人喰いの森1-9 魔族の王はお強いようなんですが
巨大な会議室がざわめき立ち、黒ずくめの二人を怪しがる獣人族の議員達。
そんな中の一言、サタンとベルフェゴールが臨戦態勢に入る。
直後、部屋中で、いや城中の至る所から爆発音と衝撃が走った。
そして爆発しているのは爆弾では無かった。獣人族の議員達だ。彼らの体が風船のように膨らんで、弾け飛ぶ。
「な……何が起こって……」
フォルスは目の前の光景をただ立ち尽くし見ていた。自分の知り合い、仲間が正体不明の爆破攻撃により殺されて行く。自分も死ぬかもしれない。その恐怖が体を包み、動く事が出来なかった。
泣き叫び、恐怖に歪んだ顔であちらこちらへ逃げる議員達。ゆっくりと、一人、また一人と爆破し仲間を巻き添えにしながら会議室は血の海へと変わって行く。
そんな中、サタンとベルフェゴールの二人は動かずに、じっとその光景と黒ずくめの二人組を見ていた。
「サタン、奴らは何なの? 」
「さあな、しかしお呼びで無いのは確かだ」
二人の高まる魔力に隣に居たフォルスはようやく正気を取り戻した。
今何をすべきか、仮にもフォルスも獣人族の武官であり、頭の回転は早い。この正体不明、前代未聞の状態を打破するために全力で考えた。
そして、手段は一つ。
フォルスは恐れながら、隣にいる二人に声をかける。
「な……なあ、あんたら……頼む! 何が起こってるか俺には分からない。けれど沢山の人が死んでいるっ! 無理は承知で頼む、あいつらを止めてくれ!」
頭を下げ、出来る限りの言葉を使って2人に嘆願した。
幸いにも、7大罪の2人がここにいるのだ。世界のどこにこのペアに勝てる者がいると言うのか。敵の力、能力は未知数。ならば今、自分の出来る事はこの2人に助けを求める事だ。
「断る」
無情にもそれがサタンの返答であった。2人は立ち上がり部屋から出ようとする。
フォルスは急ぎ、2人を止めようとした。
「待ってくれ! 頼む、礼は後でする。現状を打破出来るのはあんた達だけなんだ!」
サタンの肩を掴み、必死に止めようとするが、直ぐに振り払われ、
「これはお前達の問題だ。俺達は呼ばれただけ。序列内の人間が戦うにはそれなりの理由がいるんだ。」
「あるじゃないか! ここであんたが戦えば大勢の人が助かる。そうすればこちらもあんたに借りが出来る。裁判自体の取り消しだって可能になる可能性もある」
引いてはならないとフォルスは思った。自分がこうしている間にも、爆破は止んでない。そんな状況でフォルスは冷静だった。
この爆弾の狙いが何なのか、少なくとも第三者による奇襲ならまだ良いだろう。自分は退避し、王国の部隊によりあの2人組を叩けば済む。
だが、仮にこれが魔族側による奇襲だとしたら?
そうだとすれば首謀者は恐らくサタン。大人しく裁判を行うふりをして、部下に奇襲させ、自分達は自国へ帰る。下手すればそのまま国を襲う可能性もある。7大罪の2人が王国の城まで侵入しているのだ。攻撃には絶好の機会だろう。
だとしたら、この2人はタダで逃がす訳にもいかない。それが自分のすべき事だ。そうフォルスは思っていた。
敵ならばその証拠を、敵で無いならばこの場の鎮圧を。どちらかを2人にはしてもらう必要がある。それがフォルスの出した答えであった。
「サタン、良いわ。ここは私がやる」
突然に、ここで敵の殲滅を申し出たのはベルフェゴールであった。
これはサタン自身にも以外と言えば以外な展開であった。勿論、これは悪魔側の工作でも無いしサタンの部下などでは無い。
「何か考えがあるなら任せる……お前のスキルなら……」
「さっすがサタン。話が分かるわね。任せて」
ベルフェゴールはそう言うと掌に魔力を集める。
「歪曲する空間」
ベルフェゴールの掌から魔力が発せられた。すると獣人族の全議員が部屋から消えて行く。
「私の空間へ移動させてしまえば変な魔力は届かないはずよ。これであなたのお仲間は無事」
さて、と続ける。
「この二人組が何者なのか吐かせるとしますか」
ベルフェゴールが二人組にスキルを使おうとしたその時、黒ずくめの男の一人が指を鳴らした。ベルフェゴールは動きを一瞬止め、様子を見る。
