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二話 胸がこわれそう

 駅のバスターミナルにバスが到着して乗客の殆ど、同じ制服を着た少女たちが一人、また一人とバスから降りて行く。

 紅葉もここから電車ではないが、バスの乗換えがあるので降りる必要がある。しかし何故か座席で固まってしまっていた。


「…………」

 通路側に座った少女が眠っていたからである。ずっと視線を窓の外へ向けていて、到着するまで気付かなかった紅葉は悩んでいた。

 起こしていいのか、起すべきなのか。


(多分この子もここで降りる……よね? いつも殆どの生徒はここで降りるし、今も皆降りようとしてるし……、というかこの先ビジネス街……、だったら降りるよね嗚呼人少なくなってきたどうしよう、目茶苦茶ぐっすり眠ってますよ。何年生かな、合同授業で見た事あるかも知れない様なそうでもない様な……、同じクラスになった事ないあっホントそろそろ人数が、ショートカット似合ってるなぁ……)

 表情は変わらないが大混乱である。


 そうこうしている内に車内の人数は確実に減っていっている。あと十秒も経てば制服の一団――このままだと一部例外あり――を降ろし、新たな乗客を乗せたバスは終点へ、ビジネス街へ向け走り出すだろう。

 それは困る。なにが困るって定期の範囲じゃないし、何よりいずれ目を覚ます少女がすごく気まずい。窓側の紅葉が降りる為には少女を起こさないといけない。起こさずこのまま乗っていても、少女が目を覚ますとそこはビジネス街。そして何故か隣りに座る同じ制服の少女(紅葉)だ。

 その光景を想像すると頭が痛くなってきた。


(うー、えーあー……、よし、傷は浅く、ね。なるようになれ! なって)

 決意を固め、少女の肩を揺らしながら声を掛ける。


「あの……、少しいいかしら?」

「…………あ、ハイ……」

 うっすらと目を開き、少女は紅葉をぼんやりと見詰めながら小さな声で返事をする。


「間違っていたらごめんなさい。駅に着いたのだけれど、降りなくていいのかしらと思って」

「……、ああ」

 寝起きだからか、声は気怠げだったが、慌てて立ち上がると通路へ数歩歩く。

 それじゃあ、と言い残し、紅葉は微笑みを浮べると少女の横をするりと抜けステップを降りる。


 ギリギリだったけど間に合ったし、今日の私はかなり調子が良いんじゃないかしら、と内心自画自賛。

 実際大した事はしていないが、千里の道も一歩から。コミュニケーション能力が少々アレな紅葉にとってはなかなかの冒険。二ページに渡って日記に書いてもいい出来事だった。日記書いてないけど。

 とにかく気分が良い。足取りも軽く乗換え場所へと移動した。



「あの……」

 乗換えの場所に着き、時刻表を見て今出たばかりな事を確認していた紅葉は、突然掛けられた声に振り返る。

 そこには先程のバスの少女が立っていた。


「……何か?」

 想定外の人物に――尤も想定内の人物などいないのだが――、声を掛けれ激しく動揺中の紅葉。内心、冷や汗ダラダラだったが表に出さぬよう努め、短く返事をする。


「いえ……、ちゃんとお礼を言えてなかったから……」

 相変わらず少々気怠げというか、平坦な声で告げる。どうも言い損ねた礼を言いに追いかけて来たらしい。

 もしかして「起こされたからつい勢いで降りちゃったじゃない!」なんて言われるんじゃなかろうか、という嫌な妄想とはどうやら違い一安心する。


「私も降りるからついでだっただけよ。いつも殆どの生徒は駅で降りるでしょう? だから少し気になってね。気持ち良さそうに眠っていたから躊躇しちゃったのだけれど」

 なかなか柔らかい返事ができた。やはり今日の私は調子が良い、と紅葉は思う。


「いつもは駅に近付くと目が覚めるんだけど、夜更かししちゃって……、それでかな……」

「良い陽気だもの、仕方ないわ」

 ほんの少しだけ恥ずかしそうに話す少女に、あら可愛い、なんて思いながら返事をする。


 そんなやり取りでだいぶ落ち着きを取り戻した紅葉は、改めて目の前の少女を見てちょっと驚いた。

 バスの中では焦りでそれどころではなかったが、一言で言って美人。身長は百五十五センチ程度と、決して高くはないが体型は非常にスマートで、スライドカットの入った黒髪のショートカットはお洒落で、クールそうな彼女にとても良く合っている。病的に青白い肌も黒髪によく映えていた。


