人喰いの森1-7 サタンとベルフェゴール
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確実に入った一撃はロゼの体を斬り裂き、衝撃音と共に吹き飛ばした。
「や、やったか?」
手応えは確かにあった。いくらロゼが強くても、俺のスキルなら魔力を使った防御は無効。あの時ロゼは俺のスキルを使いこなせず魔力が暴走していた。あんな状態では魔力を使う事は出来ない筈だ。
「ソ、ソウタ? ねぇ? どうなったの?」
ソナタの声に気づいて振り返ると、そこにはいつも通りのソナタがいた。先ほどまでの魔力が嘘のように静まり、泣き腫らした目で俺を見ていた。
「ソナタ、一体どうやったんだ? 俺の致命傷をあんなに簡単に治すなんて……それがお前のスキルなのか?」
そう聞くとソナタは不意を突かれたような感じで、
「スキル? 何の事? 私は何もしてないのに……ソウタの傷が一人でに治って行って……ルナも、リリスも傷が治っていったのよ」
そんな筈は無い。あの魔力は誰が見てもソナタから溢れ出していた。魔力についてまだよく分からない俺にも分かるぐらいなのだ。無意識で起こしたってことなのか?
「……うーん、わ、私はどうなったのだ? あの女から致命傷を受けて……」
「あれ? 確かあの女から黒い光が見えて……それで……」
ルナとリリスは先ほどまでの傷は何も無かったように治っていた。
「ルナ! リリス! 無事なのか?」
「一体どうやって……まさか貴方が?」
「ねぇ、あの女はどうなったの? 」
心配そうに聞くリリスの声で思い出した。
「そうだっ! ルナ!手伝ってくれ!
二人の無事と勝利の余韻に浸っている場合では無かった。ルナと共にロゼを吹き飛ばした方向へ向かう。
「待てっ! 誰かいる」
ルナの注意を聞いて急ぐ足を止める。
「新手か? この状況で増援なんて出されたら……」
「静かに。耳を澄ませば声が聞こえる距離です」
ルナに言われた通りに静かに草むらに身を隠し気配を押し殺す。
「ロゼ。貴方がこんなにやられるなんて予想外よ、相手は序列外の掃除の筈。新入りだからといってこのミスは簡単に許される事では無いわ」
「……分かってます。しかし、相手の人間のスキル、あれは確実に強力です。私がコントロール出来かったのですから」
聞こえてきたのはロゼの声ともう一つ、高く綺麗な女性の声だった。
「ああ、リリスの召喚した人間ね。それほど強いとは予想外。貴方は一度本部で傷を癒しなさい」
(こいつ、リリスを知っている?)
「しかし……あいつらは原因は分かりませんが傷が全快しております。すぐさま奴らは追ってきましょう。少年のスキルも分からない現状でお一人での戦闘は厳しいのでは?」
「貴方はお父様から何を学んだのかしら? まあ、待っておきなさい……貴方を撤退させる魔法陣の時間稼ぎぐらいなら楽勝よ……」
軽い感じで聞こえた声の主、聞いている感じロゼよりも強い実力らしい。
「どうするルナ? このままじゃ逃げられちまうぞ」
「逃がしてはなりません。あの女の話だとこの事件には裏があります。私達が貴方達を誘拐する時点からかもしれません。そんな裏切り者の証拠を逃がしてしまっては、貴方達の無罪を証明出来なくなりますよ?」
ルナの話だとこちらの”7大罪”以外に自国にも裏切り者がいると言うのか。そいつらを発見できれば俺達とサタンの無罪も証明出来る。
「けど……そうなるとお前の任務は失敗になるんじゃないか? 俺達を自国に連れ帰ってサタンを殺すのが目的だろう?」
「こちらにあんな危険な奴と繋がってる裏切り者がいるならそれを発見する方が先決です……それに……」
ルナは俺と合わせていた目を逸らし、
「……貴方達とは戦いたくない……」
