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人喰いの森ー番外編  七大罪ベルゼブブと絶対法則の出会いはこんな感じのようですが

 ゆっくりと意識が戻り、視界が明るくなって行く。体の感覚が戻り始め、視覚に入って来たのは自分の体を抱える何者かの腕だった。


 (……助かった?  ……何で?)


 「おやおや、ようやくお目覚めですか?」


 「つっ……何故貴方がここに⁈  ベルゼ様!」


 絶対法則とベリアルの二人が抱えている人物。紫の長髪に、細身だが締まった肉体の青年。二人の主である、七大罪の一人ベルゼブブである。


 ベルゼブブが立ち止まり、二人を下ろしたのは燃える城が見える森の中であった。


 「あんな爆発……逃れられる筈が……」


 「当然、私が”相殺”した。同じ七大罪なのだから出来て当然だろう」


 思わず言葉を失った。確かに自分の主は同じ七大罪だが、そんな簡単な物なのか、序列6位”蠅の王”ベルゼブブ。自分とは数える程しか変わらない。それなのに追いつける気がしない。


 「さて、問題は無い。見た所ベルフェゴールの奴も無事だろう。私が相殺する以前に辺りに衝撃が出ないよう、異次元へ衝撃を吸収させている魔力があったからな」


 「……ロゼ達も……無事?」


 「ええ、無事ですよ。今は安心してお眠り」


 「……そんな……それでも……今回の目的が……」


 ベルゼブブは首を横に振る。


 「貴方はよくやってくれました。サタン相手では荷が重すぎた。あれほどに成長しているとは予想外でした。これにて天使族も動くでしょう……大人しかった他の7大罪も動き出す筈。火種にしては十分です」


 「しかしっ!……何一つお役に立ててない」


 絶対法則は自分の不甲斐なさに思わず俯く。


 そう言って俯く絶対法則の頭をベルゼブブは優しく撫でる。


 「何も気にする事は無いですよ。焦る必要は無い。さあ」


 そう言ってベルゼブブは絶対法則に手を差し出す。


 撫でられた絶対法則は少し元気を取りも出したようで、ベルゼブブの手を取り再び走り出す。


 「さて、ホーちゃん。アジトに戻ったら作戦会議です」


 「ベルゼ様……その呼び方……ヤメテ……フクロウみたい」


 そう言いながらも絶対法則は喜んでいた。自分を必要としてくれるベルゼブブに。自分の恩人に尽くすと決めた。だから、彼が行くならばどこまでも行こう。


 「もっと……強く!」


 絶対法則はそう心に再び刻み付け、三人は森の中へ消えて行った。


ーーーーー


 絶対法則、彼女は名前が無い。いや、失ってしまったのだ。彼女の転生はソウタのように優しい物では無かった。


 普通の高校生として友人と三人での帰宅途中、急に体の力が抜け、意識が掠れて行った。


 次に目に入って来たのは錆びた鉄の足跡と手錠をかけられた手足。古びた部屋の中に同じ格好で友人達と倒れていた。


 「ここは、一体何?」


 その声に友人二人も目を覚ましたようで、


 「ーー!  ここは何処?」


 「私達、帰り道で」


 そこでは自分の名前を呼ばれていたが、思い出せない。それだけじゃない。自分の名前に関する記憶が全て消失している。


 「お目覚めか、惨めな三人」


 部屋に入って来たのは人間、金髪の青年だった。自分と同じ高校生だろうか、格好は中世の貴族のような服を纏っている。


 「ねぇ、貴方何者?  ここから出してくれない?」


 「それは出来ないなぁ、折角買った奴隷を手放す馬鹿が何処にいるよ?」


 「奴隷?  ってなに?」


 「はぁっー、馬鹿相手は困る。お前らは異世界に召喚されたんだよ。そんでお前らの身柄を買い取った。全員自分の名前がわからねぇだろ? 」


 そう、この時三人の名前はお互いに分からなくなっていた。


 「お前達の”真名”は俺が買った。ある魔法使いからな。だからお前達は俺に逆らえねぇ」


 「そんなっ……」


 そこからは思い出したも無い忌まわしい記憶ばかりであった。無慈悲な暴力と恥辱の毎日。三人は別々の部屋に移された。


 暗い部屋の中で何人もの男の相手をさせられた。太陽も入らない暗い地下牢。ろくに食事も与えられない毎日。


 さらに、そんな中でも最悪だったのは男が大の拷問好きだった事だろう。


 縄で手を縛られ宙ずりにされる。そこからは男の大好きな拷問の始まりだった。


 鞭打ちに始まり、水攻め、電気椅子、火あぶり、身体中の皮膚を剥がされた事もあった。そして、男が最も楽しんでいたのは三枚のカードと呼んでいた拷問だった。


 三枚のカードをシャッフルして選ばせる。そこにはランダムに振られた数字が書いてありその回数だけ自分の体に鉄釘を刺されるといったものだ。


 他に比べれは地味かもしれないが、そうでも無い。切れ味の悪い鉄釘を体に打ち込まれるのは想像を絶する痛みである。釘打ちで段々打ち込まれ、体を動かす度に激痛が走る。


 「ほら、どれがいい?  今日は10回で終わりだからよ、早く選びな」


 「……真ん中」


 男が嬉しそうにカードをめくる。


 「喜べーっ!  15本だ。さあ、何処から行く?  その綺麗な太ももに行っとくか⁈」


 「何が……楽しい?」


 「あ?」

 

