四話 かわいい女の子
あれからだいぶ時間は経ち、現在時刻は午後十時過ぎ。トロールの森に来てから二時間近くが経過した。
当初は雑談しながらとはいえハイペースで狩りをしていたが現在はペースダウン。自然回復も兼ね、モンスターを探して動き回るのではなく、その場にとどまって休憩しつつ襲ってくるモンスターを倒す、といった状態だ。
『んー ドロップしけてますなー』
『ですねー。正直なところ欲を言えば露店で50万くらいで出せる物が欲しいです』
『あれ、ルウさんって呪木の腕輪ドロップしなかったっけ?』
『はい。でもこれって今の相場、30万くらいじゃないですっけ?』
『あんれまー そこまで落ちてたのか 露店面倒臭くて倉庫に大量のストックがががが』
『お、そうなの? じゃあ朗報かな。先月のアプデでドロップ率激減してただ今高騰中、の筈』
『え! 本当ですか!?』
『mjd? 20個くらいある希ガス』
『今150近かったと思う。露店で見て、えってなって、掲示板チェックしたの』
『市場チェック甘かったか でもスクルたんありがとう!』
『助かりました!』
『いえいえー、変動してるかも知れないから売る前に確認しといてね』
はーい! と声を合わせ返事をするルウと人斬り二号。二人にとってなかなか益のある狩りとなったようだ。
二人とは違い腕輪のドロップもストックもないスクルトだが、【トロールキングの右腕L(R)】という考えようによってはエグい、あとLなのかRなのかはっきりしない物を手に入れ、かなり満足していた。
【トロールキング】とはトロールの森8に出現するエリアボスで、右腕はそのボスからのドロップである。
これは通常換金アイテムで、NPCの店で決まった価格で引き取って貰うボスのドロップとしてはハズレにあたるが、ネクロマンサーにとってはゴーレムの素材になるのだ。
名称の後ろに付いたLとはサイズの事で、例えば【イエティの胴体L】といった同じサイズの素材と繋ぎ合わせる事ができる。
また、その後の(R)は補正が付いていたり特殊な使用方法があったりする、貴重品である事を表している。
今回入手した【トロールキングの右腕L(R)】の場合、肩甲骨の辺りに繋げて腕を増やす、という使用方法がある。
という訳で、紅葉のテンションは高い。モニターの前でニコニコしながらマチュピチュ(ゴーレムの名前)の改造に思いを馳せていた。どうも少々趣味とネーミングセンスがずれているらしい。
そうやってほのぼのと雑談しながら狩りを続ける三人。
『そういや今日さ 寝不足だったって言ったじゃん?』
『うん? 今日はもうお寝む?』
今も眠たいのかな、と思った紅葉はもう寝る? と尋ねた。
『んにゃ だいじょうぶ 帰りのバスで寝過ごしそうになっちゃったのよ』
『そうなのですか』
『いつもは降りる場所近付くと何故か目が覚めるんだけどネ 今日は起きれなくって』
『へー、便利ですね』
『うみゅ まぁ今日で信頼度下がっちゃったけど んで 寝過ごしそうになったら隣りに座ってた子が起こしてくれて助かりました ってお話』
『ふむふむ』
どこかで聞いたような見たような、むしろ体験したような話だなぁと紅葉は思ったが、そう珍しい話でもないだろうと気にせず相槌を打った。
『その子同じ学校の生徒で多分同級生なんだけど 今まで話した事なくって お礼言った時に一言二言喋っただけなんだけどね』
『うん』
『ふむふむ』
『ちょっと仲良くなりたいなー なんて思っちゃったりして』
『お』
『お』
なんだか告白話を聞いている気分になってきてテンションの上がってきた紅葉とルウ。
『どうやったら 仲良くなれるか 教えろ下さい』
頭を下げさせるアクションをする人斬り二号。
