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十一話 赤レンガを越えろ

 舞台となる【魔法少女おんらいん】最大の都市、ルネツェンは広大で二十五のエリアに別れている。

 ルネツェン中に【首都防衛戦】用のNPCたちが散らばっているのだが、今回のイベントは、どの方向から来る敵が強いだとか、○○方面で【フロストジャイアント】を見掛けたらしいから△△の辺りに現れるかも知れない、といった噂話を元に、高レベルPCは混戦が予想される場所へ、中堅のPCは自分のレベルに合った狩り場へと向かう。


 参加資格はレベル41以上。モンスターの種類は非常に豊富で、41のPCでも楽に相手のできるものから、レベルキャップ(80)に達しているPCでも、複数であたらないと苦しいモンスター、それどころか複数パーティによる数で圧倒するしかないという、一定時間毎に出現するボスモンスターも居る。


 このボスモンスター、過去には【レッドドラゴン】といった竜種も出現しているが、竜種は今のバージョンではこのイベントでしかお目にかかれない。そういったモンスターからのドロップ品は大変貴重である。ただ、それ相応に危険な相手だ。


 イベントの勝利条件は城に一定以上のダメージを受ける事なく一時間耐える切る事。

 仮にダメージが基準値に達さなくとも、城門やその他都市中に点在する重要拠点のダメージがかさんでも敗北となる。なので城だけを固めて砲撃をし続ける、といった事をしていても直ぐに敗北してしまう事になる。

 まだ手探りだった頃、それをやって五分と保たなかった苦い思い出があった。最短の敗北としてしっかり記録に残っている。


 プレイヤー間の協力は非常に重要だ。【せいぎ】と【あく】に別れている魔法少女たちも赤ネーム(PKユーザー)も皆、この時ばかりは協力しあう。


 これまでの成績は、防衛成功率六割をやや下回っている。その程度なのに敗北すると、次の首都防衛戦に勝つまでの間ショップの値段は上がり、一部施設は使用不可になるというなかなか厳しいイベントなのだ。

 しかしむしろ厳しいからなのか、燃えるプレイヤーは非常に多い。

 以前紅葉がなんでこんなに苦しい時ほど皆楽しそうなんだろうね。と陽炎に聞いたところ、ネトゲプレイヤーは皆Mだからダヨ。と言われた事があった。案外それが正解なのかも知れない。


 だがこのイベント苦しい事ばかりではない。守りきれば参加者には報奨が与えられ、更に貢献度上位のPCには追加でボーナスが出る。それだけと言えばそれだけなのだが、割と美味しい。


『どうも今回は西と北がヤバそうね』

『南西の情報出てりゅ?』

 戦争チャットのログを確認したキャロルの呟きに陽炎が反応をしめす。


『いや、なかったよ』

『さんくー。じゃあちょっと流そう』


[南西墓地の墓守が嫌な予感がして仕方がない。と発言。ソースは記述のとーり墓守から]

 陽炎の発言が全参加者のチャット欄に表示される。この情報も、主に防衛の中心となる大規模同盟のトップ等によって防衛ラインを敷く場所が話し合われ、その事も戦争チャットを通じて全参加者へと通達されるだろう。これがいつも流れだ。

 キャロルの参加する同盟も本来その中に入る程大規模なのだが、好きに参加する事になっている。

 同盟主曰く、祭りに遊びに来たのに屋台側で参加させられる気分になるからヤダとの事で、キャロルも概ね同意見らしい。


 こうして皆が各地で情報を集め回り、時間は早くも開始十三分前。九時四十七分を迎えた。


『キャロたん もうそろそろイイんじゃない?』

『そだね。どこにしようか』

 人斬り二号がキャロルに呼び掛け、五人は今回参加する狩り場の話し合いを始める。


『結局西、北、南西だよね』

『うん』

『個人的には西は避けたいカモ。【もふもふっ】が防衛ライン敷くみたいだけど、あの人らちょっと危なくなるとすぐに橋落とすんだよネー……』

【もふもふっ】とはサーバー内でも指折りの大規模同盟で、こういったイベントでも指揮を取る側に回る事が多い。陽炎の言葉に批判的なものが混ざる。嫌な思い出があるようだ。


