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第4話 『王立騎士団』

 僕は王城の前で決死の抵抗を見せていた。眼前にはフェルゼーン城、敵国の本丸だ。そこに敵国の人間が堂々と正門から入城するなんてどう考えてもおかしい。


「なんで僕もついて行かなきゃいけないんですか!」


「だって目を放したら逃げるでしょ」


「逃げませんよ。もう身体中が痛くて動けません。もう全身痣だらけですよ」


 身体を擦りながら涙目で訴えると、シュナさんは笑顔でこちらを見た。


「だから顔は殴ってないでしょ」


「はい?」


「顔に痣がないんだからあなたを王城に連れて行っても、私の風評に問題はないわ」


 信じられない。顔は寸止めしてくれるなんて、少しは優しいのかと思った僕が馬鹿だった! 虐待だぁ。


「いや、そもそも僕ここに来ていいんですか。今朝、突き出されたら死ぬって」


「それはあなたをこいつはムーンドール人ですって突き出した場合よ。普通にしてたら、まさかあなたがムーンドールの人間だなんて誰も気づかないわ」


 そういって彼女は僕の腕を引っ張った。なんて腕力だ。もう駄目だ僕は死ぬんだ。と思ったが、意外なくらい僕らは王城の城門を通り抜けられた。顔パスだ。ひょっとしてこの人、すごい立場の人だったりするのか。


「シュナさんってこの国の身分とかあるんですか」


「騎士団長よ」


「へえ騎士団長ですか……騎士団長!? それってどの騎士団ですか」


「なにって陛下直属の王立騎士団よ」


「それってほぼ軍のトップじゃないですか! てことは今からの査問会、シュナさんが答弁するんですか」


 聞いてない。いや確かに今朝、査問会とか言ってたけどまさか彼女がその主役だと誰が思うか。そもそもこんなパッと見なら十六、七歳の少女が、朝食がドライフルーツとジャーキーと小川の水を啜っている人間が騎士団長だと思うはずがない。


「まずいですよ……そんな目立つ人の傍に変な子供が立ってたら、いくら息を殺してても注目を集めちゃいますよ」


「大丈夫よ。査問会には陛下の派閥だけじゃなくて、あたしの部下も傍聴席で出席するわ。その中にまぎれてなさい」


「そんな無茶な」


「ほら着いた」


 シュナさんが重い金属の扉を開いた。まず目についたのはズラリと着席している人達。円形の広間には、それを囲むように階段が設置されており、その全ての座席に人が座っていた。シンとしているというより、重苦しい沈黙。


「こんな緊迫した空間に白髪の十二前後の男の子……ありえない」


 それでも、いつもの癖で僕は彼らの様子の観察を始めた。見た所三種類の派閥があるようだ。聖職者風の黄色い司祭服を羽織った集団……たしかフェルゼーンの国教は陽教とか言ったか、次に帯剣は当然していないが騎士姿の男達、最後が礼装の集団……貴族か。


「あそこに座ってなさい。あたしは準備があるから」


 そう彼女が指さしたところはいかつい男達がずらりと着座していた。むさくるしい鎧姿の集団は流石にフルプレートではないけれど、大分圧がすごかった。魔族も中にいるのか、猫耳が生えたマッチョの男が物凄い形相で祭祀服の連中を睨みつけていた。


「僕はあっちの貴族たちが座ってるところがいいです」


「おい、ダントン!」


「はい!」


 隣で凄い剣幕だ。今のシュナさんの声か!? 普段と違いすぎて一瞬誰か分からなかった。そう思っていると、猛ダッシュで猫耳マッチョが近づいてきた。デカい、デカい、デカい。殺される。


「ダントン。このチビッ子を空いてる所に座らしといて」


「ハッ!」


 ハッ! じゃない。僕の意志はないのか……いやあるわけないか。そもそもこっちの世界だと僕は奴隷だし。というか、このダントンとかいう男はじっと僕を見つめて直立不動を貫いているけど、何をやっているんだ?


 同じことをシュナさんも思ったらしくおもむろに口を開いた。


「……まだ何かあるの?」


「は! この子供は団長の御子息でありますか」


「アぁ?」


「いえ、今すぐこの子供を空いている席に連れていきます」


 何か生物的な本能で身の危険を悟ったのか、猫耳の彼は僕の首根っこをヒョイと掴んで連行していった。いや確かに一席空いてるけど、左右の男達がでかすぎて一人分のスペースが残ってないんだが……


 だが悲しいかな小さくなった自分にとってはジャストフィットであった。僕を連れてきたダントンとかいう男が僕の前に座る。男の座高が高すぎて何も見えなくなった。諦めて息を殺していようと思った矢先に、彼が振り返った。


「おい」


「は、はい。なんでしょうか」


「俺はダントンってんだ」


「僕はリオンです」


 先ほどシュナさんと話していた時とあまりに違う態度に、びっくりしつつも自己紹介に応じる。いや、顔が恐い。


「小僧は団長のなんなんだ」


「奴隷です……身の回りのお世話をするのが役目です」


「そうか、そうだよな」


「おいダントン、だから言っただろ団長に男がいるわけねえって。にしてもこんなちんちくりんが世話係って、ちゃんと務まるのか?」


 騎士団の中では軽薄そうな金髪の男がダントンにからかうような口調で話しかけた。どうやら咄嗟についた世話係という嘘はすんなり通ったようだ。若干、疑われている気がしなくも無いけど。


「おい、小僧……いくらガキだからってまさか団長と一緒にお風呂なんか入ってないだろうな」


「ばッ、入るわけ無いじゃないですか!」


「ダントンさぁ……お前どこまでキモいんだ。にしても坊主、大変だな。団長はガサツな上に極度のめんどくさがり屋だから……まあ気楽に逝けよ。俺はヒューイだ。よろしくな」


「リオンです。よろしくお願いします」


 そうウインクしながら握手を求めてきた金髪の男の手を握り返す。


 意外とこの人、いい人なのかもしれない。そんなことを思っているうちに、一人の老人が入室した。しかしその眼光は誰よりも鋭く、また疲れていた。老人は古めかしくも格式のあるマントを羽織っており、この人物が誰なのか一目でわかる威厳を放っていた。きっと彼がこの国の王なのだろう。そのままゆっくりとした歩みで、査問室の最上部に着座した。査問会の始まりだ。


 ゆっくりと、王が口を開く。


「それでは査問を始める」


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