表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/56

三十六話 声はきっと誰かに届く

 ミノタウロスの斧をバックステップで躱した人斬り二号の右肩に、ブルーファントムの放った青い人魂のような魔力球が命中した。


『あ オワタ かも』

 ぽつりと呟く人斬り二号。人魂によって受けたダメージはごく僅か。しかし人魂は消えずに、まるで人斬り二号に取り憑いた様に身体に纏わりついている。追加効果でダメージと同時に発生した【バインドβ】によって人斬り二号は移動を封じられてしまった。


 その場から動けなくなった人斬り二号にミノタウロスは容赦なく斧を振るう。

 右手に握った盾を前方に構え猛攻を耐える人斬り二号だったが、何度目か叩き込まれると遂にガードが破られ、よろけたところに追加で三度ミノタウロスの戦斧を食らい相当なダメージを受けた。ノーガード状態だった人斬り二号は更にダウンしてしまう。


 他のメンバーもその様子をただ見ていたわけではない。

 野風はミノタウロスの斧の乱舞に機先を制して回復魔法のチャージを開始し、リトルフラワーはチャージが始まったばかりの砲撃魔法をキャンセルして人斬り二号の下へ駆け出す。

 紅葉もタゲを移そうとマチュピチュに守りを考慮せず殴り掛からせる。だが状態異常によってヘイトが稼がれ人斬り二号からターゲットが中々移らない。


(それならこれでっ)

 マチュピチュにターゲットが移動しないのを見た紅葉は次の手を打つ。マチュピチュが巻き込まれるのも構わず、命令変更と同時にスクルトにチャージを始めさせていた範囲魔法を撃たせた。


(うーん……)

 しかしそれでもスクルトにターゲットは移らず、ダウンもしなかった。

 よろけただけのミノタウロスは直ぐに動き出した。大股を開いて立つと、股下で斧のグリップを両手でしっかり握りしめ、頭上へゆっくり掲げていく。

 異様な遅さ。通常だと当たりようのない速さの予備動作である。それでもその場から動けない今の人斬り二号には必中の技だ。

 当然の如くガード不能であり、加えて確実にクリティカルヒットという、特大ダメージ必至のミノタウロス最大の技である。


 その時野風の回復魔法が発動して、優しい光が人斬り二号を包んだ。

 これによりHPは大分回復したが、この技が通常なら当たらない事が前提の破壊力が設定されている事に加えて現在発狂モード中だ。耐え切れるかどうか運を天に任せる事になる。分はかなり悪い。


 そして遂に斧が頂点に達し、今まさに振り下ろされようとしたその時、リトルフラワーが到着した。駆け寄ったリトルフラワーは、スピードを緩める事なく人斬り二号に触れる。


 接触型状態回復魔法、バインドブレイク。


 徘徊していた人魂が一瞬で掻き消えた。その名が示す通り、人斬り二号を拘束していたバインドを打ち砕いたのだ。

 バインドを砕いたリトルフラワーは停まる事なく走り抜け、人斬り二号も転がる様に退くと、直後大斧が振り下ろされる。

 間一髪のタイミング。人斬り二号、そして断頭台に飛び込んだリトルフラワーは必殺の一撃から上手く逃れた。


『助かったよ リトルたん!』

 人斬り二号が礼を言うとリトルフラワーがミノタウロス戦が始まって三本目になるMPポーションを飲み、残り少なくなったMPを回復させながら返事をする。MPの枯渇はINT型の宿命だ。


『時間を稼いでくれたからギリギリ。とにかく間に合って良かったわ』

 アルケミスト、もしくはエンチャンターが使用する【バインドブレイク】は余計なモーションが無く即時発動でバインドを解除する、非常に有用な魔法ではあるが、他人のものしか解除できず発動には接触しなければならない扱いの難しい魔法だ。実際のところ、咄嗟に選択できるプレイヤーはそう多くはない。

