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十二話 不死

『衝撃の告白していいかな?』

 かるたが杖を振るい、効果の切れた補助魔法を掛け直しながら呟く。


『かるたん どったの?』

『?』

『まだ、18分しか、経ってない』

『な、なんだtt』

 ネタで返そうとしていた陽炎だったが、途中で余裕がなくなり中途半端に送信される。

 陽炎のクラスはNINJA。改めて、NINJAであって忍者にあらず。

 他クラスから頭一つ抜けた移動速度に、壁蹴りや三段ジャンプなどトリッキーな動きに技、手数の多さとクリティカル率が武器の、基本的には前衛クラスの一つだ。

 しかし他の前衛クラスと違い魔法による遠距離攻撃も可能という、良く言えば万能クラス。けれど前衛として必要なステータスと後衛として必要なステータスが異なるので、成長はどちらかに絞らないと中途半端な存在になってしまう。魔法は種類も数も少ないので実際は十人中九人が前衛タイプなのが現状であり、勿論陽炎もその一人だ。


『分かってた事だけど』『MPきっついわー 節約しないと』

 チャットを挟みながらも人斬り二号は【ワータイガー】の剛腕を躱して脇腹にランスを一突き、後ろに回り込んだ陽炎と挟んで技を使わずに削っていく。

 よくパーティを組む二人は息の合った動きを見せ、急に真横にモンスターが湧くといった事がない限り比較的安定して狩りを続けていた。尤も、そういう事態が頻発するのが【首都防衛戦】なのだが。


『あはは……、なんだか申し訳ないな』

 そう言って魔法を撃つキャロル。


 砲撃型攻撃魔法、ブレイズキャノン。


 魔法をチャージしたキャロルは両手で杖を持って前に突き付けると、杖の先に赤色の環状魔法陣が描かれ光の粒子が集まる。光が膨れ上がり魔法陣が発光し、前方に太いビームが放たれた。

 生まれた光は数匹のモンスターを飲み込む。更に砲撃中位置の固定されているキャロルは射角を操作してもう二匹モンスターを飲み込んでいった。


 砲撃魔法はチャージの時間が長い、砲撃中は移動出来ない、再度使用するまでのリロード時間が長い、消費MPが多い、という多くの欠点もあるが火力は最も高い、攻撃魔法の花形だ。

 砲撃魔法の威力は今のところINT依存かINT>MEN依存のものしかない。INT>MEN依存のものもINTとMENには越えられない壁があってINTに大きく依存する為、MEN特化型のスクルトが使用してもデメリットに見合う程のメリットはなく、一応は覚えさせてはいるが実戦では殆ど使わず、魔法レベルも上げていない。


 キャロルのクラスはウィッチ。後衛クラス唯一飛行可能で、赤・青・緑・黄の四属性の攻撃魔法に加え、無属性の攻撃魔法に補助魔法と、様々な魔法の使える後衛の花形にして主力クラスだ。

 更に他を圧倒するDAM上昇を誇る自己補助魔法も有る。まともに育成するとかなりの手間が掛かる上に武器は杖と貧弱だが、ステ振りと装備次第でネタキャラになり易い所謂殴り魔を、ネタじゃなくできる可能性すらあるクラスだ。あくまで可能性の話だが。


 その他、ウィッチの特徴というと、魔法を使用すればするほど使用した属性が強化されるという点がある。その代わりに、それ以外の属性が僅かながらに弱体化していく。

 これは例えば、青属性の魔法を使ったら青属性が1強化されたとして、赤・緑・黄が0.05ずつ弱体化するといった程度の比率だが、大抵のプレイヤーは一つの魔法と無属性に絞り、他の属性魔法は補助魔法のみに止どめる事が一般的だ。

