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五十話 私たちは多分繋がっている

 足を止め、素早く杖を構える。

 少女の前方に待機させられていた五発の黒い魔力球は突きつけた杖の先へ殺到。脇道のない細い通路を走る【ローオアビースト】の背面を正確にとらえた。

 HPを一割以下まで削った後、鉱石を食べる巨大アルマジロの自然回復に合せ、時折攻撃を加えて生かさず殺さず追っていたスクルト。残り時間が少なくなった今、トドメを刺しにいっている。


 魔法行使による硬直が発生。射撃魔法のそれは、砲撃魔法などの強力な攻撃魔法のそれ程ではない。

 とはいえ軽くよろけただけのローオアビーストとの距離が少々開いてしまった。


 ローオアビーストの移動速度は、アクセサリーで一段階上昇させた現在のスクルトと全く同じだ。直線の鬼ごっこならこの差が詰まる事はない。

 しかしローオアビーストには酷いコーナリングや、行き止まりに突っ込んだりといった無駄な動きが多々ある。射撃後即座に動き出したスクルトがまた距離を縮めていく。

 追い駆けっこの最中、追い抜いた他のmobたちもスクルトを追って来るが、ある程度離されるとターゲットから外れる為、童話の笛吹き男のような長蛇の列にはなっていない。


(時間は……、大丈夫そうね)

 ちらりとモニターに表示された時間を確認する。残り時間はもう一分を切っており、こちらを急かすように点滅しながらカウントダウンが進んでいた。ローオアビーストのHPバーも残り数ミリまで追い詰めているとはいえギリギリだ。

 けれど紅葉は落ち着いている。それは自身の火力と射撃技術に絶対の自信があるからではない。


 脇道からローオアビーストの進路に飛び出す一つの影。我武者羅な走りを躱すと側面に強烈な一撃を叩き込む。


 刺突型攻撃技、アーマー・ピアッシング。


 突き出されたランスが目標の強固な皮を穿つ。

 強烈な突きは見事クリティカルヒット。ローオアビーストは、くるりと後ろ足で片足立ちしてコミカルに一回転。バタリと倒れ沈黙した。


『お疲れ様ー』

『お疲れ様です!』

 ファンファーレが流れクエストクリアの文字が踊る中、転送までのカウントダウンを横目に労い合うスクルトとルウ。この時間はダメージを受けず、また与える事も出来ない。

 では何の為の時間かというと、クエストが終了すると消えてしまう床に置かれたアイテムを回収したりする為のものだ。勿論労うのに使うのも良い。


『乙カレー 今日も美味しいところいただきまして』

『んーん、二号さん見えてたから安心できたよ』

 迷路のような坑内、目視していた訳ではない。

 残り時間が少なくなり、人斬り二号がローオアビーストの正面に回り込もうとしているのを、ミニMAPで把握していたのだ。

 人斬り二号はミニMAPに表示されたパーティメンバーを示す光点――つまりスクルトの現在地を頼りに、ローオアビーストを先回りしたという訳である。


 クエストクリアの余韻の中雑談していると時間になりクエスト開始時のように画面が暗転、三人は入口前に転移させられた。

 そしてクエストを代表して受けた人斬り二号がNPCに話し掛けられているのを、スクルトとルウが待っていると“なぞのいしを手に入れました。”というメッセージが表示された。これがクエストの報酬で、各自に一つずつ配られる。


『さて 戻ろか』

『うん』

『はーい』

 人斬り二号に返事すると転移先などを特に話し合う事もなく、各自転移スクロールを使用してコールの町を後にしたのだった。



 転移先は首都ルネツェン。ルウと人斬り二号とは異なる場所に転移し、パーティも解散してしまったので互いの位置も分からなくなっているが、紅葉はwisも送らずにスクルトを走らせ始めた。

 実は一連のクエストは完了しておらず、確認せずとも三人の集まる場所は決まっているからだ。


 賑やか過ぎる露店広場など、三つのエリアを駆け抜けたスクルトは、ガラス張りの綺麗なお店――と言うよりブティックと言った方が良さそうな雰囲気のお店の、ガラス扉を押し入店した。

 店内にはショーケースが並び、中には数多の貴金属や宝石類が飾られている。が紅葉はそれらを無視しスクルトを店の奥に居るNPCの元へ移動させる。そこには既にルウが到着していた。

 紅葉がパーティ申請を飛ばそうとしていると先にルウから来たので許可を出す。一昔前に比べパーティを組む事は増えたが、自分から申請を飛ばした経験は殆どなく未だに作業に手間取る事が多かった。


『磨き終わりましたー。スクルトさんもどうぞ!』

『うん』

 フォーマルなスーツにモノクルを掛けた、格好はまだしも年齢的に場違いな見た目十歳前後の少年に話し掛ける。スクルトに言えた事ではないが。


“やあお嬢さん。何かお困りかな?”

