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五十二話 Hello world!

 なんとかべる子の準備を終えた紅葉は、千鶴が居るカサスタウンに移動させようとインベントリを開いた。が、ある事に気付きログアウト。そして直ぐさまスクルトでログインする。

 それからインベントリを開くとマウスを操作してスクロールのアイコンを選択、ドラッグ&ドロップで欄外で離しスクルトの足元に置いてログアウト、再度べる子でログインすると今床に置いたスクロールを拾わせた。


 スクロールは【カサスタウン】行きの転移スクロール。所持していなかったべる子に渡したのだ。

 これは床置きと呼ばれるアイテムの移動手段で、置引や運悪く拾う前にサーバーが落ちてしまいアイテムをロストしてしまうなどといったリスクはあるが、個人で別のPCへアイテムを移動させる方法として割とメジャーだったりする。ただしレアアイテムは別だ。


 転移スクロールをべる子へ移した紅葉が早速使用しようとした時、どこかでドアの開閉音が聞こえた。

 発信源は開かれたの自室のドアではなく、もう少しばかり離れた場所。同時に小さな足音も近付いて来る。

 自室のドアが閉まっているか、普段ならかけっ放しの音楽で気付かなかったかもしれない些細な音だ。

 自分にではなく、この部屋の先にある階段に用事かなと思いつつ紅葉が振り返ったのは、足音の人物が顔を出す数瞬前。ラフな部屋着を着た楓が紅葉の部屋を覗き込むと、予想外に振り返っていた紅葉の姿に目を見開き、胸に手を当てびくりと震えた。


「わっ! ……こっち向いてると思ってなかったからちょっと驚いちゃった」

「ふふふっ」

 すぐにいつもの笑顔に戻った楓に釣られ紅葉も笑う。ドアの縁に寄り掛かる姿を見て、階段ではなく自分に用事があるのだろうと判断し、自分から尋ねる事にした。


「それで、どうしたの?」

「んー? ああ、えっとね、今日遊ぶのって皆顔見知りでしょう?」

「うん」

「だから偶にはボイスチャットしながらやろうかって話が出てるの。千鶴に説明もし易いしね。紅葉ちゃんもそれでいいかな?」

 紅葉は意外な提案に驚いたが、想像してみるとお喋りしながらゲームをするのは大変魅力的で、勿論いいよと快諾した。


「よし、それじゃあボイスチャット立ち上げたら、こっちから紅葉ちゃん拾うね」

「うん」

 同意を取り付け自室に戻る楓の背中を見送てから早速ボイスチャットのソフトを立ち上げようする紅葉。

 しかしどういうわけかぴたりと動きを止めてしまう。顔には困惑の色が浮かんでいる。


(…………マイクどこ?)

 紅葉が初めてボイスチャットをした時の相手は楓と千鶴で、それはもう一年近く前の話だ。

 千鶴はあまりボイスチャットをせず、楓は家に居て毎日沢山話すのでネットを介する必要はない。その為、初めてした日以来触っておらず、楓から御下がりで貰ったマイクも今は何処かに仕舞いっ放しだった。

 髪を弄りながら「んー」と眉を顰めて唸り、なんとか記憶を掘り起こそうとするも思い出せない。


(ここじゃあないし……うん、やっぱり)

 扇風機を仕舞ってあった引出しをちらりと見る。ついさっき開いたばかりで記憶が鮮明という事だけでなく、机の引出しはよく開くので無いのは分かっているが、一応もう一度開いて中を確認した。

 手の届く範囲にない事を確認した紅葉は立上がると、椅子の背もたれに手を着き部屋を見渡す。


(クローゼット……、かな?)

 自信なさげに首を傾げクローゼットを見詰める。実際仕舞った記憶はないので自信は全くない。

 それでも一番有り得そうだと椅子から手を離し歩く。


(なかなか思うように前に進まないなぁ)

 新PCを作ったり消したり、ログインしたりログアウトしたり――、上手くいかない自分に自嘲的な笑みを浮かべる。でももう少しだと言い聞かせてクローゼットを開くのだった。



moniG >> 入力デバイス?

