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そう言う映画の主人公

掲載日:2026/03/25

短編です

 映画のワンシーンのようだと思った。

 初めて入った純喫茶。窓辺の一番奥の席に座る女性が、日の光に照らされた様子があまりにも美しくて、つい見とれてしまう。

 短く切りそろえられた髪の毛を時折耳にかけて、その人は厚い本を読んでいた。

「お待たせしました、ブレンドです」

 マスターが来て、一瞬見えなくなったけど、コーヒーを置いていなくなると、また映画のワンシーンが眼前に広がった。

 タイトルをつけるなら何だろう、「窓辺」とか?なんて妄想にふけりつつ、あまり見過ぎない様に、時折視線を外す。でも店が狭いから、少し視線を振るだけで視界に入ってしまう。仕方ないよな、店が狭いのがいけない。

「お待たせしました、本日のコーヒーです」

「ありがとうございます」

 声色まで綺麗ときた。あの人、TVとかに出てる有名人だろうか。いやいや、そんな人が、こんな場所に顔も隠さずにいるわけがない。

 それにしても今日は良い日だなぁ。創作意欲が刺激される。

 バッグの中から紙とペンを取り出して、浮かんだ設定を書き出していく。


 カフェの窓辺、本を読む綺麗な女性、時折窓の外を見て、頬杖をついてはため息をつく。雨の日も風の日も変わらずにその席に座って本を読む。主人公は、そんな彼女を見つめるだけで幸せだと思っている大学生だ。片思いをしているが、話しかける勇気はない。


 そんな話のタネを紙の上に撒いていく。いいね、映像が浮かんでくる。今度の文化祭でそう言う映画を撮ろうかな!仲間内であそこまで綺麗な人はいないけど、そこはカメラの技術でカバーだ。

 むくむくと創作意欲と、映画のシーンが浮かんでくる。

 あぁ、もしくは、カフェを主軸にしてもいいかもしれない。短編映画で、カメラは定点。あの席に来るお客さんたちの日常会話を集める、みたいな!

 でもやっぱり恋愛ドラマが解りやすくて良いよなぁ。あの人、出てくれないかなぁ。思い切って声をかけてみようか。そうだよ、この主人公みたいに、話しかける勇気のない大学生が意を決して声をかける、そういうドキドキのシーンが撮りたいんだよ!去年の大学生映画コンクールは箸にも棒にも掛からなかったけど、これならきっと・・・。

 そうと決まれば、監督の俺が、主人公の気持ちを知らないと、良い作品は作れないよな・・・。ついでに彼氏さんとかいるのか、聞いちゃおっかな。あわよくば・・・彼氏に、なれたら、なぁんて!!!。

 善は急げだ、立ち上がって、彼女の方へ歩き出した。途端に彼女が顔を上げて、パッと明るい笑顔になった。え、ま、まさか、彼女も同じ気持ちだった!?今日会ったばかりなのに!?

 微笑みながら彼女が手を振ったから、控えめに手を挙げた。

「こっちこっち!」

「悪い、電車遅れてて」

 後ろから野太い声が聞こえて振り返ると、声の主が通り過ぎていった。短髪のスポーツしてます風の爽やかイケメンだった。

「本読んでたから大丈夫だよ」

「そう?よかった、何飲んでるの?」

 親しげに話す二人は、一瞬にして二人だけの世界に入っていた。

 優しく肩を叩かれ、振り返ると、そこには優しい笑顔のマスターが居た。



——トイレはこちらですよ——

マ、マスター!!( T - T )

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