それは小さな声だったが確かに聞こえた一言だった。この事件の黒幕を暴けば俺とルナはもう争う必要は無くなる。
逆にこいつらを逃がせばまた殺しあわなければならなくなるのだ。
たった一日だけの付き合い。ついさっきまでは殺しあった仲。それでも共に戦いロゼを倒した。お互いに相手を知ってしまったから。助け合ってしまったから。
だからもう殺し合う事なんてしたくなかった。
たとえ敵がどんなに強くても、それはルナを斬る事に比べれば、何も怖くなど無い。
「行こうぜルナ。お互いの為に、あいつらを捕まえる!」
ルナも立ち上がり、剣を鞘から抜く。
「ええ、お互いの為に、これが最終決戦です」
ルナが腰に下げている予備の剣を鞘ごと外し俺に手渡す。
「貴方も武器が必要でしょう。これを使って下さい」
差し出された剣をしっかり握り、腰にかける。
鞘から抜いたその剣は驚くほど綺麗で、手に馴染んだ。
剣を握り、俺とルナは先に進む。最後の戦いを終わらせる為に。
ーーーーー
時は少し遡り、サタンの城には多数の獣人族が飛空挺から降り立っていた。サタンの身柄を拘束し魔族の国の戦力を削ぐ為である。
「ですから、サタン殿、貴公の部下が私達の船に乗り込みスパイ行為を働いていた事は分かっておられるでしょう。同盟を破ったこの件……こちらとしてはしっかりと責任をとっていただけないと……」
犬耳の男性武官がサタンを説得するが、サタンはそれを遮り、
「でしたらその証拠を見せて頂きたいですな。こちらの部下の身柄を確保したといっておられたのに全く姿が見えませんが……どう言う事です?」
毅然とした態度を取るサタンに押され気味になる獣人族の武官。それもその筈。本来ならばソナタ達が朝方には帰国し、部下の身柄を人質に交渉出来る予定だったのだ。
それが実際はどうか、ソナタ達の船とは連絡がつかず、先ほどの情報では人喰いの森に墜落したとの連絡も入った。ルナほどの護衛が付きながら逃がしたと言うのか?
勿論、この武官はソウタ自身の強さと黒幕がいる事などは知る由も無い。そして切り札が無い以上サタンの身柄を確保する事は難しかった。サタンの強気な態度とこの状況を覆す事は難しかった。
そんな均衡状態の中、突如部下の後ろが騒がしくなっている事に気づく。
「おい! 大事な時に何を騒いでいる!! 」
「そ、それがっ! 一人の魔族がこちらに話があると……」
と、部下の一人が話終える前に100名程度の武装した部下の集団が突如爆音と共に宙を舞った。
突然の出来事に唖然とした表情をする武官。その視線の先には一人の女性が居た。
ピンクの腰まである綺麗な長髪に整った顔、高貴な身なりをしたその少女が宙を舞う部下の中をこちらに歩いてくる。
「い、一体何者ですっ? これだけの部下をどうやって……」
すると、サタンの強気な表情が初めて消え、ため息をつきながらその正体が告げられる。
「……何の用だベルフェゴール」
その名を聞いて犬耳武官は唖然とした顔から驚きに変わる。
七大罪ーー魔族の間で100年に一人と言われる逸材、それが七人同時に生まれた奇跡を呼ぶ名称でもあり、それぞれが序列内に入っている魔族の最大戦力。
特に問題視されているのがそれぞれが一筋縄ではいかない曲者揃いだと言うこと。
七大罪最強であるサタンが魔族の長としている為、今は他の大罪も大人しくしているものの、その姿を見た者は獣人族の武官でもそう多くは無い。しかもその七大罪が二人も目の前にいるのだ。
見つめ合う二人の目線は動かず、サタンの一言に対してベルフェゴールは一言も話さず不気味な沈黙が包み込む。
そして、沈黙を破ったのはベルフェゴールであった。
「ひっさしぶりー! サタンっ! ねぇー元気にしてたぁ? ベルちゃんが会いに来てあげたよーっ!」
満面の笑みを浮かべながらサタンに抱きつく少女。犬耳武官は突然のギャップに固まってその光景を眺めていた。
