エルフの森1-6精霊対チート裏人格さんの戦闘の行方ですが
ヤルゲイとフィリアがそれぞれ姫の元へ向かう頃、中央階段の戦いは更に激しさを増してた。
ユグドラシルはソウタの変化を感覚的に感じ取った。先ほどまでとは何かが違う。けれど、その違和感の正体には気付けない。
しかし、それだけの話。大方、憑依などの代物。魔力、体力共に圧倒的なユグドラシル自身は特に戦術を変える必要は無いと判断し、岩刃を使いソウタを追い詰める。
そのユグドラシルの雨のような攻撃にも、ソウタは全くひるまない。流れるように、攻撃の雨に逆らうことなく、避け続ける。
「なるほど、ここまで自在に岩刃を操れるのか。なら……」
ソウタは目の前に迫る数本の岩刃の一本を手で触れる。すると、急に岩刃はコントロールを無くし静かにソウタの手に収まる。早々と無駄の無い動きでその他の刃を叩き割る。
が、ユグドラシルは岩刃が砕け散ると同時に、その間を縫って早々と移動する。ソウタが体制を崩している横から新たに創り出した岩刃を持ち、首目掛けて斬りかかる。
岩刃がソウタの肌を掠める。しかし、岩刃はそれだけでソウタの体から滑り落ちた。体には傷一つ付いていない。
「おぬし、何か魔力を纏わせておるな?」
ユグドラシルが距離を取ろうと動こうとするが、その足を急に動かせなくなる。強引に地面ごと魔力で浮遊させ、宙へ浮く。
間髪入れずに、宙のユグドラシルをルナの暴風が襲う。砂煙が立ち、直撃するが、無論ユグドラシルには傷一つ付ける事が出来ない。
(実力的には問題無いが……あの風使い先に消しておくかの)
ユグドラシルが自由になった足を使い、ルナを狙いに砂煙の中を動く。ユグドラシルの動きにルナも気づき剣を構える。
一瞬で距離を詰めたユグドラシルに対し、ルナは通るはずの無い風の刃で斬りつける。風の刃を無視してルナを殺そうと間合いに入る。
刹那、届くはずのない風の刃がユグドラシルの手を切り裂いた。
(なっ……召喚獣である儂を……このようなか弱な風が傷を負わせるじゃとっ?!)
本来、高位の召喚獣には”精霊”の守りと呼ばれる衣を体に纏う。低級の攻撃を無力化し身体能力が飛躍的に上昇する。現に二度、風の攻撃は防いでいる。
ユグドラシルは久方に流す血に驚く。体制を立て直そうとした時、直感的に自分の後ろに鋭い殺気を感じた。頭で考えるより前に体は反応していた。全力で横へ跳ぶ。
その場を離れた瞬間に、ソウタが自分のいた空間を剣で振り払うのが見えた。
一時距離を取るユグドラシル。実力では負けるはずが無い。魔力、体力、全てにおいて劣るはずはない。それでも、
「よし、大体分かった。出し惜しみしてる暇も無さそうだしな」
唐突に、数秒の沈黙を破ったのはソウタだった。笑みを浮かべる表情を不気味にすら感じる。
「斬り裂き、断て『断罪せし最後の罪』」
ソウタの手にした剣が銀色の刃から真紅に染まる。
ユグドラシルも剣を受けるため、隙あらばカウンターを合わせるため、土の刃を浮遊させる。
刹那、ユグドラシルの眼前からソウタが消える。と、同時に胸から腰にかけて赤い線が走っていた。
「なっ……儂が全く見えなかった……じゃと? あがつっ……」
ユグドラシルの体に直ぐに異変は起こった。全身が軋むように痛い。視界が揺れる。思わず膝を付く。
「ここで一つ問題だ。こっちは素人。相手は凄腕の格闘家。どうすれば最も早くかつ、確実に勝てるか」
「ああっ……ぐっっっっあ」
楽し気に語るソウタの問いに、悶え苦しむユグドラシルは答えられない。
「分からないか? ならもっと分かりやすくしよう。国や歴史。重要な人物や武人を手っ取り早く殺す。それにはどんな殺し方が最適か? ………………ふむ。分からないか」
地面に座り込むユグドラシルに一歩、一歩ソウタは近づき始める。
「答えはそう。暗殺だ。政治的理由をつける必要も無い。本人に悟られる事なく、警戒される事なく殺す。そんな攻撃に生き物は反応出来るようには出来てないからだ」
