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三十五話 ミノタウロスの斧

 横幅の狭いバルバロイ渓谷は狩りながら慎重に、その他のエリアは楽しく雑談して走り抜けた四人は、現在ジェラ島へ向かう定期船に乗り景色を楽しみながら楽しくお喋りしていた。

 ここ最近、二度訪れた時と到着するまでに掛かった時間は変わらないのに、よほど雑談が楽しかったのか紅葉は船乗り場に到着した時は、もう着いたのかと少し惜しく思ったほどだ。


(ちょっと不安もあるけど良いわね……)

 主に人斬り二号と野風を中心に展開されている狩り効率談義に時折参加しながらも、紅葉はインベントリを開いてアイテムの確認をしていたのだが、ここである物が目に入り重要な事を思い出した。


(そうだPK……、ひょっとしたらだけど居るかも)

 楽しい雰囲気に飲まれたのか、これから行く狩り場に二人組のPKが昨日居た事をすっかり忘れていたのだが、インベントリに仕舞われたネコミミを見て思い出したのだ。しかしさほど焦った様には見えない。

 それには幾つか理由はあるが、中でも人数差が大きい。仮にハイン遺跡に昨日の二人組が居たとしてもこちらは四人、マチュピチュを含め五人居る。仕掛けて来るとは考え辛い。

 MPK(モンスタープレイヤーキル)――、つまり大量に釣ったモンスターの擦り付け等の行為なら可能かも知れないが、それこそその中にミノタウロスが居なければ難しいだろう。 とは言ってもレベルアップ目前の人斬り二号と打たれ弱い三人で構成されたパーティだ。折角思い出した事だし、紅葉は念の為伝えておく事にした。


『やっぱりアリス狩りカナ? でも賄賂がネック』

『あの、私昨日もハインに来てて』

『うん? うん』

 会話に割って入ったスクルトに、丁度発言した野風が三人を代表するように相槌を打つ。


『ninjaの二人組のPKにやられたんだった。ごめんすっかり忘れてた』

『おk 危険度マシマシ でも大丈夫でそ』

『えぇ、ゴーレムを入れたら5対2。増員も考えられなくもないけれど、そんな事を言ったらキリがないし』

『うみゅ。ていうかPKなんてどこにポップしてもおかしくないモン』

 三人とも紅葉と似た考えのようだ。それほど対人戦における人数差、特に一パーティ規模の小さな戦いでは大きいとも言える。

 特に今回の場合、セカンドPCの野風は違うが、PKもおそらくレベル差は殆どない筈。特に冰のスペックはかなり高そうなので、人斬り二号は単独だと安定したクリーンヒット率が望めずに苦戦が予想されるが、クリティカル等の概念のない魔法による攻撃なら、NINJAの圧倒的なDEX(器用さ)やAVD(回避)も関係はない。

 人斬り二号とマチュピチュの二人に守られればスクルトもリトルフラワーも狙い易い。そして今回は回復役も居る。いくらプレイヤーたちから対人クラスと呼ばれているNINJAでも絶対ではなく、付け入る隙はある。


『とりあえず耳着けとくカー』

 そう言って野風は何かの動物の耳を模したヘアバンドを着けた。ピンと立った三角形の耳はおそらくキツネミミ。他にも犬やウサギなど多数あり、どれもネコミミと同様の効果があるので、プレイヤーはそれぞれお気に入りのものやその日の気分などで選んでいる。


 それから四人は軽い調子でPK対策について話し始めた。やはり真剣にはPKに襲われるとは考えていない。


『人数が少なかったら通路か壁使って背中取らせなきゃNINJAでもム・リ。多かったらスモーク撒いて逃げの一手でイイんじゃない?』

 ファーストがNINJAの野風が案を挙げた。

 スモークとはアルケミストの魔法【スモーク・ボム】の事で、本来は煙を発生させる爆弾を投げ範囲内のキャラクターのHITを下げる魔法の筈なのだが、実際は下がらずになかなか消えずに残る、範囲が広くやけに濃い煙がプレイヤーの視界を奪うだけのものになっている。

