユグドラシルの前には時間稼ぎにもならないでしょう。あれを相手にするのは面倒だ。万が一に備えて脱出の手筈を整えて下さい」
彼女は困った顔を浮かべるながらも嫌々魔法陣に戻り姿を消した。
「さて……と」
その声は、今まで無く不気味に、低い声でベルゼブブは言った。
「まあ、話ははこれくらいにして……死にましょうか」
刹那、姫とヤルゲイの体が吹き飛ばされた。二人の体から空気が無理矢理吐き出され、倒れ込む。
「貴方に恨みはありませんが……サタンの思い通りにさせる訳にはいきませんからね。早めに楽にしてあげましょう」
腰から抜かれた剣が姫へ向けられる。姫は先の衝撃で意識を失い成されるがままになる。髪を掴まれ、首元に狙いが定められた。
「貴様あぁぁぁっ!!」
剣が姫へ振り下ろされる。が、姫の体には傷一つ付かなかった。
群青色のオーラのような物が現れて、姫の体を覆っている。
「これは……スキル?!」
発現した。今まで無かった物が。努力で得られなかった物が、ヤルゲイのかつて求めた物がそこにあった。
「このスキルは……俺の為の物じゃない……俺の大切な物を衛る為の力だ!」
『一騎士の盾』
それを見て、敵の少女が一歩前へ出る。
次の瞬間、姫を纏う衣が消えた。
「な…………」
騎士の盾も、想いの力もこの少女の前には全てが取り込まれ、打ち消される。超級の炎魔法だろうと、3位の絶対に消えない蒼炎だろうと、取り込み、自分の力とする。14位、絶対法則の前には通用しなかった。
「舐めないで欲しい……付け焼き刃の力など……私には通用しない」
そう、相手は14位と7大罪。その力量の差は埋める事など出来なかった。
「さて、今度こそ本当に……ん?」
再び剣を取るベルゼブブの足を、フィリアが掴んでいた。
「ハハッ、何かと思えば………ベリアルのスキルが切れましたか。無駄な事を」
弱弱しいその手を振り払い、姫の髪を掴み直す。が、次はその手にフィリアが掴みかかった。
再び振り払う。それでも、フィリアはまた掴み掛る。
「これは面白い。滑稽な事ですね意識の奥でも姉の事を想っているとでも?」
「……ら、せない。お姉……ちゃん」
その手を振り払い、今度は踏み躙る。
「力無き傀儡に権利など無いのですよ。まあ、最後の情けです」
フィリアの体を掴み、姫の横へ無造作に投げる。
力無く、フィリアは姫の手を握る。
「お姉……ちゃん……痛い事して……ごめんなさい……もっと……」
ベルゼブブが剣を振り下ろす。
「お話したかった」
が、又もやベルゼブブの剣は2人に届かなかった。ヤルゲイのスキルでも無い。そこには直接ベルゼブブの刃を止めた剣があった。
「……私は何度も事を邪魔されるのは大嫌いなんですけどね……誰ですか貴方は」
少年は剣を下ろす。ニヤリと笑みを浮かべる。
「気にしなくていい。唯の病んだ少年のお遊びだよ」
再び少年が剣を構え直す。
「少しばかり付き合えよ」
ふぅと、ベルゼブブは息を吐く。
「生憎、先ほど十分時間は取ったのでね……」
ベルゼブブの体から黒く、禍々しい魔力が溢れ出す。
「早急に死になさい」