『そうなの?』

『ウン。危なくなってきて一旦後退しようとしたら橋がないぜあばばばば、っていう事になりカネない。というか多分ナル。別PCで参加した時ちんだ』

『ああ、そういえば私もそれ経験あった。ゴーレム盾にして逃げたけどあっさり溶けた』

 紅葉もその時の事を思い出しながら話す。

 河の中を走って逃げたが移動速度は低下しているし、飛行タイプのモンスターが続々と襲って来る。河に歩行タイプのPCが次々と沈んでいく光景はなかなかの地獄絵図だったと。


『西は回避という事で』

 さんせーい。キャロルに四人は揃って同じ答えを返すのだった。


 その後の話し合いの結果、南西という事になった。西じゃなかったら良いという事が主な理由で、決め手となったのが今いる場所から近い、それだけだったりするのだが。



 九時五十五分。墓地に着くと多数のPCが赤レンガと黒い鉄の柵の前に並んで居た。彼ら、彼女らがここで防衛ラインを敷くPCたちだ。

 その中心になるのは戦争チャットで流れた情報によると【ForgetMeNot】という同盟。

 スクルトたちは彼らのたむろする赤レンガ前を通り抜けて奥へ……、墓地の中へと進んで行った。


 スクルトたちの役割は遊撃――、といえば聞えは良いが、要は好き勝手に暴れ回る事だ。

 襲い来るモンスター全てを彼女等だけでは片付けるのは到底不可能だが、赤レンガの壁に到着するモンスターの数はそれなりに減らせる。勝手に暴れ回るスクルトたちだが、貢献度は決して低くはない。


 到着すると五人は素早く再起動をした。ここでいう再起動とは多少時間の掛かるパソコン本体ではなく、魔法少女おんらいんのプログラムを一旦終了させた後起動し直し、更にメモリクリアをする事を言う。

 パソコンの再起動ほどではないが、効果は悪くない。



『あ、そうだ。雷鳴の中から現れる鳥って何?』

 再起動から戻ったかるたが四人に尋ねる。


『あー、そういえばここに出るかも知れないんだっけ』

『多分だケド、サンダーバードっていう超強い奴。特徴は超強い』

『情報集まったらショトカ変更するつもりだったんだけど、結局弄ってないよ。私その子に決定打持ってないから皆頑張ってね』

 紅葉は既にサンダーバードは少々諦め気味だった。

 なにせ頼りの設置型魔法は当たらない、速過ぎて範囲魔法も当て辛い、スクルトの射撃魔法では火力不足――、補助魔法くらいしかする事がないのだ。出て来たらできるだけダメージを貰わないようにしようと思っている。


『えー、そんなに強いの?』

 五人は会話をしながらも補助魔法を掛けだした。周囲のPCたちも同じようにしている。クレリックやエンチャンターなどの補助魔法を持つクラスは、パーティ外のPCにも見える範囲届く範囲に、自分のMPと相談しながら掛けていく。

 組んではいないとはいえ、ここに居るのは大なり小なり皆仲間意識があった。


『先ず速過ぎ 自分の回りに雷の雨降らす範囲広くて強過ぎ 体当たり強過ぎ っていう感じかな 体当たり超★速いから 予備動作入ったら先読みしないと避けれない』

『うへぇ……』

『HP減ってもパワーアップなんて真似はしないから、シンプルといえばシンプルだけどね。ヤバいよ』

『宇宙ヤバイ のコピペ作られるくらいだもんげ』

 スクルトとキャロル、その他多くの攻撃魔法を有するPCたちが魔法のチャージを始めた。


『知ってるかな? ヤバイ。サンダーバードヤバイ。まじでヤバイよ。マジヤバイ。サンダーバードヤバイ。まず速い。もう速いなんてもんじゃない。超速い。ってやつね。防衛戦終わったら見てみるといいかも』

『まぁ 基本的に近寄らず魔法でおっと』

 その時ルネツェン中に鐘の音が響き渡り、人斬り二号は会話を中断した。



 先ほどからカウントダウンが発生していたのだが、遂に首都防衛戦が始まったのだ。

 同時に周囲に大量のモンスターが一気に湧く。

 こうして彼女たちの割と長い一時間が始まり、スクルトたちは魔法を開幕の狼煙とばかりに撃ち込んだ。

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