 モンスターにはまるで影響がないので完全に対人専用のお邪魔魔法になっており、このバグは何故かいつになっても修正される気配がない。


『うん』

『異議なし』

『右に同じ』

 三人が返事をした丁度その時、船がジェラ島に到着した。船から下ろされた四人はハイン遺跡を目指して走るのだった。



『灯はどうする?』

『それは私が。ここはライトが1つあれば十分』

 入口でスクルトの問いに答えたのはリトルフラワー。スクルトのソロならダーク・アイがあるので問題ないが今回はパーティだ。クナイフェル洞窟群の時と同様に灯が必要になる。

 遺跡内に入ると宣言通り、直ぐにリトルフラワーが魔法を使った。


 術者中心型特殊魔法、ライト。


 小さな光球がリトルフラワーの側に浮かび、辺りを明るく照らす。効果範囲はリトルフラワーの魔法レベルの高さもありクナイフェル洞窟群で使用したランタンより広く、しかも自動で術者を追尾してまわるので戦いの際に床に置く必要がない。

 クナイフェル洞窟群ではほぼ移動する事なく狩っていたので問題はなかったが、移動しながら狩る時はなかなか便利な魔法だ。


 そうやって狩りの準備をしていると、少し離れた位置に居た悪魔を模した石像のモンスター【ガーゴイル】が動きだしこちらに向かって来たが、人斬り二号とマチュピチュが素早く突撃して後衛の前に壁を作った。

 その間にスクルトたちは補助魔法を掛けていくが、野風だけは足を止め見ているだけだ。他の三人も特に何も言わず役割をこなしている。

 やがてガーゴイルが片付けた二人が戻って来ると人斬り二号も補助魔法を掛け、野風も漸く掛け始めた。


 術者中心型補助魔法、活力の陣。

 術者中心型補助魔法、呪歌。


 野風の足元を中心に陣が描かれ、範囲内の術者を除くパーティメンバーの身体が光に包まれた。

【活力の陣】の効果でHPが自然回復とは別に秒間隔で回復していく。効果時間は短いが大変強力な補助魔法だ。そして【呪歌】により、DAM、HIT、MDAMが強化される。

 巫女の補助魔法は効果が大きく、且つ集団に掛かるものが多いのが特長なのだが、これら二つの補助魔法のように範囲が術者を中心とするものが多いので、一旦狩りが終わるのを待って纏めて掛けたというわけだ。

 乱戦になるとこうはいかないがガーゴイル一体なら補助なしでも問題ない。


 大変優秀そうに見える巫女の補助魔法の欠点は大きく二つ。

 一つは消費が多めである事。これは多くが強力な範囲型なので仕方がないではある。先程野風が補助魔法の乱発を控え、効率を重視した理由でもあった。

 もう一つは術者本人を含めないものが多い事。強力だが本人は恩恵を受けられない。パーティでこそ生きるクラスなのだ。


 補助を終えると四人は人斬り二号を先頭に、目についたモンスターを片っ端から片付けてながら進んで行くのだった。



『範囲』

『k』

 短く返事をした人斬り二号がその場からサイドステップで素早く跳び退き、マチュピチュも僅かに遅れ人斬り二号とは反対側に下がる。そこに大きく腕を振りかぶったリトルフラワーが、デフォルメされた丸く導火線の付いた、いかにも爆弾ですといった何か、というか爆弾を投げ込んだ。


 投てき型攻撃魔法、ケミカル・ボム。


 五色の光を放ちながら爆発を起こし、範囲内の全てのモンスターにランダム属性ダメージを与えた。

 まだ【ケミカル・ボム】の余韻で五色の煙が漂う中、再度人斬り二号とマチュピチュが突撃し、マミーの上位互換である包帯の色が黄土色をしたミイラ男【グレーターマミー】を囲んでトドメを刺すと、続け様に【ヒュージ・スコルピオン】にランスを突き刺し、マチュピチュの右腕の連撃から振り上げた左腕を叩き付けるコンボで叩きのめした。


 アルケミストの投てき型の範囲魔法は、着弾後即爆発する。スクルトのよく使用する円型の範囲魔法は使用すると魔法陣が描かれ、発動という流れなので、アルケミストの投てき魔法の方が使い勝手は良さそうだが、代わりに大きく無防備な投てきモーションと、投げられた爆弾そのもの動きが目で追えるという欠点もあるので、どちらも一長一短だ。