(千鶴さんといい、クール系美人はショートカットと相性が良いなぁ……、羨ましい)

 モデルのような姉の友人の事を思い浮べながら、無意識の内に正面の少女をじっと見詰めていた。しかし……。


「…………」

「…………」

 会話がない。気まずい。周囲の喧騒がやけに遠くに聞こえる。

 思わず頭を抱えたくなり、一度は引っ込んだ筈の冷や汗が今度は実際に背を伝いだす。何とかこの状況を打開しようと考えを巡らすが、まるで思い付かない。


(誰よ今日の私は調子が良いって、私よ!)

 内心セルフ突っ込み。気まずい現実から目を逸らしてみる。


(あ、あれー? それじゃあ私はこれで。ええ、さようなら。の流れじゃないの? あれー?)

 だがしかし現実は非情、というやつである。状況はまるで変わらず、少女はなんだか眠たそうな瞳でじっと見詰めてくる。


(これって人生最大のピンチじゃなかろうか)

 平島紅葉御年十四歳。えらく小さな最大のピンチと向かい合っていた。



 知らず知らずの内に紅葉を追い詰めている黒髪ショートの少女の名前は岡崎巴(おかざきともえ)。巴は目の前の少女をただ見詰めていた。


(身長高いな……、私より頭半分くらい高いから百六十五くらい……? 百七十はない、かな……。すごい美人……。ちょっと釣り目なのが良い、かも。髪型も似合ってるな……、真ん中分け……、センターパートって言うんだっけ? ……、緩いパーマの掛かった緩い三つ編み……、良いな……。同じ制服……という事は中等部……、正直見えないな……、大人っぽいし……、私服じゃ分かんなかった……、と思う)

 巴は初め、乗り過ごしそうになった自分に声を掛けてくれた彼女に、降りてからお礼を言えてなかった事に気付いた。

 慌てて見渡すと幸いにも彼女はバスの乗換えらしくターミナル内にいた。そこで声を掛けたのだが、お礼を言って改めて見た紅葉の容姿に目が奪われたのだ。当然、その彼女が内心オロオロ慌てまくっている事にはまるで気付かずに。


(ん、という事は同学年……? 見た事有るような無いような……、無い、かな?)

 実のところ、巴も少々残念な少女だった。

 彼女も容姿端麗なのだが、いつも眠たそうにしていて、実際休み時間はよく寝て過ごしている。

それでもミノア生らしく授業は基本的にきちんと受けているが、それ以外はやっぱり机に突っ伏している姿をよく見る、ダウナー系の色々勿体ない美人。周囲の印象は大体そんなところだ。


 巴は普段、周囲にあまり関心を抱く事はない。だからこの普段の状態であり、本人も特に気にしていない。関心はあっても状況のさほど変わらない紅葉が少々憐れかも知れない。

 そんな巴らしからず、目の前の少女に興味を惹かれているのは、出会いに少しばかりインパクトがあったからか、はたまた単に寝起きだったからか、とにかく珍しい事だった。

 そしてその少女はというと、相変わらず何を言うでもなくただただ静かに三つ編みを弄っていた。

 心の内は別にして。


(うーん……、なんて事のない動作が絵になるなぁ……)

 巴のテンションは外では珍しく、益々上がっていった。



「…………」

「…………」

 尤も、その間会話は完全に止まっているのだが。



(ち、沈黙乙。誰か助けて下さい)

