ひとつ、ふたつ、みっつ…「いっぱい」
今、飼っているセキセイインコのピコが卵を抱いている。
木でできた巣箱に、卵が三つ。
今日の朝に三つめを産んだ。
「ひとつ、ふたつ、みっつ……いっぱい」
お母さんがそんなことを私に言った。
「なに……それ? 」
「ん。「鳥の数え方」。「三」まではわかるんだって。
だから卵がみっつまではわかるらしいよ。よっつ以上は「いっぱい」になるみたいね」
「……ひとつ、ふたつ、みっつ。あとは「いっぱい」」
「そう。だから、今卵を取っちゃうとわかったちゃうんだよ」
「だめだよ。卵とっちゃ」
「そうだよねぇ」
お母さんはそう言って笑った。
ひとつ、ふたつ、みっつ、いっぱい……。
次の朝。ピコはまた卵を産んだ。私には「よっつめ」。ピコには「いっぱい」
でもこの数になると、とても抱きにくそう。
時々足とかお尻からはみ出して。
それを一生懸命並びなおして。
場所が落ち着くと、安心して、もこもことふくれてじっとしてる。
ひとつ、ふたつ、みっつ、いっぱい……。
今日はピコの代わりにポコが卵を温めてる。
やっぱりもこもこふくれて、じっとして。
ピコはすごいいきおいで餌を食べて――。
気持ちよさそうに羽をつくろって――ひなたぼっこして。
しばらくしてから、巣箱に戻っていく。
「ねぇ、お母さん。「お父さん」のポコにも四個の卵は「いっぱい」なのかな?」
「そうだろうね。それは「鳥の数え方」だから……」
「ふぅん」
ピコが産んだ卵は結局全部で四つ。
それから二十日ぐらいして、三つ孵って、一つはダメだった。
だからピコにもポコにも子供は「みっつ」なのかな?
そんなことを考えた。
「知ってるか? 」
お父さんがまだ羽の生えきらないポコとピコの子供たちを見ながら言った。
「知らない」
「まだ何も言ってないだろう? 」
お父さんが私の答えに困ってる。
だって「知ってるか? 」って聞いたから「知らない」って答えただけじゃん。
「この三羽の子供たちはな。普通のインコじゃないんだぞ。
そのうち、お前より大きくなって、お父さんよりも大きくなって、人を乗せられるぐらい大きくなれるんだ」
「なに、それ? 」
私がじーって見ていると、お父さんがにやにや笑ってこう言った。
「すごいだろう。ポコとピコの子供は、普通のインコじゃないんだ」
「私も乗せられるぐらい大きくなるの? 」
「なるさぁ。この三羽の子供たちが大きくなったら、世界一周の旅なんていいなぁ」
「その前に、みんな疲れちゃうよ」
「……そうか」
「そうだよ」
私はお父さんを見ながら――ちょっとわくわくしていた。
「私を乗せられるぐらい大きくなる」――どこまで大きくなるんだろう?
「世界一周」は無理でも、毎朝、幼稚園に連れて行ってくれるぐらいは飛べるようになるかな?
おじいちゃん家に行かれるぐらい飛べるかな?
そしたらみんなに言っちゃうな。「ポコとピコの子供はすごいぞ」って。
「ちょっと。へんなこと教えないでよ」
「ごめんごめん」
お母さんがお父さんを怒ってる。お父さんは笑いながら謝ってる。
なんでだろう?
でも――結局ポコとピコの子供たちは大きくならなかった。
ちょっと残念。
「仕方ないよ。セキセイインコはこの大きさなんだから」
「……お父さんが言うな」
「そうだな……ごめん」
私はお父さんに怒って。
今年もピコは卵を産んでいる。
今日の朝に三つめ。
「……お父さん。明日にはピコには「いっぱい」になるんだねぇ」
「何だそれ?」
私がそう言ったら――お父さんが目をぱちくりしていた。
「しらないの?「鳥の数え方」だよ。「さん」まではわかるんだよ。
でも「よん」はわからないから、「いっぱい」になるんだよ」
「……へぇぇ」
「すごいでしょう。だからピコには明日は「いっぱい」になるんだよ」
「そうか。じゃぁ、今日までは卵の数はわかるんだな」
「そうだよ」
私とお父さんの話を――お母さんは笑いながら聞いていた。