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還らざるロケット推進戦闘機隊  作者: cyanP


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05話 十二式戦闘機『隼風(ハヤカゼ)』


 航空隊の陸上基地において殉職者が出ると、葬儀や慰霊は部隊内で定められた手続きに則って行われる。

 葬儀係という役職などあるはずもなく、誰もやりたがるわけがない。

 だからぼくがやる。

 今まで各戦線で多くの戦友を見送ってきたせいか、なんとなく、それがぼくの役割のようにも感じていた。


 カイトと違って特別でも何でもないこのぼくが、今の今まで運良く生き残っていることに理由があるとするならば、いくばくかの加護が死者より与えられていたのかもしれない。


 カイトがそんなぼくを見て、いつもすまないといった顔をする。

 ちがうよカイト。ぼくはカイトには空だけを見てて欲しいだけなんだ。

 誰よりも速く空を駆ける男の肩には、余計なものを何一つ載せたくない。

 それだけだよ──。


 

 ぼくらは尊い犠牲を払いながら敵機を落とし続ける。


 ロケット推進戦闘機は強かった。

 なんたって視界を遮る眼前のプロペラが無い。丸見えだ。

 そして前にエンジンが無いので、命中率が一番高くなる機首に重武装の30ミリ固定機関砲が4門も集中配置させることが出来た。

 おまけに対空ロケット弾24発が翼下にびっしり並んで付いている。


 さながら猛獣だ。

 どんな頑丈な爆撃機でも粉々にできる火力を持ったケダモノだ。


 そうだケダモノだ。麁正はケダモノだ。


 だがどうしたことか、そのフォルムは小さくふっくらと愛らしい姿をしている。


 麁正のロケット燃料の研究に携わった女性理学博士が居た。

 彼女は松本の秘密開発工場で試作中の麁正をはじめて見たときの事を。


「強力なロケットエンジンを装備した、どんな怖い戦闘機かと思ったら、あまりにも可愛いスズメさんの様な格好でいっぺんで気に入りましたの」と言ったそうだ。


 ぼくもそうだ。

 ひと目見て麁正に心を奪われた。

 可愛さにではない、武器としての威風だ。

 麁正の愛称は日本書紀一書に記された八岐大蛇(やまたのおろち)を斬った神々の剣、【蛇之麁正おろちのあらまさ】から来ている。

 

 この機体には、その名に恥じない必殺の能力が備わっていた。

 それは従来の機体では、ぼくらがどれだけ欲しても得られなかった

『民に災う怪物を殺す力』だ────。




 ◆





 ぼくやカイトは、麁正隊に来るまではずっと陸軍航空隊で


 東雲十二式戦闘機 キ42 通称【隼風ハヤカゼ】が乗機だった。


 麁正と違って、ガソリンを燃料とする通常の空冷星型レシプロエンジンを搭載するプロペラ軽戦闘機だ。

 

 海軍の零号戦に並ぶ陸軍の主力機。

 『斎藤隼風戦闘隊』という大ヒット映画になったほど活躍した戦闘機だ。


 ぼくらはこの名機に身を委ね、西はエベレストに連なるチベット高原の荒涼とした山岳地帯で共産勢力の【PI-16】と戦い。ビルマ戦線では連合王国ブルトニアの【スピットフューリー】と戦い。


 太平洋戦線における攻守の転換点となった、連合国側がいよいよ高性能機を投入し始めた頃には、はるか赤道を超え南洋ソロモンに浮かぶ熱帯の島々へ。


 そこでは、対零号戦用に生み出された強力な【P6F ヘルキッド】。双胴の悪魔【FP-38 ライジング】。特徴的なカモメをひっくり返したような逆ガル翼を持つ【P4U コンカー】に至ってはもう、なにもかもが高次元で、キルレシオが皇国海軍零号艦上戦闘機の20倍だなんて噂される化け物じみた新鋭機とも幾多の空中戦を戦い抜いてきた。


 隼風は優秀な格闘性能をもつ戦闘機で、その操縦桿を握っている限りぼくはどんな敵機にも負けない確信を持っていた。言うならば必勝の信念。


 神経は究極にまで研ぎ澄まされ。まるで自分が液体となり隼風の機体、高力アルミニュウム合金第二種で作られた構造体の隅々にまで行き渡るような。

 ぼくの神経が機体各部とぴったり一致するかのような感覚を得るまでになっていた。


 敵連合国側は、工業技術において我が皇国より10年~15年の先進性があり。

 兵隊もみな我が方より数段体躯が勝っていたが。


 それでもとくに敵戦闘機には絶対に負けてはならないと思っていた。

 たとえ物量に押し負けるような結果が不可避であろうとも

 ぼくたち戦闘機隊は決して負けてはならない、負けるものかと。


 おそらくそれはぼくだけではない、皇国の戦闘機乗り共通の矜持だっただろう。

 そして隼風はたしかにそれに応えてくれた。


 事実、ぼくもカイトも空戦では絶対に負けなかった。

 ぼくは今まで二度不時着こそしたことはあったが、カイトは被弾することはあっても落とされたことは一度たりとも無い。


 隼風は機体が軽く、低速域での加速性能に優れ、乱暴な急加速を繰り返しても手堅い設計で信頼性が高かった。

 カタログスペックがいくらすぐれていても、実戦においての絶対的要件は信頼性だ。たとえすでに旧式化していても隼風には信頼性があった。これこそが優秀な戦闘機だと思った。


 だが、南太平洋で海軍が劣勢になり、ぼくたち陸軍航空隊が急遽駆けつけたブーゲンビリアの戦いで、ぼくらは嫌というほど辛酸を舐めることとなった。





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