 リトルフラワーが言うように皆が時間を稼いだからこそ間に合ったが、即座に砲撃魔法を破棄して動き出したリトルフラワーのファインプレイと言える。


 拘束から逃れた人斬り二号は一度距離を取り態勢を立て直すと反転、ランスを構え未だ人斬り二号を付け狙うミノタウロスと向かい合い、突撃した。

 迎え撃つミノタウロス。片手で握りなおした斧を唐竹割り、勢いよく振り下ろし正面に差し迫った人斬り二号に叩き付けようとする。

 それを見た人斬り二号は右にステップ。だがランスの攻撃モーションは、リーチは長いが左右の融通が利かないという短所があり、このままでは人斬り二号の槍も外れてしまう。

 そこで人斬り二号はステップの途中にジャンプを挟んでステップをキャンセル、本来の着地位置の随分手前――、先程の位置から半歩移動した位置に着地すると迫る戦斧をギリギリで躱し、穂先から柄がスパークするランスで貫く。


 刺突型攻撃技、ライトニング・スピア。


 人斬り二号のランスがミノタウロスの脇腹を貫くと同時に電撃が走る。ランス本来の刺突だけでなく、ミノタウロスが苦手とする魔法攻撃にあたる黄色属性との複合属性ダメージを与えた。


 ギリギリまで追い詰められていたミノタウロスはその一撃で遂に沈黙。

 これまで決して放す事のなかった戦斧は掌から滑り落ち、巨体を揺らして膝から崩れ落ちると、最期は光の粒子となり消えていった。


『レベルアッー……あれ』

 ミノタウロスを倒し大量の経験値を得たがレベルは上昇しなかった。人斬り二号の叫びが虚しく響く。

 気を取り直すと後回しにしていた、場に混乱をもたらしたモンスターたちを狩っていく。


『あれー 絶対来たと思ったんだけど』

『確かにねー』

『ところでドロップは おh……』

 スクルトと話しながら人斬り二号はログを確認する。ミノタウロスは複数用意されたドロップの中からランダムで一つ、確実にドロップする有り難い特性があるのだ。

 ログに表示されたアイテム名は【牛頭の大きく欠けた角】だった。


『ゴミ乙』

『ご、ゴミ乙』

『ゴミ乙』

『これはゴミ乙と言わざるを得んナ』

 最後に入手した野風自身が乙と言い締めた。

 ミノタウロスのドロップの中でも割と出難く、そのくせ店で売るしかない換金用アイテムでありながら、買い取り額も微妙という最も出て欲しくないドロップであり、プレイヤー間でもある意味有名なレアドロップ。

 元は外部の巨大掲示板発祥の小ネタで、出たらゴミ乙と声を掛けるのが定番となっている。入手するとドロップ運が悪くなる、なんて言われる程扱いが悪い。


『涙ふけよ 野風たん』

『泣いてないもん、泣いてないもんねっ』

 そう野風は涙を流すアクションを取らせながら言う。いつもながらノリが良い。


 そして会話をしながらも狩っていた最後のヒュージ・スコルピオンをマチュピチュの左腕が叩き潰した時、短いファンファーレが鳴りエフェクトが人斬り二号を包む。レベルアップだ。

 予想していたタイミングではなかったが、やはりミノタウロスで直前まで稼いでいたらしい。


『ゎぁぃ』

『おめおめー』

『おめでとう!』

『おめでとう』

 野風とスクルト、そしてリトルフラワーは祝いの言葉を伝えていく。


『ありがとー ありがとー!』

 人斬り二号は礼を言いながら喜び、PCをくるくると踊らせるのだった。



『おつー』

『乙ー』

『お疲れ様ー』

『お疲れ様』

 目標だった人斬り二号のレベル上げを達成し割とよい時間になったので、四人はモンスターの出現しないハイン遺跡の入口まで戻り、車座に――、といっても四人なので微妙なのだが、向かい合い座ると互いに労をねぎらいあった。


 それから暫くミノタウロス戦の話で盛り上がったり、きゃーきゃー騒ぎながらドロップを押し付け合ったりしていたが、騒ぎが漸く落ち着いた頃ふと野風が人斬り二号に問い掛けた。