『そうそう』

moniG >>あ、これっぽい。

 ヘッドフォンから聞こえて来るいろはたちの声のサポートを受けながら、紅葉はチャットで返事をしてボイスチャットの設定を変更していた。

 マイクはクローゼットの中から案外簡単に発見された。直ぐに楓と千鶴といろはが始めていたお喋りに参加したのだけれど、今度は声が届かなかった。

 三人の声は聞こえるが紅葉の声は届かない事態に、ソフトのバージョンアップや音量やマイクの設定など色々と弄っている最中である。


『――、あっあー、もしもし……? いけた?』

 ヘッドフォンに付いたインカムタイプのマイクにぼそぼそと話し掛ける紅葉。若干緊張気味だ。


『お、聞こえる聞こえる』

『おめーっ!』

『よかった……』

 直ぐに返事が返って来た。ここに到達するまでに随分と苦戦した紅葉はようやく、ほっと安堵の溜め息を漏らした。


『それじゃあ紅葉ちゃんもう来れる?』

『へ? あ、うん。カサスだよね?』

『そそ』

 妙な達成感に浸っていた紅葉だが、まだ始まってもいない。少し間の抜けた返事をして転移スクロールを使用した。


 転移先は中央広場。日曜日の昼前という事もあり昨日より多くのPCで溢れている。目印である“三人組”も一組二組ではない。


『えっと、中央広場?』

『あ、ううん。一度クエストを受けて戻って来たところなの。東のアイテムショップの位置分かるかな? お店の隣りに居るよ』

『うん、了解』

 いろはに返事をしながら東に向かって走りエリアチェンジをする。そして昨日転移スクロールを購入したショップの隣りに立った、ふくよかな体型の女性NPCの前に座った三人のPCを発見した。

 三人の中に姉とその友人から連想するIDがある事を確認してから近付く。


『お待たせー……、合ってるよね?』

 とはいえ確信しているわけではない。自信なさげにマイクに問い掛けた。

 もし違っていたら気まずいので念の為べる子も目線は向けず微妙な距離を取っている。ビビりなので。


『べる子ちゃんだよね? 合ってるよー』

 いろはの明るい返事と、千鶴のいつもながら短い、ああという声、それに楓のPC――、キャロからはパーティ申請が飛んで来た。紅葉はよかったと呟いてパーティに参加すると、三人に並んで座った。

 色々ハプニングはあったが遂に四人が揃った。


『千鶴さんって』

 そして一息吐いた紅葉は、姉たちのPCを改めて見てふと疑問に感じた事を素直に口にする。


『ん?』

『あ、違うや。zhivago――、ジバゴで合ってる?』

『ああ、合ってる』

『zhivagoってスウェットじゃあないんだね』

『ぶふっ』

『ぷっ』

 紅葉の明後日な質問に返って来たのは、千鶴の返事ではなく楓といろはの吹き出す声。


『笑うなっつーの。あー……、あれはあんまりだからって楓がくれた』

『ごめ、うん、最初から世話焼きまくるのってどうかなーと思ったけど、服くらいはね』

『そ、そっか。え、なんで笑ってるの?』

 多数の私服が存在し、それが魅力の一つである【魔法少女おんらいん】だが、作成されたばかりのPCの私服は上下とも非常にシンプルなグレーのスウェット。

 これが絶妙に、ハッキリ言うとダサく、フレーバー要素の私服に拘らないプレイヤーでも、お金が溜まり次第着替えるくらい人気がない。着ているのは最初期かネタであえて着ているPCくらいだ。

 しかし作成されたばかりでお金に余裕のないはずのzhivagoは、ブルージーンズに、おヘソの見える丈の短い白のタンクトップと、ラフだがしっかりと着替えが済んでいる。


『いやー、zhivagoって千鶴本人に似せて作ってるでしょ? それがスウェットで歩き回ってるのが妙に可笑しくってさ、楓と二人で笑っちゃったの。で、着替えてクエストやって、笑いの波がようやく落ち着いたところに紅葉ちゃうが不意打ちでね』

