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 いっせいに馬と兵士が走りだす。

 穴穂皇子あなほのみこの部隊は見えない。




 大前小前宿禰の邸は宮中から少し離れた山を切り開いて建てた場所にあった。

 物部もののべ一族である大前小前宿禰が匿ってくれるというのは、大変心強く、ありがたかった。


 門をくぐりぬけ、広大な敷地に建つ大前小前宿禰の邸に飛び込んだ軽太子と軽大郎女たち一行はすぐさま武器をこしらえた。


 軽大郎女は体の震えがおさまらず始終震えていた。

 時の流れに追いついていけない。

 穴穂皇子が裏切るとは予想していなかった。

 兄は知っていたのかも知れない。

 こんなに段取りよく大前小前宿禰の邸に逃げ込むことができたのも、あらかじめ計算してあったのかもしれない。




 穴穂皇子の軍勢は日に日に増えていった。

 百官もものつかさや人民たちが穴穂皇子についたという情報は、大前小前宿禰の部下から入ってきた。

 軽大郎女は顔を覆った。

 門の向こうでは、役人たちで地面が見えないほどになってきた。

 その間、軽太子は軽大郎女を不安にさせないようにと優しかったが、不安は膨るばかりであった。



 年の離れた兄を意識しだしたのはいつであったか。

 幼い頃から、二人は他のきょうだいと比べてもとりわけ仲が良かった。ほとんどの時間を共に過ごし、片時も離れなかった。



 最初は、妹として愛してくれていたが、軽太子はしだいに溢れる愛を抑えられなくなったという。

 気持ちを打ち明けてもらえた日は、興奮して一睡もできなかった。

 軽太子こそ、天皇となるべくして生まれてきた人である。

 恐れを知らずに突き進み、そして、軽大郎女を選んでくれたのだ。

 軽太子ほどの優れた人物のそばにいて、彼を愛さずにいられるか。彼を愛さないほうが、よほどまともではない。



 人の影が傾き始めた頃、急に空が曇り出した。

 軽大郎女の不安は頂点に達した。


 おずおず外を眺めると、無数の軍勢はいつなだれこんでもおかしくない状態にあった。


 その時である。


 群がっていた兵士が道を開き、穴穂皇子が現れた。

 射抜くような冷たい目をしている。


 不意に、風が強くなった。

 穴穂皇子の左右のづらが揺れる。

 そして、雪が降り始めた。






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