 ニコニコと笑みを絶さないこの少年は、街中に溶け込んでいる魔法関連のNPCの一人。クリックしてメッセージを送ると選択肢が表示された。


【なぞのいしを見せる】【…………】


 会話を流し読みして【なぞのいしを見せる】をクリックする。


“おやこれは珍しい。一体何の石なのでしょうか。磨いてみないと私にも分かりませんね。料金はたったの100,000sと大変お安くなっておりますが、如何なさいますか?”

 何度、幾人のプレイヤーが石を持ち込んでも、その度珍しい珍しいと繰り返す少年の、いつもと変わらない丁寧なようでどこか軽い調子の言葉を読み飛ばし料金を支払う。


『やは とりまクエ終わらせるわ』

『やほーです』

 少年と話しているとログに人斬り二号がパーティに加入した事と、ルウとの挨拶が流れた。人斬り二号の到着を知った紅葉は、自分もさっさと終わらせてようとクリックを繰り返す。


(うーん、ハズレか)

 入手したアイテムを見てほんのちょっとだけ残念な気持ちになるも、直ぐに切替えルウたちに報告する事にした。


『ハズレ。小粒なターコイズだったよ。ルウさんはどう?』

『雀の涙ほどのムーンライトでしたー。これもハズレですね』

『しかたないね』

『はい、しかたないです』

 苦笑いする二人。スクルトはターコイズという時点でこのゲームでは殆どハズレ扱い。尚且つサイズが小粒では初期にしか使いどころがない。

 ルウのムーンライトはターコイズよりはレア度は上だがそれも比べればの話。更に雀の涙ほどのは、小粒よりもサイズは小さく、やはりハズレ扱いだった。

 どちらも今の二人には必要なく、精々数を集めてNPCにトレードしてもらうくらいだ。


『フムン 私もムーンライト 涙サイズの』

 磨きの終わった人斬り二号も二人の会話に参加する。


『あらら、皆さんハズレですか』

『だね』

『ちかたないね』

 三人とも結果は振るわなかったが、さばさばしていた。

 磨いてみるまで分からず、幾度も繰り返したクエストなので期待値も大体把握している。残念な結果には慣れたものなのだ。


『じゃ 飛ぼか』

『うん』

『カサスタウンですね』

 そしてそれは一度で終わらない、最初から繰り返し行う予定のマラソンだからでもある。

 わざわざルネツェンに帰って来ないで何故鉱山のみを繰り返さないかというと、【なぞのいし】を持っているとクエストを受けられないからだ。別のPCに譲渡不可で床置きも出来ない。

 三人はコールの町に行く途中に寄り道したカサスタウンの転移スクロールを使用して、宝石ショップから姿を消したのだった。




(アイアンインゴットか)

 どこからか取り出した小さなマトックでひび割れを叩き鉱石を入手した。

 ひび割れからはゴールドやシルバー、その他様々な種類の希少な鉱石も見つかる。この辺りは非常にゲームらしく節操がない。


『スクルたんスクルたん』

『うん?』

 再び走りだそうとしたところを人斬り二号に呼び掛けられ返事をする。


『ワーラットの右腕要る? 一応レア』

 ログを少しさかのぼると人斬り二号が【キングワーラットの右腕S(R)】を入手したと表示されていた。


『マチュピチュには使えないけど レアだから尋ねてみるテスト』

『うーん』

 ネズミにしては大きいとはいえ小型犬サイズのキングワーラットは、フレッシュゴーレムのサイズの中で最も小柄なSサイズ。スクルトの数倍の体積を誇るマチュピチュとは、当然サイズが大きく異なる。

 人斬り二号もいつもなら使わないだろうとショップで換金してしまうが、レアだったのと、丁度本人が目の前に居たから確認をとってみる事にしたというわけだ。

 ちなみに紅葉も今日胴体を入手しているが、ノーマルなので売却予定だった。


『ちょっと待ってね』

 時間を貰い少し考えてみる事にする。


(アイテムBOXにキングワーラットの素材あった……よね? うん、一応レアは取って置いたはず……。合わせたら造れるかも? うーんでもどの素材持ってたかなぁ……、というかSサイズは造っても使う機会はないだろうし――)

 過去に念の為、というよりもコレクション目的で保管している素材の中にキングワーラットの物もあった。しかしどの部位なのかまでは覚えていない。

 Sサイズは少々特殊で、同じSサイズ同士でも他のモンスターのパーツを繋げられない事が多く、足りないパーツを他のSサイズのモンスターで補えない仕様だ。同じSサイズでも小型犬サイズのものから、一メートルを超えるものまで幅が広いからだと言われている。

 なので基本的にSサイズは全て同じモンスターのパーツを五つ揃えるのが主流だ。


 紅葉はキングワーラットに対し魅力を感じていない。それはこれまたSサイズがネックになる。

紅葉がフレッシュゴーレムに一番求める壁の役割を、十全に果たすのが困難だと考えているからだ。


(でも売って貰おうかな、おっと)

 使わないだろうけれどもコレクション的には欲しい。これはこれ、それはそれ、と今の悩みをまるで無視した結論にたどり着いた紅葉の前に、そのキングワーラットが現れた。


(む、うーん……?)