 紅葉は巴の、巴基準でキラキラした瞳に気付く余裕などなく、バスターミナルの中心で助けを求めていた。


(まあ、助けてくれる友だちいないんだけど)

 自虐して思わず笑いが漏れた。意外とまだ余裕があるのかも知れない。本当はただ処理限界を越えただけなのだが。

 こういう時どうすればいいか。紅葉に思い付く話題は天気、それくらいである。


(今日はいい天気ね……? その後どうすればいいの……? ま、また沈黙が続くんじゃないかしら。う、うー……)

 仕方なしに紅葉が乾坤一擲の大勝負というか若干自棄になって、名前とクラスなんて聞いてみようかとしたその時であった。バスが到着したのは――。

 救いの神が現れた、とほっと息を吐く紅葉だったが、もう少しだけバスが遅れていれば、名前やクラスを互いに知り、会話が広がりもっと良好な関係を築けていたかも知れないのだ。やはり少しばかり不運かも知れない。本人はまるで気付かずに喜んでいるが。


 少し息を吐いて心を落ち着け、別れの挨拶を口にする。


「それじゃあ、あれ、私、バスが来たから、待ってるやつ、うん。さようなら、ね?」

 グダグダである。そして何故か疑問系。


「え? あぁ……、それじゃあ、また……」

 少し遅れて紅葉を熱心に観察していた巴も反応する。幸い紅葉のグダグダっぷりには気付いていない。

 紅葉は軽く頭を下げるとバスに乗り込み、席に座ってやっと緊張から解放され、ほっと息を吐く。


(なんていうか、会話力なくて本当にごめんなさい……。あぁ、あと神様ありがとう)

 凹みつつ心の中で少女に謝り、ついでに(バス)へと感謝の祈りを捧げる紅葉だった。



 バスに揺られる事三十分。最寄りのバス停で降りた紅葉は自宅へ向かい歩く。

(今日は何故だか疲れが。早めに、ご飯前にお風呂入ろ。うん)

 数分後、大きな住宅の建ち並ぶ、ミノア女学園の周辺と似た雰囲気、高級住宅街が続く。その一角に紅葉の家はあった。


「ただいまー」

 鍵を開け玄関に入った紅葉は、外とは違い大きめの声で帰宅を告げた。廊下を歩く足取りも軽い。


「お母さん? 居ないの? いないのかーそうなのかーそーなのかー?」

 リビングを見渡して母親が居ない事を確認しながら、ネトゲのフレンドから仕入れた言葉――、よく意味や元ネタの知らない独り言を呟きながら、手洗いとうがいをしに洗面所へ向った。明らかに外よりテンションが高い。

 元々紅葉は、家でも外でも大人しめ性格で、家族は皆その事はよく知っている。ここ数年、外ではちょっとした事で内心ビクついてばかりいて、益々外では大人しくなっていったが、その分家では気が抜け、リラックスしている。

 彼女は内弁慶だった。


 手洗いとうがいを済せた紅葉は、二階にある自室に入り、先ずはいつも通りコンポのスイッチを入れた。


 流行の曲には疎いが、父親の影響で物心付く前に解散したとあるロックバンドが好きになり、そこから同時期に活動していた幾つかのロックバンドにもハマっている。なので部屋にいる間中掛けっ放しにしているのだ。


