地下アジト
胡桃のスマホが震えた。
静かな地下アジトに、
着信音だけが響く。
全員の視線が、
テーブルの上の鞄へ向く。
海斗
「……鳴ってる。」
紫苑
「出ろ。」
一樹は無言で胡桃の鞄を開け、
スマホを取り出した。
表示された名前。
──『真奈姉』
一樹は僅かに目を細める。
そして通話ボタンを押した。
一樹
「もしもし……。」
数秒の沈黙。
低く、
静かな女の声が響いた。
真奈
『……誰だ、お前。』
空気が変わる。
ただの声なのに、
背筋に冷たいものが走った。
一樹は表情を変えず答える。
一樹
「お嬢さんが、
見なくていいものを見てしまったので。」
一樹
「現在、
こちらで保護しています。」
沈黙。
そして。
真奈
『……ほぉ。
保護。』
静かだった。
静かすぎた。
真奈
『それは助かります。』
真奈
『では今すぐ行きますので、
場所を教えていただけません?』
一樹
「それは無理ですね。」
間。
真奈
『……は?』
初めて、
温度が落ちた。
その一言だけで、
空気が凍る。
胡桃は青ざめた。
「っ……!」
声を出しかけた瞬間、
隣の玲央が素早く口を塞ぐ。
玲央
「静かに。」
胡桃の肩が震える。
電話の向こうで、
真奈は黙った。
まるで、
何かを聞いているみたいに。
そして。
真奈
『……今、
胡桃の声が聞こえましたね。』
一樹の目が細くなる。
一樹
「気のせいでは?」
真奈
『いいえ。』
静かな声。
だが、
確信している。
真奈
『あと、
後ろで煙草を吸ってる男。』
紫苑の動きが止まる。
真奈
『殺気がうるさい。』
沈黙。
神崎組の空気が変わった。
この女、
何かおかしい。
一樹は初めて、
警戒を強める。
一樹
「……何者です?」
少しの沈黙。
そして、
真奈は静かに笑った。
真奈
『それ、
こちらの台詞です。』
通話が切れる。
地下アジトが、
静寂に包まれた。
その中で、
海斗が小さく呟く。
海斗
「……怖っ。」




