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エルフの里1-7強襲者の想いと待つ者の想いがあるようですが

 力無く倒れる姫をフィリアはベッドへ押し倒す。そのまま馬乗りになり、四肢の自由を封じた。


 姫の傷はそこまで深い物では無かった。ナイフは細く作られており、大きな傷を作る為よりも痛みを与える為に作られたデザインだ。


 腹部の激痛と、訳の分からない事だらけの姫はとても混乱していた。ただ質問を繰り返す以外事出来ない。


 「……一体……何を」


 「言ったでしょ?  あなたは私の実の姉。私は実の妹なの。初めましてね」


 フィリアは猟奇的な笑みを浮かべ、混乱と恐怖に固まる表情の姫の顔を上から見下ろす。その手に握られた細身のナイフが姫の太股へ降ろされる。


 「ひぐっ!  …………」


 赤い血が、真っ白な太股を伝いベッドの純白のシーツをも赤く染める。フィリアはナイフを抜く。再び太股へ振り下ろす。穴が開き、血が溢れる。


 「ああっ、お姉ちゃんつっ!  どれだけ待ったか……この時を……もっと聞かせてよ……お姉ちゃんの声……」


 姫は分からない。実の妹だったとして、何故自分を傷つけるのか、ただ、泣く事しか出来ない。フィリアのナイフが腕へと刺さる。恐怖に体が竦む。


 「痛いっ!  痛い痛い痛いつっ!!  ……もう……止めてぇっ……止めて下さい……」


 嗚咽混じりのか細い声もフィリアの笑い声否、奇声が掻き消す。


 「アハハハッ!!  いいよ。話してあげる。私はね。どこで生きてきたか知ってる?  エルフの里から切り離されたスラム街」


 フィリアは胸に下げているネックレスの宝石を手に取る。


 「地獄みたいな所で、泥水を啜り、ゴミをあさって生きて……何者かも分からない私にあったのは唯一、物心ついた時から持っていたこの宝石」


 姫にはそれに見覚えがあった。前王妃が身に付けていた宝石だ。代々受け継がれるその宝石には……


 「そう。王家の召喚獣ユグドラシルを操る事が出来る。さっき使った時は出来ると分かっていても心躍ったわ。あんな化物、宝石の所持者である私以外止められる筈が無い。ゲリラなんて使う必要は無かったわね。お姉ちゃんに会うために頑張ったんだよー。城に兵士として入ったり、デマを流してゲリラを作ったり、」


 全てはお姉ちゃんと、二人きりで会うために。


 「最初に私が王族だと分かったのは城に盗みに入った時。金目の物を持ち帰った中に混ざっていたある文献はあら偶然。こんな内容だった訳よ」


 自虐的に、フィリアは続ける。


 『双子の姫と、その処遇について』ってね。


  「……双子?」


 「この国はね、必ず王位継承者は一人と決まってる。双子が産まれた場合、もう片方はどうすると思う?」


 姫の頭は迅速にその答えを導き出した。大臣であるヤルゲイから法律について、聞かされた事を思い出して。


 「国外へ……追放?  そんな事が?」


 けれど、そんな事がまさか自分の身に起こっているなんて考えもしなかった。


 「最初はね、私にも家族がいるんだって……お姉ちゃんがいるんだって喜んだわ。でもね、 段々と思うようになったの。何で私だけがこんな目に合わなきゃならないんだって……私が不幸な分、お姉ちゃんは幸せなんだ……って。そう思ったらね……」


 フィリアがナイフを振り上げ、ドレスを引き裂く。露わになった背中へゆっくりとナイフを当てる。


 「壊したくなっちゃったの」


 ナイフに力が込められ、背中へ刺さる。


 「うゔうっ!……」


 「あはっ、大丈夫お姉ちゃん。簡単には殺さないし、急所は外してるからねっ!  ゆっくり私が味わった不幸の痛み、味わってね」


 そう言ってフィリアは再び、ナイフを姫の背中へ刺す。


 「死にかけても大丈夫!  回復魔法で治してあげるから心配しなくていいよ。お姉ちゃんの綺麗な白い肌……今真っ赤にしてあげるからね」


 狂ってる。姫はそう思った。自分への気持ちが、愛から憎悪に変わった。そうならなければ、自分を保てない程に追い詰められていたたんだろう。


 (ああっ……あなたも一人だったのですねぇ)

 

 苦しかったんだろう。悲しかったんだろう。そこまで曲がってしまうほど。そう姫は思う。けれど、


 「殺される訳には……いかないのですよぉっ……」


 「ん?  何か言った?  お姉ちゃん」


 か細い腕が、フィリアの手を掴む。


 「どんな理由があっても……ここで死ぬ訳にはいかないのです……」


 フィリアは再びナイフを使おうとするが、その手は全く動かせない。


 「くっ……お姉ちゃん……どこにこんな力が……」


 「私を……待っている人がいるからっ!  死ぬ訳にはいかないのですよぉっ!!」


 (ヤルゲイが待っている。今彼は私の為に頑張ってる!  だからっ)


 姫は自分へ向けられたナイフを押し返す。その矛先はフィリアの胸元へ向かう。


 「ああああああああつっ!」


 滑らかにその刃はフィリアの服を貫き、その胸元へ刺さった。


 「ゔくっあっ……そんな……」


 フィリアは糸の切れた人形のように、力を無くし、ベッドから崩れ落ちた。


 しばしの沈黙。何が起こったか姫はよく分からない。分からない事だらけだ。急に現れた女の子に妹だと言われ、刺され、それから……


 「私が……殺した?」


 恐る恐るベッドの下を覗き込む。そこには目を見開いて動かないフィリアがいた。


嫌っ。


 「嫌ぁ……そんな……殺すつもりじゃ……ただ私は……」


 体が震え、なぜか再び涙が溢れる。


 「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁつっ!!」


 ーー同時刻、エルフの里の一角。


 「エルフの娘に掛けた魔力が途絶えたわ。やられたのかしら。姫もそこにいる筈。私の魔力が残ってるからここから直ぐに行けるけど……どうする?」


 そう暗闇に溶ける漆黒のローブに身を纏う女。かつてソウタをロゼと共に森で襲った女性。その隣には二人の影がある。


 「ふむ。少々予定がずれましたが……行きますか。ユグドラシルが勘づく前に、ぱっぱと済ましましょう。ホーちゃん。準備はできましたか?」


 「準備完了……だから、ベルゼ様その呼び方……止めて」


 「この任務が成功したやめてあげますよ。では、目的、姫の殺害。任務実行です」


 


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