「だっ、だから人前で抱きつくのはやめろっ! 何でお前は昔から……うぷっ」
ベルフェゴールはその巨大な胸でサタンの顔を埋め、話終わる前に遮った。
「もーっ! 久しぶりに会えたってのに! 何なのーその態度っ! 昔はよくこうしてあげたら喜んでたのにっ! 最近また大きくなったと思わないー?」
サタンは巨大な谷間を手で掴み抜け出し、
「うむ。確かに大きくなった。それに嬉しく無いとは言わん」
それを聞いてベルフェゴールは嬉しそうに、
「でしょーっ! これでも大変だったんだよー秘境の探索だったり何だったりっ! ねぇっ! ほらっ! いつものやって!」
「いやっ、でも、ここでは……」
嫌がるサタンを見てむすーっとわざとらしく頬を膨らませるベルフェゴール。
「やってくれなきゃ怒るよ?」
するとサタンは渋々と諦めた様子でベルフェゴールの頭を優しく撫でる。
「えへへーっ、ありがとうサタン」
散々惚気切った後、ようやくサタンが話を振る。
「それで本題は何だ? 世界を回っていたお前がこのタイミングで帰って来て何もありませんでした、は無いだろ」
「さっすが、話が早い。単純な話、今からこの犬耳さんの国へ行こうー」
レッツゴーと言った様子でガッツポーズをするベルフェゴール。この一言にはサタンも驚いたようで、
「……意図が分からんな。どうして今いかなければならないんだ?」
「だってー、サタンが責任が何とかって揉めてるって聞いたから飛んで来たんだよ? 私がいれば弁護も出来るし何より心づよいでしょ? それに……」
そこまで話して最後の部分は犬耳武官に聞こえないよう耳打ちした。
「………………」
その一言でサタンの顔色が変わる。
「ねぇ、どうするサタン、行くの? 行かないの?」
「その話、本当だろうな?」
「私がサタンに意味の無い嘘をつくと思う?」
ベルフェゴールが真剣な眼差しでサタンに告げた最後の一言で決意は固まったらしい。
「分かった。今から行こう」
「さっすがサタン! ご褒美に今夜は沢山遊びましょーねっ! あー楽しみーっ! 」
ここで犬耳武官は正気を取り戻し、状況を整理して為すべき事をなそうとする。
「そ、それではこちらの船にお乗り下さい。高速艇なので魔物に出会わなければ昼頃には……」
そう言って船内へ案内する犬耳武官をサタンが遮り、
「いや、高速艇は必要無い。今からと言っただろ」
状況が飲み込めない犬耳武官、困惑するその手をベルフェゴールが握る。
「じゃあ、今から行くわよーっ! サタンと私のハネムーンー!」
「で、ですがここから首都までだと約8000kmほどありますが……」
そこまで話すと、目の前の空間が歪み、何かが軋むような音がした後、目の前には巨大な建物が見えた。
現れたのは 見間違う筈も無い自国の城であった。
「なっ、何いぃぃーー!」
あまりの出来事に犬耳武官は驚きを隠せない。
確かに転移魔法は存在する。しかし、それは転移先とこちらを繋ぐ魔法陣が存在しなければならないそれ無しで行うならば、距離はかなり限られる。
それをベルフェゴールは国同士の行き来を転送魔法陣無しで行えるというのだ。この距離でこの芸当が出来る人物など、世界でも数える程しかいないだろう。
何故七大罪の一人がこのタイミングでサタンをこちらへ向わせる手伝いをしたのか。その真意は分からない。
二人はその足で城へと向かって行く。この時点で二人を止めなかった事を犬耳武官は深く後悔する事になるのだが、今それは知る由もなかった。
サタンとベルフェゴールの話もこれから書いて行きます。一度話が上手く纏まったらサタンの過去編も書きたいなと思っております。
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