『なるほど。あ、ごめんね千鶴さん』

『あ、いや、怒ってるわけじゃないから気にすんな』

『うん』

 笑いの治まったいろはの説明を聞いてからzhivagoを見て、大いに納得した。

 細身ですらっと背が高くクールな顔立ちをしていて、髪も色こそ千鶴の好む青色ではあるものの髪型はリアルと同じショートカット。確かに千鶴本人に似ている。

 ラフな格好でも格好良く見える千鶴だが、確かにこれにスウェットは似合わないなと思い、また、失礼な発言だったかもと慌てて謝った。


『もう一回行こうか?』

 会話が一段落ついたところで楓が提案する。


『そうだな。さっきと同じクエストでいいんだよな?』

『うん。zhivago以外は適当に狩るから』

『了解。…………………………、OK受けた』

 いろはに確認を取り、zhivagoは目の前の女性NPCに話し掛けるとクエストを受注し立ち上がった。三人も釣られて立ち上がる。


『くっ……、やっぱ難しいな』

 東にある門へ向かいzhivagoを走らせるが、前方のPCや障害物を躱せず何度か衝突していた。


『始めて三十分経ってないんだから十分だと思うよ。私なんか壁に向って走ってたもん』

『そんなもんか。まあ慣らすよ』

 少々悔しさを声に滲ませる千鶴をいろはが軽く慰める。

 通りを抜けた四人はそのまま止まらず、ポータルを駆け抜け町の外に出た。



 カサスタウンの東門を抜けた先は、リジャ平原の南部に位置する【アナン平野】だ。広々とした荒れた土地に、所々丈の短い草原や今にも枯れそうな痩せた樹木が点在している。

 西へ向かうコースから外れた場所に新設されたこのフィールド、門を抜けてすぐ目の前の【アナン平野 1】には、zhivagoと同じく新人マジックガンナーの姿がちらほら見受けられた。


 四人は早速魔法少女に変身する。

 いろはのセカンドPC――、歌留多(かるた)の全身が魔力光の色である桃色の炎に包まれた。

 炎の中から現れたのは、頭以外をフルプレートメイルで固め、桃色の髪をツインテールに結った小柄な少女。クラスは接近戦を得意とするパンツァーだ。右手に握る剣は桃色の魔力刃が煌めき、左手に全体的に若干丸みのある逆三角形の盾を持っている。


 キャロとべる子は光の繭に包まれたかと思うと、一瞬で解かれた。 キャロは白衣と袴に包まれた長く美しい黒髪の清楚な印象の少女に。べる子もコスチュームはキャロと同様巫女装束風に、くり色の髪は金色に輝き左右二つに結われた。

 ただし、歌留多のツインテールとは少々異なり、髪の一部を結ったツーサイドアップと呼ばれる髪型で、ショートカットな為十五センチ足らずの短いアーチを作っている。

 巫女装束もキャロとは違い丈が膝上のミニサイズのもの。小麦色の肌という事もあって二人の印象は大きく違って見える。

 キャロの持つ薙刀とべる子の持つ木製の杖は、外見のイメージで言うなら逆だろうか。


 外に出たら即座に変身するよう癖づいている三人に遅れてzhivagoも変身する。

 前方に発生した光る鏡に飛び込むと、勢いを殺すように地面に靴底を擦り付け青色の火花を散らしながら現れた。

 ショートカットだった髪は伸びてポニーテールに。纏ったブラウンのロングコートの袖を捲り、腰にはガンホルダーが巻かれ、大きな革の手袋をした手にはこれまた大きな黒い銃が握られている。


『べる子も巫女なんだ?』

『あ、うん、実装されてしばらくして作ってたの。結局、チュートリアル受けてから放置しちゃったんだけど。被っちゃったね』

『まぁまあ、気にしない気にしない』

 あはは、と笑いながら楓はクラスの被りをスルーした。

 パーティ内でのクラスの被りはよくある話で、極端な構成でなければ遊べる。ましてや身内で楽しむ分には問題ない。


『それに私薙刀巫女だから』

 キャロは腰を落し両手で薙刀を構えて見せた。


『ロマン系だね』

『それなりに、ね』

 巫女専用の武器である薙刀の(スキル)は他の前衛クラスに比べ数が乏しく体力面も脆い。前衛向きのステ振りをするので、本来なら強力な補助魔法や回復魔法も効力は落ち、伸びないMPは常に枯渇する事となる。

 その所為で、育てようにも身内以外のパーティでは参加を断られる事もよくある話だ。

 だが薙刀そのものの性能はかなりのもので、両手は塞がるが攻撃力は片手剣のそれを上回り、リーチもあって連撃も他の前衛クラスに劣らない。

 舞うような連撃の華麗さにも人気があり、爆発力はあるが覚醒までがかなり遠い前衛型ウィッチ――通称殴り魔とは違い、最初から薙刀を使えるので、デメリットに目を瞑りファーストとは言わずともセカンドPC以降で作成するプレイヤーは割と居る、それなりのロマンなのだ。