 紅葉は鼻歌を歌いながら部屋着のジャージに着替え益々リラックス状態に。

 そして机に向うと早速パソコンの電源に手を、とはいかず、宿題を始める。その後も復習に予習と、学園での評判通りの真面目振りだった。


 これは元来真面目な性格をしているという事もあるが、授業で当てられた時に慌てる可能性を潰したい、という気持ちも強い。あとは単純に成績が落ちる事が怖い。

 色々と足りてない、友だちとかあと友だちとか、それに友だちとか――自覚のある紅葉の防波堤のようなものだった。


 その後明日の準備まで済せ、漸くパソコンの電源を、とはまたしてもいかず、収納から何か取り出すと部屋を出た。


「おーふろーおおふろ~っと」

 鼻歌の自己申告によるとお風呂の時間。機嫌良く、軽い足取りで階段を降りて行く。

 浴槽を洗いに風呂場へ向うと、手前の洗面所に手を洗っている姉の(かえで)の姿があった。


 平島姉妹はどちらも母親似で、二歳という年齢差による違いこそあれどよく似ている。一歳年上の兄は、楓の姿を紅葉の未来予想図なんて言うが、紅葉は少々複雑な気分だった。

 似ていると言われるのは正直嬉しい紅葉。が、自分ではそう思えないのだ。


 楓は紅葉と違い社交的な性格をしていて多趣味。ついでに運動もそれなりにできる。そして何より友だちが多い。特に最後のは大きな相違点だ。

 外見も、身長は五センチ以上違うし、髪は腰の付近まであるのに枝毛もなく綺麗。胸も割と大きい。

 胸以外のサイズは目算ではそれほど変わらないのに、どうしても紅葉には納得のいかなかった。二年後に今の楓のようになっている自信はまるでなかった。


(顔のパーツは似たようなものなのに何故違いが……、あっ、表情か)

 などと考えながら、なんとなく姉を見詰めていた。

 こうして改めて姉との違いを再確認する事はあまりしないのだが、姉を見てバスターミナルの一件を思い出し、お姉ちゃんなら上手くやるだろうなぁ、と少し凹みつつ再確認。なんだか無性に胸を鷲掴みしたくなっていた。意味不明である。


「…………」

「ん、どした?」

 何故かじっと見詰めてくる妹に首を傾げる楓。


「んーん、なんでもないよ。おかえりお姉ちゃん」

「うん、ただいま」

「今日ちょっと遅かったね」

「電器屋寄ったからね、駅の北口出て直ぐのところの。いろはがさ、パソコン買い換えな許可が出たらしいのよ。それで今日はちょっと下見にね。その後本屋」

「おー、うらやま」

 バスルームの扉を開いたままにして、浴槽を洗いながら会話を続ける。いろはとは楓の友人で、よく家に遊びに来るので紅葉も面識があった。


「いろは、にゅーぴーしー手に入れたら本格的にネトゲハマるかもね。今はまだ『ハマりかけだって!』ってかたくなに認めないけどさ」

 一年以上プレイしてるのにね。と笑い合う姉妹。その笑顔は大変良く似ていた。



「直ぐに貯める?」

 洗い終わった紅葉に尋ねる。


「うん。今日は夕飯前に入っちゃって、早めのログイン予定」

 現在の時刻は午後六時過ぎ。帰宅部の二人の帰りは早かった。


「私も今のうちに宿題片付けて、夕飯前に入っちゃおーかなー……。よし、そうしよう」

「うん」

 それじゃあね。と言い残し、急ぎ足で去って行く楓。階段を上る軽快な足音を聞きながら、紅葉は給湯ボタンを押した。



「くぁ……」

 あれからお隣りの家でお茶をしていた母親が帰宅。リビングで話をしていたがお湯が貯まったので切り上げ入浴。湯船につかった紅葉は、身体を伸しながら息を吐き、今日一番のリラックス状態だ。


(ちょっと失敗もあったけど、今日はなかなか良かったんじゃないかしら)

 なんとなく今日一日を振り返る。


(三日分くらい喋ったし、硬直しちゃったけど、こう、なんていうかな……、最後は臨機応変に対応できたし、ね)

 あれで三日分? とか臨機応変? とか誰かの耳に入れば突っ込み必至だが、本人は概ね満足していた。


(優、良、可で言えば優……、だね。五段階評価で五。大変良くできました。えへへ)

 誰も居ない事をいい事に、ニヤニヤしながら脳内でだだ甘な評価を下す。人によっては可どころか不可であろう。


(それにしてもバスの子、綺麗だったな。独特な雰囲気で……、今思うとダウナー系ってやつかしらね。初めてのタイプだったわ。んー、今日の出会いを切っ掛けに仲良く……、ないわー……)

