[01]
「皆さん、初めまして。私が、このロアイヤ日本地区の聖華高等学校校長を勤めさせていただいております。来栖トウマです。
これから皆さんには、数々の困難に立ち向かう事になるでしょう。それが帝国についてなのか。それとも天界や魔界についてなのか……。
ですが、ここにいる半数以上の人は、きっとその困難を打ち破ってくださる事でしょう」
現在、私たちは入学式の会場に整列している。
これは、この地区を発足する前に存在していた日本と言う国の習慣を模しているらしい。
(正直、わずらわしい……)
この学校は、将来の戦士を育成する機関だ。
アジア圏連合国内に設立されたこの高校は、数多くの戦士を輩出してきたエリート高と言われている。
そして、その実績は『日本地区最大の高校』と言うほどの設備にも現れていた。
そんな高校とあって受験生の数は万を超え、そして毎年1500人の新入生がこの講堂に集められる。
そしてその半数の生徒は、『予備』、『二軍』、『雑草』と呼ばれる生徒だ。
決して冷遇されているわけではないが、優遇もされていない。
『予備』の生徒たちには、卒業した証は付与されるがそれ以上はない。
つまり、戦士としても優遇される事がないのだ。
それでも、この学校に対し入学を希望する生徒は後を絶たない。
(そんなに、この学校に未来への望みなんてないと思うけど)
「私たちにとって、君たちは有望な未来の卵だ。それぞれ、精進を……」
(如何して、この学校に私を入れたの……。こんな世界に私は何を学べばいいの……)
きっと、今の私を見たら彼女は怒るだろう。そして、優しく道を示してくれるんだ。
私は、きっと甘えていたんだ。でも……。そのせいで彼女は死んだ。……私のせいで……。
「ねぇ。大丈夫?」
突然、心配そうな声を掛けられた私は現実に思考を戻す。そして、それと同時にその声の出所を探していた。
それはすぐに見つかる。こちらをじっと。それでも何処か優しさのある視線を私に向けていたから。
(そんな目で私を見るな……)
「なにが?」
「なにがって……。ものすごく辛そうな顔してたよ」
「そう。でも大丈夫だから」
「そっか。あんまり無理しないでね。私、佐伯リサって言います」
「……」
(なんだ。その期待に満ちた目は)
「なに?」
「なにって……。名前は、何ていうんですか?」
「……アシュタット・ザ・フロスト」
「そっか!アッシュは、どこのクラス?」
(アッシュ……。いきなり、なんなんだこいつは……)
「1のF」
「一緒じゃん!私、知り合いが居なくて心細かったの!!だから、どうやって同じクラスの人と仲良くなろうかってずっと考えててさぁ!!!」
「……」
「でも、こんなに綺麗な人が同じクラスなんて、運がいいよね♪」
「……」
「でさ。全然寝れなくって、今日は、もうダメかなっ「今、この状況で何が一番ダメだと思います?」」
彼女からしたら、突然背後から耳元で囁く様に語られる言葉は、背筋が凍るほど恐ろしいものがあったのだろう。
その状態で悲鳴を上げなかったのは、彼女が今の状況を冷静に分析することが可能だったからなのか。それともただの偶然なのか。
「あとで、職員室に来なさい。もちろん、あなたも一緒に」
完全に巻き添いじゃないか。そんな思いが表情に表れてしまっていたのだろう。
「不満がありそうですね。ですが、それにその件についても後で聞きます。では、放課後に……」
心の中で盛大に溜め息を吐くのだった。