20.隠れ家の一幕 その1
【サイン視点】
ミドリノシェルターから帰った次の日。
バリッ!ムシャ!ムシャ!
また俺はアミューの咀嚼音で起きる。
昨日姉御の話を聞いたから食べるのは止めないが…いやな目覚ましだな。
まあまだGENESISは食べ終わってないし、残りを食べてるんだろう。
咀嚼音のする方に顔を向け薄目で目を開ける。
アミューが齧っていたのは【ヒュージガルガン】だった…
機械兵器【ミニガンヘッド】の上位互換で大きさはGENESISの半分くらいだが重量がとにかく重い。数年前に弾が1000発以上も残ってて、武器部分が無傷のやつを見つけ…持って帰るしかねぇ!と思ってパワーアーマーのエネルギーを予備分まで使い切って頑張って車まで運び車を発進させ…ちょっとした段差を跳ねた瞬間俺の車は潰れた。その後にドクターと生前のマリアンヌさんに頼み込んで俺の隠れ家まで運んでもらんだ思い出深い武器だった。
「すぅ〜…」
二度寝しよう。いや、これは二度寝じゃない。そもそもこれは夢なんだ。目が覚めたらアミューはきっとお行儀よく果物の缶詰を食べてるに違いないんだ。
バリッ!ムシャ!ムシャ!
「ふっ…おはようございまーす」
「おはよう」
現実逃避はやめよう。
「今日はいつもと違う武器を食べてるんだな」
「うん!味変だよ!これも美味しいね!」
味変…そりゃそうか。人間だって3食もおんなじ食べ物だったらよっぽどの大好物じゃない限り飽きるわな。
俺も朝ごはんにしよう。今日は…昨日手に入れた果物の缶詰を…ミキサーに入れてジュースにしてしまおう。こんな気持ちじゃ固形物が喉を通る気がしません…
ミキサーをホコリまみれの箱から取り出して、水で濯ぎ綺麗にする。俺の隠れ家は地下水を自作ポンプで汲み上げているので贅沢に使える。
テキトーに缶詰をいくつか開けミキサーの中に缶詰の液ごと放り込む。そして横を見たら食べかけのヒュージガルガンをほっぽってアミューが俺のところに来ていた。
「なにそれ」
「これはな、食べ物を細かくすることができる機械なんだ。これで果物を刻んでペースト状にして飲んでも美味しいぞ?」
「私も飲みたい!」
「いいぞ、自分で飲みたい果物の缶詰を開けて持ってきたら作ってやるよ」
「わーい!」
前回はイツボシシェルターのハンバーグ定食を取られたけど今回は死守したぞ…まあしばらくは果物食べ放題なんだけどさ。
俺は…パイナップル?とかいう果物を多めに入れたジュースにしよう。アミューが果物の名前を知っていたので教えてもらったのだ。
ちなみにアミューが好きなのはメロンという果物らしい。昨日雑談してるときに仲間に聞いてみたらかなりの高級品だと。うちの娘、養育に金がかかりすぎるな?
予想通りアミューはメロンの缶詰を両手いっぱいに持ってきてパカパカ開けてく…手際いいね…しかし
「一気にそんなに開けてもミキサーに入りきらないぞ」
「ええー!」
当たり前だ!人間様にとっての一人分ってのは普通この量なんだよ!
ミキサーを起動し果物を細切れにする。
俺の分を作ったあとアミューがミキサーにドサドサとメロンを入れてくるので少し取り出す
「なんで取り出すの!」
「ミキサーの刃は弱いのでそんなに一気に刻めません!」
「じゃあ作ってる間サインのもらう!うまー!」
なんでじゃ!まあまた作ればいいんだけどさ!
果物をすり潰した飲み物は美味しかった。
アミューは5杯飲み、俺は2杯飲んだ。
そして食べかけのヒュージガルガンは俺じゃ運ぶのに手間なのでアミューに片付けてもらった。
ミキサーを洗いながら今日の予定をアミューに話す。
「今日はなアミュー、隠れ家でおやすみだ」
「おやすみ?おやすみって何をするの?」
「そうだなぁ…俺だと武器の手入れしたりかなぁ?とにかく外に出ないで何かするんだよ」
「ふーん、私は何をしたらいいんだろう?」
「何もしないってのもあるぞ?ダラダラして体を休めるんだ」
「それはなんかヤダ」
でしょうね。俺も暇すぎるのはちょっと…ああ、じゃあアレでも見せとくか。
「俺の仲間にさ、【ロウ】ってウォーカーの爺さんがいるんだよ」
「ロウ!」
「その爺さんが作ってるウォーカー講座の動画でも一緒に見るか?為になるかはわからないけどな」
「見る!」
「じゃあそうするか」
俺の机にある備え付けの大型情報端末に延長ケーブルを挿して、大きめのスクリーンを棚から出して置いてそれに繋げた。
そして【ウォーカーでも老衰するまで生きられるシリーズ】のファイルを開いた。Part数は550ある…
ロウの爺さんは天寿を全うすることを目標に活動しているウォーカーだ。姉御調べで今年齢は102歳らしい。そしてこのシリーズはロウさんが老衰で死んだら一般に公開するという役割を何故か俺に任され、俺の家の情報端末に入ってらっしゃるやつだ。容量がとんでもないので予備の大容量保存機器をバックアップ分用込みで貰った。ちなみにロウの爺さんは今でも現役バリバリで毎週前線に探索に行ってるらしい。家でぬくぬく余生を過ごして老衰じゃこれを残す意味がないと。
「凄い人なんだねロウって人も」
「そうだぞ。そもそも俺たちの群れは一人一人何かしら凄いことができる人たちしかいないんだけどな」
「うん!昨日のサインの【隠れる】も凄かった!一瞬どこにいるかわからなかったもん!」
…俺の凄いはアミューさんには通用しなかったらしい無念だ。
とりあえずPart1からつけていこう。
俺も見たこと無いんだよな…長すぎて見る気力がわかなかったんだ。
テロップが画面にデカデカと表示される
【生活編!自作ハウンドドッグをフードの作り方と美味しく食べる秘訣!】
カウボーイハット?という帽子を被った若々しいロウさんが画面に映る。
『やあウォーカーのみんな!ウォーカーのみんななら誰しも餓死しかけた経験があるだろう!そんな時に食べるのがこの【ハウンドドッグをフード】!本日はこれを…』
俺はもう画面を閉じたくなったがアミューが意外と一生懸命見てるのでそのまま流した…
ああ、午後にヤミイチが買い取りに来るの伝え忘れたな…