『歌留多さんはパンツァーなんだ』

『そだよー。前から資金稼ぎ用にソロ出来る子欲しかったから、この機会にね』

 いろはは本日作成した歌留多以外にエンチャンターのかるたしか持っていない。

 エンチャンターはパーティでは大いに活躍する反面、ソロ狩りには全く向かないのでいろはは資金繰りに苦労して来た。

 そういえばそんな事を以前言っていたなぁと思い返しながら、なるほどと相槌を打つ。


『zhivagoは西部劇というより……、うーん』

『ああ、コート――、いや、コスチュームか。西部劇っぽくしようかと思ったんだけどな、弄ってたら五十年くらい時代が進んだ』

『そうなんだ。五十年……』

『あーっと。そうだな……、あくまで自分のイメージだけど、禁酒法時代のアメリカのギャング……のパチ物。映画の知識だから。で、それを更に改造した。あまり弄れなかったけど』

『なるほど。あ、レベルが上がると少しずつバリエーション増えるよ』

『まあ、これもなかなか気に入ってるけどな。でも楽しみにしとく』

『うん』

 マイク越しに聞こえる千鶴の声は、内容が趣味の映画に絡んでいるからか心持ち明るく、口数はいつもより多い。

 普段紅葉は集団になると聞き手に回る事が殆どだが、紅葉以外は一度クエストを行い互いのコスチュームを見ているので特にコスチュームに触れない。なので積極的に話し掛けて回っていた。久し振りにお喋りしながら遊べ、声も弾んでいる。


『取り敢えずコートに合う帽子が欲しい。ポニーに合うかわからないが』

『帽子かぁ、頭装備は意外と高いんだ』

『そうなのか?』

『武器とコスチューム、それと盾以外に、頭と指と腕、耳、あとは首に装備出来るけど、頭は店売りでも優秀だから長く使えるんだけどその分高めなんだよねー』

『でも特に無駄遣いしなければ、レベルが10になる前には買える筈よ』

『なるほどな』

 二人の会話にいろはと楓も参加して、そこからはどんなデザインにするつもりなのか尋ねたりとお喋りが続く。


 ちなみに、グラフィックのカスタマイズができる武器とコスチューム(服)と盾以外の装備は、PCの外見に反映させないようにもできる。

 スクルトも頭に帽子を被っているが、反映させると外套のフードと重なり見栄えがよくないのと、イメージに合わないという理由からしていない。


 この間狩りはせずにただお喋りをしていた。効率を考えれば無駄な時間を過ごしていると言える。

 門を出てからの五分程の間に何人か経験値やお金を稼ぎに、門の側で駄弁る四人の横を行ったり来たりしていた。

 けれどもゲームに慣れた三人も急かしたりはしなかった。

 あまり口出しして千鶴が嫌気が差しては意味がないからだ。紅葉はただお喋りを楽しんでいるだけだが。


『べる子ちゃんの巫女服可愛いね。ミニの巫女服ってそこそこ見掛けるけど、いっつも目で追っちゃう』

『あはは、ありがとう』

 いろはがべる子に視点と話題を移す。べる子の膝小僧の見える巫女装束は、可愛らしいデザインの好きないろは好みに良く合う。


『アプグレしたらどんなデザインにする予定?』

『んー、手が隠れるくらいに袖を長く、あと大きくして』

『ぶかぶか来たーっ! ああ、つづけてどうぞ』

『フリルも着けたいなぁって。小さなリボン沢山付けても可愛いかも』

『いいねいいねー』

 紅葉は以前考え、今も話しながら頭に思い浮かべていたコスチューム構想を促されるまま話した。内容は満足いくものだったようで、いろはのテンションはぐんぐん上がっていった。


『っと、ウルフ来た』

 そこに楓から突然の警告。同時に薙刀を構えるキャロに、べる子と歌留多も続き、zhivagoも銃を構えた。

 北から小走りで駆けて来るのは【グレイウルフ】と呼ばれる灰色の体毛の狼。


 このエリアには二種のモンスターしか居らず、もう一種はノンアクティブタイプでこちらが攻撃の意思を見せない限り襲って来ない。

 エリアが広い為モンスターの沸きはばらけて狙われ辛いうえに門の近くに居るので、これまでは通り掛かった他のPCがグレイウルフが四人をターゲットにする前に狩っていた。しかし今は偶々周囲に他のPCは居ない。

