18.頑張れウィルン君
【ウィルン視点】
なんだ?なんか周りが騒がしい…
誰かが喋っている?
もうちょっと寝ていたい…
今僕は何をしていたんだっけ…
そうだ!ワーム!
ワームとの戦いはどうなった!
勢いよく起き上がったら頭に鋭い痛みが走り、また横になってしまう…そして耳に会話の内容が聞こえてきた。
「あ、姉御ぉ…こんなナヨナヨした草でホントに血が増えんのかよ…マジぃよ…」
「増えますよ。ホウレンソウとはそういう栄養素をたくさん持った植物なので」
「そうらぞぉ~リベンジャ〜、好き嫌いはいけまぅてぇ〜ん」
「サインさんはベロベロに酔っちゃってますねぇ」
「サイン!水!水を飲まないとダメだよ!」
「先輩…そんなに甲斐甲斐しくお世話してやんなくても大丈夫よそいつは」
あの人達の声が聞こえてきた。
僕のよく知る人たちの声…
「大きくなって強くなるためにたべーる!」
ルナの声も聞こえてきた。どうやらみんな無事みたいで、僕も結局助けられたようだった。
そして倒れた僕は食事スペースの片隅に床で寝かされていたっぽい…直で…体が痛い。
「あらあら、兄の方が起きましたね」
「うう…」
「ン兄ちゃん!」
ルナが駆け寄ってきた。そして僕の顔をペタペタ触る。何かのタレでベチョベチョになった手で…
「おう!起きたか!ウィルンっつうんだな名前は。覚えたぜ」
リベンジャーも近寄ってきて僕の顔を覗き込んできた。服装はみんなと同じあのただ真っ白いだけの服に着替えてる。そして圧が凄い…
「ウィルン〜、ダメダメだったなぁ〜。戦闘〜」
「…はい」
サインも横になっており、お姉ちゃん先生に膝枕されながらこっちを見ていった。顔が真っ赤だ。そしてドストレートに痛いところを指摘された。
「それでもあんたよりかは強かったわよ」
「マジかよ〜。俺ってそんなに弱いのかぁ…」
「サインは私が守るから大丈夫だよ!」
「アミュ〜いつもありがとなぁ〜」
サインがあんなに酔ってるのは初めて見たな…
唐突に姉御さんが手を叩いてみんなの注目を集めた。
「さて、ご兄妹二人には先ほどの戦闘の反省点をお伝えしましょうか。あっ、拒否権はありますよ?聞きたくないのなら言いません」
「…ズバッと言ってください」
「わたちも!」
戦闘の反省点…多分色々言われるんだろうなぁ。辛いけどこれを聞かないと僕はきっと先に進めない。ちゃんと受け止める心構えで聞こう。
「まず妹の方ですね。個人的には戦闘関連はほとんど満点な評価なんですよね…あの戦い方はきっと道中の賊との戦いで思いついたのでしょう?」
「うん!車の中で戦ってたときに思いついたの!」
「いい発想力です。ただあの戦いではリベンジャー以外を意識しなさすぎです。もう少しお兄さんと、他の敵を気にした方がイレギュラーな事態が起こった時にも対応ができるようになるはずですよ?」
「いれぎゅらーって何?」
「うーんとそうですね…思ってもいないことが起こることです。例えば突然リベンジャーが鎌をお兄さんにぶん投げて攻撃するとか…」
「それは、怖いね…」
ルナが嫌そうな顔でリベンジャーを見ている。
「ルナ?俺ぁそんなタイマンから逃げるような男じゃねぇからな?」
「ふーん」
リベンジャーが困ったような顔をして弁明している。
「後は体の成長をゆっくりと待ちましょうね。あんまり子どものうちから鍛えすぎるのも良くないです。適度にトレーニングしていきましょう。まあ、その加減はそこのお姉ちゃん先生が意外と上手なので問題はないかと思います」
「アミュ〜はすげ〜な〜。教えるのも上手いんだなぁ〜」
「えへへ♪」
そして姉御さんがこちらを見る。ドキッとするが表情は変わらずずっとニコニコしていた。
