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飛空挺にて1-6最終  新たな局面へ

 

   殺すつもりは無いだと?


 少年の表情に怒りは無く、先ほどまでの殺意は全く無い。自分に勝つことで全て終わったかとでも言うように。


 「何を言っている⁈ 敵を生かすなど、貴方に何のメリットがっ……」


 「但し、リリスの治療はしてもらう。大分出血しているがまだ間に合う筈だ」


 少年はルナの言葉を遮り、強めにそう言うとリリスの元へ向かう。


 「リリス、大丈夫か?」


 落ち着いて話しかけるが、返事は無い。顔色も悪く、息はあるものの、一刻を争う容体だ。


 少年はリリスを抱きかかえ、傷口に服の布を当てながらルナの元へ連れてくる。


 「リリスは悪魔だからな、詳しい事は分からない。どうなってるか分かるか?」


 「私は治癒魔法を使える程度で怪我についての知識は持っていない。基本的には人間と変わらないと思うが……」


 「そうか、恐らく急激な多量の出血で血圧が下がりショック症状になっているな。触った感じでは傷は臓器には達していない筈だ」


 ルナは驚きを隠せなかった。今まで自分が習ってきた戦闘と言うものは唯、剣を使う事と魔法の事のみ。戦いとは普段ならばスキルを出した時点で終了していた。


 そもそもスキルを持っている事自体稀な事だし、自分のスキルと剣術はソナタ様の側近として仕事できるほど高レベルなのだ。



 この少年は医療の専門知識まで戦闘に組み込んでいたのだろうか。しかも、今だに少年のスキルの詳細は全くつかめない。自分には無い知識。自分の弱さを痛感する。まだ生きてること自体が奇跡だと言うのに。


 「しかし、一体どうするのです? 私はこの通りもう魔法は使えません。下半身は全く動かせません」


 「方法はある。俺に回復魔法を教える事は可能か?」


 「今この場所でですか⁈」


 「ああ」


 そう言う少年の顔には迷いが無く真っ直ぐにこちらを見ている。


 「それは無理です。回復魔法の習得は他の魔法に比べ難易度は高い。本来は補助などがあって始めて仕える技術なのです」


 「俺の仕える魔法は”衝撃”のみだ。それと回復魔法の違いの感覚を教えてくれればいい」


 「言葉で説明するとなると……”衝撃”は手に力を入れて体の魔力を力に変換しますが、”治癒”(ヒール)はその力を弱め、力を発するのでは無く、渡す、と言った感じでしょうか」


 言葉ではそう言うがそんなに簡単な事では無い。まるで最初は箸が上手く使いこなせないように、そこには幾度もの練習が必要なことだ。

 「分かった」


 少年はそう言ってリリスの傷口へ手をかざす。

 (何をしている?そんな見様見真似でできるほど簡単では……)


 しかし、数秒の後、少年の掌から青い光が見え始めた。紛れもない回復魔法の発動の兆し。


 「なっ……貴方一体どうやって……」


 それは回復魔法と言ってもルナのLevelには程遠い弱い物だった。しかし、確かに効果はある。すこしづつリリスの血は止まって行き、顔色が戻ってくる。


 数分の後、リリスの傷は完全に塞がった。


 「ふう。ここまでしか再現出来なかったか。次は……」


 そう言って少年はルナの背中へと掌を翳す。


 「なっ、何故ですか? 私は敵国の兵士ですよ? 傷が癒えればまた貴方を襲うかも知れないと言うのに」


 そうは言うが、ルナは今動く事が出来ない。そのまま治療は進み、数分後には何とか歩けるまでには回復した。


 「俺の実力では恐らく神経を完璧に元通りにする事は出来そうに無い。まだ戦える状態じゃないだろう。ここからの仕事も手伝ってもらう必要があるからな」


 「仕事? 敵相手にそんな事をを手伝うとでも?」


 「なら死ぬだけだ。 俺含めここにいる全員でな」


 「いいえ、この船は今私達の国へ向かっています。どの道貴方はお終いです」

 

 この船は自動操縦で自国へ戻るように操作してある。船の乗組員がやられているのに船が落ちないのはこのおかげだ。既に空は赤く染まり夕焼けが空を包んでいる。


 もうすぐ着く筈だ。予定では日が落ちるまでには帰って来る予定だったのだ。


 しかし、甲板から見下ろす景色には森しか無く、城下町や城のような風景はない。何か、不安な違和感を覚える。


 「微弱だが、風の魔法は使えるな?」


  「なっ、何を?」


 背筋に寒気が走り、嫌な汗が吹き出す。


 「この船は”逆走”している。なに、単純に舵を逆に回しただけなんだがな。正確には逆走では無いか。適当な方向へ走っている。」


「そして、ここからは俺の仮説だか、そろそろ何処かの国の領土に入ってるんじゃないか?すると入った舟はどうなるか」


「……攻撃される?」


そうルナが答えた瞬間に、突如船体へ衝撃が走った。気づくと目の前の空間へ魔法陣が展開されている。


「ここはっ! 私の国では無い。あんな魔法陣は見たことが無い」


目の前の魔法陣はどんどん増えて行き、花火のように空で展開され、不気味な魔法文字が書かれている。


「飛び降りるぞ」


「は?」


ルナはそんな拍子抜けな声を上げる。


「この舟は予め壊れる様に細工してある。これは俺のアイデアでは無いがな。奴らの攻撃で木っ端微塵だ。お前は自分の主を見ておけ。俺はリリスを連れる」


そう言って少年はリリスを抱きかかるので急いでルナも気絶しているソナタを抱きかかえる。


「そんなっ!無茶苦茶なっ、貴方方に”颶風高原”を発動させなければ落ちて死にますよ?」


航空高度は200mに設定してあった筈だ。間違い無く、そのまま落下すれば即死だろう。


「俺とリリスがこんな森で死んでみろ。死体の回収はどうする? スパイの証拠はなくなり、お前達は他の国への不法入国をどう説明するつもりだ?」


「貴方、脅しのつもりですか?」


確かに、ここで死なれては困る。不法入国の問題を取らされ、最悪は死刑の可能性すらある。


「準備は良いな? 一、二の、三で飛ぶぞ」


「ちょっと、貴方、まっ……」


「一、二の」


少年はルナの声を無視してカウントを始める。

「三!」


 そうカウントを数えると少年は飛空挺から飛び降りた。


 考える時間もない、ルナもソナタを抱きかかえ、飛空挺から飛び降りる。


  下は唯の森、仕方なくルナは”颶風高原”を発動させ、自分と少年の落下速度を弱め、地面へと降りた。


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