先ほどまで爆発音が響いていた部屋に静寂が訪れる。
「ベルフェゴール、どうし……」
サタンが話しかけると同時に、ザクッと刃物が刺さる音。ベルフェゴールの手には短刀が握られていた。
「ベルフェゴール……何を……」
腹部から血が溢れる中、刺したベルフェゴールの表情は歪み、悲哀に満ちていた。
「サタン……逃げて……体が……」
黒ずくめの一人がローブを脱ぎ、笑い初めた。
「アハハハッ、無駄無駄。俺の『絶対命令』は本人の意思関係無しに行動させるんだからさ」
フードから露わになった赤髪の目つきが悪い少年。その正体はサタン、ベルフェゴール共に知っていた。
「相変わらず趣味の悪いスキルだな、ベリアル。姿を消していたお前が何故……」
「サタンよぉ……俺は単純に利益のある方につくだけだ。それより後ろに気をつけなよ。ベルフェゴールはまだ術の中なん……」
サタンはベリアルの会話を無視し、ベルフェゴールの腹部へ手を当てる。そこから放たれた青い炎がベルフェゴールの体を貫いた。
「サタン……」
ベルフェゴールはそう言って意識を無くし、地面へ倒れた。
「おいおい、敵になると同時に切り離す。非常な事だな」
「ベリアル……リリスが悲しむな。この一連がお前の仕業ならリリスは実の兄に殺されかけたと言うことなんだからな」
「アンタはまだあの事を話して無いんだろう? 真実を知らないからお前なんぞの下についているんだ」
サタンは手の蒼炎から一本の剣を作り出す。
「裏切り者はどの道許さない。それにな……」
サタンは一度倒れたベルフェゴールの方を向けた後、視線をフォルスへ向けた。
「ここから逃げろ。ベルフェゴールを連れてな」
サタンの目には怒りが満ちていた。間違いなくここに残れば死ぬ。フォルスは一言も発せずにベルフェゴールを連れ部屋から出始めた。
サタンにはベルフェゴールの不可解な行動の理由がようやく分かった。
ベリアルのスキルは本人の自覚無しに自分の命令を遠隔操作で与える事が出来る。それによりサタンをここまで自分では気づかず誘い込んだ。
ベルフェゴールの悲哀の表情が脳裏を過る。自分の行動が全て敵の操作だったこと。自分を傷つけた事への悲しみ。そして、解除するにはその体を魔蒼炎で貫くしか無いことを。
「お前は俺の友人を傷つけたっ! それだけは許されない!」
サタンの蒼炎の剣がベリアルを狙い、放たれる。
突如、蒼炎の前に黒ずくめのもう一人が立ち受け止めた。
蒼炎の槍は黒ずくめのもう一人当たる寸前で止まり、消滅した。
「あり得ない……炎属性の最上級スキルである『魔蒼炎』を消しただと?」
魔蒼炎
サタンの持つ魔族の中でも一握りしか得られない最上級炎魔法。どんな魔法でも燃やし尽くし消す方法は無い。
「別に消えた訳じゃねぇよ。吸収されただけだ。ベルフェゴールを消した時点で俺たちの勝ちなんだよ」
黒ずくめのフードが取られ、もう一人の正体が明らかになる。ベリアルとは正反対、綺麗な青い長髪に整った顔。何よりその少女は人間であった。
「なるほど……お前か、序列14位『絶対法則』本名も知れてない、天使族と共にいるお前が魔族と組んでるなんてな」
絶対法則は表情一つ変えず冷たい眼差しをサタンへ向け、
「……関係ない……下らない世界……終わらせる為」
「ハハッ、サタンよぉ、こいつのスキルは全てのスキル、魔法を魔力に変換し吸収する。消えない炎も吸収されちゃ、かなわいよなぁ」
「……そう言うこと……貴方……私いる限り……詰んでる」
「さぁ、この世界から退散願おうかねぇ!」
ベリアルと絶対法則が地面から飛び上がり距離を詰める。
サタンは 二人に向け魔蒼炎を放つ。が、先ほどと同じように絶対法則に打ち消され、無防備な状態をベリアルの雷魔法が襲い、直撃する。
強力な電撃に体が痺れ、サタンの体は吹き飛ばされる。
すぐに体制を立て直すが先ほどまでいた所に二人はいない。刹那、耳元にかすかな風の音。
本能的に、体は前に飛んでいた。次の瞬間、先ほどまでいた地面が吹き飛び、爆発した。
(まずいっ! 仮にも序列14位か。魔法の威力だけなら俺を超えてるかもしれねぇな)