『そう言えば二号ちゃんってばレベカンストでそ? キャップ上がるまでどうするの? スキレベ上げ? それともセカンド作るの?』

 レベルキャップに到達したPCは経験値を得られない。そこで到達したプレイヤーは、それを機にセカンドPCを作ったり育てたりという者は多い。

 野風やストレルカも、ファーストPCの陽炎とリリオのレベルがカンストしたから、普段はセカンドやサードを育て【首都防衛戦】のようなイベントや、カンストしたパーティで行く危険地帯でのドロップ狙い、レベルがカンストしていても上げれる技・魔法レベル上げ狙いの狩り以外ではあまり使っていないという状況だ。


『セカンド というか元ファーストというか まぁそういう子なら 居るんだよ』

『そなの?』

『私も知らなかったわ』

 人斬り二号の言葉に野風とリトルフラワーは驚きの声を上げた。二人も人斬り二号とは長い付き合いなのだ。

 しかしスクルトは特にリアクションを返さない。それは紅葉が数少ない元ファーストを知る一人だからである。


『ほぼ使ってない 埃どころか蜘蛛の巣はってるレベルだから 殆ど知ってる人居ないけど』

『ここに居るメンバーだたら スクルたんが知ってるね』

 その言葉に、野風とリトルフラワーはわざわざPCの向きを、スクルトへと傾けた。


『一号さんだね』

『あぁ、一号居タンだ。確かに二号の前だもん、一号じゃないとネ』

 納得といった様子で野風が呟く。


『うみゅ スクルたんは一号時代からの数少ないフレンド 出会いは募集出てた 即席パーティだったね?』

『ね』

『珍しいわね。スクルトちゃんが即席に参加するのって。聞いた事ないわ』

 少し驚いた風なリトルさんに、紅葉は当時の事を思い返しながらキーボードを叩く。


『うん。当時はまだ参加してたんだ。偶にだけどね。でも思えばあれ以来参加してないかも知れない』

 即席パーティは所謂ナンパの様に直接PCに声を掛けるパターンもあるが、掲示板などで例えば『ライン湖狩りメンバー募集! 現在魔30、騎27、聖28、格30』といった書き込みをして、参加希望者は掲示板で募集をかけた主催者にwisを送るなどして連絡を取り、知らない者たちで狩りをするというパターンも多く、パーティ募集用の掲示板も用意されている。

 ちなみに、実際には何時からどのくらいの時間を予定していて、あと何人、どのクラスを募集しているかなどが書かれている事が多い。

 紅葉は今も昔も苦手としているが、当時は知り合いが殆ど居らずキャロルに誘われない限りソロという状況だったので、行きたい狩場によっては偶に参加していた。

 相手の顔が見えない分、リアルより少しだけ大胆になれる。


『なんていうか これは酷い って言いたくなる狩りだったからね ……狩り?』

『狩り、じゃあないんじゃないかな……』

 苦笑いしながら返事をするスクルトに、人斬り二号も笑みを浮べた。二人が出会った即席パーティはよほどのものだったようだ。


『それほどだったのね』

 二人の様子から想像し、苦笑いさせながら相槌を打つリトルフラワーに、人斬り二号が続ける。


『最悪 いやもっと酷いのは幾らでもあるんだろうけどさ あの時はそう思ったよ 悪意がない分酷い』

 主催がグダグダで――と続ける人斬り二号に、もう一人の当事者ながらここまであまり参加していなかったスクルトが口を挟んだ。


『でも』

 紅葉は考えながらゆっくりとキーを叩いていき、静かにエンターを押した。


『私もあれは当時はどうかなと思ったけど、今思い返すと最悪ではなかった。あの狩りで二号さんと出会ったんだから』

 軽くスイッチの入った紅葉のストレートな言葉に、少しの間会話が止まる。


(あれからだもんなぁ。ゲームがもっと楽しくなったの)

 当時はキャロルが気にかけてよく誘ってくれていたとはいえ殆どがソロ。ゴーレムの改造等でそれなりには楽しんではいたが少し寂しさも感じていた。

 人斬り二号と知り合ってからは偶にwisが来るようになり、その頻度が徐々に増えていった。それからキャロルが誘って連れて来たルウと知り合い、人斬り二号から今でも一緒に遊ぶプレイヤーを紹介してもらったりと、【魔法少女おんらいん】にハマる切っ掛けになった。