「兄の方は確かに反省点も多いでしょうが、勘が鈍いところは経験でどうにかしないといけませんので慣れですね。外の世界についてしっかり勉強したらマシになると思います。ただ、唐突な、理解不能な出来事が発生した際に思考が止まり、動きも止まるのがとても良くありません。戦闘中に動きを止めたら死ぬと思いなさい。そこのミツガレさんが敵だったら一瞬でお陀仏ですよ?」
「そうね、電磁バリアなんて私の愛銃で一発貫通よ?電磁バリアがあるからって過信はダメね」
「…わかりました」
思い返せば、僕は予想外なことが起こった時、それを理解しようとするあまりに動きが止まっていた気がする…確かに止まっていたらただの的だ。
「次は最後のワーム戦ですが…あなたは最後にワームを1体仕留めたことは覚えていますか?」
「はい、そこは覚えてます」
「そうですか。本当の実戦ならその攻略方を初見で一秒以内に思いつかなければ死にます」
「んな無茶な…」
「無茶でしょうね。でも事実だからしょうがないのです」
外の人たちはみんなこの事が当たり前のようにできるのだろうか…サインの方を見ると目が合った。
「言っとくが俺はもちろんできないぞ!」
すげーキリッとした顔ですげーダサいことを言った…実戦でできなきゃ死ぬんじゃないんですか…
「まあこの人はそもそも戦わない人ですからね。隠れたり逃げたりが人よりも上手いんです」
「そうだぞ。俺はそっち専門だ!」
「堂々と言うことではないわね…」
そうなんだ…というか一緒に生活してる時に薄々は気づいていたり。最初に出会った時は強そうだと思ってたんだけどなぁこの人。
「最後に一番の問題点です。しかしこれは今までの生活環境的にも、年齢的にもしょうがないところもあるのでしょうけど…」
姉御さんの雰囲気が変わる。笑顔だけどなんか空気が少し重くなった。心無しか他の人達からも圧を感じる…
「あなた…【自分が死にそうになっても誰かが助けてくれる】と思ってませんか?」
「…!」
確かに思っていた…ワームが現れた時に…一人で戦っていた時に。
「その思考をしてしまう時点でシェルターの外で生きていくには致命的に向いてません。外の世界はそんなに甘くありません。外の世界は全てを自分で何とかしなくてはいけないのです。これをしてしまう人達は人間扱いもしてもらえません。家畜と一緒です」
「…はい」
「ただ、さっきも言ったようにまだ子供だからしょうがないところもあります。普通は大人に、親に助けてもらうものですからね。まあ、外の世界はそれが通用しませんけども」
くそ、僕は一人でもルナを守って生きていける力が欲しかったのに誰かに助けてもらおうなんて…確かに僕は甘えていた。悔しい。もう一度しっかり気を引き締めないと…
そしてまた姉御さんが手を叩いた。
「さて、反省点は以上です。少し暗くなってしまいましたね。というわけでお兄さんの良いところを少しお話しましょう。ヒントだけをお伝えするので頑張って考えてみてください。あなたは【普通の人よりもかなり脳が丈夫】です。訓練次第では面白いこともできるようになるでしょう。頑張ってくださいね」
「脳が…丈夫?」
どういうことか…さっぱりわからないが僕にも人より優れてるというところがあって良かったと、今はそう思っておくことにした。きっと答えはその内に見つかるだろう。だって…
「でしょうね。アレができるってことはつまり…」
「ちょっとあなた。姉御がヒントだけって言ってたでしょ?言ったらダメよ」
「ケケケ、俺ともきっと戦えるようになるぜぇ?」
この強い人達はわかっている。そしてこの強い人達が僕の才能を認めてくれているのだ。まだわからないけど本当に凄い才能なのだろう。僕は自分の将来が楽しみになってきた!
「脳が丈夫だと…なんなんだ?頭にナイフが刺さらないとかか」
「サイン…」
少し休んで素が戻ってきたサインが素っ頓狂なことを言い、お姉ちゃん先生がそれをフォローできずに固まっている…
「やっぱこいつアホね」
「ミツガレって俺に対して厳しくねぇか?」




