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人喰いの森1-6神聖皇風(セイクリッドレイ)





 「久しぶりだな。随分と面倒な事になってるらしい」


 相変わらずゆっくりとした口調でもう一人の俺は続ける。


 もう一人の俺の顔が確認できるだけでその他は何も無く、また地平線まで薄暗い空間が続いていた。


 「あの敵、瞬間移動をしている訳じゃないな。お前の中から見ていた。それに一人で気づくとは」


 そう。少女の消えるような移動は決して瞬間移動などでは無かった。ただ消えたと錯覚するほどの高速移動だ。


 ルナが攻撃されている間注目したのは足元。足元に流れる黒煙が少女の移動前必ず渦巻く。そしてその黒煙の動く先に必ず移動する。そして移動前に必ず少しの間魔力の貯めが存在しそのコンマ数秒少女は動きを止めているのだ。


 動かないタイミングと移動方向がつかめたならあの大蛇と同じ。俺のスキルで止めることが出来た。


 「足元の魔力を使って加速し高速で移動しているようだな。しかしまだ自分のスキルの本当の使い方を理解してないのか」


 もう一人の俺は少し呆れたような顔をする。


 「そんな事分かる訳ないだろ。  第一なんでお前は俺のスキルの使い方を知っているんだ!  何故俺は何も知らない使い方を出来た?」


 「単純な話だ。俺とお前の感覚は一種共有されている。俺が練習すればお前も出来る」


 例えば、と説明口調でもう一人の俺が続ける。


 「自転車で言うと最初から乗れるわけじゃ無い。それが何度も練習して行くうちに普通に何事も無く乗れるようになる。それと同じで俺が覚えたスキルの使い方が本能的にインプットされるんだ最も、使いこなせるのはお前の自力だと少しのようだが」


 「俺が必死に呼びかけているのは聞こえていたのか?」


 「ああ、だが本来二つの意識がここで会話すると本体の身体は無意識の状態になる。言うならば無防備そのもの。 あの戦いの中そんな事は出来ないだろ」


 確かにここで会話しているって事は今身体は無防備な状態なのか。


 「待てよ!  じゃあ今戦いはどうなってる?」


 「俺にも分からん。突然の突風と光で何も見えなかっただろうが」


 そうだ。ルナが一度きりの技を使ってそれで飛ばされて……皆はどうなった?  リリス達は無事なのか?


 「今すぐここから戻させてくれ!  早く戦わなきゃならない!」


 今身体が無防備だとしたらそれもまずいが、ルナの作ってくれた隙とチャンスを無駄にしている事になる。


 「待て、ここは俺が出よう。嫌な予感がする」


 何言ってる?  それなら何故最初から出なかったんだ?


 「制限時間があるからだ。心配するな。何とかしよう」


 待てよ、


 ここでもう一人の俺が出れば確かに戦況は有利になるだろう。あの少女がどれほど強いかなんてのは俺は分からないが、全てを任せても良いのか?


 否、良いわけがない!


  あの時リリスは確かに怪我をしていた。それだけは絶対に許せない。ルナも敵である俺を助けてくれた。なのに俺は自分は一人他人に任せて引っ込んでおけとでも言うのか?


 そんなのは絶対に嫌だ!


 「待てよ。ルナからソナタの安全や共闘を約束したのは”俺”なんだ。あいつは任せてくれ!」


 もう一人の俺はそれを聞いて軽く冷笑した。


 「そんなに楽な相手では無いぞ。何か対抗策はあるのか?」


 「それは……」


 確かに相手の力は未知数。その上こちらの攻撃を当てることさえ難しい。ルナが戦えないとしたらさらに戦況は悪化する。


 「何の為にお前をここに呼んだと思ってるんだ。幸い時間が無いわけじゃない。出来る限り教えてやるよ。お前のスキルの本当の使い方を」


ーーー



 『神聖皇風(セイクリッドレイ)