 そして○○ボムという名称の魔法を使用するには、アイテムのボムを一つ消費する。なので金銭面と枠数の限られたインベントリに負担を強いるが、代わりに消費MPは少なめな為これも一概に欠点とは言えないだろう。尚、一つだけボムを消費しないものもあるが、それは代わりに消費MPが多く火力もそれ程ではない。

 万能の魔法や技など、少なくともプレイヤー側にはないのだ。


 戦いを終えた四人は奥に見える通路には進まず、室内にあった階段を上った。

 ここハイン遺跡は全三階層とダンジョンとしては少々浅い造りなのだが、その代わり横にはかなり広く迷路のように入り組んだ造りをしている迷宮だ。地下三階には遺跡を発掘しているNPCが居るので後々拡がる可能性もあるが今はいいだろう。

 湧き易いモンスターの種類が階層によって多少異なるが、モンスターそのものは変わらないので、各地に多数ある階段を行ったり来たりしながら狩っているというわけだ。


 三階から二階に移動した直後ライトが効果を失い、リトルフラワーが即掛け直して呟いた。


『これで3回目。1時間半くらいかしら』

 時間経過で消えたライトの魔法。元々効果時間の長いライトだが、INT型のリトルフラワーはおよそ四十五分持つ。そこから狩り時間を判断したのである。


『じゃあ二号ちゃん@少し?』

『@1ぱー なってそこそこ経つからもうちょい な筈』

 人斬り二号の言葉に四人は盛り上がりながら、先頭を進む人斬り二号の後を追って、幅も天井の高さも他のダンジョンに比べ小さな通路に入って行った。

 しかし、くの字の通路を曲がった直後人斬り二号が足を止めた。ワンテンポ遅れてついて行っていた後ろの三人もそれに倣う。


『ミノ様って 肌こんがり焼けてるけど いつどこで焼いてるのかな 普通引き籠もりの肌は真っ白だっつーの あ ソースは私』

『確かにこんがりダネ。PCが来ない時に浜で焼いてる説。ほら遺跡出たら5分で砂浜ダシ? 引き籠もり神かと思ってたのにィ』

『地黒なんじゃないかしら?』

 とぼけた会話をしている人斬り二号と野風とリトルフラワーの視線の先の小部屋に赤褐色の肌の、まだ少しばかり距離があるのにやけに大きな身体が見える。その頭は牛、【ミノタウロス】だ。


(狙ったかのようなタイミングだなぁ)

 呑気な会話をしている三人の後ろに並び、会話に参加していない紅葉はまだスクルトたち五人に気付いていないミノタウロスを見ながら、こちらもまた呑気な事と考えていた。

 一応ネクロマンサー歴もうすぐ二年のスクルト。ミノタウロスを発見した時反射的に、マチュピチュが発見したモンスター(ボス)に特攻しない様命令変更したが、それからは三人同様特に何もしていない。


(なにぃあと一%だと? どうやら俺様の出番だな、みたいな……あっ)

 紅葉が脳内で寸劇をしていたその時、ミノタウロスがこちらに向いた。そして頭の角を前に突出し身体を屈めると、その場で足を踏み鳴らし始める。


『てんしーん』

『後ろに向かって全力前進ー!』

 その動作を見てわざわざ叫びながら逃げだす人斬り二号と野風。言われるまでもなくスクルトたちはとっくに逃げ出していたりする。

 スクルトたちが前の部屋へ通路と走っていると、先程の四人が居た(かど)にミノタウロスが(つの)から突進した。逃げ出したスクルトたちに当然ダメージはないが、ミノタウロスはその場で先程と同じ予備動作を取り始める。

 四人は第二波を回避する為前の部屋に飛び込むと、通路の直線に立たないよう左右に散った。スクルトたちが空けた空間を少し遅れてミノタウロスが走り抜け正面の壁にぶつかり漸く止まる。