珍しい。すごく珍しい。頭を下げた事がではない。少々言動に特徴のある人斬り二号だが、ミスをすれば謝るし、ローカルルールやマナーも守るし、空気だって読める。意外と真面目なのだ。
では何が珍しいかというと、リアルの話を自分からする事である。
今までも仲間内限定だがちょっとした事、そろそろテストがある程度の話はあったが、恥ずかしいのかおどけながらとはいえ、相談となると前例がない。
内容が内容だけに協力したい紅葉なのだが、いかんせんリアル友だちゼロ少女。パソコンの前で唸ってしまう。
『別のクラスの子ですかー、だったら授業だと接点はあまりないですよね』
『うん 合同体育かレクリエーションの類いくらいなもんかなぁ そういうのも基本クラスで固まるしね』
『まぁそうだよね』
アドバイスは難しそうなので、悩みつつ相槌を打つ紅葉。
『あっ、そうですよ! 一言二言しか話してないんですよね? でしたら改めてお礼を言いに行くというのは如何でしょうか?』
『ふむ…… しつこく思われないかな?』
『大丈夫ですよ!』
『うん、私もそう思う』
(ちょっと弱気な二号さん可愛いな……)
モニターの前で微笑み、ルウさんに任せれば大丈夫そうだなぁ、と思う。
(リアルだと全然違う人って多いみたいだけど、ルウさんはリアルでも明るそう……、友だち多そうだなぁ)
人斬り二号へ自分なりの意見を言っていくルウを尊敬のまなざしで見る紅葉だった。
◆
『よし それじゃ明日話してみるわ』
『うん、頑張ってね』
『応援してます!』
『ありがと 先ずはクラス探しからだけどネ』
五分程で人斬り二号の相談は終わった。紅葉はここは流れで自分もしちゃおうかなー、とちょっと考える。
(どうやって……、何て言う? いやー私友だちいないんだけど、どうやったら友だちできるかなー、アハハ……、ないわー……、止めとこ、うん)
よく考えると流れ微妙に逸れるし、何よりおどけたところで相談内容はガチっぽい。紅葉にはノリや勢いに任せて言い出すのは無理だった。
とそこに巨大なトロールが突進して来る。通常のトロールより二回り大きな体躯のそれは、肌の色は青く黒い入れ墨が彫られ、手に持った棍棒も太く大きい。【トロールキング】本日六度目のエリアボスだ。
迷わず回復役のルウへ突っ込んで行くが、人斬り二号が突撃してトロールキングを側面から脇腹を貫く。
刺突型攻撃技、アーマー・ピアッシング。
技により通常より多くのダメージを与え、更に側面からの攻撃で与えダメージ一.二倍。更にクリティカルが発生して一.二倍。通常のアーマー・ピアッシングの一.四四倍のダメージを与え、強烈な先制パンチを食らわせると共にタゲを奪い取る。一連の動作は無駄なく機敏だった。
スクルトはマチュピチュを、襲いかかるトロールキングを挟んで人斬り二号の反対側を維持しながら殴らせる。どちらにタゲが移動してももう一方が背面を取れる配置だ。二人の連携でトロールキングのHPバーは勢いよく削られていく。
『スクルたん 相変わらずAI設定良い仕事してるね』
『いやーまだまだ。ちょこちょこ痒いところに手が届かないというか、無駄な動きも多々』
スクルトのゴーレムを褒める人斬り二号に謙遜するスクルト。
人斬り二号のいうAI設定とは、ゴーレムに指示する命令パターンの事で、ネクロマンサーの召喚するボーンゴーレムやフレッシュゴーレムといった実体タイプのものは、何メートル以内に来たら攻撃、HPが四割切ったら距離をどれくらい取る、など一から細かく設定したものを幾つも用意し、状況に応じてプレイヤーが切り換える必要がある。
同じ召喚タイプのサモナーの召喚魔には、初めから幾つの命令パターンが用意されているのに対し、一から作る必要のあるネクロマンサーのゴーレムの動きはプレイヤーによって質が大きく変わる。色々と試行錯誤する必要のあるクラスなのだ。
