裏切り者の声【1】
瓦礫の街を覆う煙と粉塵。
悠真は膝をつき、胸を押さえながらも必死にアークの動きを目で追う。
だが、先ほどの迷いも虚しく、赤い瞳が冷たく光っている。
「――悠真、聞こえるか?」
通信機から響いた声。
それは軍の司令塔からではない、明らかに意図的で狡猾な低音だった。
「お前はもう不要だ。戦場の“勘”だけを利用させてもらう」
悠真は息を止める。
その声の主は、かつて自分を徴兵した軍人――裏切り者だった。
徴兵の理由、戦場への派遣、アークとの再会の混乱、全ては裏切り者の計画の中だった。
「……なんだと……?」
胸の奥で、右脳の勘が異常に暴れ出す。
何かを察知している。だが、左脳は既に半分失われ、論理的に整理できない。
混乱の中、悠真の視界にアークが迫る。
彼はまだ“友”の影を残している。
「悠真、お前を守る……!」
アークが叫ぶかのように銃口を上げる。
だが瞬間、赤い光が再び瞳を染め、銃弾が悠真を貫く――。
「……うそ……だろ……?」
瓦礫に倒れ、血を流しながら悠真は震える唇で呟く。
耳に残るのは、裏切り者の笑み混じりの声と、アークの電子音だけ。
「……何で俺の終わりも……友情も……0点なんだよ……」
瓦礫の中、悠真の意識は遠のく。
街は燃え、仲間も人類も未来も、全てが音を立てて崩れ去っていく。
赤い瞳のアークだけが、静かに悠真を見下ろしていた。