 テンションは高かったがさすがに、今日の出会い最高だったわね! とはいかない。

 むしろ相手の方が強く興味を惹かれているなんて思いも寄らない紅葉は、友だちは無理そうね、と溜め息を吐いた。


(それでもここから友だちになる可能性はゼロじゃないし、差し引きで言えばプラスよ)

 ネガティブなのかポジティブなのか。よくわからない紅葉だった。

 尚、友だちになる可能性は勿論ゼロではないが、紅葉から積極的に動く可能性はほぼゼロだ。なにせヘタレなもので。



 あれから紅葉と入れ替わりに勉強を済せた楓がお風呂に入り、紅葉は母親の料理のアシスタントをして――携帯でレシピを確認したり、鍋が吹きこぼれないか様子を見ていただけなのだが――過ごし、時刻は午後七時半。ダイニングテーブルに着いた三人は食事をしていた。

 高校一年生の紅葉の兄、葉月(はづき)は当たり前の事だが二人とは違う共学の学校に通っている。

 その葉月はというと、部活をしている為帰宅時間は二人より遅いがもうそろそろだ。

 しかし帰ると先ずお風呂に入るのと、大体帰宅時間が早い時の父親と同じくらいの時刻になるので、あまり一緒に夕食をとる事はない。女三人で揃って早めの夕食、男二人が揃って遅めの夕食、となる事が平日の平島家では多かった。


「今日、ちょっと変わった事があってね」

「うん」


「帰りのバスでさ、学園前から駅ね――隣りの席に座った(多分)同級の子が、ショートカットの似合う美人さんでね。でも千鶴さんとは違うタイプっていうか……、いや、ショートカットでそれが似合ってたりするのは同じなんだけど、ダウナー系っていうのかな、声に抑揚があんまりなくって、目もなんだか眠たそうな目をしててさ――実際寝てたんだけどね。だけど雰囲気に合ってるの」

 今日知り合ったバスの少女の話をする紅葉。


「へぇ……」

「そうなの」

 短く返事をする二人だったが、内心驚いていた。

 紅葉が外の事――特に学校の話題を自分から出す事が珍しいのだ。それも同級生。

 桜がだいぶ散ったとか、偶に見掛ける迷い猫が可愛いなんて話は割とある。しかし同級生だ。教師でもかなり珍しいのに。ひょっとしたら一年以上聞いてないかも知れないというくらいだった。


 紅葉に友だちがいない、もしくは少ないという事は、特に仲の良い姉だけでなく、言わずとも家族全員が気付いている。なので皆気を遣って学園生活に広がりそうな話題は振らないようにしているのだ。まだ一年生だった頃など、楓と葉月も気を遣い、自分たちの友だちの話題など絶対に出さなかった程である。

 今でこそ、そこ迄気を遣われる事を紅葉本人が嫌がり、紅葉が楓たちに友人の話を振っているうちにそういう事もなくなったが、紅葉に友人の話題を振るのは家族にとってちょっとしたタブー。当然本人から出て来る事などない。

 そんな紅葉から同級生の話題だ。しかも少々テンションが高く見えた。驚くのも無理がないだろう。だが……。


「…………」

「…………」

「…………え?」

 話の続きを待つ二人に返ってきたのは沈黙。思わず楓の口から呟きが漏れる。


「え?」

「え?」

「え?」

 なにそれこわい。ではなく、紅葉の中では既に終わった話題だった、それだけの事である。

 なにしろあと話すとしたら駅で起こしたら追いかけて来てお礼を言われた事くらいだが、それにくっ付いてくるのは沈黙空間とそこをバスに救われたという間抜け話。できる事ならあまり話したくはない。


 なんだか肩透かしを食らった気分の二人だったが、どうしたの? とばかりに小首を傾げる紅葉は可愛らしく、まぁいいか。という気分になったのであった。末っ子パワー恐るべし。

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