 その為ウィッチ――性別が【おとこのこ】の場合はウォーロックは青属性特化だと、青魔や青ウなどと略される事が多い。


 この特徴、正しくはウィッチのみのものではないのだが、ネクロマンサーの場合扱える属性は最初から黒色一色だけなので考慮する必要はない。

 キャロルの場合、INT特化型赤魔となる。

 MEN型に比べ補助魔法と状態異常の成功率と回避率に劣り、最大MPと自然回復を捨てて火力に生きるタイプで、ウィッチのメジャーな育て方である。


 そのINT特化型でMPの少ないキャロルが何故次々に魔法を撃てるかというと、スクルトと【エンゲージ】という契約を結んでいるからだ。

 エンゲージを結んだ二人は一つの条件を満たせば、同じエリア内に居るパートナーの元に転移する事ができ、更に二人のMPが共有される。

 スクルトとキャロルの場合、スクルトがMPタンクになるので、隣りにいる限りなかなか尽きる事がないのだ。このシステムによってMPが不足しがちな前衛クラスがサポートクラスと組んで、技を使いまくるという事もできる。


 余談だがこのシステム、他のMMOで言うところの所謂結婚システムの代役でもあるが、結婚よりも気軽に申し込める為人気のシステムでもある。

 男同士であろうと女同士であろうと、性別不明であろうと、また種族が違おうと可能だ。


『いや 正直うらやましーよ フリーだったら スクルたんに私』『申し込んでたね マジで』

『いやいや二号ちゃん、スクルトちゃんは私の嫁だって』

『モテモテだ』

『えへへ』

 モテているのはスクルトだという事は分かっているが、それでも少し照れ、気分の良い紅葉だった。


 そうやって忙しい中でも雑談しながら次々に狩っていると、【首都防衛戦】開幕の時以来聞いていなかった鐘の音が再び響いた。但し今回はこのエリアとその周辺だけだ。

 同時に正面に二体のモンスターが出現する。


 一体はヒルジャイアント以上の肉体を誇る巨人だ。手に握った反りのある刀剣は体躯に似合うサイズで、鎧を纏った全身は赤く、炎に包まれて陽炎が揺らめいている。


 もう一体は巨大な剣と盾を持った銀色の騎士。但し銀色には錆が浮き輝きがなく、兜から覗くのは頭蓋骨。

 その周囲には数体のゴーストのようなものが着かず離れず飛び交い、黒い靄のようなものに薄く包まれている。その姿はどこからどう見てもアンデッドだった。


『さっきの鐘ってボスだよね? サンダーバードは?』

『多分、別の時間に出ると思う』

『お預け』

 かるたの疑問にスクルトと陽炎が答える。その間にも二体は前にゆっくりと進んでいるが、二人も、また周囲のプレイヤーも魔法のチャージや補助魔法の掛け直しや、この間も湧いている他のモンスターとは戦うものの二体には手を出さない。


[墓地にファイアジャイアントとカースナイトの2体が同時pop。こっちで2体同時は厳しい]

 そう戦争チャットで状況を伝えながら、キャロルも魔法のチャージを始める。

 首都防衛戦は通常と、タゲの移り易さなども含めAIがかなり異なる為、この二体も放置すればこの場に居るPCたちをスルーして、近くの重要拠点を潰しに行く可能性が高い。

 ならば止めなければならないが、それは難しい。二体を相手にしてもおそらく倒せるが、他が手薄になり倒れるPCも大量に出るというのが楓の、そして他の多くのプレイヤーの予測だ。


[ファイアジャイアントを通して。1体お願い]

[了解]

 赤レンガ前で防衛しているPCからの要請に、先程使用したものと同じ砲撃魔法【ブレイズキャノン】を髑髏の騎士、【カースナイト】に撃ってから、短く返事を返した。それに合わせるように周囲のウィッチたちも次々に撃ち込んでいく。


『ハハッ、ダウンしないんですけど』

 キャロルはよろけただけで自分へ突っ込んでくるカースナイトに愚痴りながら上空に退避する。剣の範囲外へ逃げたキャロルにカースナイトが大剣を振るうと、周囲に浮遊しているゴーストたちがキャロルを追いかけて行った。