 灰色の狼の進路を塞ぐように歌留多が最前列に立ち盾を構える。


『ウルフだから狩っていいよね?』

『問題なし』

 確認を取るいろはに千鶴がゴーサインを出した。それを聞いて歌留多はスキルを放つ。


 起点指定型特殊技、挑発。


 パンツァーの初歩の初歩のスキル。ヘイトを稼ぎターゲットを自身へ向かせるものだ。

 ダメージは与えられず信頼度も時に効果が現れるまで連射する必要がある程度に低いが、それでも直接攻撃を加えなくても良いので多用されている。

 今回は一発で成功。挑発されたグレイウルフは正面に立つ歌留多に飛び掛かって来た。

 しかしグレイウルフの飛び付きは歌留多の準備した盾には届かず空を切る。ある意味とてもゲームらしい光景だ。

 そんな間抜けなグレイウルフを、歌留多は右手の剣ではなく左手の盾で打ち付けた。

 盾による攻撃は、武器に比べ攻撃力は低く押さえられていてリーチも短い。けれど盾の特性やモーションを好み立回りに組み込むプレイヤーは少なからず居る。


 両者の間には微妙な距離があったが盾の一撃はギリギリで命中、鼻先を打ちグレイウルフをよろけさせ僅かに後方へ押し出した。

 連撃に持ち込む。グレイウルフを袈裟斬りにすると歌留多は続け様に横一文字に魔刃を走らせる。だが二の太刀は更に距離の開いたグレイウルフには届かず空を斬った。距離感や攻撃の特性を掴めていない前衛初心者らしいミスだ。

 その為盾からの三連撃とはならなかったが、レベル1でも余裕で狩れる相手だけあってHPバーは結構削れた。


 立ち上がったグレイウルフに追討ちを掛けるべく今度は回り込んだキャロが薙刀を振るう。しかし彼女も仕留める事は出来なかった。


『あ、悪い』

 キャロの背中に命中する魔弾。グレイウルフを狙ったzhivagoの射撃が外れ、連撃を二発で止めてしまったのだ。



『いやすまん』

『誤射はあるあるだから』

『うん』

 多少ごたついたものの、所詮は雑魚モンスターが相手。再び斬り掛かった歌留多の手であっさりとトドメは刺された。

 狩り後に改めて謝る千鶴に楓は笑って気にしないように言い、紅葉も頷いた。

 ボタン一つでロックオン、なんて便利なシステムではないので、誤射はゲームに慣れた紅葉たちでも日常茶飯。正直一々気に病んでいても仕方がない。

 ダメージも軽減されるので、紅葉は一応HPバーを確認したが回復はしなかった。


『じゃあそろそろクエスト始めようか。と言ってもzhivagoだけだけど』

『了解』

『あ、クエストの内容って何かな?』

『そっか紅葉ちゃん初めてだったね。ウサギを十羽狩るの』

 襲撃を期に狩りを始める事にした四人であったが、誕生しないキャラメイクにマイク探索と、ばたばたしていて一度目のクエストを見ていなかった紅葉。内容を尋ねるといろはが代表して簡単に説明した。

 いろはの言うウサギとは、このエリアに出現するもう一種の、赤茶けた体毛のウサギのモンスター【あかうさぎ】の事を指す。

 今も比較的近い位置に二羽居り、ノンアクティブタイプなので自分から襲い掛かって事もなく、跳ねたり首を動かして周りを見渡したりしている。これを制限時間内に規定数狩るだけだ。


『ふむふむ』

『私たちが狩ってもカウントされないからウルフ狩ってようね』

『うん』

 このクエストは初期PCのソロ育成を手助けするボーナスクエストみたいなもので、似た内容のものが各クラスの初期拠点の町に用意されていて、それらはクラス限定になっている。これはマジックガンナー限定だ。


『じゃあ適当に動くよ』

 そう言い残しクエストのターゲット外のグレイウルフを求め走り出す歌留多と、それに続くキャロ。


『おう』

 千鶴は短く返事を返し、十メートル程先に居るあかうさぎへと銃を慎重に構えるのだった。

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