『あ』

『このこは私が』

 撥ね飛ばされる危機から脱し余裕を取り戻した四人。そこでさっきこの部屋を通過するまでは居なかったストーンゴーレムに気付き、野風が声を上げたが直ぐにスクルトが射撃魔法を放ちタゲを取る。


『よロリ。これで上がりそうネ』

 野風が効果の切れた呪歌を掛け直しながら言うと、強化された人斬り二号とマチュピチュがミノタウロスを挟み込む様にポジションを取りながら攻撃を仕掛け、またミノタウロスも両刃の斧を振りかざし走り出す。


 迷宮の地下で、大量の経験値をチップにレベルアップとスリルを賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。



 斧を振り回すミノタウロスの攻撃を人斬り二号はステップを使い、極力ガードを使用せずに回避していく。ミノタウロスの技はガード不能のものも多く、通常攻撃でも連撃を受けるとガードを破られる危険性が高いからだ。

 もっと危険なのは後衛クラスのPCで、前衛の盾や武器を使ったガードとほぼ同じ効果のシールドを張る事が出来るが、こちらは破られると暫く張れなくなり、その間回避するしかなくなってしまい危機的状況に陥ってしまう。

 ガードもシールドも、あとどの位食らうと破られるか分からない所謂マスクデータなので、脆い後衛は特に普段から使いたがらないプレイヤーが多いのだが。


『砲撃いくよ』

『ほい』

 ダウンのし難いミノタウロス相手に慎重に距離をはかり、ランスの届くギリギリの範囲から削っていた人斬り二号はリトルフラワーに返事をすると、ミニレーダーで位置を確認したのか的確にサイドステップで射線から退いた。


 砲撃型攻撃魔法、プリズム・レーザー。


 虹色に輝くレーザーがミノタウロス、そして直線上に居た、スペクターを巻き込み貫いた。

 ケミカル・ボムと同じくランダム属性な為安定感に欠き、またウィッチの上位砲撃魔法ほどの威力もないとはいえそれでもINT型の砲撃魔法に変わりない。与えたダメージはスクルトの範囲魔法をやや上回った。

 ミノタウロスはダウンしたものの直ぐに起き上がりターゲットをリトルフラワーに移すと、斧を激しく振り回しながら追いかけだす。

 モーションからミノタウロスの次の動きを予測、レーダーで味方の位置を把握し、その巨体と斧の長いリーチによって生み出された広い攻撃範囲に巻き込まないよう動くリトルフラワー。

 知識と経験に裏打ちされた技術で回避しているが、それほど余裕があるわけではない。それは部屋が狭いからで、下手な動きをするとその巨体で暴れ回るミノタウロスに直ぐに壁際に追い詰められてしまうのだ。

 これが経験値が多く、ドロップにも夢を見られるミノタウロスを狩ろうというプレイヤーがそう多くない最大の理由だ。天井も低い所為で飛行したウィッチが砲撃魔法でなぎ払ってもそこにはミノタウロスの斧が届き、容易く地面へ叩き落とされる。

 他にも理由はあるがコンパクトなダンジョンに見合わない巨体と怪力で強引に押し込める点で、水場のスキュラ同様、ミノタウロスは同レベル帯のボスの中でも厄介な相手に数えられるのだ。


 リトルフラワーを追っているミノタウロスからタゲを剥そうと、背面から左手に構えたランスで人斬り二号が突いていると、急にミノタウロスが振り返り、肩を前に構え即座にショルダータックルをかました。角を前に出した長距離のタックルとは違い、技の出が異様に速い。


『危なっ』

 けれども代わりに範囲は狭いので、ミノタウロスが反転した時点でバックステップをして距離を取った人斬り二号にはギリギリで届かなかった。


 ミノタウロス戦が始まってから前衛が壁役、といっても【魔法少女おんらいん】は足を止め唯々ガードで耐え忍ぶのは、多くの強敵が持つガード不能技の存在やガード破壊のシステムから実質無理なのだが、出来る限りタゲを確保したまま上手く動き、避け切れないものをガードして細かく反撃、後衛のリトルフラワーとスクルトがダメージを稼ぎ、移ったタゲを取り返すという戦術を取っている。