 確かに酷い集まりだったが、今なら大変良かったと思える。


 そうでなくとも人斬り二号はキャロルと、一応フレンド登録はしたもののそれ以来一度もやり取りしていないプレイヤーを除くと、最初のフレンドだ。

 wisが来る度に緊張して、でも嬉しくって。次はいつ声が掛けられるか楽しみにしていたもので、それが当たり前に感じられる今が、とても幸せに思える。


 硬直してしまっていた人斬り二号。再起動して話し出す。


『まぁ 最悪でもなかったかも 結果オーライ』

 スクルトの言葉を肯定するも、飄々と、いつも通りに振る舞う。しかし、プレイヤーの表情は見えないのにPCの動作など、どこかぎこちなく、照れの見える人斬り二号であった。



 それからも四人はほのぼのとした雰囲気の中、雑談を続けていた。


『そう言えば二号ちゃん。一号ちゃんのクラスが何だったのか聞いてもいいかしら』

『うむ 一号はninja ケットシーでステ振りはDEX極振り ってやってたら軽くなり杉た 結果扱い切れなくなって 封印ED』

 動きの速さとクリティカル率、回避に優れたNINJAと、種族特性で更に動きの速くなるケット・シーとの相性は一見良く、サービス開始当初は特に多くのプレイヤーが作成していたが、魔法少女おんらいんではDEXに幾ら振ったところでそれはDEX(器用さ)でしかなく、AGI(速さ)ではないのでPCの移動速度が上がっていったりはしない。守りの面ではどれだけDEXとAVD(回避)が高くとも、PCに攻撃を当てられると最低でもかすりヒットが発生し、ダメージは確実にかさんでいく。しかも側面や背面ではかすりヒットの発生率も激減してしまい、そもそも魔法にはその概念すらない。

 そしてモンスターの中には回避特化型PCの天敵である必中攻撃を持つものも居り、プレイヤーの腕と移動速度に頼り過ぎると痛い目を見る事になる。


 それだけなら回避型の宿命と諦めもつき、覚悟を決めて育てていたかも知れないが、まだ魔法少女おんらいんではステ振りを特化させ過ぎると厳しくなるという事が通説になっていなかった当時、とにかくDEXに振った人斬り一号は、結果攻撃力が圧倒的に足らなくなったのだ。ケット・シーの与ダメージの減少が非常に大きい。


『封印が解かれる事はナイの?』

『ない かなー もし今別のキャラ育てるなら前衛以外弄ってみたい』

 同じNINJAクラスを持つ野風の質問に人斬り二号はそう答えた。

 サポートに特化させるなどすれば今の育成でも活きる道はあるし、当時と狩り場や技や装備など大きく環境の変わった今なら、これからVITに少しとPOWに振っていけばケット・シーの与ダメージ減と被ダメージ増の種族特性分以外は取り戻す事はできるのだが、今のところ人斬り二号にその意志はないらしい。


『ていうか昔は本当に人斬りだったんだ。そーいえば訊いた事はないケド、槍なのになんで人斬り? って思ってたヨ』

 なかなか物騒な言葉である。確かに人斬り一号の時は短剣使いで、今のランスで突いて人斬り二号と名乗るよりもそれらしいIDと言えるだろう。


『名前気に入ってたから二号にした あれだよ 技の一号力の二号』

『よくそんな事知ってるわね。二号ちゃんまだ学生でしょう?』

 この中では年長のリトルフラワーも驚く。


『ネタだけ にわかなんで てへ』

『私も知ってる、というだけだけれどね』


(なんだろう?)

 人斬り二号とリトルフラワーの会話を読みながら、紅葉は首を傾げてアイスコーヒーを飲もうと、汗をかいたグラスを手に取った。サブカルチャーネタだが随分と古いもので、自称にわかの人斬り二号以上に詳しくない紅葉は首を傾げる。

 実は最近紅葉も見ている日曜日の朝にTVでやっている特撮の、昔のシリーズの話だったりするのだが。


(あれ、というか何の話していたんだっけ?)