『この子も十分ヤバくない?』

 そして自身も周囲のPCたちを手当たり次第に斬り伏せていく姿を見て、かるたは思わずといった様に呟いた。


『接近強過ぎ 剣速過ぎ 遠距離ゴーストアタック 現在進行形でキャロたん追いかけてるやつね アレしつこ過ぎ オマケに範囲魔法もアリ』

『今のところ防衛でしか出てなかったと思う。私も動画でしか見た事ないなぁ』

 人斬り二号の説明にスクルトが少しだけ付け足しながら、魔法を設置していく。


『それでも』『サンダーバードよりマシヤバい死ぬ』

 青いゴーストの群に追われながらもキャロルはチャットを打つ。

 カースナイトの周囲のゴーストを飛行タイプのPCが囮になって引き離すのは、そのままでは隙がない為今のところ有効手段と言われている。しかしゴーストたちは速く、強く、嫌らしく、無論容赦もしない。囮役は非常に危険だ。

 それでもサンダーバードよりはマシだという言葉を即捨てたくなるほどに。


『ホンッと怖いなコイツ』

『まぁ 私たちに出来るのは 恐れを知らない戦士のように振る舞う事だようん』

『エー、それ死亡フラグじゃ……』

 陽炎と人斬り二号は軽口を叩きながらも、他のPCと協力して囲み、慎重に距離を測りながら戦っている。

 特に手数が大きな武器であるNINJAの陽炎としては長い連撃を決めたいところなのだが、相手はボスの補正もあるのか、ほぼダウンしないどころかよろけも殆ど発生しないカースナイト。

 下手に連撃を入れるとその最中に薙払われる事となるので、自分にターゲットが向いてないだけでなく、他のPCに巻き込まれないタイミングとポジションからでないと、一気に【気絶】まで持っていかれる危険性があるのだ。


『サンダーバードどんだけよ……』

 ぼやきながら、かるたは補助魔法を掛け直す。


 起点指定型補助魔法、スロウ。

 起点指定型補助魔法、ウィークネス。


 対象のAVD(回避)と自然回復速度を下げ、更にDAM(直接攻撃ダメージボーナス)とMDAM(魔法ダメージボーナス)を下げる。

 掛けるのはカースナイトの相手を始めてから二度目。魔法は成功するのだが三十秒足らずしか保たないのだ。

 当然スクルトも掛け直していた。スロウはネクロマンサーの自然回復速度を下げる魔法【ペイン】と重複する為掛けているのだが、元が速過ぎる所為で漸く並といったところ。そんなところからもカースナイトの強さがうかがえた。


『うーん、やっぱり厳しいか……』

 カースナイトが魔法陣を踏んで【呪いのイバラ】が発動したのだが【呪い】は発動せず、【バインドα】は発動から五秒と保たずに打ち砕かれ、再び大剣を振り回し始めた。


 できる事なら最初より火力を集めて砲撃魔法の集中攻撃で一気に沈めたいところなのだが、今撃てば引き付けている前衛が巻き込まれ、多少軽減されるとはいえ放たれる砲撃魔法の数から考えておそらく沈む。

 前衛が距離を取っても直ぐに詰められる為難しい、というかタゲが前衛から移り大惨事になる可能性もある。

 しかし時間が掛かればカースナイトに戦力を割いている分、他から崩壊してしまう可能性があった。カースナイトが居るからといって雑魚の湧きが減少している訳ではないのだ。

 あと、長引けばキャロルも墜ちるだろう。ヴァルキュリエとウィッチ、ウォーロックは飛行可能だがアクセサリーなどによるブースト込みの状態でも飛び続けられるのは一分程度。時間が過ぎれば地面へと自由落下する。

 そうなればゴーストの餌食だ。そしてキャロルがダウンすればゴーストがカースナイトの元に帰還し、状況は悪化する。

 そうなる前に、他のPCがゴーストに攻撃を加え、その隙にキャロルは細かく着地をして飛行時間を回復させているのだが、限界はそう遠くはない。尚、カースナイトの放ったゴーストへの攻撃は一応通るが無敵であり、受ければ少し硬直するというだけだ。