 よろけ辛いので接近戦は反撃が恐ろしく、なによりAC(防御力)が高くMC(魔法防御力)の低いミノタウロスには魔法が有効だ。


 時々ヒヤリとする場面もあるが割と順調にミノタウロスのHPバーを削っていく。しかしリトルフラワーに続いて、今度はスクルトが範囲魔法でミノタウロスを攻撃した時、部屋に新たなモンスターがPOPした。


『青1、サソリ2』

『ゲッ』


(うっ)

 レーダーに映し出された光点の位置を素早く確認したリトルフラワーが簡潔に伝えると、その内容に野風は思わず呻き、紅葉もモニターの前で形の良い眉を小さく顰めた。

 湧いたのは青いローブに包まれてスペクターの色違いの幽霊【ブルーファントム】と、巨大サソリの【ヒュージ・スコルピオン】が二体。どちらも単体ではそれほど脅威ではないが、他のモンスター、特にミノタウロスと組むと厄介な相手になる。


(うわっ)

 横なぎに振るわれた戦斧を前方に転がりながら躱しミノタウロスの背後にまわるスクルト。ミノタウロスにタゲを取られているスクルトはフォローにまわる余裕がないので素直に、そして必死に逃げ回る。

 逃げながらも紅葉はスクルトの視界をできるだけ動かすと、カラフルな煙が上がっているところが見えた。どうやらリトルフラワーが一部タゲを取ったらしい。

 人斬り二号もミノタウロスをランスで突き始めた。いつもに比べ出遅れたところを鑑みるに、人斬り二号も視界の外でタゲ取りをしていた事が予想できる。


 刺突型攻撃技、二段突き。


 人斬り二号の高速の突きが二度、ミノタウロスの無防備な背中に突き刺さった。

 その名の通り二度素早く突くだけの実に単純なスキルだが、出も速く安定感があって連撃に組み込む易いという強みがある。このスキルでタゲもスクルトから人斬り二号に移された。


 だがしかし、戦況はまだ落ち着かない。

 ヒュージ・スコルピオンの尻尾の毒針攻撃を受けたリトルフラワーが呻き声を上げダウン、立ち上がってからも時々放電するようなエフェクトを身体から発生させている。同時にPCの頭上に表示されたIDの上には雷のマークの小さな黄色いアイコンが一つ追加された。状態異常の【麻痺】だ。

 移動速度がデフォルトに戻った後更に二段階落ち、ランダムでよろけが発生するという地味だが嫌らしい効果があり、この状況でミノタウロスに仕掛けられると特に後衛は正直どうにもならない。

 今のところリトルフラワーにミノタウロスのタゲは移っていないが、状態異常だと狙われ易く、また特にボスの場合は攻撃しないとタゲが移らないというわけではない。

 幸い今回は素早く戦いに巻き込まれない位置に逃げ延びたリトルフラワーを直ぐさま野風が治療を行なう。


 個人指定型状態回復魔法、病祓い。


 淡い光がリトルフラワーを包むと身体から靄のようなものが抜けていき、頭上から麻痺のアイコンが消えた。


『ありがとう』

『b』

【病祓い】はそれ一つで状態異常の種類を指定せず、一括解除する魔法である。一方クレリックの解除魔法の一つ一つ状態異常の種類に応じて使い分ける必要があるが確実に解除出来るものとは違い、解除成功率はステータスのMEN依存だ。ボス相手では安定感を欠くが、雑魚での信頼度は高い。


『スクルトちゃん。そろそろトドメを刺しましょう』

『うん』

 リトルフラワーの呼び掛けに短く反応すると、二人は各々馴染みの魔法のチャージを始めた。

 先程二段突きを受けた辺りから、ミノタウロスは身体から蒸気を発生させ肌を更に赤くさせている。これはプレイヤーから発狂モードと呼ばれているもので、ミノタウロスの場合は攻撃力が飛躍的に上昇する。そしてこれは、HPが大きく減少している証でもあるのだ。……それは簡易HPバーを見れば分かる事だが。


 しかしここは迷宮。そして目の前のモンスターは迷宮の王と呼ばれるミノタウロス。地の利だけでなく配下を引き連れたかの王は、このまま倒れる様なたやすい相手ではなかったのだ。

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