『すごく上手だと思いますよ! プリンさんもソロで見掛けたけど上手かったって言ってました』
『ありがとう。照れるね』
え、誰? と思うも紅葉は素直に喜んだ。
プリンさんとはルウと同じ同盟に所属するネクロマンサーで、正確なIDはpudding。スクルトとの面識はない。
そうこうしている内にトロールキングを削りきる。雑魚が全く湧かなかった為に余裕を持って終われた。
その瞬間短くファンファーレが鳴り、人斬り二号の頭の上に英語のエフェクトが浮び上がった。レベルアップだ。
『ひゃっほーい』
『おぉ、おめでとー!』
『おめでとうございまーす!』
『ありがとー! ありがとー!! ステ振りステ振りー』
人斬り二号はステータス画面を開きPOWを上昇させた。ヴァルキュリエの一般的な成長のさせ方である。
『POW?』
『うん 火力型だからねー』
『そだよねー。あ、また来た』
新たに出現したトロールキングが突進してくる。
『入れ食いだね』
『ご祝儀です!』
『ジャックポット! って奴かー むっ』
『あ』
トロールキングのタゲを取ったその時、別のトロールが奥から現れた。見た目は普通のトロールと変わらないが、手には棍棒の代わりに角笛を持った【トロールリーダー】だ。
トロールリーダーが手に持った角笛を吹くと、周囲に十体のトロール種が湧いた。自身はさほど強くはないが、こうやって二三度雑魚を呼び出してくる。トロールリーダーの出現率がエリアボスのトロールキング以下なのであまり頻繁に出会わないのだが、トロールキングが居る状況だと少々面倒なモンスターが来たといえた。
『あぁー ホントにジャックポットデスネ』
『うん』
言いながら人斬り二号とマチュピチュは打たれ弱い後衛に向わないよう、片っ端からタゲを取っていく。それから発生源のリーダーを倒しに掛かるが、いかんせんPCの数に対し敵の数が多く、乱戦になりダメージがかさんでいく。
そこでスクルトは雑魚の半数に射撃魔法を撃った。スクルトは自身にターゲットを変えたトロールたちから逃げ惑い、ルウはひたすら回復と補助を切らさないようにしていく。
『偶に こういうの』『テンション』『上がるわ』
『あはは、分かる。まあソロだと結構頻発するけど』
『処理仕切れない事』『あるもんね』
人斬り二号は回避と攻撃の間に、細かく切りながらチャットを挟み、五体のトロールに追い回されているスクルトも、時々射撃魔法を撃ってタゲが外れない様にしながらも返事をする。
忙しそうな二人だが、普段ソロ狩り主体で慣れもあり、意外とゆとりがあった。しかし、二人ほど少人数狩りにおける修羅場に慣れていないルウは焦っていた。
『ルウたん』『数減ったら直ぐよゆうでる』『から楽にいこーじぇ』
『はい!』
『あ 無理に返事しなくてイイヨ』
『はい!』
慌てている様子だったルウに声を掛けた人斬り二号だったが、チャットに参加して余計に慌てさせてしまったかも、と少し後悔する人斬り二号だったが、やっていたら力抜けて楽になるかなーと前向きに考える事にした。
そうやっている内に雑魚はリーダー含め、スクルトを追っかけている奴等以外は片付いた。
『ひとまずお疲れ様』
『お疲れ様です!』
『スクルたん追っかけられながら…… そういうとこ素敵』
『ふふっありがとう。あ、先キング倒しちゃっていいよ』
『thx. この子放って置くと痛いんだよね』
トロールキングと向かい合う人斬り二号。マチュピチュも背後に回り必勝態勢を取る。
『私キングに叩かれたら運が悪いと2発かも知れません』
『ルウさんピクシーだもんね。背面でクリティカルなら有り得るかも』
『そっか ネクロのスクルたん以上に打たれ弱いよね』
種族が妖精族、つまりピクシー、ケット・シー、クー・シーはサイズが小さい為、当たり判定も小さく、移動速度も人に比べ速いという大きなメリットがある反面、与ダメージが十~十五%減少、被ダメージも十~十五%増加するという大きなデメリットもある。