実際にサタンの読みは当たっていた。絶対法則のスキルは吸収した魔力を自分の魔法に上乗せ出来る。それは通常の物理法則を無視して行われ、自分だけの独自の法則で作られる。
つまり、今の地面を崩壊させた重力魔法。当たれば無効には出来ず、サタンといえども解除不能のまま、永遠に地下深くまで落ちて行く無敵の重力魔法のである。
サタン自身の魔蒼炎は炎である以上、目にも見えるし回避も可能。だが、絶対法則にかかればその特性のみをあらゆる魔法、スキルに付加出来る。
「こんなもんですか? 魔族の王様よぉ! 」
サタンはゆっくりと立ち上がり、
「お前達の目的は何だ? 俺の命か?」
サタンの問いにベリアルは冷笑し、見下しきった目をする。
「それもそうだが、それだけじゃねぇ。獣人族の王を取る事が目的だ。気配を探してみろよ! この城に俺たち以外は残ってねぇ」
サタンが実際に気配を探ると確かに、城には他に気配は無い。
が、それを知ってサタンは安心した。即ち、スキルを解放しても問題ないと言うことに。
(仕方ないな)
「出し惜しみは無しだ。生きて捉えようとしたが……無理そうだな」
「この後に及んで強がりかよ? やめときなっ!」
「お前は知らないんだよ……まだ何も」
サタンは自分の額に指を当て、一言呟いた。
「神化……『星落とし(メルトアルター)』
サタンの額にもう一つの第三の目が浮かび上がり、体から凄まじい魔力が放たれる。
地面が揺れ、城が崩れて行くが、それでもベリアルと絶対法則の余裕の表情は変わらない。
「あ? 何が神化ですか? 魔力が上昇しただけだろうが! 何も代わりはしねぇぞ!」
「確かにな。この姿は俺の一つの技を出す為だけにある。その技の反動から守る為にな」
サタンの言を無視して絶対法則が青い髪をゆらし、魔法をサタンに打つ準備をする。
だが、サタンはそれを見るなり笑い出す。
「やめとけよ。地面の揺れ、この正体気づかないのか?」
ハッとしたように、今まで表情一つ崩さなかった絶対法則が驚いたように天井を見上げる。
「ベリアル……空……何かくる」
徐々にゴゴゴと地面が揺れる轟音と白い光が強くなり、天井が壊れた。その上空に現れた物を見て二人は絶句した。
「なっ……これは……隕石そのものだとっ!」
「あり得ない…」
そこには城一つあろう巨大な隕石が迫っていた。距離はわからない。真っ白に燃えるその隕石は確実にここに、確実にあと数十秒で降り注ぐ。
サタンがゆっくりと告げる。
「終わりだ。嫌ならお得意の魔力でどおにかしてみろよ」
サタンの声を聞くなり絶対法則は隕石を吸収しようとする。
が、出来ない。
「どうして……吸収出来ない」
「お前のスキルは魔力を吸収するだけだ。俺は隕石を落とす為に魔力は使ったがあれは本物。魔法で作った物じゃ無い。
こうしている間にも、轟音と熱と光が強くなる。
「なら、サタンを狙え! 術者本人を消せばいい!」
ベリアルの一言を聞くなり、絶対法則は先程と同じようにサタンへ不可避の重力魔法を放つ。
が、サタンの周りの地面が陥没しただけで本人は無傷。
「言ったろ。あの隕石から自分の身を守る為のスキルだと。この姿は一定時間、自分自身を物理、魔力を一切受け付けない」
「なっ……あり得ない! そんなの……ただのチートじゃ……」
「ああ、お前の法則無視ごときでは止められない。ケンカを売る相手を間違えたな……これがただの10番代との絶対的な差だ」
「貴方……正気? こんな規模の攻撃……この星ごと消す気?」
「関係ない。ただ、お前達を消すだけだ。後の事より自分の心配でもしたらどうだ?」
絶対法則は諦めたように、座り込んだ。光が強くなり、目も見えないほどの閃光が辺りを包む。
「言ったろ。お前らは俺の大切な友人を傷つけた。俺の『憤怒』を呼び起こした。……それがお前の罪だ」
サタンの一言を最後に、降り注いだ隕石の光が全てを消し飛ばした。
友人「あのさぁ、報告あるんだよ」
俺「何だよ、こんな夜にLINEしてきて」
「……俺も晴れてリア充になりました!」
「……イヤミ?」
「いやいや、それよりさテスト大丈夫か? 期末だぞ?」
「お前やっぱイヤミだよな?」