 剣に炎属性の魔力を纏わせ剣を高熱化、それを颶風高原(ウインドハイランド)と合わせ放つ必殺技。


 飛空挺の戦いでは飛空挺自体を破壊する威力の為放てなかった。何百度まで熱された空気が一気に膨張し爆風となり炎と共に相手を襲う。


 その速度風速300km/h。


 自然界の力では起こせないその暴風は全てを根削ぎ吹き飛ばす。異世界に存在すると聞く破壊兵器、原子爆弾の爆発時の風速と同等のその破壊力。


 その証拠に目の前は全て燃え尽き、森は吹き飛んだ。目の間には燃えた森と粉塵で少女の生死は確認出来ない。


 が、使用者の勿論ルナ自身もただで済みはしない。


 自身の魔力全てを消費する必要があり、風の反動は逆方向に相殺の風を発生させても全身がボロボロになるのは免れない。


 現に今ルナは立っているのが限界だった。


 「はぁ……はぁ……これで……やったか?」


 膝をつき、今にも倒れそうになるのをなんとか堪える。胸の傷は止血こそしたが、当たりどころが悪かったようだ。


 「やってくれるわねぇ。ここまでとは正直想像してなかった」


 「なっ……」


 何処からか確かにその声は聞こえた。あの少女の声である。あれを受けてまだ生きているのか?



 突如目の間の地面が盛り上がる。そして、そこから現れたのはあの少女だ。


 「くそっ、化け物め……」


 だが、明らかに消耗していた。身体に纏う魔力の黒煙は半分以下になっていたし、身体のあちこちに切り傷と火傷の後が見える。それでも受け切ったのか?


 「あははははっ!  あれが限界?  だとしたら終わりね。全く唯の掃除の筈が大怪我じゃない。だから嫌だったのよ。こんな役」


 「こちらの台詞だ。素性の知れない実力者に突然襲われるなど……人喰いの森だと言うのに……お前は一体何者だ?」


 「アンタさぁ。ここに落ちたのが本当に偶然だと思ってるの?  とんだ楽天主義ねぇー!  偶然な訳無いでしょう」


 偶然じゃないだと?  ここに落ちたのが偶然じゃないなら他にこの展開を仕組んだ者がいる?  


 だとしたら目的は何だ?  ソナタ様が狙いと言うなら最初からソナタ様を狙えば良い筈。


 「アンタはここでリタイアだから気にする必要は無いわ。まあ、まずそうだけど今はそんな事言ってられないわね」


 少女の手に黒煙が集まり、指先がこちらへ向けられる。


 「じゃあ、さよなら」


 『黒煙閃光零(イノセントゼロ)


 そこから打ち出された黒い閃光が音も無く、鎧を貫く。


 が、その閃光はルナの鎧を掠めただけだった。


 その後ろにはソナタとリリスがいた。リリスは怪我が酷く意識がやっとと言った状態だったが、最後の力を使ってくれたのか。少女の攻撃が当たらなかったのは彼女のおかげだろう。


 「ルナっ!  もう良いからっ!  やめてよっ!  それ以上戦ったら死んじゃうよぉ!」


 決して自分以外の前では見せない涙を流しながら大声でソナタは叫んでいた。


 「ソナタ様……」

 

 そうだ。まだ死ねない。ソナタ様を守るっ!


 失血でだんだんと目の前が暗くなり、意識が飛びそうになる。


 それでも、まだ諦めるには早いっ!

 

 が、無慈悲にも次の瞬間、黒い閃光が自分の身体を貫き、鎧ごと風穴が空いた。


 「ルナあぁぁぁーーー!」


 「あはははっ!  心配しなくても残さず食べてやるから……ん?」


 少女の顔色が急に笑みから警戒へと変わった。


 急にソナタから巨大な魔力が感じられたからだ。


 それは少女の持つ目に見えるほどの魔力だったが、自分の持つ黒い魔力とは真逆、ソナタの身体からは白銀の魔力が溢れ出していた。


 そして、その光がルナを覆う。


 「 へぇ、面白いじゃない。どんな味がするのか楽しみねぇー!」


 少女はソナタに向け、魔力の閃光を放つ。


 が、その光は突如一刀両断された。


 「やらせねぇよ。ルナもソナタもリリスも助ける。その為に俺は此処にいる!」


 目の前には先ほどの少年が真っ直ぐな目をこちらに向けながら立っていた。


 読んで頂きありがとうございます。


次の話でついにソウタのスキルの内容が明かされます。そして、舟が人喰いの森に落ちたのは何故なのか、相手の少女は何者なのか、少しづつ謎が解けてきます。

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