「時間を稼ぐので、魔法の準備を。ゴーレムごとお願いします」

 オープンチャットで周囲のPCたちにスクルトが呼び掛け、おk。と返事をする余裕があるものは返す。

 スクルトはマチュピチュをカースナイトへと突撃させると同時に補助魔法を掛けた。


 起点指定型補助魔法、イモータル。


【不死】且つ実体のある存在を、一定時間白属性を含まない攻撃から守るという強力な補助魔法だ。効果時間はスクルトで十一秒と短く、他にも欠点は有るがスクルトの切札の一つである。

 マチュピチュの拳がカースナイトの兜を殴り付けるのと同時に、カースナイトを慎重に囲っていた人斬り二号と陽炎を含む五人のPCが一斉に離れた。

 カースナイトはマチュピチュに連続で斬り掛かるが、【イモータル】の効果でマチュピチュはよろけるもののダウンはせず、斬られ続けながらも殴り返していく。ノーガードの打ち合いである。

 まさに千載一遇のチャンスというやつが訪れた。


「よろしく」

 スクルトの短い呟きがログに流れる。それに呼応して近くの砲撃魔法の使い手たちが、カースナイトを押さえ込むマチュピチュごと赤・青・緑・黄・黒の五色の砲撃でのみ込んだ。


 二人を包んだ光がおさまった時、そこに立っていたのはツギハギの巨人ただ一人。それを確認したスクルトはチャットを打つ。


[墓地のカースナイト撃破]


「一先ずお疲れ様ー」

 乙ー。お疲れ様ー。と周囲のプレイヤーたちも一息吐く。雑魚の数は相変わらずだが、アレが居なければ持ち直せる。


『スクルたん ナイス』

『いやホント、最っ高!』

『ありがと。いやー、できれば使用したくなかったんだけどね』

『そうなの? 便利そうに見えたんだけど』

『リロードに10分以上掛かるんだー』

『なるほど』

【イモータル】の大きな欠点は二つ。一つは効果時間が異様に短いという点で、もう一つは再度使用するには十分以上間が空くという点。他にもあるが特にこの二つは大きい。

 効果時間はINTに大きく依存する。しかしイモータルはINT特化型でもいいとこ20秒は越えない。しかも消費MPがすこぶる多いので、最大MPの少ないINT特化型にはどうにも使い辛いという、扱いの難しい魔法なのだ。


『10分以内に例のアレが来る可能性があるからね。アレ相手だと効果も微妙だからたぶん使わないけど……』

 紅葉の頭の中は、先程のカースナイトの事どころではなく、いずれ現れるであろうボスの事がちらついていた。


『名前を言ってはいけないあの人かー』

『スクルちゃん助かったよー!』

 四人が話して居ると、ソロで参加していると思われるクレリックに回復して貰いながらキャロルが戻って来た。どうも危険域に到達していたようだ

 回復クラスのソロ参加だが、成功報酬しかメリットがないというわけではない。通常とは違い、回復したHPの量など、行動に応じて経験値が入るようになっている。


「どうもですー」

「アリガトー」

 辻ヒーラーに人斬り二号と陽炎も回復して貰い、お礼を言う。

 ピクシーのクレリックは微笑むと頭を下げ、他のHPが減っているPCの元へと飛んでいった。


(……、ルウさんも参加してるのかな……)

 ピクシーのクレリックというルウと同じ――、しかし特に珍しくない組み合わせのPCに、紅葉は彼女の事が頭に思い浮かんだ。


『さて、あと35分頑張ろー』

 おー。紅葉はキャロルの掛け声に他の三人同様返事をしながら、忙しさで忘れていた思いが蘇ってくる。


(今どこで何してるの?)


 無性に会いたい。


 紅葉はどうしてか自分でも分からないが、そう思った。

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