 男の手が釘を持ったまま止まる。


 「こんな事……何が楽しいと……聞いているっ!  人を痛めつけ……こんな……こんな……」


 「ははっ!  馬鹿だなぁ、楽しいに決まってんだろ!  自分より弱い生き物を虐める。人間として当然だろうが!自分自身を再確認し、生きていると言う実感を得る!!」


 「……狂ってる……人間じゃない……」


 男は狂った笑顔を浮かべながら作業を再開する。釘を持ち、太ももに当て、釘打ちの準備をする。


 「何言ってやがる……お前も既に人間じゃねぇんだよ……」



 気が狂いそうになるようなものばかり、勿論何度も死んだ。


 そもそも鞭打ちと言うのは常人なら数回程度でしに至る。あまりの痛みとショックに耐えきれないのだ。


 しかし、死ぬ度に、魂は男により呼び直され、肉体は無理矢理回復魔法を掛けられる。何度も、何度も、何度も、何度も、痛みを与える為だけに永遠に蘇生され、生き返る。


 そんな毎日が永遠に続き、ある日。別れた二人と再開させられた。


 二人共見る影もなくやせ細り、今にも死にそうであった。


 「こいつらさぁ、精神が壊れて来てついに蘇生できなくなってきたんだわ。だから、お前に選ばせてやる。どっちか一人に魂を移すから選べ」


 「何……言った……?」


 「だからよぉ、どっち生かすか選べってんだよ。優しいなぁー俺も」


 どっちか……選ぶ?  どちらかが……死ぬってこと?


 「……殺して」


 片方の友人から聞こえてきた声。


 「もう……嫌なの……殺してぇぇぇ!!」


 悲痛な叫びだった。今でもなんで自分だけが正気なのか全く理解出来ない。死にたくなるのも当然だった。


 一人の友人の名は(はるか)将来は美容師になると何時も言っていた。自分の髪型にアドバイスをくれたり、勉強を教えてくれるいい友人だった。


 もう一人は(メイ)ネットが大好きのオタクだか、容姿が綺麗で男子からも人気があり、何時も面白い話をしてくれた。恋愛相談のプロだった。


 「選べ無い……どっちか……なんて」


 「じゃあ、どっちもだな。お前が選ばないんだから仕方ない。本人も死にたいって言ってるしな」


 そう言って男の両手が赤黒く光る。何度も味わった、衝撃を与える魔法。


 「3」


 「ああ、やめてっ!  ……お願いっ!  そんなの」


 「2」


 「嫌ああああああっっ!!」


 「1」


 神様……お願い……助けて……


 「0っ☆!  はいドーン」


 そんな彼女の願いは聞き無慈悲にも聞き入れられずに、二人の体はバラバラに弾け飛んだ。


 「ああ……ああああっっ!!」


 何で?  私が何をした?  私達が何故こんな目に合わなくちゃいけない?  何故私達じゃなくちゃいけないっ!!


 「この世界……が……おかしい……なら……私は……」


 その時だった、突然部屋のドアが破られ見たことが無い青年が入って来た。


 「なんだてめぇ、俺様は貴族だぞっ!  不法侵入は……がっ」


青年は入るなり、男の言動を無視し、胸倉を片手で掴み上げた。そして、もう片方に握られたナイフで男の腹部を刺した。


 「なっ……何を……お前」


 泣き叫ぶ男を角へ投げ、自分の方へ向く青年。


 「この世界を恨むならそれも良し。力が欲しいなら私と来ませんか?」


 謎の青年はそういってナイフを自分へ手渡す。何がどうなってるか分からないがやることは一つ。当然、受け取り、男の元へ歩み寄る。


 「待てっ!  お前だけは助けてやっただろうがっ!  なっ?」


 この後に及んで笑わせる。助ける?  何を?  誰を?


 一歩、一歩、距離を詰める。男は必死に逃げようとするが、既に逃げ道はない。


 「そうだっ……真名の詠唱……おいっ!  あ……がっっ!」


 青年の投げた別のナイフが男の喉に直撃し、男の喉を声を発する前に潰した。


 「これで本当に自由、貴方はその男を殺せます。但し、良いんですか?  人を殺せばもう戻れなくなりますよ?」


 それを聞いて思わず笑う。笑わせるな、何処に戻ると?


 ナイフを振り上げる。男の必死な表情。掠れ声が部屋に響く。


 「終わり」


 そう言って男の首にナイフを振り下ろし、叩き切った。


 真っ赤に染まった両手も気にすること無く立ち上がると青年がこちらを見ていた。


 「貴方には素質がある。私の所へ来れば衣食住は提供しますよ。どうですか?」


 「貴方……私を救ってくれた……何処へでも着いて行く」


 そう言うと青年は満足そうに頷き、


 「では、行きましょうか」


 「待って!  二人は……」


 振り返らないで青年は、


 「残念ながら、既に彼女達は手遅れです……申し訳ない。遺体は後に運び出しておきます。早くここを離れないと面倒な事になる」


 やっぱり、もう彼女達は助からない。


 「分かった……貴方は何をしたい?  何故私を助けた?……」


 「世界を変える為です。その為に貴方の力が必要だ。嫌なら無理にとは言いません。元の世界へ帰りたいですか?」


 今更帰ろうなどどは思わない。二人の友人を失って、人を殺して普通に暮らせる筈など無い。


 「分かった……世界を変える……私もこの世界……復讐する」


 「では、今度こそ行きましょうか」


 その後、今のスキルを手に入れ、天使族のスパイをして今に至る。スキルの名前はベルゼブブがつけてくれた。だから、それを名前として名乗る事にした。


 彼女がソウタと出会うのはそう遠くない未来である。

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