比較的食らい難いとはいえ、いざ食らうとそのダメージは非常に大きくなるのだ。
そうなんですよー、でもいつも誰かが守ってくれるので本当に助かり――ルウがそこまでチャット欄に打ったその時、人斬り二号がサイドステップで着地する場所、しかもその真後ろにトロールキングが出現した。人斬り二号の前方にはまだHPが二割ほど残ったトロールキングが居る。偶然同じ場所にエリアボスが二体揃ったのだ。
恐らく気付いていないてあろう人斬り二号に、スクルトは短く警告を飛ばす。
『二号うしろ』
しかし気付いた人斬り二号が警告に反応するよりも早く、トロールキングが棍棒を振るう。
背面に二発。その内一発がクリティカルヒットだ。
火力自慢のエリアボスの一.五倍ダメージと一.八倍ダメージ。既に三分の二程度までHPが減少していた人斬り二号は【気絶】寸前である。
慌ててルウはチャット欄の文字を消し、ショートカットに入れている回復魔法を掛けた。
『1』
『え』
1、はルウの。え、はスクルトの発言。その直後――。
『ぬわーーっ!!』
正面のトロールキングに殴られ人斬り二号のHPはゼロになり、気絶した。
『ごめんなさい! 本当にごめんなさい』
自身のミスで倒れた人斬り二号にルウは必死に謝る。
『いやいや 今のは運が悪かった それに正直面白かったし』
『ごめん、私も笑っちゃった。あれショトカの番号でしょ?』
『そうそう パソコンの前で声出して笑っちゃった だから気にしないでいこー』
先程の『1』とはつまり、キーボードの1に登録している回復魔法を使おうとしたが、チャットモードが解除されておらず誤爆した。という事である。
『はい……、とにかく復活させますね』
『うん、ちょっと待ってね。キング釣って少しだけ距離取るから』
今までのチャット中も鬼ごっこをしていたスクルトは更に二匹のトロールキングに射撃魔法を撃って鬼ごっこに参加させ、少し離れるとルウへ合図した。
『おk』
個人指定型状態回復魔法、リバイバル。
その場で【気絶】状態から復活させ、更にペナルティで失った経験値の五十%を復旧する、最上位の復活魔法だ。
気絶のペナルティは相手がモンスターの場合、所持金の五分の一を落とし現在のレベルになってから得た経験値の内五%が減少する。その場で復活すればお金は拾えるし、今回の場合は人斬り二号が先程レベルアップしたばかり、つまり失うものは殆どないのだ。
『ワタクシ華麗に復活』
人斬り二号は両手を高々と天に掲げておどけて見せ、そろそろ捕まりそうなスクルトの元へ、チャージで突っ込んで行った。
◆
『乙狩りー』
『乙ー』
『お疲れ様です』
それから間もなく、キング二匹と雑魚は片付けられて漸く一息ついた。
『二号さん、先程は本当に申し訳ございませんでした……』
『いやいや ホント事故だって ペナルティだってないんだよ気にしない気にしない』
『うん、それを言ったら私だって、咄嗟に魔法撃てればタゲ取れてたかも知れないわけだしね』
本当のところは、撃っても角度的に人斬り二号に当たったのだが、へこんでいるルウを元気付ける事が目的なのでその事実はスルーされた。
『はい……』
『私ゎー 元気なー ルウたんがー 好きだなー』
『分かりました。次、次頑張ります!』
ルウが元気を取り戻し、一安心のスクルトと人斬り二号。ムードメーカーのルウ、元気な姿が好きなのは別に元気付けようとして吐いた嘘ではなく二人の本音だ。
『まぁ ルウたんのショトカ1がヒール系っていうのは心に刻んだわ』
『あはは……うん、暫く忘れそうにないね』
『あぁ、恥ずかしい……』
ちょっとだけへこんだり慌てたりしたけれど、いつも通り平和な三人だった。