 いきなり飛び掛かって来ずにキングワーラットは丸盾に隠れながら顔を覗かせる。


(……フレッシュゴーレムにしたら有りかも知れない)

 これまではSサイズという事で使役する気がまるでなく、ドロップも強さも引掛りを覚えない、その他大勢のmobとしか見ていなかったが、意識して見ると案外可愛く見える気がした。

 予備に造っておいて、偶に安全なところで召喚して可愛がるのも悪くないかも知れない、という気分になってきた。


『二号さん、売ってもらっていい?』

『うん もちのロン』

 人斬り二号に伝えチャージを開始する。

 ちなみにキングワーラットはハムスターに似た愛らしい姿ではなく、いわゆるドブネズミのような姿をしていて愛玩動物とは言い難い。

 しかし興味の薄かった先程までとは違い、紅葉にはその荒れた毛並みや真っ黒な瞳、ミミズのような尻尾もなかなか愛嬌があり――。


(素材くださいなっ!)

 喜々として魔法を撃ち込むのであった。



『乙ー』

『お疲れ様ー』

『お疲れ様でーす!』

 首都ルネツェンの銀行前の壁に寄り掛かった三人は互いを労いあった。


『最後に大粒のアクアマリン、出て良かったですね』

『ウィ 助かったよスクルたん これで盾のアプグレ行ける』

『いえいえ、私も欲しかったものルウさんにいただいたし、皆実入りが良い狩りになって良かった』

『ですねー。私も助かりました!』

 宝石マラソンを終えまったりと歓談する。

 途中短い休憩を挟むも計四周した紅葉たち。少々疲れもあったが、満足のいく結果に話も盛り上がっており、伸びをして固まった身体をほぐす紅葉の表情も明るい。

 スクルトらは欲しかった物を誰も自身で獲得できなかったが、パーティ内の誰かが獲得できた。四周したとはいえ、いやむしろたったの四周の結果としてはかなりの幸運と言えるだろう。

 スクルトとルウと人斬り二号は交換し、交換比率のあわないものは現金で補った。


『スクルたん ワーラットつくるの?』

『拠点に帰ってみて箱の中身次第だね。Sサイズ造る予定なかったからレア以外は取って置いてないの』

『ふむむ』

『あ、それでノーマルも買われたんですね』

『そうなの』

 アイテムBOXにある筈のキングワーラットのレア素材。程度は低いとはいえレアには違いないので、人斬り二号から購入した右腕と合わせて三つもあれば良いだろうと紅葉は考えていた。そこで足りない部位は今回三人が入手したノーマル素材で補う予定なのだ。


『あ、すみません。私そろそろ落ちないといけません』

 それから十分程他愛のないお喋りしていると、ルウが二人にログアウトする旨を伝えた。

 釣られ紅葉が時計を見る。そこでようやく、いつ夕食に呼ばれてもおかしくない時間になっている事に気付いた。


(そっか、もうこんな時間なんだ。時間経つの速いな……)

 二人との、久し振りの狩りは非常に楽しく、ゲームを始める前に下がっていたテンションも、気が付けば回復していた。また、四周もしたのだからそれなりに長い時間遊んでいたはずなのに短く感じられた。

 寂しさを覚え、静かにキーに触れる。


『時間早ス 外明るくて気付かなかた』

 タイピングの速い人斬り二号にしては遅い返事を横目に紅葉も続く。


『そっか。私ももうすぐご飯かな?』

『フムン じゃ解散かな』

『です、ね』

 ルウを引き金に、紅葉の言葉が後押しとなってあれよあれよという間に楽しい時間は終わりを告げてしまった。


『久しぶりにおふたりと遊べてすっごく楽しかったです! また遊びましょうね!』

『私も』『うん』『嬉しかったよ また遊ぼ』

 ルウのまっすぐな言葉と、その言葉を受けてか人斬り二号のちょっと照れの見える言葉に、祭りの後のような寂しさを感じていた紅葉の胸は暖かくなった。


『私も。久しぶりで楽しかった。またね』

 そう素直に告げ、三人は手を振ってその場で解散した。


 ルネツェンからホームのイイーヴに転移する。

 葉の付いていない街路樹がぽつりぽつりと不規則に並ぶ並木道(?)を、無表情なヒッピーファッションの少女が疾走する。少女を操る紅葉の口元が自然と綻び、笑みが浮かんでいた。

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