一歩、また一歩距離を詰める。余裕を持って二人と戦っていた伝説の精霊ユグドラシルの姿はそこにはなかった。あるのはただの少女の姿だけだ。
「最初の答えとしてはそう。別にリンクで戦う必要は無い。ボクサー相手なら拳が当たる前に銃で殺せばいい。それこそ毒殺だって有効な手段だ。まあ、ここで言いたい事は一つ。相手が出し惜しみしてるなら出される前に殺ってしまえばいい」
ついに、ソウタがユグドラシルの手前で足を止める。
「油断とは最大の弱点だ。切り札とは使う前に封じてしまえばそれまでの事なのさ」
その声にユグドラシルが痛みに歪む顔を上げる。
「儂に……何をしたっ……魔力が……この体は……まるで……」
「俺のスキルは魔力の通った物を斬り裂く。さっきのはそれの最終形態だ。お前という存在自体の全てを断つ。魔力、魔法、力、今のお前はまるで力の無い人間という訳だ」
「戦えない……儂に……価値など無い……」
ユグドラシルが震えながらその手をソウタの足に伸ばす。
「返せ……儂の全て……返してくれ……」
ユグドラシルはソウタに会った時の違和感の正体にここでようやく気がつく。
(そうか……あれは恐怖だったのかの……狩られる側の立場……久しく忘れておった)
ここでユグドラシルの脳裏に諦めの表情が見える。そして悲痛に歪む表情も消えた。それを見てソウタは剣を構える。今のユグドラシルに身を守る物は何も無い。スキルなど使わずとも鉄の刃は軽く肉を裂き、殺せるだろう。
最後に、ユグドラシルはソウタに向けて一言呟いた。
「ーーーー」
「ふっ、どうだかな。じゃあな、精霊さん」
鉄の刃はユグドラシルの体目掛けて勢いよく振り下ろされる。音もしないその刃は体を真っ二つに切断した。
「ふむ。血は出ない訳か。完全に人間まで戻せる訳ではないようだな。やはり生き物としての定義が違うのか……まあ今はいいか」
呆然とその流れを見ている事しか出来なかったルナがようやく声を出し、戦闘を避けて避難していたリリスとソナタが姿を見せる。
「信じられん……召喚獣ユグドラシルをいとも簡単に……」
「そんな事はどうでもいい。上へ急ぐそ」
追いついたリリスが話に加わる。
「そうね。フィリアの様子も気になるし……早く大臣をどうにかして姫を……」
「フィリアの事も確かに気になるな。どうせなら最後まで結末を見届けるとするか面倒ごとも引き受けてしまったものだからな」
そして、四人は階段を駆け上がる。姫を助け、フィリアの目的を果たす為に。
ーーフィリアと大臣。先に姫の元へたどり着いたのはフィリアだった。勢いよく豪華なドアを開く。中の小さな部屋に広がる豪華な装飾に一瞬目を奪われながら、その奥にいる白いドレスを着たエルフの女性を見つける。
「あ、あなたは一体、誰なのですかぁ? ここにはヤルゲイとお世話役の数人以外誰も入れないと言う……」
フィリアは急ぎ、ベッドの上に登り上がると姫を抱き締める。
「ひゃっ?! 誰なのですがっ貴方はぁ? 少し力が強過ぎるのですっ……」
「ずっと会いたかったよ……お姉ちゃん……」
突然過ぎる訪問者の、突然過ぎる発言に混乱する姫。
「ちょっと待っ……」
次の瞬間、姫の腹部に激痛が走り、確認する。そこには銀の刃が光り、白いドレスを赤く染めていた。
「なっ……なの……あなた……は……」
猟奇的な笑みで笑うフィリア。
「うふふっ、あはははははつっ!! ……さよならっ。お姉ちゃん」
長く投稿出来なくてすいません。こんなに待ってくださった読者の方々、また一気に読んで下さってる方々本当にありがとうございます。2月は期末テストに全力を尽くしてました。それからいくつか新作の話を考えたり、書いてました。
それらも何とか一段落して、納得のいくプロットが仕上がったのでまた描き始めたいと思います。これからもどうか、お付き合いいただければ嬉しいです!
よろしくお願いします!