 ふと気になった紅葉はグラスに口を付けながらマウスを操作してログを逆上った。


(あぁ、そっか)

 狩り終わりから読み始めた紅葉が発見した丁度その時、紅葉が訊こうとした事を野風が尋ねた。


『それじゃ二号ちゃんは、結局レベキャップ上がるまでスキレベ上げ? 今ならマジガナという手もあるケド』

 待望のかはわからないが久し振りの新クラス、マジックガンナーの実装が来週に迫っている。タイミングは丁度良いのかも知れない。


『レベルキャップの引き上げもないらしいから、試しに作る人は多そうね』


(確かにそうかも)

 内心リトルフラワーに同意する。レベルキャップに到達するPCもかなり増えているので、そろそろレベルキャップは上がると言われており、まだ到達していないスクルトはそれまでに追い付こうと必死に、という程ではないが、追い付けたら良いなぁくらいには考えている。


『面白そうだけど暫く様子見 掲示板の反応見てから考えるじぇ』


(マジックガンナーといえばそろそろ千鶴さんにコントローラー渡さなきゃ)

 あれから何度か顔を合わせる機会はあったが渡し忘れ、実装前だし別にまだ大丈夫かと思っている内に、後少しというところまで迫ってしまった。


(そっか、あと少しか……、ふふ)

 もうすぐ千鶴と、もっと一緒に遊べるようになるかも知れない。嬉しさから頬が緩む。


(でも――)


『と 言いますか そろそろテスト どっちにしろ直ぐには無理』

 人斬り二号は力なく首を振るった。


(そうテスト。高等部も日程あまり変わらないから、始めるのはその後だよね)

 マジックガンナーが実装されるのは、ミノア女学園の一学期の期末考査開始の丁度一週間前といったところ。楓の話から高等部の試験日程が中等部のそれとほぼ変わらない事は知っているし、二人共試験期間中は一切ログインしていない。千鶴も敢えて期末考査前に始めはしないだろう。


『そう言えばそんな時期ね。頑張れ学生さん』

 自身の学生時代を思い出しているのか、リトルフラワーは微笑み、軽くエールを送った。


 それから暫く雑談は続き、そろそろ解散しようかという流れになった。時計の針は十一時を回っている。


『まぁ 暫くはスキレベ上げとドロップ狙いでいくから 一緒に狩りしましょ』『……テスト終わってからの話だけど』

『モチ』

『いつでも誘ってね』

 野風とリトルフラワーに続き、紅葉もうん、と返事を返した。


 折角ハイン遺跡前に居るのだからこの場で解散という事になり、リトルフラワーは入口から離れた場所に移動し、野風は町へ転移してパーティから抜けた。


(私もここで落ちよう)

 明日は土曜日なので時間もあるから、ミノタウロスを回避してじっくりソロ狩りをしようと考えた紅葉は、ログアウトする旨を残った人斬り二号に伝えようとして、反対に人斬り二号に話しかけられた。


『スクルたん 私もここで落ちるよ』

『うん、分かった』

『あと さっきも言ったけど』

『うん』

 一旦区切る人斬り二号に紅葉は相槌を打つ続きを待つ。


『一緒に遊ぼうね これからもヨロシク それだけ オヤスミ!』

 人斬り二号はそう言い残し、返事を聞かずに直ぐさまログアウトした。

 紅葉はというと暫くの間人斬り二号の残したログを眺めていたが、喜色満面の笑みを浮べてキーボードを叩く。


『こちらこそ。これからもよろしくね。お休みなさい』

 既にログアウトした人斬り二号に届く事のないパーティチャットで呟くと、紅葉もその場でログアウトした。

 そして中身の殆ど入っていないグラスを持つと、鼻歌まじりに部屋を出る。

 今夜は良い夢が見られそう。そんな気がする紅葉なのであった。




 余談だが、スクルトがログアウトした後『ふたり共、まだ私がログアウトしてない事に気が付かなかったわね……』と離れた場所――、但し同じエリア内で、空気を読み黙ってログアウトの準備をしていたリトルフラワーが、正真正銘今度こそ誰にも届く事のないパーティチャットで、独り呟いたとかいないとか。




◇4章おわり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